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20.二人一緒に夕食を

「お、おじゃまします」

「はい、どうぞ」


 呼ばれて踏み込むマーガレットの自宅は、コンパクトな造りのマンション。

 そこはキッチンが一緒になったリビングと、隣接する部屋一つで構成されている。

 部屋数は少ないけど、そこそこ広くて余裕がある感じだ。


「夕飯すぐ作っちゃうから、宗くんは休んでてね」


 そう言って笑うと、マーガレットはキッチンに立つ。

 俺は促されるままソファに座って、落ち着いた雰囲気のリビングを見渡してみる。

 やっぱり殺風景な俺の部屋とは、全然違うなぁ……。

 深い色味の木製家具が並ぶリビングは、すごく雰囲気がいい。

 ……それにしても。


「お、落ち着かない……っ」


 手持ち無沙汰が我慢できずに立ち上がった俺は、マーガレットのもとへ。


「暇だと落ち着かないから、手伝うよ」

「ありがとう。それなら、野菜を洗ってもらってもいいかな」

「了解」


 言われるまま、買ってきた野菜を順番に洗っていく。


「宗くん、慣れてるね」

「家でも自炊は、できるだけしてたからさ」


 そう言うマーガレットも、相当手際がいい。

 レシピを見ることもなく、テキパキと調理を進めていく。


「こうやって並んでると……本当に同棲してるみたいだね」

「ソ、ソウデスネ」


 そんな言葉を交わしつつ、今度はマーガレットが使い終えた調理器具を洗う作業に入る。

 料理は、同時に片付けをすることが結構大事なんだよな。

 食べ終えた後に、「洗い物はあとでいいや」ってならないためにも。


「宗くん、そこにあるパセリを少し取ってくれる?」

「あ、これパセリだったのか」


 キッチンの一角にある緑の植物は、観葉ではなかったらしい。

 俺も料理はするけど、マーガレットが違うのは、見た目の良くなるひと手間を欠かさないところだな。


「こういうのって、あると便利だな」

「簡単だから、宗くんも育ててみたらいいと思うよ」

「それもいいな」


 家事をする者同士、会話が自然と進む。

 マーガレットは本当に手際が良く、短い時間で料理を完成させた。

 一緒にリビングに料理を運んで、ソファに腰を下ろす。

 すでに空腹は、最高の状態。

 俺はすぐに、マーガレットが用意してくれたスプーンを手に取った。


「「いただきます」」


 そしてパエリアのような料理を、さっそく一口。


「うまい……!」

「本当? よかったーっ」


 マーガレットは、うれしそうに笑う。


「本当はもっと手間をかけて作りたかったんだけど、時間も遅かったから」

「いや急いでくれて助かったよ。腹減ってたし」

「また食べに来て欲しいなぁ。その時はもっと、腕によりをかけちゃうよ」


 これでも十分に美味しいのに、マーガレットとしてはまだまだ本気ではないらしい。

 俺は夢中で、並んだ料理を口に運んでいく。


「宗くんってこの二年間、外ではどう過ごしてたの?」

「配達仕事をしながら、記憶を取り戻すきっかけを探したり……あとは趣味の釣りをしたりかなぁ」

「釣りが好きなんだね。私も連れて行って欲しいなぁ。特区にもあるみたいだよ、釣りのできるポイントが」

「へえ、そうなのか」

「特区を囲んでる山の一部に、海水が入ってきてる場所があるみたい」

「それなら一度行ってみたいな」

「その時は、私も連れて行ってね」


 俺の隣で、楽しそうに食べるマーガレット。


「宗くん」


 不意に手を止めると、困った表情を見せた。


「ん?」

「ちょっと、多めに盛り過ぎちゃったみたい」


 見ればスプーンを持った手が、止まっている。

 腹が減っていた俺には問題ない量だったけど、マーガレットには少し多かったみたいだ。


「お腹いっぱいだから、宗くん食べてくれる?」

「ああ、いいけど」

「ありがとう」


 俺はマーガレットの皿を取ろうと、手を伸ばすが――。


「はい、あーん」

「っ!?」


 マーガレットがスプーンを、俺の前に差し出してきた。

 まさかの事態に、固まる俺。


「宗くん、こぼれちゃうよ」

「っ!」


 しかしスプーンからこぼれ落ちそうになっているのを見て、慌てて口で受け止めた。

 するとそんな俺を見て、マーガレットが笑う。


「……ねえ、宗くん」

「ん?」

「このまま、一緒に住んじゃう?」

「げほっ!? ごほごほっ!?」

「えへへ」


 むせる俺を見て、笑うマーガレット。

 それでもその手に水を持ってくれている辺り、本当に気が付く子なんだな……。


「マ、マーガレットたちこそ、この二年ってどうしてたんだ?」


 続く『まさか』に恥ずかしくなった俺は、話題を変えてごまかす。


「私たちはいつかダークロード様が帰ってくるって信じて、三つの言いつけを守って過ごしてたって感じかなぁ。本当に帰って来てくれてよかった」

「……ダークロードって、正直どんな感じに見えてた?」

「んー。何か大きな目標に向かって動いてるって感じだったよ。威厳のある感じで、カッコ良かった」


 マーガレットたちは、あの中二病ノリをそう捉えているのか……。


「それにダークロード様には、もともと少し可愛い素振りはあったんだよ。真っ黒な格好でカレーパンをおいしそうに食べてたり。だから今の宗くんを見ても、みんな違和感を覚えてないんだと思うな」

「なるほど」

「むしろ今の宗くんは親しみやすくて、みんなもっと仲良くなりたいって思ってるんじゃないかな」

「マジか……でも、よくこんな黒づくめの男について来てくれたよな」


 三十歳を過ぎてダークロードを名乗る怪しい男に、普通ここまで付き合ってくれるか?

 俺がそう言うと、マーガレットは穏やかな笑みを浮かべた。


「それはみんな、それだけのことをしてもらったからだよ……」


 ……確か同じ事を、サクラも言ってたな。

 その時のことを思い出していると、突然着信音のような短い音楽が聞こえてきた。


「あ、お風呂が沸いたみたい」


 夕飯を作り出すタイミングで、お湯を溜めてたのか……。

 その手際の良さに、あらためて感嘆する。


「宗くん」

「ん?」

「……一緒に入る?」

「はいッ!?」

「なんてね。あははっ」


 どうやら自分で言って、恥ずかしくなってしまったらしい。


「ほらほら、先に入っちゃって」


 顔をちょっと赤くしたマーガレットはそう言って、タオルと買ってきたばかりの着替えを渡してきた。

ご感想いただきました!ありがとうございます!

魔の手を伸ばすマーガレット、いいですね……! 返信はご感想欄にてっ!


お読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
なるほどね…。 ペアルックで手料理を振る舞っただけ。 一見すると少し踏み込み、すぐ引くチキンな少女。 だがもちろん、これには意図がある。 まずちょっと踏み込んでは引いてるように見えて、『自分に脈があ…
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