腐女子な彼女
俺の幼馴染みで彼女の『伊集院しずか』は特別に可愛い。
それは贔屓目ではなく、本当のことだ。
黒く長い髪で、瞳は大きい。しかも頭も良く、高校1年生でもう生徒会長を務めている。
俺としずかが付き合うことになってから、俺への嫌がらせが毎日のように続いている。
特に男子から。
前は知らない先輩に呼び出され、脅された。
その前は、しずかのファンクラブの女子数人に「しずかさんに近づくなこの害虫!」言われて、体育館倉庫に閉じこめられた。
その時、体育の先生が居なかったら、俺は今この世にいなかっただろう。
まぁ、俺の彼女は男女問わずもてるのだ。
でも、しずかには秘密がある。
幼馴染みの俺しか知らない・・・いや誰も気づいてない秘密が・・・。
あれは6年前のことだ…。
「ねぇしずちゃん、何読んでいるの?」
10才だった俺は、木陰で一冊の単行本を読んでいるしずかに魅せられながら質問をした。
「あ、工藤君。・・・えっと・・・恋愛モノだよ!」
恋愛モノと聞いたら、誰だって男女の恋愛って思うよな?
あの頃の俺は無垢だった・・。
単行本の表紙が男しかいないことに、気づかなかったのだ。
その単行本を読んでいる時のしずかは、とてもキラキラ輝いて見えた。
俺はそんなしずかに、魅せられていたのだ。
続いて3年前…。
学校で王様ゲームがはやった頃だった。
俺は罰ゲームで、野郎とポッキーゲームをクラスのみんなの前でやることになった。
「おーい、これから田沼と工藤が面白いことやるぞー!」
俺たちに命令した王様が、大声でクラスに呼びかけをする。
田沼は「やめろよー」とか言っている。
でも、クラスのみんなからやれやれコールが鳴り始めて、田沼は仕方なくポッキーを口にくわえた。
その時、俺の頭をぐいっと捕まえポッキーに近づけている手があった。
王様の手だ。
まぁ仕方がないと思い、近くまでボリボリと食べていく。
当たり前のことだが、口がつきそうなときに無理矢理ポッキーを折った。
その後、しずかから呼び出しを受け聞かれたことは
「二人はドコまでいったの?」
だった。
その時俺は気づいたのだ。
これが俗に言う『腐女子』ということに・・・。
「工藤君、待った?」
後ろからしずかの声が聞こえたので、その声の方へ振り返る。
「別に、そう言えば今日も呼び出されそうになったよ、先輩に。」
少し嫌み混じりに言ってみるが、あまり効果は無いようだ。
嬉しそうに顔を輝かせ、俺にいつもの様に聞いてくる。
「男の先輩なの?」
「・・・うん、いちよう・・・。」
それを聞いてますます顔が輝いていくのが分かった。
「やっぱり工藤君はもてるんだね!さすがだね!で、進展はあったの?」
空気を吸わず一気に言ったのか、少し息が切れている。
「あるはずないだろ!」
そんな会話を毎日の様にしている。
「それに俺にはしずかがいるだろ。」
ちょっと照れながらも格好いいことを言ってみる。
「ちょっと恥ずかしいよ・・・。」
少し顔を赤くしながら言ってくるしずかは、誰よりも可愛いと思った。
「浮気とかしちゃ、ヤだよ・・・?」
下から目線で言ってくると、可愛さがますますアップしている。
「あたりま・・・」
「女の子とはね。」
最後まで言わせずに言葉を切られてしまった。
「男の子とかとは、仕方がないから諦めるけど・・・。」
少し下向きで言ってくるところが可愛い・・・けど。
「だから、俺は・・・」
「でも、報告は忘れないでよね!」
何も言えずつい無言になってしまったのをお構いなしに、しずかはまだ何か続けるつもりの様だ。
「そう言えば今日告白されたの。」
それは毎日のように聞かされているから、そんなに驚きも嫉妬もしない。
「それでね、その男子に工藤君はあたしに合わないって言うの。」
そう言うしずかの顔は少し怒っているようだった。
――俺って本当に愛されてるんだなぁ・・・。
そう思いながら心の中でカッツポーズ決める。
「酷いよね、合うか合わないかはあたし自身が決めることなのに。」
「しずか、ありがとう・・・。」
何故お礼を言ったのかは分からないけど、無性に嬉しかった。
「何言っているの、当たり前のことでしょ。」
天使の様な笑顔で答えてくる。
「だって、男子から告白された男子なんてそうそういないもん。」
「・・・・はい・・・?」
一瞬時間が止まる感覚が体を埋め尽くした。
「だって工藤君、田沼君に告白された事あるでしょ。」
天使の笑顔が悪魔のように見えた瞬間だった。
てか、何で知ってるんだ・・・。
誰にも言ってないはず・・・だよな?
心の中で自問自答を続けても答えてくれる者は誰もいない。
「あの・・・しずかさん、何で知ってるんですか?」
何故か敬語になってしまう。
しずかはその事を気にする様子もなく
「あたしの周りのBL事は知ってるのは当たり前でしょ。」
と、笑顔で答えてくる。
・・・そう、田沼には告白されたことがある。
あれは忘れもしない中学の卒業式のことだ。
誰もいない教室の一角で言われたのだ。
「おれ、工藤のことが好きなんだ・・・。」
俺は冗談だと思いつい言ってしまったのだ、
「俺も好きだぜ(笑)。」
そんな感じで言うと、そのまま押し倒されそうになった。
何が起こったのか分からないけど、身の危険を感じた俺は田沼を蹴り倒し必死で逃げた。
あれは俺の中の黒歴史だ。
誰にも言ってないし、田沼も言ってないと思う・・・いや、思いたい。
「いや、誰にも言ってないんですが・・・。」
「知らないの?田沼君、告白する前に相談に来たんだもん。」
「・・・はい?」
思いもよらない言葉が出てきたせいた、変な裏返った声が出てしまった。
「男女問わず恋愛事の相談は受けるんだよね~。」
思わず無言になってしまう。
「だから、み~んな知ってるの。」
そう言う彼女の瞳はキラキラ輝いて、顔が可愛いせいもありつい目を細めてしまう。
それを可愛いと思う俺はおかしいのか・・・?
「それでね、男子の中でダントツに人気なのが、工藤君なの。」
「・・・は?」
しずかはそう言いながら俺を指差さし、くるっと向きを変え笑いながら坂道を一気に駆け下りた。
俺はその場に立ちすくんだままだ。
「工藤君、おいていくよ~。」
坂下から声が響く。
しずかの髪は風になびいて、その光景がますます俺を引き込んでいく。
綺麗な俺の彼女のところに向かうため、坂を一気に走って向かう。
「惚れた弱みなんだよバカヤロー!!」
そう叫んでみる。
坂の下のしずかはニコニコと笑っている。
そんなところが、大好きなんだよな・・・。
「こんな彼女いるわけねえよww」と思いながら書きました。