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38.少女の覚醒

「すごい……」


 五階層最奥の『宝の部屋』には、多くの魔法石脈が点灯している。

 その先でひときわ強い光を放っているのが、『宝』と呼ばれる魔法石の鉱脈だ。


「あの輝きが、この階層の宝だ」

「あれが……宝」

「そして。その強い魔力に惹かれ、この場を縄張りにしているのが……ヤツだ」

「っ!」


 姿を現した異形は、一体何の魔物なのか。

 鹿のように大きな二本角を持った二足の骸骨は、3メートルに届こうかという体躯を持つ。

 その身に巻きついたボロボロの黒い毛皮のローブは長く、足元で引きずるほど。

 まとう雰囲気は、邪悪な異形の魔導士といったところか。


「戦いが始まったら、お前は機を見て走れ。そして宝に手を伸ばすんだ」

「う、うんっ。でも……いいの?」

「構わない」


 もしかするとこの宝で『記憶を取り戻す』こともできるんじゃないかと思ったけど、たぶん不可能だ。

 それは過去の自分とその記憶を、ちゃんと想像することができないから。

 結晶塊を見た瞬間、そう感じた。

 それに少女の問題は、一刻を争う状態。

 俺が少女を背後に下がらせると、骸骨魔導士がゆっくりと片腕を持ち上げていく。

 走り出す、緊張感。

 掲げた長い指が、俺の頭上に魔力の輝きを閃かせた。

 その瞬間。


「雷撃……っ!」


 鮮烈な光を放った後、俺を狙って落ちてくる稲光。

 バックステップで下がると、先ほどまでいた場所に落ちた激しい雷光が、弾けて散った。

 バリバリと恐ろしい音を鳴らす電撃は、凄まじい威力だ。

 骸骨魔導士は、さらに攻撃を続ける。

 連続する、三度の輝き。


「くっ!」


 フラッシュが起こる度にその場を離れる形で、速いジグザグのバックステップ。

 すると骸骨魔導士は、その手を開いた。

 振り下ろせば今度は、五本の雷光が同時に炸裂する。

 大きな後方への跳躍。

 下がる一方になってしまったが、回避に成功した俺は、弾ける電気に息を飲みながら右手を伸ばす。


「【ブレイズバレット】」


 弾ける雷光の余波の中、放つ反撃の四連弾。

 しかし骸骨魔導士は消え、迫る炎弾を回避した。

 瞬間移動!?

 短い距離だけど、ダンジョンでも類を見なかった特殊な移動方法だ。


「ならば……! 【ブレイズバレット】」


 俺は再び、炎弾による攻撃を続ける。

 これを瞬間移動でかわした骸骨魔導士が、現れたその瞬間。


「【ダークジャベリン】」


 空いた手で、その移動先を狙う。

 発数を大きく絞る形で放った高速の炎槍は、尾を引きながら突き進んで炸裂。

 直撃し、大きな炎を燃え上がらせた。

 しかしまとった黒の毛皮を払えば、炎は霧散。

 反撃は、駆ける一本の閃光だ。


「っ!」


 身体が勝手に反応した。

 上半身を左に傾けると、敵の指先から放たれた雷光が、顔の数センチ横を駆け抜けていく。


「【凍てつけ、白華の葬嵐】」


 戦いは、激しい撃ち合いの様相を呈し出す。

 俺が反撃に放つのは、冷気を凝縮しながら進む弾丸。

 迫る純白の一撃を、骸骨魔導士は短い瞬間移動でかわす。

 今回も攻撃は、あっさりと避けられた。


「……だが」


 氷弾の凝縮がほどけて炸裂すると、辺り一面に雪白の氷嵐を巻き起こす。

 移動と毛皮によって、氷結自体のダメージは僅少。

 しかし地面に生まれた猛烈な霜が足元を凍結し、瞬間移動直後の骸骨魔導士をその場に縫い付けた。

 そう。短い瞬間移動を使って回避するのであれば、付近一帯を攻撃範囲に含めばいい。


「【ダークジャベリン】」


 この隙を突き、放つは数十本に及ぶ闇炎の槍。

 だがまとめてではなく、連射の形での発動だ。

 炎自体でダメージを与えられなくとも、次々に叩き込まれる炎槍は爆発。

 生まれる衝撃が、骸骨魔導士を吹き飛ばした。

 砂煙をあげながら地を転がっていく姿を確認したところで、俺は少女に向けて告げる。


「今だ! 行け!」


 生まれた隙。

 戦いを見て唖然としていた少女は、俺の叫び声に大きくうなずくと、ボロボロの靴で走り出す。


「っ!!」


 目前に見える宝。

 焦りからか一度転びそうになったものの、体勢を必死に立て直して疾走。

 魔物の爪に斬られた上着を揺らし、借り物の剣を引きずりるようにして。

 見事な三段跳びで岩の舞台へ跳び上がると、青白の輝きを灯す魔法石脈の前にたどり着いた。

 そして、そっと手を伸ばす。


「その鉱脈の輝きは、濃縮された純粋な魔力によるものだ」

「純粋な魔力……」

「手を触れたまま思い浮かべろ。お前自身が望む姿を!」

「望む姿……」


 魔法石脈に触れると、少女は祈るように目を閉じる。


「っ!?」


 すると魔法石に溜まっていた魔力が反応し、その身体にすさまじい勢いで流入し始めた。

 まばゆい輝きは、一気に少女の中へ。

 それから、嘘のような一瞬の静寂。

 その後、覚醒を知らせる風が噴き抜けていった。

 一転して猛烈な勢いで噴き出す青白い魔力の輝きに、少女は困惑する。


「「っ!!」」


 それを見た骸骨魔導士は、少女に宝を奪われた怒りを爆発させる。

 頭上に巻き起こす凄まじい雷撃の嵐が、少女に殺到。

 五階層を大きく揺らすほどの轟音と共に、盛大な爆発を巻き起こした。

 パチパチと、地を駆けていく電気。

 足元から上がった火と煙が、ゆっくりと消えていく。


「……そういうことか」


 そこにあったのは、傷一つない少女の姿。

 すぐに、気がついた。

 あれだけの攻撃を受けてなお、かすり傷の一つもなし。

 少女が理想とした姿は、どんな激しい攻撃にも負けない強靭な自分自身だ。


「――――長き苦境に、よく耐えた」


 そんな少女を見て、勝手に言葉がこぼれ出した。


「このダークロードが認めよう! 愛する者たちを思い、耐え続けてきたからこそ、お前はここまでたどり着くことができたのだ!」


 今も驚きの中にいる少女に向けて、俺は語り続ける。


「苦難の時は終わり、今より……全てが変わる! その力があればお前の望むものが、愛する者たちを救うための手段が、いくらでも手に入る!!」

「っ!」

「よくぞ耐え抜いた…………見事だ」


 その言葉に、少女が大きく肩を振るわせた。

 潤む瞳が、魔力を反射して輝く。


「だが。その力を活かすためには、この場を無事に乗り切る必要がある。そのためにこのダークロードがお前の剣となり、共に戦うことを約束しよう……しかしだ」


 ここで俺は「困った」とばかりに、大げさな息をつく。


「あいにく私は貧弱でね。わずかな痛みにも不様に悶えてしまうほどの軟弱者なのだ。そこで、どんな苦境にも負けないお前の強さに……頼らせてもらってもいいかな?」


 問いかけると少女は「くすっ」と笑った後、満面の笑みでうなずいた。


「……はいっ!」


 共に振り返る、最強の鉾と盾。

 怒りに震えていたはずのボスが、大きくたじろぐのが見えた。

お読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
ふむ、やはり防御型になりましたか。 ちょっと予想通り過ぎて意外性がなかったですね…。 個人的には、触れるものを黄金や宝石に変える能力とかでも良かったですかね。 そして「お金、お金が全てなのよ!」とキ…
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