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現代霊能者はバズりたい  作者: tanahiro2010
第二章 神城の過去
14/20

001 接触

 あの化け物と出会い、そして殴り合ってから、二日が経った。


 戦ったその夜、帰宅してすぐ布団に潜り込んだ僕は、そのまま意識を手放し、次に目が覚めた時には丸一日が溶けていたらしい。体感では数時間の昼寝程度だったのに、カーテンの隙間から射し込む朝日を見て、ようやく自分が寝過ぎたことに気付いた。


 起きた直後、一瞬だけ、あの出来事が夢だったらいいのにと思った。


 だけど、残念ながら現実だった。というのもーー


 検証のためにあの時と同じように“力”を動かすイメージを試したら、家中のガラスというガラスが、寸分の狂いなく粉砕したのだ。


 あれはもう、災難以外の何物でもなかったよ。


 部屋の片付けをしながら、ガラスの破片で指を切らないように慎重に掃除機をかける自分を見て、思わず笑ってしまった。あれだけの力を振るったのに、結局最後には箒を持つしかないのだから、なんとも情けない。


「さーて、今日は学校に行こうかなぁ」


 僕は“直感”だけで生きてきたような人間で、そのおかげでテストは常に学年上位。宿題も全部提出済みだし、二日くらい休んだところで誰も文句は言わない。というか、僕が何かといろんなトラブルに巻き込まれることを知っている先生は、「また神城がトラブルに巻き込まれたか」で済ます可能性の方が高い。


 だから、学校に行くかどうかを迷っていた。


「うーん、その前にーー家を監視してる連中から話を聞いてから決めるか」


 そう。僕の家は今、なぜか数人に監視されている。


 力を扱えるようになってから、“生命の気配”的な何かを捉えられるようになった僕は、その監視の存在にすぐ気が付いた。初めは気のせいかと思ったけど、夜になっても、朝になっても、その気配は消えなかった。


「今いるのは...屋根の上か。不法侵入じゃない?これ」


 ため息をつきながらベランダに出て、身をかがめて屋根に登る。


 気配は、ほとんど動いていなかった。どうやら昼寝でもしているらしい。


「マジで寝てるのかよ...」


 呆れながら一気に距離を詰め、その監視者を拘束した。


「ん...?え、あぁ、俺、捕まったんすね」


 拘束された瞬間に状況を理解したらしく、寝ぼけた声でそう言うその男に、思わず呆れを通り越して笑いが漏れた。


「はぁ...本当に寝てたんだ。驚きを通り越して呆れたわ、僕」


 それにしてもなんだこいつ。優秀なくせに昼寝して捕まるとか、頭がおかしいのか、それとも肝が据わっているのか。


「ッ...スー、解放してもらうことってーー」


「ーーできると思う?僕の家の屋根の上で監視してるかと思ったら堂々と昼寝かましてる変な服の不審者なんて、捕まえられて当然だと思うけど?何?ここで首チョンパしとく?」


「なッ、何言ってんすか!?嫌に決まってるでしょ!!死ぬのはごめんっす!!」


 突然暴れ出す関西弁の推定成人男性。


 必死すぎるその様子に、逆に僕が困惑した。


「わかった!わかったから暴れないで!!落ち着けって!!首落とすよっ!」


「死ぬのは嫌っす!」


「いや、すぐ静まるなよッ!」


 なんなんだこの人は。テンションの起伏がジェットコースターすぎる。


 暴れるのをやめた男は、腕を押さえながら情けない顔をしていた。


「はぁ...わかった、取り敢えず僕の家に入って」


「え、マジすか?」


「君がどこの誰で、どこから派遣されてきたのか、じっくり聞かせてもらうから」


「ヒィッ?!わ、わかったっす...」


 情けない悲鳴を上げながら従うこの男を見て、僕は心の奥で小さく笑った。


 ーーこれが、僕と陰陽庁の人間との最初の接触だった。


ーーーーーーーーーー


「ーーと、そんなことがあって俺はこの家に派遣されたっす」


「えぇー......僕また変なのに巻き込まれてるじゃん......」


 ある程度話を聞いた僕は、心の底から深い溜息をついた。


 自分のこの巻き込まれ体質を呪いたくなった。


 どうやら僕は政府の秘密組織ーー『陰陽庁』なるものに目を付けられたらしく、この男は僕の“力”ーーこの人たちが呼ぶところの“霊気”とやらを僕が悪用しないか、そしてその運用適性を監視するために派遣されてきたらしい。


「ぶっちゃけ、俺は必要ないと思ったんですがね?」


 男は頭を掻きながら、少し気まずそうに笑った。


「でも上の人たちはみんな前線を生き抜いてきた人たちなんで、裏切り者ーーいわゆる“霊気”や他の力を使って犯罪やらかした奴らを何人も見てきてるんすよ」


「そりゃあ、こんな便利な力があれば悪用する人も出てくるだろうけど......」


 僕は苦笑しながら、“霊気”を指先から放出し、近くに置いてあったコーヒーカップを持ち上げた。


 ゆらりと宙に浮かぶカップ。


 その中に“霊気”を練り込むようにして、コーヒーが注がれる様子を強くイメージする。


 ーー《霊質変化》


 ぽちゃん、とコーヒー色の液体がカップの中に満ち、雫が跳ねて僕の服に小さな染みを作った。


「うーん、美味しい」


 口に含んだ液体は確かに、少し苦くて甘い、いつものコーヒーの味がした。


「いやはや、やっぱりあなたは天才なんでしょうかねぇ?」


「さっき教えてくれたおかげだよ」


 実はこの男、僕と同じ“霊気”を扱う術者で、さっき力についてレクチャーを受けたばかりだった。


「で、一応この国には能力者枠として“陰陽師”と“霊能者”がいるんですが」


 男は指を立てて、少し偉そうに語り出した。


「あなたは一応“霊能者”側なんすよね」


「おん?陰陽師もいるの?あの化け物、もしかして陰陽師が倒す予定だった?」


「はい、でも正直助かったっすよ」


「......助かった?」


「はい。あれ、一応俺らみたいな一般の“霊能者”や“陰陽師”じゃ倒せないレベルの化け物なんで」


「お?そうだった?僕、霊気使えるようになる前から普通に殴り合ってたけど」


「それはあなたが異常なだけっすよ......」


 男は真顔で即答した。


 僕は昔から、我流ながら武術をかじっていた。


 10歳の頃、家族でイタリア旅行に行ったとき、運悪くマフィアの抗争に巻き込まれたことがあった。


 その時、僕を助けてくれた老人がいた。


 そのご老人にほんの少しだけ、武術というものを教えてもらったことがある。


「いやぁ、多分武術だけならあのご老人の方が強いと思うなぁ......手からビーム出してたし」


「なんすかそのご老人」


「中国拳法家が着てるような服を着てね?手から“波ッ!”ってビーム出してた」


「......その人、知ってるかもしれないっす」


 男はスマホを取り出して、何やら画像を探し始めた。


「この人じゃないっすか?」


 差し出された画面に写っていたのは、僕の記憶にあるあのご老人と寸分違わぬ姿だった。


「......この人だね。世界って狭いなぁ」


「いやー......この人、数年前にイタリアで少年を助けたって話してましたわ......」


 二人でしみじみと、世界の狭さを噛み締めた。


 ーーそんな時だった。


「ーーじゃあ、あなた陰陽庁に来ませんか?」


「え?」


 男があまりに軽い調子で、そんなことを言い出した。


「俺、あなたが陰陽庁に来てくれたら仕事がめっちゃ楽になるんすよ!だから単刀直入に言います!」


 男は勢いよく立ち上がり、拳を握りしめた。


「俺の仕事を減らすために!陰陽庁に来てくれっす!!」


「......まぁ、学業に支障が出ない範囲なら」


「うっし!それじゃあ今から本部に移動っす!」


「え、はやっ......」


 唖然とする僕をよそに、男は嬉しそうに荷物をまとめはじめた。


 そんな調子で。


 僕は、陰陽庁に連行されることになった。


ーーーーーーーーーー


「ここが......陰陽庁?」


「はい、そうっす」


 目の前に広がるのは、日本の政治の中枢にして威容を誇る国会議事堂。


 いやいや、待て。どう見てもこれーー


「いやどう見てもこれ、国会議事堂じゃん」


「ははっ、そうっすよ。国会議事堂の地下、そこに陰陽庁の本部があるっす」


「マジか......」


 男ーー賀茂 満哉が荷物をまとめると、僕は自分の荷物をまとめる暇もなく賀茂に引きずられるようにして家を出た。というか、あれは多分もう引きずられてきたと言った方が正しい。


 首根っこの服を掴まれ、タクシーを乗り継ぎ、連れて来られたのは東京のど真ん中。


 止まった場所は、まさかの国会議事堂の前だった。


 あまりの光景に呆然としていると、賀茂はお構いなしにズンズンと進んでいく。


「え、ちょまっ!」


「ほら、早く来ないと守衛さんに捕まるっすよー」


「あーもうっ!」


 賀茂が守衛に軽く挨拶したかと思うと、その隙を縫うように軽々と柵を飛び越えていく。


 その瞬間、僕も全身に霊気を流し込み、身体を強化する。


 足に力を込めて、一気に跳躍。


 自分でも引くぐらいの高さを越え、あっさりと国会議事堂の敷地内へ侵入した。


 もう捕まろうがどうでもいい。


 全部あいつのせいにしてやる。


 どうにでもなれだ。


「こっちです」


 先を走る賀茂が、余裕の笑みで手を振って先導してくる。


 こちらは霊気で強化しながら全力疾走しているのに、追いつける気配すらない。


 どれだけ足が速いんだよこの男は。


「はぁ...はぁ......はぁ、賀茂......あんた早いって......」


 やっとの思いで足を止めた賀茂に、息も絶え絶えの状態で言葉を絞り出す。


「ていうか......なんでここって......こんなに広かったっけ?」


 強化状態で全力で走れば、恐らく快速電車を超える速度は出せているはずだ。


 その速度で10分も走ったのなら、10km以上は走破したことになる。


 だが、外から見た国会議事堂にそんな広さはなかった。


 というか、GooggleMapを見たら国会議事堂はそこまでの広さを持っていないことがしっかりと記録されている...


 ーーつまりは、これは僕にとってれっきとした《異常》だったのだ...


「いやぁ、やっぱりここまでは軽くついてこれるんっすね?」


「これが...軽くついてきた結果に見えるなら、僕は眼科に行くことを...お勧めするよ。行きつけの精神科紹介しようか?」


「いや俺に精神科なんて必要な......え?あんた行きつけの精神科なんてあるんすか?え?大丈夫?俺ヤバいの連れてきちゃった?」


「自分の選択には責任を取れって手からビーム出してたじいちゃんが言ってたぞ」


「これが......憂鬱!」


 馬鹿馬鹿しい会話を交わしながら、呼吸を整える。


「で、やっぱりおかしいじゃん。外から見たらそこまで広くない国会議事堂で、なんでこんなに走らされたわけよ。何?亜空間拡張でもしてますってか?」


「おぉ〜、よくわかったすねぇ」


「......え?」


 僕の脳が、一瞬フリーズした。


 冗談で言ったはずの“亜空間拡張”を、この男は笑顔で肯定してきたのだ。


 この現代においてそんな技術が存在するのか。


 さっきまで地下って言ってなかったか?


 そもそもここは本当に地上なのか?


 様々な疑問が脳裏を駆け巡り、思考が白く塗りつぶされる。


 その瞬間ーー


「それじゃ、陰陽庁への入庁試験を始めるっす。合格条件は取り敢えず、俺を倒すことっすね」


「は?」


 冗談でも笑えない。


 この男の瞳が、笑顔のまま、しかし研ぎ澄まされた刃のように冷たく光っていた。


 馬鹿みたいな会話の直後だというのに、空気が一瞬で張り詰める。


 直感が告げていた。


 ーーこれから本気の戦闘が始まる。


 試験は、あまりにも唐突に、理不尽に始まったのだった。


ーーーーーーーーーー


 賀茂と、神城。


 その二人が、“亜空間拡張”ーーいや、陰陽師風に言うならば“神域生成”で広げられた空間の中で、互いに一歩も引かず睨み合っていた。


 その上空。


 透明な霊気の風が渦を巻く大気の中に、二つの影が漂っていた。


「始まりましたね、入庁試験」


 声を発したのは、タブレットを片手に持ち、精緻な眼差しで地上を見下ろす理知的な女性ーー賀茂 詠歌。


「あぁ、そうだな」


 応じる声は低く、乾いた響きだけを残す。


 寡黙を絵に描いたような大柄の男性ーー仙堂 剛一。


 表情には一切の感情がなく、それでもその視線の鋭さが、地上で始まる異変を捉えて離さなかった。


「本当に、彼があの“妖”を倒したのでしょうか?」


「あぁ、そのはずだ。お前も感じただろう、《あれ》が霊気に覚醒した時の“波動”を。彼からは、それと同じ冷気が感じられる」


 霊気覚醒の“波動”。


 それは、ある種の《星の悲鳴》だった。


 霊気ーーそれは魂の力。


 それを使うことは即ち、己そのものの生命を削ること。


 人間とは、言わば星の子供であり、その住民が魂の力を無理やり使用することは、星の痛みであり、嘆きであり、悲鳴そのものであった。


「そのレベルの波動......本当に彼から放出されたのなら、危ないことになりますよ......」


「実際に、あれのせいで各地の“封印”が解けたという報告が上がってきているしな」


 静かな風が流れる中、詠歌の指先が小刻みに震える。


 封印の解放。


 それはただの偶然ではなく、目の前の少年が起こした事象であり、その影響で蠢き出した“何か”が、この星に再び災厄をもたらす前兆でもあった。


「んなっ?! 再封印班を今すぐにでも向かわせーー」


「ーーやめろ」


 仙堂の声が、冷たく詠歌の言葉を断ち切る。


「全ての封印は彼の修行のために使用する」


「......正気、ですか?」


 詠歌の目が、鋭く仙堂を見据える。


 その視線に動じることなく、仙堂は瞼をゆっくり閉じ、一度息を吐いた。


「彼の経歴を調査した。出自はごく普通の学生」


 そこには何の装飾もない言葉が続く。


「ーーされど、これまで物語の主人公のように数多の事件に巻き込まれている」


 その言葉の裏にある意味を、詠歌はすぐに察した。


「......それが、星の意思」


 星は生命であり、意思を持つ。


 星の住民が特異点となり、その命運を翻す存在を選ぶことがある。


 星がその少年を選んだのだ。


「そう、気に病むな」


 仙堂の声が、詠歌の揺らいだ心を押さえつける。


「これはあくまで予想だが、彼は死なない」


 仙堂の瞳が、再び地上を見据える。


「ほら、下を見ろ。この短時間であいつはーー現代最強と相打ちになったぞ」


「んなっ......?!」


 詠歌が慌てて視線を落とす。


 そこには、無残なほどに荒れ果てたコンクリートの大地。


 その中心で、二人の人間が大の字になって倒れていた。


 賀茂 満哉。


 神城 風磨。


 互いの拳がぶつかり合い、霊気が炸裂し、力の奔流が空間を裂きながらも、二人は笑みすら浮かべて倒れていた。


 誰が見ても異常な光景だった。


 だがその異常こそが、これから始まる異能の戦乱の予兆であることを、詠歌も仙堂も理解していた。


 ーーそして。


 この星において、再び物語が動き出したことをーー星そのものが望んでいることを、二人は真に悟ったのだった。


あとがき————————


次回も閑話です

お願いです、改行が多いのは見逃してください

neopageからコピペしてきたんです


星とコメント、いいねやフォローしてくれたらめっちゃ喜びます

こぜひよろしくお願いします


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