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現代霊能者はバズりたい  作者: tanahiro2010
第二章 神城の過去

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007 依頼

 この世界――きゅうちゃんの創り出した世界に放り込まれてから、すでに一か月が経過していた。




 ……にもかかわらず、僕はいまだにきゅうちゃん本人と再会できていない。最初にあんな派手に術をぶっ放して僕を飛ばしたのだから、てっきり近くにいると思っていたのに。どうやらこの世界では、きゅうちゃんは陰陽師たちにとって“最大の仇敵”のような扱いをされているらしく、そう簡単には表に姿を現さないようだ。




 その代わり――僕は、妙な縁を得てしまった。




「おーい、神城! 妖が出たってよ、依頼だ依頼!」




 僕に気安く声をかけてくるのは、一人の野良陰陽師。


 初めてこの世界に来て右も左も分からなかった僕を助けてくれた……いや、正確には彼が妖にやられそうになっているところを、僕が助けたのが始まりだった。




 名は――加茂義春。




 そう、あの加茂家だ。僕のいた世界でも有名な名家、その血筋の誰かだろう。おそらくは、加茂家の先祖の一人。封印前の時代を再現したこの世界で出会ったのだから、偶然とは思えない。




 ――そう、先祖。




 僕は確信している。ここはただの仮想空間ではない。九尾、つまりきゅうちゃんが生きていた時代――平安をモデルにした「もうひとつの歴史」なのだ。




 だからこそ、なのだろう。




 この世界には、信じられないことに――《《安倍晴明》》が生きて存在している。




 僕が物語や歴史書の中でしか知らなかった人物。陰陽道の大天才にして、伝説の大陰陽師。その人が、この空間では現実の存在として目の前を歩いているのだ。




 きゅうちゃんがこの世界を創った理由は、きっとそこにある。僕に陰陽術が使えるかどうか試させるため。そして、そのためには最高の教材――安倍晴明を用意するのが最適解だったのだろう。




 ……ただ、疑問は残る。




 なぜ、当のきゅうちゃんは僕の前に姿を現さないのか?


 僕のことを試しているにしても、あまりに放任すぎやしないだろうか。




 まぁ、考えても答えは出ない。僕はこの一か月、安倍晴明に近づくべく“野良の陰陽師”として暮らしてきた。依頼をこなし、人々を助け、妖を祓う。地道だけど、それが唯一の道だからだ。




「わかった! 今すぐ行く!」




 僕は義春に返事をし、腰の符を確認して立ち上がる。




 まずは依頼をこなすこと。それが信頼につながり、やがては晴明の目に留まる。そうすれば――陰陽術の神髄を、この目で見られるかもしれない。




 ……外の世界と、この世界の時間の流れが違うことを祈るばかりだ。もし一か月が現実でも一か月経っているなら、僕の身がどうなっているか分からない。




 それでも今は――目の前の戦いに集中するしかないのだ。






――――――――――――






 ――いやはや、この世界に来てからどれほどの時が経ったのだろうか。




 妾自身も、この時空に降り立ってから随分と日数を数えたつもりだが、はっきりとした感覚は失われつつあった。けれども一つだけ確かなことがある。


 それは、この世界に来てからまだ一度も――神城に会えていない、ということだ。




 避けている、といえば確かに避けている。


 けれど、それ以上にやっかいなのは眷属の存在である。




 あやつがどういうわけか、神城にだけ異常な拒否反応を示すのじゃ。


 近づこうものならすぐに牙を剥き、低く唸り声をあげる。結果、妾が会おうにも妾の周りで騒動が起きるから、近づくことすらできぬのが現状じゃ。




「のう、いい加減神城へのその拒否反応、治せんのか?」




 ため息交じりに問いかけると、眷属は一拍の間も置かず答えを返す。




「無理です。無理に決まってますよ、主よ」




 きっぱり。即答。まるでそこに迷いなどないかのような声色に、妾は逆に呆れてしまう。




 ……なぜそこまで頑なに神城を拒むのか、本当に理解できぬ。


 妾から見ればただの小僧じゃのに。




 そう考えていたとき、ふと頭に浮かんだどうでもよい疑問が、思わず口からこぼれ落ちた。




「そういや眷属よ。……お主って、名前あったっけ?」




「は?」




 眷属の顔が固まり、次の瞬間、目を見開いてこちらを凝視してくる。




 おお、そんなに驚くことか?と内心首をかしげる。


 いや、妾もずっと「眷属、眷属」と呼んでいたからのう。名前などとうに忘れておったのじゃ。すまんすまん。




 もっとも、教えてもらったところで覚えられる自信はない。


 正直、この眷属がいなくとも妾は困らぬし、問題はないのだが――




 そこまで思考したところで、眷属が烈火のごとき勢いで妾へ詰め寄ってきた。




 その顔は普段の整った美貌をかなぐり捨て、般若のごとき迫力。




「私の名前……忘れたんですか?」




「あっ、はい」




 無意識に敬語が口を突いて出た。


 ……いや、正直に言うが、完全に忘れておる。




 だってなあ、この眷属は妾が造りだした存在ではない。気づいた時には隣にいて、勝手に眷属を名乗っておったのじゃ。そんなもの、細部を覚えていろというほうが無理がある。




 だが、次に放たれた言葉は妾の胸を思いのほか強く刺した。




「あなたが……主が、私に名前を付けてくださったのですよ? 本当に……本当に忘れてしまったのですか?」




 その声音は怒りではなく、深い悲しみを帯びていた。




 伏せられた瞳。震える肩。


 その姿を前に、妾は初めて「忘れたこと」への罪悪感を覚えた。必死に記憶を掘り返すが、やはり何も浮かばぬ。空白だけが広がっていく。




「はぁ……私の名前は――《《詠歌》》。歌を詠む姿を美しいと……主はそうおっしゃって、私にその名をくださったのです」




 詠歌。




 その響きを聞いた瞬間、妾の胸に淡い既視感が灯った。


 記憶には残っていない。だが確かに、懐かしい気配を感じる。まるで忘却の底に埋もれた宝が、微かに光を返してくるような。




「そうか……そうじゃったな」




 曖昧な言葉しか返せぬ自分が歯がゆい。


 だが眷属――詠歌は、そんな妾をまっすぐに見つめていた。




「それじゃあ、詠歌よ」




 妾はあえて口にする。


 彼女が望むなら、その名を今一度呼んでやろうではないか。




「ある程度の下地は積ませたし――行くぞ。平安の侵略へ」




 宣言と同時に、空気が張り詰めた。




「……はい!」




 先ほどまでの悲しげな表情は消え、詠歌はぱっと花のように微笑んだ。


 その笑みは、どこか嬉しげで、誇らしげで――そして何より、主に従うことを喜んでいる笑みだった。




 妾はその姿を見つめながら、改めて思う。




 忘れていても、繋がりは消えてはいなかったのだ、と。






――――――――――――






「さて、ここが依頼の場所なの?」




 鬱蒼とした森の中。風はぬるく、湿った空気が肌にまとわりつく。


 加茂に案内され、僕はここまで足を運んでいた。




 依頼の詳細については、どうやら加茂はすでに聞いていたらしい。


 ……いや、僕を巻き込む気満々だったのかもしれない。




「もし僕が断ったらどうするつもりだったの?」




 半分皮肉でそう尋ねると、彼は口の端をつり上げて答えた。




「お前だったら断らないだろ? あの安倍晴明に会えるチャンスだぜ?」




 やけに得意げな顔。まるで僕の性格を読み切ったとでも言いたげな雰囲気だ。


 ……いや、まぁ、確かに断らなかったけどさ。ちょっと悔しい。




「はぁ……まぁ、結果的に来ちゃったんだけどね」




 思わずため息が漏れる。


 僕だって体調が悪ければ断ることくらいあるはずなんだけど……過去一度も断ったことがないから、加茂にとっては「どうせ来る」と思われても仕方ないのかもしれない。




「それで、依頼の霊……いや、妖? 説明してくれる?」




 僕はあえて確認をとる。


 この時代ではまだ「霊」と「妖」の区分が曖昧で、陰陽師の上の人たちがようやく整理しはじめたばかりらしい。下っ端や野良はほとんど理解していない。




 未来から来た僕としては、この曖昧さはある意味助かる。


 正直、まだ僕自身がこの世界のルールを全部把握してるわけじゃない。専門家っぽい顔をされるより、こういうふうにあやふやでいてくれたほうが気が楽だ。




「今回の対象は“妖”だな。いや、厳密には“霊”と“妖”の中間って言ったほうが正しいかもしれん」




 加茂は腕を組み、森の奥をにらむように言った。




「触れたものを無差別に燃やす特性を持ってる。見た目は鬼のようで、名を《炎鬼ほむらおに》と呼ばれてる」




「……いや、鬼がつくならそれもう立派に“妖”だよね?」




 僕は思わず突っ込む。


 触れたものを燃やす? 人も、物も、すべて? それを“霊”と呼んでいいのだろうか。




「その燃やす対象って……人間も?」




「生物、物体、関係なく、触れた瞬間に全部燃えるらしい」




「……まじかぁ」




 さすがに引いた。


 どう考えてもただの霊の仕業じゃない。陰陽術か、あるいは霊術の一種と考えたほうが妥当だろう。




 特にその特性――“焔”という概念そのものに特化した具現化能力。


 霊術の系統と考えれば腑に落ちる。具現化の力を炎という形に特化させているだけ、ってことか。




 とはいえ――危険なのは変わりない。


 触れた瞬間に燃やされるなんて、対処を一歩間違えれば即死に直結する。僕の体だって霊気で強化しているとはいえ、燃やされれば終わりだ。




 ……うん、やっぱり気は乗らないな。




 でも、この世界で依頼をこなし続ければ、いずれ安倍晴明に接触できるはずだ。陰陽術を実際に見られる日が来る。そこに繋がる可能性があるのなら、ここで逃げるわけにはいかない。




「わかった。それじゃあ、ちょっと探してくるよ」




 僕は軽く霊気をまとう。呼吸が少し鋭くなる。




「できれば逃げててね? 加茂くん、君じゃ勝てないだろうし」




 皮肉交じりに言ったけど、あながち冗談じゃない。


 彼は戦闘力より経験で立ち回るタイプだ。真正面から炎鬼とぶつかったら、まず助からない。




 ……それにしても、最近僕の気配探知、全然あてにならないんだよなぁ。




 頭をかきながら、僕は森の奥へ足を踏み入れる。


 足元の草がざわりと揺れた瞬間、胸の奥に微かなざわめきが走った。




 ――この依頼、間違いなくただの除霊じゃ終わらない。






――――――――――――






「おや? おやおやおや? ……面白い子がいるねぇ」




 深い森の奥。


 神城の背中を追いかけるように、一つの影がゆらりと木々の間に溶け込んでいた。




 影の男は、楽しげに目を細める。


 その眼差しは神城を見ているようで、しかし焦点はどこか虚空に向いていた。




「なるほど、そういうことか……《《この世界》》は《《複製》》なんだね」




 口元が大きく歪み、笑みが零れる。


 知識と理解が閃光のように彼の脳裏を走り、すぐに一つの答えに辿り着いた。




「ふむ……そうかぁ。だったら君は、《《未来の特異点》》……ってやつかな?」




 その声色は楽しげでありながら、どこか人間を超えた不気味さを帯びていた。


 自分以外の誰も気づけない秘密を独り占めしているような愉悦。




 神城という少年に宿る“異質さ”――それを嗅ぎ取った瞬間、男は確信したのだ。


 彼は、この世界の誰とも違う。




「久しぶりだなぁ……僕の退屈を紛らわせてくれる“相手”になってくれるのは」




 乾いた声でそう呟くと、男は懐から符を一枚、滑らかに取り出した。


 指先で符を撫でる仕草すら、優雅に、そして異様に映る。




「さぁ――楽しい時間の始まりだ」




 符を天に掲げ、男は低く詠じる。




「急急如律令――《顕現 白虎》」




 その瞬間、森を切り裂くように冷たい風が吹き荒れた。


 木々のざわめきが一斉に沈黙し、見えない圧が空間を支配する。




 次の瞬間、白銀の毛並みを持つ巨大な獣が虚空から姿を現す。


 その眼光は、夜を貫く双つの刃。




 影の男はそれを見上げ、恍惚としたように笑った。




「さぁ、行こうか。舞台はすでに整っている」




 彼の声は、森の奥深くへ消えていった。


 ――まるで、これから訪れる嵐を告げる予兆のように。

カクコンに出そうかな

いやでもこれGAのコンテストに出してるのか

どうしようかなぁ...


突然ですが新作を描きたくなったのとモチベが消失したのでこちらの投稿を休載させていただきます。

もし続きが欲しかったらコメントやレビューお願いします。

やる気出たら再開します()

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