表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/42

40.五階層の終焉

「――――見事だ」


 最後の一撃を決めた少女に、贈る言葉。

 奥義を破られた骸骨魔導士は、大量の破片を飛ばして爆散し、崩れ去った。


「敵の攻撃をものともしない耐久力、そして前衛をかわして回り込む『曲がる』魔法……」


 そこにやってきたのは、黒づくめのサクラだった。


「これまでの戦いの常識を覆すような連携でした。さすがですね」


 さらにリリィやマーガレット、リコリスたちも続く。


「ダークロード様でしたら、これくらいは当然のことです」

「二人の連携、カッコ良かったよ」

「すごかった……」


 主を失った最奥の空間に、集うナイトメアガーデン。

 すると後を追うように、騒がしい足音が聞こえてきた。


「隠れて」

「えっ?」


 穏やかな声で、少女の手を引くマーガレット。

 何をするのかと思えば、俺のコートの背中側に少女を押し込んで隠した。

 直後。今駆けつけて来たのであろう新たなギルド勢と、フラフラの教団騎士たちがこの場に踏み込んできた。


「魔力の輝きが……消えていく」


 ギルド勢の言葉に、視線を上げる。

 見ればこの空間を駆けていた魔力の輝きが、灯のように弱くなっていた光を消していく。

 こうして魔力石脈は、完全に沈黙。

 五階層の宝は、その姿を消した。


「御覧の通り、五階層の宝も我々ナイトメアガーデンが頂きました」


 サクラがあらためて、勝利宣言をしてみせる。


「ナイトメアガーデン……ッ!」

「また、またお前らかっ!」

「これで五回連続だぞ! どこまで強欲なんだ、ダークロードッ!!」


 居並ぶ俺たちを見て殺気立つギルド勢は、次々に怒りの声をぶつけてくる。


「すでにいくつもの宝を手にしているというのに、飽きもせず……一体貴様の狙いは何なんだ! ダークロード!」


 目前で宝を奪われたギルド勢に、ぶつけられた問い。

 俺は声のトーンを下げ、静かに応える。


「それは――――いずれ分かる」


 ……分かるといいなぁ。

 これがただの中二病おじさんのお遊びで、狙いが「気持ち良くなりたい」とかだったら本当にどうしよう。

 考えるだけで、冷や汗が止まらないんだけど……!


「ふざけるなよ……っ!!」


 すると集まったギルド勢の背後から、サクラたちに倒されたのであろう面々が足音も荒く踏み込んできた。

 そのまま探索者たちの先頭に立つと、怒りに燃える目で俺を見る。


「ダークロード。せめて、せめてお前だけは……っ」


 そしてその手に剣を握ると、我慢できないとばかりに走り出す。


「ここで片付けてやるぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」


 荒々しい走りで、駆け込んでくるギルド勢の男。

 すると遅れてこの場にやってきた者たちの一部も、それに乗せられるような形で武器を手に走り始めた。

 おいおい、マジかよ。


「「「ウオオオオオオオオ――――ッ!!」」」


 あがる雄叫びと、向けられる武器。

 一斉に駆け出した者たちを前に、俺の手が自然と真っすぐ伸びる。

 放つのは、シンプルな魔力光弾。

 そして誰もが、俺の攻撃に視線を上げたその瞬間。

 パチンと指を鳴らす。

 すると魔力弾が弾けて、視界を焼くほどに強烈な閃光が広がった。


「「「ッ!?」」」


 一時的に視力を失ったギルド勢は、身動きが取れない状況に陥る。


「み、見えない! ダークロードはどこだっ!?」

「行きましょう」


 俺の意図に気づいていたのか、ナイトメアガーデンは全員無事だ。

 そしてサクラの言う通り、この隙を突かない理由はない。

 俺たちは階層主が張っていた、六階層へ続くのであろう小道へと駆け込んでいく。


「ダークロード様、最後に一言お願いします」


 するとサクラが、突然そんなことを言い出した。


「一言? どういうこと?」

「ダークロード様はこのような去り際に必ず、探索者たちに勝利宣言のような言葉を残していました」

「そうなの?」


 うなずくナイトメアガーデンの面々。

 サクラに促されるまま、俺は考える。

 それから足を止めて振り返ると、前後不覚のギルド勢たちに向けて言い放つ。


「さらばだ諸君。次の宝もこのダークロードが頂く。それまで精々励むがいい。この私を楽しませるためにな。フフ、ハハハ、フハハハハハハハ――――ッ!!」

「くっ! ダークロードォォォォ――ッ!!」

「次こそ必ず、このダンジョンをお前の墓にしてやるッ!!」


 俺は盛大な笑い声を残して、六階層への道を再び駆ける。

 もちろん、宝の入手者である少女も連れたまま。

 一度六階層に進んでしまえば、あとは続いていくる者たちにしれっと紛れて帰還するだけでいいだろう。


「……俺、やりすぎじゃなかった? めちゃくちゃ怒ってたんだけど」


 ていうかさっきの高笑い、なんか急に恥ずかしくなってきた……!

 少し冷静になって考えると、明らかに三十過ぎの人間がやっていい言動じゃない。

 岩肌の続く道を駆けながら、サクラたちに問いかける。しかし。


「いいえ。この感じ、やっぱりダークロード様は変わっていません……!」

「はい、とても素敵でしたわ」

「やっぱりダークロード様は、こうじゃないとね」

「これでこそ」

「マジかよ……」


 俺、いい年して本当にこんなことやってたの?

 そんなの、めちゃくちゃ痛いヤツじゃん!

 恥ずかしい過去を思い出して震えるあの感覚に、思わず顔をブンブン振って抵抗する。


「問題ありません。挑発的な言動には意味があると、ダークロードは確かにそう言ってましたから」

「本当にぃ? それならいいけど……」


 こうして俺たちナイトメアガーデンは、五階層を突破した。

 そしてかつてのダークロードが残した、三つの決まり。

『不殺』で『進み』、『正しき者に与えよ』を、見事にかなえてみせたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。


【ブックマーク】・【★★★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ