アルカナの舞-04◆「龍の賢婦人」
■恵久美流公国/恵久美流/龍の館/宗主の間
「そうか・・・こちらの方々に姫はお世話になっていたのだな」
“龍の盾”は旧知の間柄だが、他の三人は初見だった。不躾かとも思ったが、如何なる人物達に自分の娘が世話になったのか――多少なりとも、好奇心を押さえられない宗主だった。
一番左に立つのは、たおやかな若い娘だった。肩口でそのつややかな黒い髪を纏め、その深い黒曜石のような瞳はけぶるようだった。
その娘の隣は、非常に背の高い寡黙そうな異丈夫だった。剣こそ下げているが、その軽装な出で立ちは魔導戦士の装いに思えた。
璃奈をおいて顔なじみの“龍の盾”が護るように立ち、その隣にはもう一人若い娘が微笑んでいた。細くて小柄ながら、腰まで届く褐色の髪に、英知に輝くその明るい瞳には引き込まれるような印象を受ける。
“立派な人たちと知り合えたのだな”
多少親莫迦気味の恵久美流宗主は、親しげな笑みを浮かべながら、自分の娘が紹介する一人一人に丁寧に挨拶した。
「姫が大変お世話になりました。折角いらっしゃったのです。当地にゆるりと御滞在下され」
続いて、宗主の隣に腰掛けていた貴婦人が口を開く。
「皆さま、恵久美流にようこそいらっしゃいました。娘が大変お世話になりましたようで、心から感謝を申し上げます」
その貴婦人は、自分は恵久美流宗主の妻で詩真です、と名乗った。何処か璃奈に似た、それでいて落ち着きと包容力を兼ね備えた優しげな雰囲気を纏っている。そして、この婦人こそ“龍の賢婦人”と呼ばれ、漠羅爾新王朝の至宝とも呼ばれる大賢者でもあったのだ。近く遠くから、毎日詩真の知恵を借りに、訪問者が恵久美流公国に引きも切らず訪問に来ているのだった。




