正義とか悪とか決めつけないで!(原曲:モデP 作:花村雫)
この小説は、モデPの正義とか悪とか決めつけないで!という曲をもとに、花村雫さんに、書いていただきました!
とても曲に忠実に書いてくださって、とてもいい作品に仕上がりました!
楽しんでいただけると幸いです!
『正義とか悪とか決めつけないで!』
スマホのアラームが鳴った。
「……んんっ」
肩が重怠い。朝は少しだけ息が苦しい。
目が覚めて私が最初にすることは、歯磨きでも着替えでもない。
憂鬱な気分で、スマホを開いて通知を確認すること。
昨夜の投稿の反応はどうだったか。変な受け取られ方はしていないか。誰かを傷つけていないか。
恐る恐る動画サイトの画面を開く。
大丈夫。今日も炎上していない。次にSNSも確認。うん、問題なし。私は小さく息を吐いた。
SNSフォロワーは百万人超え、動画サイトチャンネル登録者百万人越え。最近フォロワーは伸び悩んでいるけど、私は世間で言うところの有名美容インフルエンサーってやつだ。
――『今日も、セアちゃんかわいい~!』
――『みてるだけで癒される』
可愛い、優しい、癒やされる。毎日、降り注ぐ自分への肯定的な言葉。
でも私は知っているんだ。少しでも失敗すれば炎上し、全てを失うことを。
言葉選びを間違える。服装を間違える。誰かとの写真に余計なものが映り込む。それだけで昨日までの味方が敵になるのだ。私は、いつも用心深く考える。
この発言は安全かどうか、この表情は誤解されないか。
誰も傷つけないか。誰にも嫌われないか。そんなことばかりで。
「本当はもっと好きなコスメの話もしたいんだけどなぁ、好きなゲームの話とか……」
でも有名になると、会社から宣伝をお願いされたり、様々なプレゼントをされる。みんな、私の動画やSNSで私が商品を褒めてくれることを望んでる。そして、私の仕事はそんな流れから成り立っている部分もある。ありがたいことではあるけれど。
「たまには、愚痴だって言いたい時もあるけど……まあ動画で言うことではないか」
なんたって私は、優しくて、明るくて、いつも笑顔の人。可愛い、優しい、癒やされる。
みんなが期待する「私」の姿。でも、私はそれを楽しんでもなくて、みんなを騙しているみたいで。
「いつからこんな、楽しくなくなっちゃったんだろう……」
夜――週に一度の雑談配信。いつものように笑顔で雑談していた。
くるくると流れるコメント欄。一つ一つには返せないけど、出来るだけ読むようにはしている。
――『セアちゃん、最近無理してない?』
無理なんてしていないよって笑顔で返そうとして、言葉が出てこなかった。
なんでだろう、いつもの私でいられない。
「あ、ごめん……ありがとう」
自分でも驚くほど声が震えていた。コメント欄が一瞬静かになる。
「私……ずっと怖かったんだ。みんなに嫌われるのも、炎上するのも……毎日、正解ばっかり探してた」
本音と一緒に涙がジワリと滲む。
「でも、もう疲れちゃったよ」
口にしてから、ハッとした。言ってしまった。マイナスな言葉は言わないようにしてたのに。
きっと失望される。フォロワーも減る。これでぜんぶ終わり。
そう思った。
「えっ……」
私は言葉を失った。
――『頑張りすぎだよ』
――『泣いていいんだよ』
――『人間なんだから当たり前』
――『無理しないで』
――『ずっと応援してる』
コメント欄に、責める声はほとんどなかった。 むしろみんな、自分のことのように心配してくれている。
画面が滲んでよく見えない。
――『セアちゃんは神様じゃないよ、もっと好きなようにして』
そうか、みんなが求めているのは完璧な神様じゃない。失敗して、悩んで、時々泣く。そんな普通の私。私が勝手に、よくわからなくさせていた。
配信を終えたあと、私は久しぶりにスマホを伏せた。
窓の外には夜の街が広がっている。星も見えない都会の街。遠くのネオンライトの光も見えない。誰かの評価も、コメントも、今は少し遠い。
その夜、初めて少しだけ肩の力を抜いて眠った。




