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現代霊能者はバズりたい  作者: tanahiro2010
第二章 神城の過去

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005 妖術

「そうじゃ、いいことを思いついたのじゃ!」




 僕が必死に眷属さんを押さえつけている最中、その場の空気をまるで読まない、のほほんとしたきゅうちゃんの声が響き渡った。




 いや、いいこと? 今この状況で?


 僕の頭の中は突っ込みでいっぱいだった。




 いいことなんて後回しでいい。いや、むしろ今は悪いことしか起きてないんだから、せめて余計なことは言わないでほしい。


 というか、それより何より――




「そんなことより助けてくれない?! このままじゃ押さえられないって! タピオカミルクティー飲ませてあげないよ?!」




 半ばヤケになって叫ぶ。命を盾に脅す勇気はないけど、タピオカで釣れるなら釣りたい。




「ぬ、それはいかんな。せっかくの楽しみを失うわけにはいかぬ」




 やっぱり。タピオカミルクティーの魔力は偉大だ。




 きゅうちゃんは小さく頷くと、指を「パチンッ!」と鳴らした。




 瞬間――




「ッ…ガアッ?!」




 僕の下で暴れていた眷属さんが、息を詰まらせるような呻きを上げて体を捻った。


 力が抜けたその隙に、僕の拘束からすり抜け……次の瞬間、眷属さんの全身が謎の球体に包まれた。




 淡く光を帯びた半透明の結界球。まるでガラスの檻のように、完全にその身を閉じ込めてしまう。




 ――《陰式 空・隔離結界》




 その言葉が、ぽつりと空間に響いた。




「…陰式?」




 思わず、僕の口から疑問が漏れる。




 だってそうだ。僕がこれまで耳にしてきたのは「霊術」という発動句だけ。


 加茂くんだって、試験のときだって、みんなそう言っていた。




 でも、今きゅうちゃんが使ったのは「陰式」。


 初めて聞く単語だった。




 嫌な予感と同時に、好奇心がざわめく。


 もしかして――




「――陰陽術?」




「おぉ、よく気づいたの。やはりお主、頭は悪くないのう。もしかしてお主も陰陽術を使えるのか?」




 やっぱりそうだ! 僕の予想は的中した!




「いや、僕はまだ習ってないし使えないね。使ってみたい気持ちはあるけど」




「ぬ? なら使えばよかろうに。……あぁ、そういえばお主は霊術使いじゃったの。それでは……無理、なのかの?」




「え、霊術使いは陰陽術使えないの?」




 僕の胸に、ほんの少しだけ落胆が広がる。


 だって、陰陽術って聞いただけでカッコよくない? ああいう結界とか、式神とか、派手で中二病心をくすぐる技がいっぱいあるんだろうに。


 僕だって立派な男の子。カッコいい技は使ってみたい。むしろ使わせてほしい。




「うーむ、そこはわからんの。理屈では霊術と陰陽術は別物じゃが……検証してみる価値はあるかもしれんのう」




 腕を組み、きゅうちゃんはふむふむと頷き、そして目を輝かせた。




「ということで、妾の案を聞いてもらおうか」




 なんだか嫌な予感しかしない。だが同時に、嫌な予感は大抵当たる。


 僕は無意識に息を呑む。




 その瞬間――きゅうちゃんが高らかに告げた。




「――今からおぬしらには、《《妾の創り出した亜空間で決闘してもらう》》」




 空気が一瞬、固まった。


 結界に閉じ込められた眷属さんが血走った目でこちらを睨み、僕は冷や汗を背中に伝わせる。


 そしてきゅうちゃんは、にこにこと無邪気に、けれども残酷な笑みを浮かべていた。






――――――――――――






「突入開始!」




 その現場には、近づくだけで胸が押し潰されそうなほどの圧迫感が立ち込めていた。重苦しい空気はまるで鉛のようにまとわりつき、ただ呼吸をするだけでも肺が悲鳴を上げる。




 ――陰陽庁特設・神風部隊。




 それは、神城風磨を救出するために、そして厄災の象徴とも呼ばれる九尾を再び封じるために急遽編成された、少数精鋭の特殊部隊だった。




 ただ強者を寄せ集めたわけではない。幹部クラスの陰陽師を派遣するのならば、いっそ数人で片がつくはずだ。そうではなく、この部隊はそれぞれが「一点突破」に特化した異能と技術を持ち、それを組み合わせることで初めて成立する戦力であった。だからこそ「神風」の名を冠するにふさわしい。




 部隊の人数はたった三名。だが、その重みは軍勢に等しい。




 ――九尾の眷属、加茂詠歌の《《消却》》を担当するのは、土御門春義。


 対人戦で彼に勝てる者はいないとまで言われ、術と体術を融合させた暗殺の権化。かつて数多の呪詛師を葬ってきた男だ。




 ――九尾本体の再封印を一任されたのは、結界術の第一人者・加茂太郎。


 その術は結界の枠を超え、新たな「世界」を造り出すとまで噂される。防御も捕縛も規模を問わず自在に操る、まさに陰陽庁の要。




 ――九尾本体の足止めを担うのは、阿部清太郎。偽名であり、真の素性は闇に葬られている。


 だが彼の力は確かだ。《《先天的な異能》》により妖に対しては絶対的な優位を誇り、その存在自体が「対妖の切り札」と呼ばれる。




 三人は黙々と歩みを進め、眷属が破壊した結界の残滓を越え、封印の地の深奥へと踏み込んでいった。




「一時封印結界、開きます!」




 太郎の号令とともに、重厚な紋様が地に広がり、森全体を包み込むように新たな結界が展開される。厚く、強靭で、出入りを許さない牢獄。これで九尾を逃すことはない。だが同時に、それは自分たち自身をも縛る枷となる。




 つまり、この戦いに退路はない。勝つか、死ぬか。その二択だけだ。




 その覚悟が胸に刻まれた瞬間だった。




 ――森の中心部で、突如としてまばゆい光が爆発した。




「なにっ?!」




 轟音とともに視界が白く塗り潰され、三人は条件反射で身を引く。しかし結界は絶対。逃げ場は存在しない。光と圧力が押し寄せ、全員の心臓を鷲掴みにする。




 絶望の色が空気ににじみ始めたその時、加茂太郎が蒼白な顔で報告を叫んだ。




「け、結界内から……九尾と眷属の反応が消失しました!」




 一瞬、耳を疑った。消失? あれほどの存在が、結界ごときで反応を断つはずがない。だとすれば考えられるのは――




 別の次元への退避。あるいは、こちらの感知の及ばぬ領域に潜ったか。




 それが何を意味するのか、三人の誰もが理解していた。つまり、自分たちの手が届かぬところで「何か」が動いている。




 この先の戦いがどうなるのか。神城風磨が生きているのか。九尾は本当に封じられるのか。




 その答えは――まさに《《神の味噌汁》》。誰にもわからない。






――――――――――――






「――《《異空間で戦ってもらうって》》...どういうこと?」




 きゅうちゃんの口から放たれた言葉を、僕は反射的にオウム返しにしてしまった。


 異空間? 戦う? その言葉のひとつひとつが現実味を帯びず、頭が混乱している。




 ただ、僕だけじゃない。隣にいる眷属さん――旧補佐さんもまた、九尾の言葉を聞いた瞬間、わずかに目を細めて反応したのを僕は見逃さなかった。あれは、警戒と驚愕。つまり僕の聞き間違いではない。




「この世界にはのう、霊術や陰陽術の陽式・陰式・陰陽式の他に……ごく一部の妖しか扱えぬ特異な技がある。それが『妖術』と呼ばれるものじゃ」




 九尾の声は楽しげで、けれど不気味さも滲んでいた。




「妖術……? 霊術とはまた違うの?」




「全く違うな。比べるなら……うむ、”できることのジャンルがまるで違う”と言ったほうが早いかの」




 僕は思わず息を呑んだ。


 霊術はある意味わかりやすい。僕が得意とするのは物質の具現化と身体強化だけど、理屈を工夫すれば炎や氷、雷だって再現できるだろう。いわば「魔法」みたいなものだ。




 陰陽術は……僕の中のイメージだと占術とか式神とか、因果や理を操るもの。霊術とは違うベクトルの技術。




 じゃあ――妖術ってなんだ?




 霊術でできるのは”既にある概念をこの世界に引き出すこと”。


 陰陽術は”見えぬ理や因果を操ること”。




 ……なら、妖術は?




 脳裏をよぎる仮説に、背筋がひやりとする。




「……もしかして、それって――《《創造の力》》?」




 おそるおそる言葉にすると、九尾は狐耳をぴくりと揺らし、にやりと笑った。




「おぉ、よくぞ気づいたの。まさしく正解じゃ」




 その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。


 やっぱり……!




 無から有を生み出す。世界に存在しないものを創り出す。


 そんな力が実在するなら、それはまさに「厄災」と呼ぶにふさわしい。封印されるのも当然だ。




 同時に――僕の中に芽生えるのは、どうしようもない好奇心。


 創造だなんて、そんな力……使ってみたい。いや、使えるなら絶対に試したい。




 でも、理屈の上でもう答えは見えている。


 妖術という名前が示す通り、それは妖にしか許されぬ領域。僕のような人間の霊術使いが触れられるものじゃない。




 そう頭では理解しているのに、心の奥底では諦めきれず、渇望するような感情が渦を巻く。うーん、欲しいなぁ。




「――まぁ、創造だからと言って、何でも好き勝手に作れるわけではないんじゃがな」




「え、そうなの?」




「妾たち上位の妖というのは、生まれ落ちたその瞬間から《《司る概念》》を一つ背負っておる。妾の場合は――”時空”。時間と空間、その両方を『創造』することができるのじゃ」




「空間はなんとなくわかるけど……時間、か」




 空間の創造、と言われればイメージできなくもない。


 それこそ、さっき言っていた「亜空間」もそうだし、SF映画に出てくるようなワームホールやスペースジャンプなんかも、言ってしまえば空間そのものを編み直す行為だ。世界のレイヤーを新たに増設する、そう考えれば理解できる。




 だけど――時間の創造?


 それはいったい何を意味するのだろう。




 空間と違って、時間は形のないものだ。目で見ることも、手で触れることもできない。僕らは「流れ」としてそれを感じ取っているだけにすぎない。


 しかも時間なんて、生きている限り無限に生成されていくようなものだ。そこにさらに「創造」を加えるとなると……いまいち効果が想像できない。




 世界が滅びようとしたときに、未来そのものを新たに作り直す力?


 あるいは、過去さえも書き換える神の権能?




 考えれば考えるほど、背筋が冷たくなる。




「まぁ、妾も正直なところ時間創造は扱いづらい...というかどう使えばいいのかわからんから、あまり使っておらんのじゃ。よくわからぬ力を無理に振るっても、ろくなことにはならんからのう。……取りあえず今は、お主らに妾の創り出した”空間”で戦ってもらうのが本題じゃ」




「……まぁ、そうなるよね。うん。正直、勝てる気はしないし、死ぬ未来しか見えないけど」




「一応、これは検証の意図もあるんじゃぞ? お主が陰陽術を扱えるかどうか――その可能性を見極めるためにな」




「なるほど……それはちょっと面白そうだね。まぁ、死んだら元も子もないけど」




「大丈夫じゃ。死んでも復活できるような”安全装置”を組み込んだ空間にしておく。安心して全力で戦うがよい」




 九尾はこともなげにそう言った。


 死んでも復活……そんな世界を作れること自体がもう常識外れだ。




 でも、不思議と恐怖よりも好奇心のほうが勝っていた。


 もし本当にそんな世界が創れるのなら、一度くらいその奇跡を体感してみても悪くない。




「……なら、お願いするよ」




「うむ、任せておけ」




 九尾がゆっくりと狐耳を揺らし、空気が震える。




 ――《創造 世界》




 言葉が放たれた瞬間、周囲の霊気が渦を巻き、世界そのものがきしむような音を立てた。


 見えない何かが集束していく。祈りにも似た、畏怖を覚えるような神聖な力の奔流。




 それは、妖の力と呼ぶにはあまりにも荘厳で、むしろ神の奇跡に近かった。




 光が炸裂し、視界をすべて白に塗りつぶした瞬間――




 僕の意識は、あっけなく闇に沈んだ。



あとがき――――

クソ川柳チャレンジ、始めました。

一日一回朝七時に更新します。

ぜひとも見に来てください。星とかくれたらめっちゃ喜びます。

https://kakuyomu.jp/works/7667601420053369358


あ、それはともかくこの小説。

今回で10万文字達成しました!!やったね!!!

記念SSとか書こうかな...なんか書いてほしい内容あったらコメントください。

あ、あと。

この過去編本編にすることにしたんで()

これからもぜひご愛読ください

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