けふ九重に にほいぬるかな
このサクラを、ずっと昔の人々も見ていたなんて…信じられませんわ。
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「少年よ、強く大きくなりなさい。太い丈夫な身体は、雨にも風にも負けはせん」
サクラのおじいさんは、太く大きな枝を広げて笑う。優しい春風がぱあっと舞い散らせる花びらは、例えようもないくらい美しくて。千年も昔からある、古い老いぼれた木のはずなのに、どうしてこうも華やかなんだろうか。
でも、僕は知っている。おじいさんは、いい人なんかじゃないってことを。
「どうしたら強くなれるの。大きく丈夫になれるの」
僕がたずねてみたって、おじいさんは知らん振りを決め込む。
そう、おじいさんは僕を愛しているわけではない。太く丈夫であることを、知らしめたいだけ、なんだ。僕が弱く小さいことをバカにしているんだ。
それから幾年経ったのだろうか、おじいさんはツナミというものに流された。おじいさんの誇りだった太い幹も、枝も、春に向けて大切にしていたつぼみも、全て流された。残ったのは、細くて弱い根っこだった。
それを―――――――。ニンゲンは文字通り「根こそぎ」奪っていった。もう、美しい花が咲かないから、という理由で。
僕はサクラのおじいさんの分まで、太く強くなる。ツナミよりも、ニンゲンよりも大きくなって、そうしてこの世界で一番美しい花を咲かせてやる。
ほら、僕のことを見て―――――――。キミの目の前の八重桜。
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はらはらと散る花びらは、この世のものとは思えない美しさで。ぽうっと頬が火照って、桜色に染まってゆく。
でも…ただ美しいだけじゃ、決してそれだけじゃ、ない。私が小さくて弱いことを、バカにしているかのように大きな存在感。三年前に出会った時と変わらないあなたは、いつだって私の側に寄り添ってくれていた。そう…今日だって。左胸に紫色のコサージュを付けた級友達は、みんな笑顔で旅立ってゆく。家族にちやほやされて、友人と笑い合って、後輩に涙されて。私だって―――――心から誰かに泣かれてみたい。
私もあなたのように、大きくなるわ。あなたよりも強くなって、美しい女になってやる。
ほら、あなたのことを見て―――――――。あなたとのしばしの夢想は忘れない。
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千年以上もの月日を経て、なお咲き続ける八重桜。それを眺めながら空想にふける、今日この頃。
私の知っている場所の窓の外には、本当に八重桜があります。毎年美しい花を咲かせてくれるのですが、それを見ていると、夢を見ているような気持ちになります。今年もその美しい花を見ることができるように祈っています。




