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story4 試合の行方

バスケのルールなど、間違えていたらすみません…。

詩零くんの高校は『佐木利高校』──つまり試合会場となっているこの学校で、青色のユニフォーム。

対する相手の高校は『緑星(りょくせい)高校』。名前と同じ、緑色のユニフォームを着ている。 


試合は、相当な点差をつけられ、佐木利高校が負けていた。


(…詩零くん、頑張って!)


ボールを巧みに操り、コートの中を駆ける選手達。

その中にいる詩零くんの姿を、私は目を離すことなく見つめていた。


「あっ…!」


綺麗な弧を描き、ボールがゴールネットにストンッと入る。

始まって僅か数秒で後半最初のポイント。それを取ったのは…佐木利高校だった。


「よっし!」


「ナイス、翔!」


「おう!」


それも3ポイントシュート、決めたのは…詩零くんだった。


(鮮やかなフォーム…っていうのかな?……すごい!!)


同じチームの人と手を叩き合う詩零くんは、とても生き生きとしていた。

キラキラした瞳は、遠くからでもよく分かる。


その後、詩零くんのシュートに後押しされるかのようにチームの士気が上がり、どんどん点差を縮めていった。



―――バンッ!


味方からパスされたボールを、詩零くんがダンクで決める。


「わ…」


その姿に、不覚にもドキッとしてしまった自分に頬を赤らめる。

いつの間にか試合に夢中になっていたようで、私はバックの紐を握り締めていた。


(うぅ…恥ずかしすぎる!)


けれど周りの人も応援に夢中で、私と似たようなものだった。


「キャー!詩零くん、かっこいい~!!」


その時、体育館の二階から、女の子の声援が次々と上がる。

制服を着ているその子たちは、どうやら佐木利高校の生徒のようだった。


(全然、気づかなかった…。確か此処に入ってきたときも、今までも、相手の高校を応援する声しか聞こえなかったのに…もしかしなくても詩零くんのファン、とか?)


そんなことを考えていると、一人の生徒が此方に近づいてき手いるのに気づき、視線を二階から目の前に移す。


「あの。そこは入り口に近くて、ゴールネットの下とも近く危ないので、観戦するのでしたら脇に移動するか、二階に行ってもらえませんか?」


「あ、すみません…今、移動しますね!」


青いファイルを片手に、後ろで長い黒髪を束ねた女子生徒の言葉に、私は急いで詩零くん側のベンチがあるほうへ移動した。


それを見届けた彼女は、私と同じ方向へ歩いてきたかと思うと、控えの選手の座るベンチに腰掛けた。


(マネージャーさん、なのかな?……今の高校生って、大人びているというか、何というかだよね)


自分も一年前までは高校生だったことも忘れ、そんなことを思っているうちに…後半、第三クォーターが終わった。――――



インターバル(数分の休憩)になりベンチに集まった選手に、監督らしい三十代後半の男性が声を上げた。


「点差が縮まったからといって、油断するな!気を引き締めていけ!!」


「「はいっ!!」」


気持ちいいほどに揃った大きな返事に、私も何故か気合が入った。


(なんか、いいな…こういうの)


チームの一体感という感じが伝わり、凄く胸の奥が熱くなった。

そんな自分の気持ちに一人微笑ましくベンチを見つめていると、タオルで汗を拭く詩零くんが目に入り、私は気恥ずかしくなり視線を逸らした。


けれど私は“強い何か”に気づき、すぐに視線を戻す。


(あの子…)


それは詩零くんの後ろに佇む男の子。

彼は控えの選手なのか、詩零くん達の着ているユニフォームとは違い、学校指定のジャージを着ていた。

そんな彼が、詩零くんを睨みつけるようにして見つめていたのだ。


恨みのような、憎悪のような感情が読み取れるその視線に…私は無意識に身震いした。


―――…ピー!


第四クォーターの始まる合図が鳴る。

ハッと視線をコートに移せば、詩零くんを入れた五人の選手がもうコート内に入っていた。


そしてあの“彼”もベンチに腰掛け、やはり詩零くんを睨みつけるように見つめていた。


(もしかして、あれかな…。詩零くんにレギュラーを取られて恨んでいる…とか?)


自分で考えておいて、何故か的を射てしまった気がして、私は首を振ると試合に集中した。


―――その後の試合は、白熱したものになった。

後半で点差を縮められた相手校が気合を入れ直したのか、パスの通りがよくなり、詩零くん達は中々点を入れられず悪戦苦闘していた。


それでもシュートにダンクと、詩零くんは諦めずに次々と点を入れていき、他の選手も負けじと点を重ねていった。


そして、点の取り合いも時間が来れば終わりを告げる。

たった十分とは思えなかった試合を制したのは…――――


「よっしゃああー!」


試合終了と同時に、小柄な一人の選手が声を上げる。


「うるさいぞ、整列だ。」


「いてっ!」


その彼の頭を隣にいた長身の選手が、自身の“青色”のユニフォームで汗を拭いながら、ぺシッと叩く。

そんな二人のやり取りを悔しそうにグッと拳を握り締め見つめる“緑色”のユニフォームを着た選手達は、渋々整列するために並んだ。


「「ありがとうございました!!」」


選手達の大きな声に、観ていた人たちは温かい拍手を送ってくれた。

互いに挨拶を交わすと、緑星高校の人達は帰り支度を始めた。



「っ~~~!!よっしゃあ!!」


ベンチに戻ってきた先程の小柄な選手が、またも声を上げる。

それをいつものことだと言わんばかりに見つめる“詩零くん”達だったが、同じように興

奮冷めやらずというように口元には笑みが浮かんでいた。


(…すごい……勝っちゃったよ!!)


そう、勝利を収めたのは「佐木利高校」だったのだ。


後半からしか観ていなかったとはいえ、点差を縮め、逆転し、勝利する。

そんな事は実際に観たことはなく、私の心に熱いものがこみ上げてきた。


「すごい…こんな試合、観た事無いよ…!」


思わずそう大声で口にしてしまってから、ハタと気づく。

私がいるのは詩零くん達のいるベンチからそれほど遠くない、壁際。つまり今、詩零くん達は私の目の前にいると言ってもいい場所。


(…いたいです。いたいですよ!…視線が!!)


先程コート内にいた選手全員が、私を呆然と見つめていた…勿論、詩零くんも。

その視線に此処から消えたいと思ったのは言うまでも無い…けれど意外な事に選手達は笑顔で私に近づいてきた。


「うっわ、すっげぇ嬉しいんだけど!」


「え…?」


「練習試合だけど、そんなこと言われたの初めてだよ…ホント、なんか嬉しいな」


「…えぇ!?」


あっという間に私より背の高い男の子に囲まれ、訳が分からず赤くなっていると、最初に声を掛けてきた小柄な金髪の子が話しかけてきた。


「ウチの生徒じゃないよね?君、名前は?可愛いね!」


「!?…いえ、私は高校生じゃなくて…」


「あ!もしかして俺等より年上?いや、ですか?」


「あ、あの…」


困り果てた私がオロオロしていると、突然目の前が青色に染まる。


「そんなに質問攻めにするなよ、佐伯さえき。ゆ……彼女、困ってるだろ」


「…詩零くん」


私を背に隠すように目の前に立っていたのは、詩零くんだった。

その大きな背中に、とりあえず質問攻めをから逃れられ、安堵の息を吐く。

けれど割り込まれて面白くないというように、佐伯と呼ばれた彼は不機嫌そうに唇を尖らせた。


「何だ、翔の彼女かよ…ならちゃんとそう言えよな」


「かのっ…!?」


かあっと見る見る顔を赤らめて、私のほうを振り返った詩零くんに、私まで気恥ずかしくなり頬を染めた。

それを見た佐伯くんが、何かに気づいたのか意地悪な笑みを浮かべると、隣にいた長身の子に屈むよう促し、小声で何やら話し始めた。


「あれ、どう思う?まだ彼女じゃねえのかな…それか翔の片思いか!?でも…脈ありって感じも?」


隆也たかや…あまり詮索してやるなよ」


「…んだよ、直斗なおとだって気になってんだろ?」


「それは…」


彼等は同じ学年のようなのか、仲が良いようだった。


(…って二人とも小声で話してるけど)


「聞こえてるっての!!」


私の心の声を、詩零くんが怒ったように続けた。


「そう、怒るなよ。」


それを大げさに肩を竦めて受け止めた佐伯くんは、今度は詩零くんを押しのけて私に笑いかけた。


「あ、えっと自己紹介がまだだったっスよね。俺は『佐伯隆也』、二年…よろしくね!」


佐伯くんがそう名乗ると、彼の隣に並ぶようにしていた男の子も名乗ってくれた。


「同じく二年の『桐谷きりや直斗』です。」


「ちなみに俺と直斗は幼馴染で、翔と三人同じクラスなんすよ」


へへっと笑う佐伯くんは金髪で一見チャラそうに見えたが、気持ちをすぐに表に出してしまうだけの無邪気な子に見えた。

逆に桐谷くんは黒髪で落ち着いた雰囲気の大人な感じの子で、面倒見が良さそうに見えた。


「そうなんだ…あ、私は“朔乃優衣”といいます。大学一年です」


慌てて頭を下げると、佐伯くんが笑顔で手を握りぶんぶん上下に動かした。


「優衣さんっスか!可愛いですね!あ、硬くなんなくていいですよ?俺達のほうが年下だし…なんなら、敬語も要らないっすよ」


「…う、うん」


佐伯くんの元気に圧倒され、されるがままになっていると桐谷くんが止めに入ってくれた。


「隆也、翔をからかうのはそのくらいにしとけ……」


(…え、からかう??)


私が言葉の意味が分からず首を傾げた瞬間、バッと手が離され、佐伯くんとは違う温もりが私の手を包み込んだ。


「あ…」


「………。」


視線を手に移せばそれは詩零くんの大きな手で、けれど少し痛いくらいに強く握ってくる詩零くんを不思議に思い、そっと覗き込もうとした瞬間、詩零くんが口を開いた。


「優衣さん」


「は、はいっ!?」


その声に少し怒気が入っているように感じ、私は声が裏返ってしまった。


「この後は着替えたら解散なので、入り口で待っていてもらえませんか?」


「あ、うん…わか…りました」


私の返事に、それだけ言うと詩零くんは手を離し、佐伯くんと桐谷くんに一度だけ視線を移すとベンチの方へ歩き出したのだった。

それを目で追った二人は同時に青ざめる。


「……。覚悟しといたほうがいいぞ、隆也。あれは相当お怒りだ……目が本気だった」


「マジか…。」


「あの…佐伯くん、桐谷くん」


私の声に二人はすぐ振り向いてくれた。けれど私は、二人が少し嬉しそうに頬を染めているのには気づかなかった。


「えっと…。詩零くんがなんで怒ってたのか…分かるかな?」


「「え…?」」


私の質問に心底不思議だというように目を丸くし、二人は互いの顔を見合わせた。

だが落ち込んだように沈んだ顔をしている私に目を向け、考えている事が分かったのか、噴き出した。


「ははっ!心配しなくても、翔は優衣さんに怒ってたわけじゃないですよ?」


「そう…なの?」


「そうですよ、あれは俺達に怒ってただけです。…だから、朔乃さんが気に病む必要はないですよ」


「…そっか」


その言葉に私は安心したのか、ホッと安堵の息を吐く。

それを見た佐伯くんは残念そうに、桐谷くんは微笑ましげに笑みを浮かべると私に近寄った。


「あ~あ…早くも俺の春は終わりを告げたわけね…」


「はは、隆也に初めから勝ち目なんて無かったって」


「??…春?」

(……今は夏だよ?)


私の呟きに、佐伯くんがググッと顔を近づける。


「優衣さん。翔は好青年に見えますけど、ちゃんと男なんで。…気をつけてくださいよ?」


「え?え??」


「俺は、応援しますけどね」


「え…えぇ!!?」

(何がって聞きたいけど…なんとなく分かる気がするのは何故!?)


かあぁと頬が熱を持っているのが分かり、私はバッと頬を両手で押さえる。


「か、からかわないでよ!」


それを見た二人は笑い声を上げる。

すると監督らしき男性が「佐伯、桐谷!早く着替えろ!!」という声が聞こえ、二人は私から離れベンチに向かった。


「じゃ、優衣さん。また試合、観に来てくださいね!」


無邪気に笑う佐伯くんと、きちんと頭を下げる桐谷くん。

その二人の姿に、私は自然と頬が緩む。


(詩零くんの友達か…。なんか、面白い子達だな)


ふふっと私が笑みを零していると、背を向けて歩き出していた佐伯くんが「あ、肝心な事聞くの忘れてた」…と何か思い出したように振り向いて、こう言った。


「優衣さんって、彼氏いるんですか?」


―――ドクンッ…。


佐伯くんの一言に、鼓動が嫌な音を立て、私の脳裏に“彼”の顔が浮かんだのだった。






ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


今回、新しい登場人物を登場させましたが、この二人はこれからも出していきたいと思います!


次回も読んで頂けると、嬉しいです!

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