表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

序章

窓から覗く夜空には、藍と銀が混じったような光を放つ、無欠の月が昇っている。

そんな夜空を少女は眺めていた。その表情は遊び足りない子供のように、どこか不満げに眉をひそめている。

 その背後では、メイド服を着た目付きの鋭い細身の女が、大きなベッドにシーツを張っていた。少女一人が横たわるには仰々しい絢爛なベッドでも、メイドは慣れた手つきで整えを勧めている。

直にベッドメイキングを終えたメイドは、その場で少女に対し、小さく一礼した。

「では、お休みなさいませ……」

 そう言ってメイドは踵を返した。ベッド脇に置いてあった火の燈った小さな燭台と、花柄陶器の水差しを持ち、部屋から出て行こうと、半開きだった扉を潜る。

「――待って」

 それを少女は呼び止める。その声は幼くも明瞭に響き、メイドの足を留めさせる。

「いかがされました?」

 既に部屋の外へと出ていたメイドは、僅かに開いた隙間から覗くようにして、頭を低くしながらベラの言葉を待つ。

「どうしても明日の謝肉祭には行かせてくれないのですね?」

 少女は背を向けたまま、メイドに問い掛ける。一見すると口調は穏やかにも思えるが、どこか棘があり、傍からはまるで拗ねている子供だ。

「はい。成人するまでは城外に赴かない。それが『フリチラリア』の習わしにございます」

 メイドはまるで操り人形のように無感情のまま、ベラに返答した。それも、一切再考を挟まない“即答”だ。

「……わかりました。お行きなさい」

 それが少女の気を逆なでたのだろう。小さく唇を噛んだ少女は、追い払うような言葉でメイドに退出を促す。

「はい。……では」

 メイドは言葉少ないまま、へりくだりって扉を閉める。

それを機に、室内には恐ろしいほどの静寂が訪れた。

少女はそんな静寂の中で、憂いを晴らすかのように、再び月を眺めはじめる。その心中はなにを思うのか、星の煌めきすら霞む眩い月光を浴びながら、表情を暗然とさせていた。

そんな中、少女の右中指にはめられた古めかし蒼石の指輪が、人知れず光明を発している。それに気付いていないのか、少女自身は気にしている様子がない。

しかし、その光は薄暗い部屋の中で、確かに“なにか”を導くよう揺らめいていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ