4.再会のガーデン~増える許嫁~
五階層の魔物を打ち倒した俺は、『過去の俺』を知る子たちと三階層の一角へ。
小さな町になっているこの場所には探索者用の宿があり、彼女たちが一室を借りていたようだ。
俺たちはここで、二年ぶりらしい再会を果たしていた。
「ダークロード様は、記憶喪失になられています」
「記憶喪失……!?」
サクラがそう言うと、俺の腕を引いてきた三人目の女子が、心配そうな顔をする。
「この二年は特区の外で過ごしてきたんだけど、それ以前のことは何も覚えてないんだ」
「それでしたらここで、もう一度自己紹介を行うというのはいかがでしょうか」
「ああ、それは助かるよ」
サクラの提案に、残る二人もうなずいた。
「私はサクラです。第一層でダークロード様にお会いして、それからナイトメアガーデンの一員として共に戦ってまいりました」
正統派という言葉が似合うサクラは、黒い髪を揺らしてほほ笑んだ。
「……そして、許嫁なんだよね」
「は、はい」
たずねると、なぜかちょっと申し訳なさそうにうなずく。
すると今度は、長い金髪の子が一歩前に出た。
「わたくしはリリィと申します。第二層でダークロード様と運命的な出会いを果たし、ガーデンの一員となりました。もちろんわたくしも許嫁ですわ」
青い目が魅力的な彼女は、挙動がすごく優雅だ。
「……そういうことかぁ」
そんな中、首を傾げていた三人目の女子が、「理解した」とばかりつぶやいた。
「次は私だね。マーガレットです。ダークロード様と出会ったのは三階層で、それからガーデンに入りました」
「なるほど」
編み込みを入れた肩までの白銀髪と、どこか少年のような中性的な雰囲気を持っている彼女は、爽やかな笑みを浮かべる。
「それと。実は私も……許嫁ですっ」
「ええええええええええ――――っ!?」
明かされたまさかの事実に、思わず上げてしまう驚きの声。
「え、ちょっと待って!? この二人だけじゃないの!?」
「えへへ」
俺の腕を取り、なぜか楽し気なマーガレット。
「あっ」
何かに気づいて、駆け出して行く。
するとそこには、俺たちの様子をうかがう長い白髪の少女がいた。
マーガレットは、そんな少女の背中を押してきた。
「ほらほら、ダークロード様だよ」
「でも、記憶喪失って……」
「だからもう一度、挨拶しておかないと」
自信がなさそうにしている少女は、その宝石みたいな緑色の目で、チラッと俺を見て慌てて視線を逸らす。
しかしマーガレットは、少女の両肩をつかんで離さない。
「ほら、恥ずかしがらずに」
「別に恥ずかしがってるわけじゃ……」
応援するように言うマーガレット。
するとふわふわの白髪少女は観念したのか、頭を下げた。
「リコリスです。第四層からお世話になってます……」
……まさか。
まさかとは思うけど、この子もじゃないよな……?
俺は恐怖に内心震えながら、問いかける。
「もしかして君も……その、許嫁だったりする?」
「っ!」
リコリスは驚いたように一度、身体を震わせた。
違うよな? さすがにそんなわけないよな?
そうだよ! こんな純真そうな子まで、まとめて許嫁にするようなことはしないはずだ!
俺は確信しながら、反応を待つ。
するとリコリスは視線をそらし、しばらく悩むようにした後、マーガレットに押されて、すごく小さく――――うなずいた。
「ああああああああああ――――っ!!」
三股どころじゃなくて、四股なのかよ!?
なんなの!? ねえ、なんなのこれ!?
三十過ぎの男がコスプレしてダークロードを名乗ってたってだけでも、顔から火が出るほど恥ずかしいのに、年頃の女の子たちだけを集めて許嫁にしてるってヤバすぎだろ!!
しかもだ。
それをコソコソ影でやるんじゃなく公開でやって、女の子たちがそろって許嫁ですって受け入れてるのが何よりヤバい!
こんなの、こんなのもう洗脳だろ!
過去の俺は、悪魔のごとき中二病カルトおじさんだった可能性がある!!
自分がそんな恐ろしい人間かもしれないと思うと、身体が震えるんだけど……!
俺はあまりの衝撃にヒザを突き、頭を抱えた。
「ダークロード様! 大丈夫ですか?」
するとすぐさま、サクラが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫。ちょっと過去の自分が恐ろしくなっただけだから。それより、その『ダークロード様』扱いをやめてもらったりできないかな? ちょっと怖いからさ、色々と」
俺がそう言うと、サクラは少し考えるようにした後。
「そういうことでしたら、普段はもう少し砕けた感じでお話しさせていただくというのは、いかがでしょうか」
「……それで頼む」
そう言うと四人は、顔を見合わせうなずき合う。
「俺、いやダークロードについて、もう少し聞かせてもらってもいいかな? そもそも何者なのか、知っている人はいる?」
俺が問うと、四人は首を振った。
「どこのどなたかまでは、存じませんわ」
「よく言っていたのは、とにかくダンジョンを『進め』、ライバルでも『殺すな』、宝は『正しき者に与えよ』だね」
「とても探索者に対して挑発的でした。やはり私欲のための攻略というのは、気に入らなかったのではないでしょうか」
やっぱり、ダンジョンに対してどういう姿勢でいたのかという情報しかないみたいだ。
「……これは、私の勘なのですが」
そんな中、ぽつりとつぶやいたのはサクラ。
「特区内に、お部屋を持っているような気がします」
「部屋?」
「特区外に帰っていく姿を見たことがないんです。場所までは分かりませんが、部屋を見つけることができればダークロード様の過去や真の狙いなど、分かる何かがあるかもしれません」
「マジか!」
突然見えた希望。
『以前の俺』が残した何かが出てくれば、それは記憶を取り戻すための大きなヒントになるはずだ。
「よし! 当面の目標は、以前の俺が使っていた『部屋』の発見だな!」
「ダンジョンの攻略については、どうされますか?」
リリィの問いは、過去の記憶がない状態でのダンジョン進攻について。
「もちろんわたくしは、ダークロード様のご意向に尽力させていただきます」
「それなら……これまで通り『進め』でいきたいんだけど、いいかな?」
「異論はございません」
リリィの言葉に、皆うなずく。
これで今後の流れは、大体決まったか。
「ダンジョンを進むことや、ライバルとの競争の中で、思い出すこともあるかもしれませんわね」
「そうなるといいんだけど」
俺は一体何者で、『願いがかなう』と言われるダンジョンでどんな『大願』を成そうとしていたのか。
ダークロードとして進んだ先には、きっと失われた記憶がある。
それなら、やるしかないよな。
自分が何者なのか、俺はどうしても知りたいんだ!
……頼むから、この年でダークロードを名乗って女の子たちを洗脳してる、カルトおじさんっていうオチだけはやめてくれ! マジで!
俺はそんな最悪のシナリオにならないことを、とにかく強く祈る。
「一ついいですか、ダークロード様」
「なに?」
「もっと砕けた感じにするのなら、呼び方も変えた方が良いかもしれません」
「なるほど。今は遠城宗一郎を名乗ってるから、好きに呼んでくれていいよ」
「そうですか。で、では……宗一郎さんで」
サクラはなぜか、うれしそうな恥ずかしそうな表情。
「わたくしは、宗一郎さまとお呼びします」
リリィは頬を抑えながら、照れた感じで。
「宗くんだねっ」
「「っ!」」
そして人懐っこい笑顔で言うマーガレットに、二人そろって「やられた」と目を見開く。
「……わ、私は、その時の雰囲気で」
最後にリコリスが、困った感じでつぶやいた。
ダークロードの謎と、四人の組織メンバー。
こうして俺の、ダンジョン生活が始まった。
初日・第1章はここまでになります! お付き合いありがとうございました!
初めてのハーレム系になるので、心配に震えております……っ!
明日からは毎日1話更新。もし少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。
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