41.第六層の解禁と少女
「来た来た来た! 第六層への道が開かれたぞ――っ!」
「二年ぶりの新階層、新しい鉱石や素材なんかも見つかるか!?」
「行くぞ! これ以上ダークロードなんかに、好き勝手させてたまるか!」
「「「うおおおおおおおお――――っ!!」」」
第五層の争奪戦終了と、第六層へ続く道の発見。
その事実が周知されると、再び特区は大きな盛り上がりを迎えた。
ダンジョンの出入り口前は賑わい、ギルド勢や個人探索者たちが、新たな宝を求めて新階層へと詰めかけていく。
「それでは、お気をつけて」
そんな中、俺はサクラと共に少女を見送りに来ていた。
黒づくめ装備のまま。
ダンジョンの外は、神殿のような作りの外縁が長く長く続いている。
その背後の方に回れば、人はもうほとんどいない。
片隅でナイトメアガーデンとの密会が行われていても、気づける者などいないだろう。
「ありがとうございました」
少女は深く頭を下げて、穏やかな声でそう言った。
「二人には、たくさん助けてもらっちゃった」
少女を憔悴させていた手術代の問題は、骸骨魔導士が身に着けていた黒の毛皮が解決した。
マーガレットやリコリスが目立つ大きさの物を回収してくれていたんだけど、あの毛皮は炎や氷結に非常に強く、装備品の素材として高い値が付いた。
でも、それだけじゃない。
宝の効果で力を大きく伸ばした少女には、素材や魔法石の回収など容易だ。
あの激しい雷撃を受けても無傷だったわけだから、もうダンジョンは稼ぎ場以外の何でもない。
今後はいくらでも両親を助けられるし、妹たちに我慢させることもなくなる。
何より、少女本人が窮状に耐え続ける必要もなくなるだろう。
「五階層後半への道が開いた日に一緒になってからずっと、助けてもらってばっかりだね」
「「っ!」」
意外な指摘に、思わず感嘆してしまう。
俺たちの正体に、気づいてたのか。
「一緒に戦ったからね、すぐに分かったよ!」
俺たちがわずかに戸惑いを見せていると、少女はそう言って満面の笑みを見せた。
ダークロード復帰初日に出会って、同行した時間はわずかだったはず。
鶏頭でも、なかなか勘が鋭いみたいだ。
「思わぬ慧眼ですね」
「ケイガン……?」
「物事の真贋を見抜く目を、持っているということです」
「……シンガン?」
「本質に気づくことができるという意味です」
「そうかな? えへへ」
相変わらず、語彙力は弱めな少女。
サクラに褒められたと知り、ちょっと恥ずかしそうにする。
「ですが、私たちの正体についてはくれぐれも秘密でお願いします」
「了解ですっ」
そんな注意に、今度は敬礼しながら真面目な顔で応える。
素直な姿は、とても可愛らしい。
「お母さんの手術が終わったら、またすぐ会いにくるね!」
「良い報告を、待っています」
「元気でな」
俺たちがそう言って見送ると、少女はもう一度深く頭を下げた。そして。
「本当に……本当に……っ」
声がわずかに『揺れる』のは、嗚咽をこらえているからだろう。
少女は、感情を抑えるように大きく息を吸うと――。
「ありがとうございましたっ!」
そう言って顔を上げ、満面の笑みを見せた。
それからダンジョン特区の出口を目指して、走り出す。
まずは何より大事な、家族のもとへ。
「良かったですね」
汚れた上着に、ボロボロの靴。
それでも元気な少女の後ろ姿を見て、サクラがうれしそうな笑みを見せる。
わずかに瞳を潤ませているその横顔は、本当に幸せそうだ。
サクラは出会った日からずっと、「報われてほしい」って言ったもんな。
そんなことを考えていると、不意に少女が俺たちの方に振り返って、大きく手を振った。
走りながら手をブンブンさせる姿に、俺たちは自然と笑い合い、手を振り返すが――。
「あっ、前! 前を見てください!」
「えっ?」
少女の前方を指差し、注意喚起するサクラ。
しかし間に合わず、少女の足が地面から出ていた大きな石に引っかかる。
「わああああああ――――っ!?」
そして、ド派手に転倒。
砂煙を上げる勢いで、ゴロゴロと転がった。
「……だ、大丈夫か?」
「大丈夫ですっ」
俺たちに見守られながら恥ずかしそうに起き上がると、「えへへ」とごまかすように笑う。
そしてまた、気を取り直すように走り出して――。
「「だから前を見て――っ!!」」
今度は足元にあった段差につまづいて、再び転倒。
どうやら宝による覚醒をもってしても、その鶏頭ぶりは変わらないらしい。
俺とサクラは笑いながら、それでもめげずに駆けていく少女を見送ったのだった。
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