第4話 未来でゲットした情報、ドクは「細かいことは気にするな」と言ってくれるよな
完全に、いつもの朝だ。
改札の電子音も、ホームに漂う少し埃っぽい匂いも、
肩に食い込む鞄の重さも、昨日と何一つ変わらない。
違うのは、一つだけ。
――俺は、未来を知っている。
鞄の中には、
未来から持ち帰ってきた一部の新聞が入っている。
社会面、結構おおきな囲み記事。
俺の逮捕と、死亡。
銀行マンが横領した、という話だ。
そりゃあ、結構なニュースになるだろう。
テレビも、ネットも、きっと騒いだに違いない。
「ヘビーだ」
思わず、そう呟いてしまった。
マーティを意識してのことだが。
昨夜、
五年後のビジネスホテルで、
俺は過去に自分に起こったことを調べまくった。
フリーWi-Fiを拾って、
自分の名前を検索し、
事件の記事を片っ端から読んだ。
気分は最悪だが、
内容は、だいたい分かった。
俺にかけられていた容疑は、こうだ。
顧客の貸金庫を、
銀行の予備キーを使って不正に開け、
中に保管されていた貴重品を横領した。
……らしい。
もちろん、
俺はそんなことはしていない。
そもそも、
そんな危ない真似をするほど、
俺は愚かじゃない。
そして――
真犯人についても、
正直、心当たりはあった。
はっきりした証拠はない。
だが、
「そういうことをやりかねない顔」
が、一人だけ思い浮かぶ。
今日が、
1月30日だという事実が、
今はやけにありがたい。
明日は、会計監査。
つまり、
今日一日、動ける時間がある。
「……ツイてるな」
未来を見て、
一日前に戻ってきて、
しかもタイミングがここ。
映画でも、
こういうのは大体、
主人公側に流れが来ている証拠だ。
明日の会計監査で、
帳簿は明らかに合わなかった。
だが、
それ自体は、
実はそこまで珍しい話じゃない。
会社の金の動きは、
必ずしもリアルタイムで帳簿に反映されるわけじゃない。
たとえば――
会社の現金を預かって、
本を買い、
領収書をもらったとしても、
それをまだ経理に渡していなければ、
帳簿は当然ズレる。
そういうことは、
たまにある。
だが、
俺が引っかかったのは、
その金額だった。
明らかに、大きい。
「一時的なズレ」で
済ませていい額じゃない。
しかも――
ここ数か月、
同じようなズレが、何度も起きている。
偶然にしては、
出来すぎている。
「……なるほどね」
俺は、
心の中でそう呟いた。
これが、
未来で俺が横領犯に仕立て上げられる、
最初の歪みか。
「あとで困るやつ」
誰が困るかは、
まだ言わない。
でも一つだけ確かなのは――
このまま放っておいたら、
未来は新聞通りになる。
俺は、ネクタイを締め直した。
「まあ、なんとかしますよ」
銀行マンは、
数字と記録で仕事をする。
そして、
未来を変えるのに必要なのも、
だいたいその二つだ。




