Epilogue 陰陽庁
国会議事堂の地下、その最深部。
他の何人たりとも立ち入ることの許されない結界領域、その核を成す『陰陽庁本部』。
そこは神城風磨の陰陽結界が基盤となることで成立し、霊的災害から国家を守る最後の砦であった。
今、その冷たく静謐な石造りの空間に、長官級の陰陽師たち十名ほどが集結していた。
膨大な符札、結界用の黒曜石板、呪的通信機、式盤が並ぶ会議卓の上で、ただひとつ場違いな人間臭さが漂っていた。
「ちょ、さすがにヤバくない? 神城くん全く動いてないじゃん。被害考えて止まってるのはわかるけどさ」
「お、おかしいなぁ……オレ、電話で『封印やばいから注意してね』的なこと言ったはずなんだけどな……」
「でもお前動くなって言ってたじゃん」
「ねぇねぇ〜! そんなことより! 僕、あの学校に凸っていい〜?」
「ダメよ坊や。ここにいる誰よりも強い神城くんが動かない状況で、あなたが行ったところで足手まといどころか霊災の肥やしになるだけよ?」
「そっかぁ〜、残念だなぁ〜」
政府直属の組織、国家最終防衛機関であるはずの陰陽庁とは思えないほどの軽さと緊張感のなさが、会議室を満たしていた。
——しかし、それは彼らが無能だからでは決してない。
この場にいる者たちは皆、特級とはいかずとも、上級執念霊、S級妖を単独討伐してきた歴戦の猛者であり、国家級結界の維持を任される規格外の力を持つ。
だからこそ、「“神の系統”に属する霊核の封印」が解かれたという、今回の状況の取り返しのつかなさを、彼らは痛烈に理解していた。
「俺たちが束になっても、多分あの封印されてた“モノ”には勝てないよなぁ……」
「当たり前じゃない。この時代で、“妖”の群れを単独討伐できる奴なんて、ただひとりしかいないのよ」
「妖1体なら俺らでも祓えるけどなぁ」
「あ、僕! 妖2体なら同時に祓ったことあるよ! 死にかけたけどね!!」
ぽつりとこぼれた自慢半分の言葉が、再び場をざわつかせる。
だがそのざわめきもまた、すぐに彼らの共通認識のもと収束した。
「「「ーーまぁ、神城くんがいるなら、なんとかなるでしょ」」」
短いが重く、どこか信仰に似た響きを持つ言葉だった。
「そういえばさ、神城くんって配信してたよね?」
「あぁ、前初配信が軽くバズってたやつな。確か“unknown”って名前でやってるらしいぞ」
「え、なにその名前ダサ……」
「でも神城くん、自分が“unknown”ってバレるのがめんどくさいんじゃないの? あいつ、大人数に話しかけられるの嫌がるし」
「え?? なんで??」
神城風磨の面白い物好きという本人も自覚していない性質を理解しているが故に、その人混み嫌いを理解できず首を傾げる長官たち。
彼らの多くは承認欲求が強く、国家権力を行使しつつ“推される”ことを密かに喜んでいるような人種だった。
神城のように人混みを避け、配信であっても匿名を貫こうとする姿勢は、理解の外だったのだ。
「んー、理由はよくわかんないけど、要するに“unknown”って自分がバラせば協力者が集まるわけでしょ?」
「鍵はそこだね。クラスメートに“unknown”のお願いとして伝えれば、協力してくれるだろうし」
「まぁ、神城くんが一言発信すれば、界隈のオカルト系YouTuber全員が彼の指示待ちになるだろうしね」
理解できないものは理解できないまま、それでも彼らは神城風磨の意思を最優先にする選択を選ぶ。
「ーーじゃあ、禁忌指定霊術の【記憶封印】、使用許可出す?」
短く、静かな提案。
もしこれが地上の国会議事堂であれば、責任の押し付け合い、保身、政治的取引で即座に潰されるだろう提案だ。
だが、この場の者たちは全員が“現場で命を賭けてきた”人間だった。
全員が神城風磨という存在が国家の秩序維持に不可欠であることを理解し、そして彼自身が望む静かな日常を守るための最善が何かを知っていた。
「ーーいいね、そうしよう」
即決。
“神城風磨が飛び上がって喜ぶであろう案”はその場で可決された。
こうしてまた、国の命運を握る場にしてはあまりにも静かで、雑談のような会議が再び始まるのだった。
神城風磨が望む日常を守るために。
“神の系統”に属する霊核を祓う唯一の希望が、彼であるがゆえに。
ーーーーーーーーーー
……ふと、違和感を覚えた。
どうして、僕は今も思考しているのだろう、と。
“生きている”という表現すら、今の僕には正しくない。
なぜなら、はるか昔に封印されたはずなのだから。
……あぁ、なるほど。
そうか、この時代にも彼の血脈は生きているのか。
いや、違う。
“生きている”だけではなく、“この時代の霊脈の中心”に座しているのか。
理解した。
いや、理解“させられた”のかもしれない。
どうして僕が今、自由にこの大気を撫で、
どうして僕の力の一端が、大地を震わせ、
どうして僕の存在の輪郭が、世界の輪郭に溶け始めているのか。
……そうか。
ーー彼を殺すために。
あの日、僕を封印したあの男の血脈を、この手で殺すために。
あの日、僕から全てを奪い、僕の生涯を理不尽な“封印”で終わらせたあの男の血が、この時代にも脈打っている。
僕は何もしていなかった。
むしろ人のために動いていたというのに。
疫病を祓い、国を護り、妖を退け、
怨霊の声を聞き入れ、その魂に救済を与えてきたというのに。
だというのに、僕は封印された。
権力の恐怖と嫉妬と怯えによって。
……ん?
……あぁ、そうか。
僕は見られている。
この時代の誰かが。
あの血脈を継ぐ少年が。
あるいは……この世界そのものが。
ーー君たち、聞こえているのだろう?
僕はね、かつて高名な陰陽師だったんだ。
その名を知らぬ者はなく、
貴族も皇族も、僕の前にひれ伏した。
権力を得た。
武力を得た。
式神という名の“仲間”を得た。
全てに恵まれた。
恵まれすぎた。
だからこそ、嫉妬されたんだ。
皇帝と酒を酌み交わし、
その権威の傍らで、笑って生きた。
金には困らず、将来も約束されていた。
“安泰”という言葉そのものの人生だった。
そんな僕だからこそ、封印された。
“平穏な日々”を求めていたというのに、
“世界を護る力”を行使していたというのに、
“人々の救い”になっていたというのに。
それでも僕は封印された。
……理不尽だろう?
だから僕は思うんだ。
僕は、悪くないと。
僕は、復讐する権利があると。
でもね。
僕だけの判断じゃ、僕の望みが混じってしまう。
僕はただ、復讐のためだけに動きたくはない。
だから君たちに僕の過去を見てもらおうと思う。
体験してもらおうと思う。
その上で決めてほしい。
僕が何をすべきなのか。
この力を、何のために振るうべきなのか。
何のためにこの世界に再び目覚めたのかを。
君たちが教えてくれ。
ーー僕の名前は安倍晴明。
かつて、この国の“守神”と呼ばれた陰陽師。
今はただの、“魔”に落ちた妖。
あるいはこの時代が定める言葉で言うならば、神格所持霊。
それが、今の僕だ。
ーーーーーーーーーー
200 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:20:20.12 ID:VnbWQrEr0
え、待ってループしなくね?
201 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:20:42.77 ID:cZ5TaNMo0
5分経ったぞおい
いつもならここで巻き戻るのに
202 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:20:59.66 ID:XruyETrQ0
まさかこれ詰んだ?
203 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:21:11.03 ID:4s3hsRAd0
蘆屋死んでから止まったままだぞ
ループ芸どうしたよ
204 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:21:33.67 ID:dQgFezFd0
俺らも時間止められたんじゃねこれ
205 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:21:54.08 ID:Zd4CqQaD0
>>204
やめろこわい
206 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:22:07.21 ID:UdHc1SdP0
【悲報】今回のループ、起きない
207 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:22:35.88 ID:Lm8NxZjo0
てか今配信の画面なんか文字浮いてね?
208 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:22:52.40 ID:UkbBrlZJ0
あれ字幕じゃないよな
脳内に直接響いてきてるんだけど
209 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:23:11.45 ID:qYrJIoEu0
「なんで僕が生きてるのか」って声聞こえた
怖い怖い怖い
210 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:23:34.87 ID:aUyGR0Pb0
あれ今文字追えなくなった
心臓痛い
211 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:23:55.46 ID:Uff3ZTkX0
誰だよお前
頭の中に直接話しかけてくるな
212 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:24:13.09 ID:3XpgHzog0
「僕はね、かつて陰陽師だったんだ」
って聞こえた
213 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:24:30.91 ID:tPULjssF0
え???
陰陽師???
214 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:24:52.87 ID:6wM7dIDe0
「僕が悪くないと思うんだ」
って言ってる
誰?????
215 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:25:10.37 ID:HnBmRr3G0
なんで配信見てるだけなのに思考読まされてるんだよ
216 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:25:26.17 ID:Nso47qYx0
俺今泣いてるんだけど
これ何???
217 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:25:47.20 ID:XruyETrQ0
あれって「安倍晴明」って名乗らなかった???
気のせい?????
218 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:26:08.19 ID:dQgFezFd0
え??????????
219 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:26:24.10 ID:cZ5TaNMo0
え???????????????????????????
220 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:26:41.52 ID:VnbWQrEr0
安倍晴明ってあの??????
陰陽師の?????????????
221 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:26:59.00 ID:qYrJIoEu0
ヤバいだろマジで
なんで生配信で歴史上の人物が脳内直送してくんの???
222 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:27:16.23 ID:UkbBrlZJ0
普通に吐きそう
なんかずっと「教えてくれ」って声してる
223 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:27:34.70 ID:Lm8NxZjo0
霊格だとか神格だとか言ってたよな
え???????????????????
224 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:27:50.21 ID:Uff3ZTkX0
こわいこわいこわい
誰か助けてマジで
225 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:28:07.82 ID:3XpgHzog0
ループしない理由これか???
この霊核だか封印されてた奴が起きたから???
226 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:28:22.15 ID:tPULjssF0
何か赤い霧濃くなってない???
画面見てたら頭痛くなる
227 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:28:42.88 ID:HnBmRr3G0
お前らまだ学校行ってない奴逃げろ
これ多分今日ヤバいやつだぞ
228 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:29:00.45 ID:Zd4CqQaD0
あ、俺今日休むわ
これガチでやばいやつじゃん
229 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:29:18.20 ID:6wM7dIDe0
てかunknown動けよお前しか止められないだろこれ
230 :名無しの視聴者@視聴者 :2025/06/26(木) 08:29:34.85 ID:Nso47qYx0
もう無理これ
頭の中で安倍晴明がずっと喋ってる
助けて
ーーーーーーーーーー
【陰陽庁 第二分室・緊急情報共有ログ】
送信者:第三対霊課・課長代理(仙堂)
受信者:全局主要執行官/霊災監視班所属員
件名:緊急案件「安倍晴明覚醒映像」即時対処・情報拡散厳禁
優先度:最優先【黒】
◆本文:
関係各位
先ほどYouTube上で配信された「unknown」の映像内において、
以下の緊急事態が確認されました。
【確認事項】
・地下封印区域(旧校舎地下)における霊核反応の発現
・被写体は“人型”でありながら周囲空間の霊脈吸収・瘴気噴出
・【音声・思念波通信】による“無差別思考接触”発生
・当該個体が【安倍晴明】を名乗ったことを確認
本事象は、過去の解析文書に記録された
「特定神格霊の覚醒現象」及び
「霊災レベル外・封印解除」に該当するものと暫定判断する。
【詳細分析(速報)】
・霊脈汚染濃度が通常の霊災基準を超過(測定不可)
・区域内の時間干渉疑い(“巻き戻し”停止の報告多数)
・“視聴者の脳内直接思念接触”が約13%の観測者に発生中
・当庁内観測機器にも“名乗り”及び“問いかけ”が受信記録される
【被写体(安倍晴明)言動要旨】
・自身は“高名な陰陽師”であったと主張
・封印理由を“理不尽な権力による嫉妬”と表現
・現代に存在する何らかの血脈を認知
・【殺意・敵意未確定】ながら“復讐の権利”を示唆
・自らの行動指針を“視聴者に決めさせる”旨発言
以上の言動及び状況より、
本件は**“神格クラスの霊存在の完全覚醒”**、
および**“大規模霊災誘発の前兆”**である可能性が極めて高い。
◆対応指示:
1)【情報統制班】当該配信のDL・ミラー・切り抜き投稿の全域監視強化。
2)【霊災監視班】当該地点付近の霊脈変動・霊的磁場変調の常時監視。
3)【第三対霊課特務班】神城風磨の即時保護を準備(現段階では接触不可能)。
4)【対話可能性検証班】安倍晴明との思念波通信可能性を継続解析。
5)【庁内全職員】本件に関する口外・SNS・私的チャット投稿厳禁。
6)【精神防護対策】該当映像・音声視聴時の術式防御推奨(黄符以上使用)。
◆補足:
当該被写体が【安倍晴明】である場合、
“歴史上の霊存在”としての権威と力を併せ持ち、
かつ本人が自我と意図を保持した状態で顕現したものと判断される。
本件は陰陽庁創設以来初の【霊災管理不可能案件】となる可能性があるため、
各自最優先で業務対応を徹底しつつ、
冷静な対応と正確な報告を心がけること。
特に職員各位の恐怖心・混乱・焦燥感が瘴気への侵入口となる可能性が高いため、
常時精神安定の維持及び記録共有を怠らぬこと。
以上、緊急連絡とする。
第三対霊課
仙堂 剛一(印)
あとがき————————
第1章、終了です
どうも、テスト結果に絶望してますtanahiroです
終わったとしか言いようがない
えー、新作書いてるんで新章に行くのは多分先になると思います
全ては評価次第!
ではまた!!
星とコメント、いいねやフォローしてくれたらめっちゃ喜びます
こぜひよろしくお願いします