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39.ダークロードと覚醒の少女

 五階層の宝を得たことで流れ込んだ、大きな魔力。

 今もまだ、少女は緩やかな風を起こし続けている。


「どんな苦境にも負けない、お前のその強さに……頼らせてもらってもいいかな?」

「もちろんですっ!」


 元気よく応える少女。

 向かい合うのは、激しい雷撃を放つ五階層最奥の主。


「では、いこうか」

「うんっ!」


 うなずき合うと、少女は力強い踏み込みで走り出した。

 骸骨魔導士は、伸ばした指を少女に向ける。


「「来る……っ!」」


 輝きの直後、駆け抜ける稲光。

 その驚異的な速度を前に、しかし少女は回避の動きを見せようともしない。

 そのまま真っ直ぐに駆け、雷光が直撃。

 しかしダメージを受けるどころか、足を止めることすらない。

 走り続ける少女に、骸骨魔導士は稲妻を連発して攻撃。

 だが放たれる雷光は全て、虚しく弾かれ霧散する。


「やああああ――っ!」


 手にした借り物の剣を両手で掲げて跳躍すると、そのまま骸骨魔導士に斬りかかる。

 刃の中心部分に据えられた魔法石が輝き、巻き起こす爆発。

 くらった骸骨魔導士は、吹き飛ばされて大きく後退した。


「まだまだっ!」


 少女は追撃に向かう。

 対して骸骨魔導士は、自らの手前に幾筋もの雷を落とすことでけん制する。

 しかし荒れ狂う雷光の中を、少女は躊躇もなく駆け抜ける。

 雷は間違いなく直撃しているが、そんなことはお構いなしだ。

 敵の懐に踏み込んだ少女が剣の振り上げを叩き込むと、そのまま振り降ろしへとつなぎ、最後は大きな払いから巻き起こす爆発。

 骸骨魔導士が弾き飛ばされ、片膝をついた。

 少女はさらに追撃に駆け、再びの跳躍から刃を振り下ろす。

 借り物の剣が、骸骨魔導の肩に深くめり込んだ。


「っ!?」


 爆発が起こった瞬間に、その姿が消え去った。

 どうやら致命に至る危機を前に、慌てて瞬間移動で距離を取ったようだ。

 それでも、少女は止まらない。

 すぐさま移動先へと駆け、振り上げる剣。

 これに対して骸骨魔導士は、再度の瞬間移動で逃避を強行する。

 戦いはもはや、一方的だ。

 迫る少女の振り払いに対し、連続の瞬間移動で距離を取る骸骨魔導士。


「っ!」


 なんと、回避と同時に少女の側方へ出現。

 その手に魔力を宿し、まさかの反撃を豪快に振り払う。


「わっと!」


 しかし追い込まれていたためか、骸骨魔導士は一撃で戦況を逆転させようと、大きな予備動作からの攻撃を放った。

 大振りの攻撃は、それだけ分かりやすい。

 少女は驚きこそしたが、これを難なくしゃがんでかわし、すぐさま反撃体勢に入る。

 大きな踏み込みから放つ、振り払い。

 骸骨魔導士は刃が腕にめり込んだ瞬間、再びの連続移動で逃げを計る。

 もちろん少女は、次の移動先に向けてすぐさま疾走を開始。

 すると追い込まれた骸骨魔導士は、今度は左手をクイッと持ち上げた。


「っ!?」


 直後、足元から突き上がる岩塊。

 突然の事態に、少女は慌てて足を止める。

 するとその直後、岩壁が弾け飛んだ。


「わあっ!?」


 虚を突かれた少女が、弾かれ転がる。


「雷撃が効かないと知って、戦い方を変えてきたか」


 少女の恐ろしい耐久性に対して、敵はこれまでの戦い方を捨てたようだ。

 確かに岩壁なら、物理的に少女を突き放すことができる。


「ならばここからは……共闘といこう」


 静かに伸ばす右腕。

 先ほどの『時間稼ぎ』で、すでに炎や氷による攻撃がダメージにならないことは知っている。

 さらに骸骨魔導士は、できる限り自身と俺との間に、少女を挟む形で戦いを展開している。

 それは基本的に魔法が、直線で飛んでぶつかるという特性を考慮してのものだ。

 下手な援護攻撃は、少女に当たってしまう。


「……だが。その程度でダークロードを止めることできない。【エーテルスピア】!」


 放つのは、八本の白い魔力槍。

 突き進む光線のごとき一撃は、少女の右側から回り込むような『弧』を描いて接近する。

 まさかの攻撃に、慌てて瞬間移動による回避を敢行する骸骨魔導士。


「【エーテルスピア】!」


 今度は、少女の左側から回り込む魔力槍。

 まるで誘導されているかのように殺到してくる魔力光線を前に、骸骨魔導士は即座に再移動。

 しかし完全回避はならず、かすめた魔力光にのけ反ったままでの移動となった。


「今だ!」

「やああああーっ!」


 俺の声に応える形で少女は走り出し、退避行動直後の骸骨魔導士のもとへ。

 体勢を崩したままでは回避ができず、剣が起こした爆発を喰らって後退。


「続けていくぞ!」

「うんっ!」


 再び放つ【エーテルスピア】が、弧を描いて骸骨魔導士を狙う。

 単純な魔力光による攻撃は毛皮で防げず、瞬間移動で回避するしかない。

 俺はすぐさまその移動先目がけて、逆の弧を描く魔力槍で追撃。

 骸骨魔導士は慌てて瞬間移動を続けるが、そこには――。


「たああああ――っ!」


 間髪入れずに駆け込んでくる少女が、振り下ろす剣。

 再びの爆発が直撃し、毛皮の一部が破けて飛んだ。

 完全につかんだ優位。

 放つ魔法はことごとく少女を避ける形で飛来し、瞬間移動を強制する。


「すごい……っ!」


 そして移動後には、間髪入れずに叩き込まれる剣の爆発。

 振るう剣が、敵の腕に大きなヒビを走らせた。

 それでも、攻勢は終わらない。


「【エーテルスピア】!」

「それええええ――っ!」


 魔法の回避直後に喰らった剣の爆発が、骸骨魔導士の肩を砕いて破片をまき散らす。


「【エーテルスピア】!」

「やああああああ――っ!!」


 続く爆発が、見事だった毛皮を千切って飛ばした。


「この魔法、本当にすごいっ! 前衛を回り込んで当たる魔法なんて、初めて見た……っ!」


 回り込んでいく俺の魔法に、口をつく感嘆の言葉。

 怒涛の連続攻撃は敵を圧倒し、反撃すら許さない。


「このまま押し切るぞ!」

「りょうかいですっ!!」


 放つ魔法の直後。

 豪快に振り上げた剣が、ついに骸骨魔導士の左腕を斬り飛ばした。

 巻き起こった爆発によって、頭部を飾っていた大きな角までもが砕けて散る。

 大きく後退した、骸骨魔導士。

 満身創痍、あとはトドメを差すだけだ!


「ギャアアアアアアアアアア――――ッ!!」

「「っ!!」」


 左腕を斬り飛ばされ、角の片方を砕かれた骸骨魔導士が、突然猛烈な咆哮をあげた。

 するとその全身に宿った魔力が、風となってあふれ出す。

 共に足を止め、向かい合う両者。

 骸骨魔導士が残った右腕を掲げると、少女も自然と走り出す。

 放たれる、荒々しい雷撃。

 もはやダメージが低かろうと、全てをぶつけて焼き切ろうというつもりなのか。

 凄まじい勢いで放たれる稲妻が、容赦なく突き刺さる。しかし。

 そんなものは全て弾き返し、少女は駆ける。

 骸骨魔導士が、高く腕を掲げた。

 天から落ちる、極大の雷が荒れ狂う。

 視界が焼けてしまうほどに、凄まじい雷光の嵐。

 だがどれだけの雷撃を受けようと、その走りを止めることはできない。

 少女は骸骨魔導士目がけて一直線、戦車の様な強靭さで突き進む。


「どうやらその程度の攻撃では、長き苦境に耐え続けてきた彼女に、ヒザをつかせることなど到底かなわぬようだ」


 弾かれる雷撃。

 すると耐え切れなくなった骸骨魔導士は、ここで巨大な岩刃を壁のように突き立て対抗。


「なるほど、悪くない判断だ。だが……甘いっ!」


 少女の足は、止めさせない。

 俺はコートを揺らしながら両手を大きく開き、魔力を解き放つ。


「受けろ、気高き白閃の抱擁――――【アウレオラ】!」


 俺の左右から後光のように放たれる、数十本の魔力槍。

 美しい円弧を描きながら迫る大量の魔力光線が、容赦なく岩壁を打ち砕き、骸骨魔導士に直撃。

 その体勢を、大きく崩した。


「さあ、打ち砕け! 目の前に立ちふさがる高き壁を!」

「やああああああああ――――っ!!」


 少女は巻き起こった砂煙を、割るようにして直行。

 ボロボロの靴で強烈な踏み込みを見せると、両手で持った借り物の剣を全力で振り下ろす。

 全体重を乗せて叩き込まれた刃は、骸骨魔導士の肋骨を砕きながらめり込んでいき、止まる。

 生まれる、一瞬の静寂。

 その直後、大きな爆発を巻き起こした。

 骸骨魔導士は無数の破片を飛ばして爆散し、粉々になって消えていく。


「――――見事だ」


 一言そう告げると、少女が振り返った。

 電気で髪を一房逆立てたまま、向ける穏やかな笑顔。ただし。


「あばばばばば」


 どうやら、痺れてはいたようだ。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

ここで最近あまり見ていない銭ゲバ系は面白いですね! 続きはご感想欄にてっ!


お読みいただき、ありがとうございました!

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