第3話 未来の朝刊に、俺の死亡記事が載っていた件
正直に言うと、
未来からどうやって帰るかなんて、
まったく考えていなかった。
五年後に来た理由も分からないのに、
帰り方が分かるわけがない。
ドクはいない。
デロリアンもない。
雷も落ちない。
目の前にあるのは――
駅前のビジネスホテルの古いベッド、
そして今朝コンビニで買った新聞だけだ。
「詰んだ?」
一瞬、そう思った。
でも、だからといって
慌てるほど、
俺は切羽詰まっていなかった。
だって、
未来はもう読んだ。
しかも、あんまり良くないやつを。
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新聞に書かれていた内容はこうだ。
『東西R銀行 元社員
取り調べ中に死亡』
「1月30日午後2時30分頃、
横領の容疑で逮捕されていた本間啓介容疑者が死亡した。
死亡原因は公表されていない。」
・・・
1月30日は、昨日だ。昨日といっても本来のオレがもといた日の5年後の昨日だから・・・
あーもうややこしいな。
今のオレがいる今日が2031年の1月31日だから、もう昨日ってことでいい。
そしてオレが働く会社、東西R銀行には同姓同名はいなかった。
つまりこの新聞によれば、
オレが死んだのが昨日ってことだ。
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シャワーを浴びて、
ベッドに倒れ込む。
天井を見ながら、
ぼんやり考えた。
新聞の記事によれば
5年後のオレは、
・横領の罪で逮捕され
・そして、もう死んでいる
「……うわ」
並べると、
なかなかひどい未来だ。
でも、不思議と
絶望はなかった。
「まあ……」
「この未来、
採用されなきゃいいだけか」
バックトゥザフューチャー好きなオレは知ってる。
過去の行動で未来は変わる。
そう思った瞬間、
胸の奥で、
何かがカチッと音を立てた気がした。
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目を閉じる。
頭の中で、
映画のワンシーンが勝手に流れる。
ドクが時計台に上っている。
雷が落ちる。
デロリアンが未来に消える。
「過去から見た未来」の現在で、素敵な姿に変わった両親、
マーティーの車を洗うビフ・・。
「だったら――」
「戻る理由は、十分だ」
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次に目を開けた時、自宅の目覚まし時計が鳴っていた。
いつもの音。
いつもの時間。
スマホを見る。
日付は――
五年前。
……いや。
正確には、五年と
一日前だった。
2026年1月30日。
明日は会計監査の日、
帳簿の確認で数字が全く合わなかった日だ。
昨日までの出来事は、確かに現実だった。
オレはそれを確かめるために
ベッドから起き上がり、
鞄を開く。
中に入っていたのは、
昨日、確かにしまった
五年後の新聞。
それ以外は、
財布も、スマホも、
持ち物はすべて
昨日の朝と同じ。
「なるほど」
「また一日前に、
戻されたってわけか」
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理屈は分からない。
どうして戻れたのか。
なぜ一日前なのか。
科学的な説明は、
どこにもない。
ただ一つ、
はっきりしていることがある。
俺は未来を知ったまま、
昨日に戻ってきた。
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スーツに袖を通し、
玄関を出る。
空気は、
昨日と同じ朝の匂い。
「よし」
軽く肩を回す。
「じゃあ、
やり直しますか」
まあ、なんとかなる。
――いや。
なんとかしてやる。




