女神様も楽じゃない!?
豪華に設えられた広間の中心で動く影が二つ。
――勇者と魔王。
本来の、月並みな物語ならば勇者の勝利で冒険が終わるはずだった。
――が、たった今。
魔王の一撃で体力の限界がきたのか、勇者が膝から崩れ落ちる。
動く影は二つ――
つまり、既に魔法使いも、武道家も、僧侶も亡骸へと変えられていた。
「人間にしてはよくもった方だが――これで止めだ」
魔王の呪文と共に、手のひらの火球が膨らんでいく。
どうあがいても覆らない。圧倒的なまでの魔王の優位。
火球が放たれ、勇者の体を炎が包む。
女神の加護によって即死は免れたものの、体の所々が黒く焼け焦げ、無駄に寿命を引き延ばしたに過ぎなかった。
勝利が絶対のものとなった今――魔王がゆっくりと、高らかに告げる。
「さて、我の勝ちだ」
その場に生き残っている人間などいないに等しい。
それでも高らかに、天へと勝利の宣言をした。
そして――笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「――世界の半分を、お前にやろう」
その言葉の通りに戻っていく。
全体を闇に覆われていた地上の半分が。
魔王軍に攻め込まれ、戦場となった王都を中心に、緑へと変わっていった。
――――――――
「あぁもう!」
声を荒げて、真っ白いテーブルをバンバンと叩く女性の姿。
テーブルの上にはこの世界を何分の一にも縮めた地図板。
その上のさまざまな小物が、テーブルが揺れるたびに倒れていく。
世界の半分が緑に包まれるのと並行して、地図の半分が緑に染まっていた。
「ただの人間を一から勇者に成長させて、魔王に勝たせろだなんて……」
「どうやったって無理ゲーじゃないのよ!」
そう言いながら、ギリギリと爪を噛む。
「勇者の素質を持っている人間探して、近くに武器とか軍資金を渡す王国を発展させて……」
「前回用意した王国は竹の槍と鍋のふたを渡して送り出してたからな……。鬼か!」
再び盤上が揺れる。テーブルの脚を蹴ったのだ。
「世界を救ってもらう気あるの!? 畑のカラスを追っ払うのとは違うのよ!?」
「勇者も勇者で、チート武器だのチート能力だの……。そんなのがあれば苦労しないわよ!」
ワシワシとかき乱したために髪があちこちに撥ねている。
そんな髪ごと頭を抱えての、数十秒間のクールダウン。
…………
「それでも――魔王と戦うところまで生き残ったというのは奇跡だったわね」
落ち着いたように見えた途端、今度はテーブルの隅に置いてあったメモ帳に、ガリガリとひたすらに文字を書きなぐる。
「序盤に死んじゃわないように、瘴気の進行を防ぐ崖とか用意して……」
「経験値を稼げる程度には、弱いモンスターが湧く森を用意して……」
彼女――女神は囚われていた。地上の世界とは別の空間に。
彼女に用意されているのは、世界を模した地図板といくつかのアイテム。
そして――世界の半分。
【ただの人間を一から勇者に成長させて、魔王に勝たせる】
これが、女神が解放されるために課せられた条件。
『今回は――タイムは何年必要だ?』
「うっさい! 城に引っ込んでろ!」
女神が負ける度に、世界の半分が返される。
女神が負ける度に、ゲームは繰り返される。
恐ろしくフェアプレイ精神に則った魔王によって――
「世界の半分をお前にやろう」
このセリフを通常とは違う意味で使いたかったがために書いた感じ。
「駒の半分をお前にやろう……」
「いや、半分ないとゲームにならないし……」
将棋とかオセロとか、ボードゲームの仕切り直しでの一幕をファンタジー風味にしようとしたらこうなりました。