ダンボール×タイムマシン
「ねぇ、聡」
「なんだよ」
「もう少しでタイムマシン完成だよね」
「ああ。それがどうしたんだ?」
「ちょっとお願いがあってね。カメラ取ってきてほしいの」
「カメラ?お前、大量にもってんじゃねぇか」
「初めて会った時のやつよ」
「……お前さぁ、その時の『俺』は今の俺じゃないって」
「でも、未来は変えちゃいけないわ。私が頼まないと私達は出会わなかったことになるのよ。ていうか、これを結婚の条件にしようかしら」
「はぁ!?」
「取って来なきゃ結婚しません」
「俺の決死の一昨日のプロポーズは!?」
「取って来たらOKにする」
「分かった、分かった。行ってくるよ」
ああ、俺の初めてのタイムトラベルがこんな事になるなんて。
時は十二月三十一日、大晦日である。
私はせっせと一人で掃除をしていた。
母は友達とカウントダウンパーティーをするとかでいないし、父はこんな日でも仕事で帰ってこない。
妹も彼氏(別れちまえ!!)の家で過ごすらしい。
掃除が終わったら、蕎麦作って、紅白見て……。
掃除しながらすでに終わった後の事を考える。
掃除場所をリビングから自分の部屋に移す。
さて、まずは未知のクローゼット(もう三年ぐらい開けてない)から始めるか。
ギィィとゆっくり開ける。
最後まで開けられた……と思った時だった。
ゴンッ!
……クローゼットの一番上にあった大きいダンボールが私の頭に直撃した。
「いった~~!!!」
何これ!!重たすぎ!!こんなとこにあったっけ、ダンボール。
私の脳細胞は今の衝撃でかなり消えた。
消したダンボールは私の後ろで床に逆さで転がっている。
「痛い……」
ん?何か今聞こえたよーな……。
「いたいっつってんだよ~!!」
「ギャー!!!出たー!!!」
ダンボールから出てきたのは男だった。
私は今、ダンボール男と向かい合ってリビングのソファーに座っている。
「名前は?」
「槙村 聡」
「なぜ乙女の部屋にいた?」
「はぁ?誰が乙女?どこにそんな奴が……」
「…… (無言で天使の微笑み)」
「……俺は未来人だ。今から五年後から来た」
「そんな嘘で私を騙せると思っているの?」
「本当だ」
「証拠は?」
まるで取調べをしてるみたいだ。
「ダンボール」
「ダンボールってあの?」
私はソファーの横に無残な状態にあるダンボールを指差す。
「あれはタイムマシンだったんだ。なのに……お前が頭突きなんかするから機体がへこんだじゃねぇーか!!どーしてくれんだ、帰れねぇだろ!!」
そんな柔な素材でタイムマシン作る方もどうかしてると思うけど……。
「ていうか私、頭突きなんかしてないし。とりあえず、新しいダンボールよね。どっかにあったかなぁ~……」
「あぁ、でもどうせ夜の十二時帰れるんだ。もしもの事を考えてそういう仕組みにしといたから」
「なにそれ?シンデレラ?槙デレラ?」
「お前さいて……」
グゥ~
「……腹減った」
はいはい。
「あ~食った食った。ていうか今、十二月三十一日だったのか」
私達はコタツに入りながらテレビを見ている。
「そうよ。来てから気付くってどうよ?」
「俺、タイムマシン初めて作ったから」
「えっ!?」
未来では若い、大学生ぐらいの人でもタイムマシンは作れるのか……。
あっ、そうだ。一応言っとかないと。
「私の家族は今……」
「今、母は友達とパーティしてて、父は仕事、妹は彼氏の家……だろ?」
「……どうして知ってるの?」
「予知能力」
「絶対嘘だ」
「何で嘘だと分かった?」
「それは……」
「「目が笑ってるから」」
二人でまったく同じ事を言う。
「何で私の言おうとしてる事が分かるの?」
「だから予知……」
「予知能力はなしだからねっ!」
「じゃあ秘密」
「それなら……」
私は自分の部屋に行ってあるものを取って来る。
そして奴の横から……。
カシャッ!
「何してんだよっ!」
槙村がこっちに振り向く。
「写真に写るっていう罰よっ!」
「それ罰になってないし」
「そう?何かさぁ、他人に写真撮られるなんて嫌じゃない?」
「……お前って写真撮るの好きだよな。まさかその趣味のせいで結婚の条件があんなことに……」
「? 何で知ってるの?ていうか最後の方何か言った?」
確かに写真を撮るのは好きだが、一人の時しか撮らないのでこのことが誰にも知らないはずだ。……おかしい。
「さぁな」
槙村は何も言わずに微笑んだ。
ゴーン……ゴーン……
除夜の鐘が鳴り始めた。
時計の針は十一時五十五分を差している。
「あ、もうあと五分か……」
「あんた一体何しにこっちに来たの?」
「よし、カメラくれ」
「はぁ?何が“よし”よ」
「これが俺の目的だよ」
「目的?」
「そのカメラをもらう事。お前が言ったんだよ。そのせいで俺がここに来る羽目に」
「どういうこと?」
「そのうち分かるから」
「いや、そのうちって……」
「じゃあヒント。来年の四月八日に分かる」
「?」
「おっとそろそろ時間みたいだ」
槙村の体が透明になっていく。
「ちょ、待って……」
「じゃあな、チサト……」
こうして消えた。
「チサトー!!」
「何?」
「あんたさぁ、随分とこの日を待ってたよね」
「これがあいつの言ったことが分かるチャンスだから」
「なーにぶつぶつ言ってんの?早く教室行かなきゃ」
「そうだね」
友達と一緒にこれから一年間使う教室に入る。
黒板には席順が書いてあった。
え~と……穂谷チサトっと。
あった、窓際の一番後ろから二番目。
私はそこの席に座った。
「なぁ」
……この声……まさか……!?
私はくるっと後ろを振り返った。
「俺さぁ、槙村 聡って言うんだけど俺ってこの席で合ってる?」
「うん」