アルカナの舞-01◆「龍の庭園」
■恵久美流公国/恵久美流/龍の館/庭園
恵久美流公国。ドラミディ大洋に面し、漠羅爾旧王朝時代からの歴史を持つ古い国。漠羅爾新王朝になり、指導的な立場を新興のAKDに譲ったものの、その勢力は相変わらずウェスタン、イースタン共に一目置かれる存在である。国名と同じ名を帯びる首府恵久美流は、現在では旧宗主国是居府をも凌ぐ繁栄にあった。東西の交流も活発化し、イースタンの主要国はここに大使を置く様になっていた。
恵久美流の王宮、『龍の館』は街の中心部に位置し、背後に広大な『龍の庭園』を持つ。庭園の中には、岩が溶けた様な構造物があるが、これはスール神聖帝国との戦いで溶けた旧王宮の廃墟と言われている。
遙かヴェルボボンクから跳躍呪文で移動をしてきた一行は、この『龍の庭園』に現れた。ヴェルボボンクを午前中に出てきたが、まだここは早朝であった。
「・・・ここが恵久美流の高名な『龍の庭園』ですか」
周囲を見回して、シュテファン・v・ラダノワが呟いた。朝焼けに染まる靄の中、庭園には魔法的な明かりが灯され、幻想的な雰囲気が漂っている。
「ラダノワ卿は、こちらは初めてか。無理もない。封印戦争前は、漠羅爾諸国自体が鎖国していた様なものだったからな。通行証無しで自由に行き来できるようになったのも最近のことだからな」
深い笑みを浮かべて、ラルフ・ロビラー“龍の盾”が相槌を打った。
「ここが、漠羅爾の始祖が作ったと言う庭園ですの・・・」
ゆっくりと周囲を見回している真理査も感慨深げ言った。
「お父様も、その昔こちらにいらしたのですわね。あの、“大地の鎧”を鍛えるために・・・」
「それは、灰の預言者様のことですね」
確認するようにレムリアが言う。その話は、二千五百年も昔に遡る。漠羅爾旧王朝の成立と、その繁栄。今は、僅かな名残がこの庭園に伝わるのみであった。
「守護者の長が創られた神器が、世に最悪の事柄が起きることを、未然に防いでくれました。忘れることの出来ない、忘れてはならない。記憶の一つです」
「・・・忘れ得ない、過去の記憶」
レムリアに向けた真理査の顔には、やるせない想いが浮かんでいた・・・。
これは、「魔性の瞳」の6年後、コモン歴591年の世界です。お馴染みの名前が、そこここに散見されると思います。基本的に、全てのお話は「幻界創世記」も含めて、「グレイホーク」の世界をベースにしています。パラレルに読まれると、更に世界の深みが感じられると思います。拙作ですが、宜しくお願い申し上げます。




