3.復活のダークロード~ハーレムの始まり~
「もしかして、何か思い出されたのですか!?」
「いや、何も」
いつの間にか『黒づくめ』に着替えていたサクラの問いかけに、俺はブンブン首を振る。
リリィと呼ばれる子のピンチに身体が勝手に動いただけで、記憶は何も戻ってない。
「ダークロードが、帰ってきたのか……?」
「いや、偽物だ! ヤツは死んだはずだ!」
ギルドと呼ばれる面々も、信じられないという様子でいる。
「気を抜くな! 魔物はまだ生きてるぞ!」
あがった、注意喚起の声。
あれだけの数の攻撃を喰らってもなお、戦意を失わずにいる敵に、誰もが息を飲む。
「反撃、来るぞ!」
灰色の大ヤギが放ったのは、凄まじい速度で迫る氷槍の連射。
その狙いは……俺かよォォォォーッ!?
容赦なく迫る鋭い氷槍は、電柱のように大きい。
こんなの喰らったら、絶対死ぬぞ!
恐ろしい光景を目前に、完全にすくんでしまった俺は――――避ける。
飛来する攻撃を身体が勝手に避けて、避けて、避けまくる!
舞い踊るコートの長い裾すら、氷槍に触れることがない!
「来るぞ! あれが大ヤギの奥義だ……ッ!!」
魔物の手に輝く強烈な白色の輝きに、ギルドの面々が叫ぶ。
一目見て分かるほどに圧縮された冷気が、クリスタルのような形状を取っていく。
直後に発射された透明の氷結弾は、白煙の尾を引きながら超高速で接近。
そのまま俺の目前で、爆発的に冷気を開放する。
広がる、絶対零度の白光。
「ハアッ!」
俺は左手を、大きく振り払う。
すると巻き起こる風が白煙を吹き飛ばし、背後の岩壁に巨大な筆で描いたかのような、純白の線が生まれた。
キラキラと、舞い散る氷片。
その中で俺は、右手を魔物に向けていた。
「――――【ダークフレア】」
お返しとばかりに放った闇の炎は、一直線で魔物のもとへ。
直撃すると、分厚いガラスが砕けたかのような破砕音が鳴り響いた。
砕け落ちる、光の障壁。
それでも止まらず、闇の炎は付近を紫色に染めるほど激しく燃え上がり、容赦なく大ヤギの魔物を焼き尽くす。
そして、岩場の天井に光の点滅。
バラバラと、砕けた宝石のような結晶が落ちてきた。
それを見たギルドの面々が、つぶやく。
「魔宝石でバリアを張っていたのか……だからどれだけ攻撃しても、ダメージにならなかったんだ……」
「お、おい待て……っ! それならダークロードは、二年も猛威を振るったギミックを解かずに、力技だけでバリアを破ってみせたというのか!?」
驚愕の視線を向ける、ギルドの面々。
燃え上がる炎を背景に、俺は一言。
「我が名はダークロード。混沌に棲まう魔王なり」
……やだ! 何このセリフ恥ずかしい!
「もう、間違いない……っ!」
「この圧倒的な強さ、これは本物だ!」
「ダークロードが、帰ってきたんだぁぁぁぁぁぁ――っ!!」
再び騒がしくなる、岩場ホール。
すると俺の横に踏み出してきたサクラが、ギルドの面々を見下ろし口を開く。
「勘違いしないでください。ダークロード様はまだ、そのお力の半分も出されておりません」
「そうなの!?」
誰より早く、そして一番驚く俺。
自分自身のことなのに、ちょっと本気で引く。
「ここは一度下がるぞ! これで協約は解消、ここからは第五層の探索となる! 『宝』は目前だ、ダークロードに奪われぬよう準備を整えろ!」
「「「おうっ!!」」」
そう言い残して、一斉に引き下がっていくギルド勢。
あっという間に、ホールには人がいなくなってしまった。
「ダークロード様……っ!」
「ん?」
俺の前に駆け足でやって来たのは、魔物と一人で戦っていたリリィと呼ばれる子。
「本当に、本当にお帰りになったのですね……っ!」
フードを取って、その長い金色の髪と青い目を晒す。
ええ……この子も感涙してるんだけど……。
「また、助けられてしまいました……っ。一体今まで、どうされていたのですか!?」
食い入るように問いかけてくるリリィに、俺は正直に答える。
「実は俺、二年前から記憶喪失なんだ」
「そうでしたの……!」
「ち、ちなみに……俺は君とどんな関係だったの?」
「はい、わたくしは貴方様の忠実な部下――」
「ちなみにサクラとは、許嫁らしいんだけど……」
「……なんですって?」
リリィは、俺の言葉に大きく目を見開いた。
それから『責めるような目』を、サクラに向ける。
するとなぜか、サクラが申し訳なさそうに視線をそらした。
「それで、君とは?」
「もちろん――――許嫁ですわ」
「はああああああああ――――っ!?」
いやいや、それはおかしいだろ! 何で許嫁が二人もいるんだよ!
一体何が、どうなってるんだ!?
「サクラさん、どういうことですの?」
「うっ、それはその……」
サクラはなぜか、リリィの視線にたじたじだ。
「とんでもない抜け駆けを、仕掛けてくれましたわね」
「もちろんすごく悩んだんですよ? でも二年という時間が、私の中にルシファーを生み出して……」
「言い訳は結構です」
「でもおかしいと思ったのなら、自分も許嫁だなんて言わなければいいじゃないですか」
「うぐっ。それは――」
何やら言い合いを始めた二人。
俺がその様子を、ぼんやり眺めていると――。
「おかえりなさいっ!」
「うおおっ!? 今度は何だ!?」
また見知らぬ黒づくめ少女がやって来て、今度は俺に抱き着いてきた。
「ダークロード様、帰ってきたんですね!」
そして俺の胸元に顔を埋めるようにした後、フードを取って肩までの白銀髪を晒す。
「えへへ、うれしいなぁ……」
顔を上げてそう言うと、うれしそうにほほ笑んだ。そして。
「私たちも、まずはここを離れましょう。ダークロード様、ほら早く早くっ」
見知らぬ三人目の少女は俺の腕に抱き着き、うれしそうに引っ張っていく。
「「あっ!」」
するとそれに気づいた二人が、慌てて後を追ってきた。
「お待ちなさい! マーガレットさんったら、油断も隙もありませんわ!」
「まったくです!」
……もう、訳が分からない。
三十歳過ぎてダークロードを名乗ってるわ、許嫁が二人もいるわ。
過去の俺、めちゃくちゃじゃないか!
今俺の腕を引いてる子には、怖くてもう関係性が聞けねえよ!
そのまま俺は、女子たちに囲まれながら道を進む。
ここは最深部にたどり着けば、願いがかなうと言われているトーキョーダンジョン。
ダークロードが一体何者で、抱いていた『大いなる願望』が何なのかは、まだ分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
「こうなったらなんとしても、記憶を取り戻すんだ。そして全てを明らかにしてやる……っ!」
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