6.賑わうダンジョン
「私たちも進みましょう」
ダンジョン五階層に戻ってきた俺たち。
案内役を務めてくれるサクラと共に、ヤギの魔物が占領していたホールへと踏み込む。
「っ!?」
途端、鳴り響く爆発音。
あがった大きな炎と砂煙が落ち着くと、ホールの壁に穴が開いていた。
「あったぞ! やっぱりこのホールに道が隠されてたんだ!」
「進め進めーっ!」
「待っていた」とばかりに、たくさんの探索者たちがなだれ込んでいく。
「五階層は岩場が続く、割とシンプルな構成なんです。ヤギの魔物があまりに強力だったため、他のフロアを先に調べ尽くしたのですが道はなし。このホールに新ルートが隠されているというのが、既定路線でした」
「なるほどなぁ」
五階層の攻略は、ここから後半戦になるらしい。
『宝』とやらが登場する可能性が高まってくるとなれば、競争の雰囲気も強くなる。
まして攻略者たちにとっては二年ぶりの進展みたいだし、勢いづくのも当然か。
「それでは、進みましょう」
探索者たちの流れに沿って、俺たちも大穴を抜けていく。
するとそこには、幾本にも分かれた道が続いていた。
「行くぞ! 俺たちはこっちの道を進む!」
「A班は右へ! B班は左ルートから行くんだ!」
駆け足で分かれていく、探索者たち。
「私たちは、五階層の様子をうかがう程度にしておきましょう。まずは宗一郎さんに、ダンジョン攻略や戦闘の感覚に慣れてもらうことが優先です」
「了解」
「意外とこういう時に、発見や出会いがあったりするんですよ」
そう言って、笑顔を見せるサクラ。
まずは俺が、ダンジョンの雰囲気や戦闘に慣れることから。
そう決めて、あまり人気のない中央の道へと進む。
「急げ急げええええ――っ!」
するとすぐに後ろから、一つのパーティが追い駆けてきた。
「お先に失礼っ!」
五人組の一団は、我先にと俺たちを追い抜いていって――。
「「「うわああああああああ――――っ!?」」」
「っ!?」
突然起こった爆発に転がった。
「ええっ? 何が起こったの?」
死傷者こそいないものの、前後不覚で起き上がれずにいる五人パーティ。
あまりに急な事態に、思わずサクラに問いかける。
「どうやら魔法石脈を踏んでしまったようですね。移動速度を上昇させる魔法などを使い、身体に流れる魔力を高めた状態で魔法石の鉱脈に触れると、反応して爆発することがあるんです。天然の罠のようなものですね」
「マジか……」
どうやらダンジョンに潜む恐怖は、魔物だけじゃないようだ。
その恐ろしさに震えながら、俺は歩を進める。
「出たぞ! 鉱脈だ!」
すると今度は、前方から騒がしい声が聞こえてきた。
進んで行くとそこは、隣の道と交わる小型のホールのようになっていた。
そして岩壁には、幾筋もの金属鉱脈が見て取れる。
「このフロアに先に来たのは、俺たちだぞ!」
「ふざけんな! 鉱脈自体を見つけたのはこっちが先だろ!」
そして二つのパーティが、鉱脈の前で言い争いを始めた。
「ダンジョン産の鉱石は傷が勝手に修復したり、形状記憶能力があったりするので、採って売ればお金になるんです」
「なるほどなぁ」
ダンジョンで発見された新素材は、加工して武器や防具なんかにもできるわけだ。
これでひと稼ぎしてる探索者たちもいるんだな。
にらみ合う、二組のパーティ。
その手はすでに、武器へと伸びている。
「下がった方が良さそうです! 皆さんも一度その場を離れてください!」
突然サクラがそう言って、退避を促した。
「ああ!? 何だお前っ!!」
それに対して、俺たちを第三のライバルと勘違いしたのだろう男が、威嚇の声をあげた次の瞬間。
「お、おいこれって……! うおおおおおお――――っ!?」
「「「わああああああああああ――――っ!!」」」
鉱脈付近の地面に走り出した、深いひび割れ。
突然崩れ出した足場は、言い争っていた探索者たちを巻き込み崩落した。
地面に、ぽっかりと空いた穴。
のぞき込んでみると、数メートルほど下で探索者たちが座り込んでいた。
「このくらいの崩落は稀にあります。最悪の場合はもっと深く、その下で魔物が待ち構えている場合もありますね」
「そうなのか……」
「ケガもなさそうですし、私たちは先に進みましょう」
「な、なあ、あれは?」
見ればそんな男たちを冷静に見下ろしながら、何やらメモを取る二人組の姿。
「あれはマッピング部隊ですね。ダンジョン新領域のどこに何があるかを記したマップは、今後の探索に役立ちます。階層によって棲む魔物や採取できる鉱石、植生が違うので、その確認にマップはとても有益な情報になるんですよ」
「なるほどなぁ」
俺はサクラに先導される形で、再び道を歩き出す。
どうやらダンジョンの攻略は、かなり体系化されているようだ。
「ただ。ダンジョンによって生み出される『宝』は、これまで各階層に一つずつでした。そして今のところ、一度取った宝が再生した例はありません。だからこうして誰もが探索に躍起になっているんです」
「そうなのか……」
「急げ! モタモタするな!」
そんな話をしていると、またも騒がしい声が聞こえてきた。
「早くしないと、またダークロードのヤツに宝を奪われるぞ!」
「今度こそ、今度こそ俺たちが宝を手にするんだ! あの黒づくめ野郎に、これ以上取られてたまるか!」
怒気を含んだ掛け声をあげながら、男たちは岩壁の道を突き進む。
……そりゃ怒るよなぁ。
希少な宝を、第一層から四層まで。
要はこれまでの全ての階層で、ダークロードが独占してきたってんだから。
おそらくヤギの魔物と戦った時のように、大げさな物言いと共に大々的に登場。
たった一つの宝を入手して、挑発の一つもしてみせたんだろう……黒づくめの衣装を翻しながら。
俺ってそんなマネを、三十歳を過ぎてもやってたのか……?
過去の自分の痛い中二病ぶりを想像すると、思わず身体が震える。
「どうですか? 何か思い出しましたか?」
「いや、全部が新鮮に見えてるよ。でもダンジョンがどういうものなのかは、ちょっとだけ見えてきたかも」
「それは良かったです。記憶は慌てずゆっくり、取り戻していきましょうね」
俺を気遣ってくれてるんだろう。
「そのためのお手伝いなら、喜んでさせていただきますっ」
サクラはそう言って爽やかな笑顔を見せると、続く道を楽しそうに進んで行く。
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