19.マーガレットとお買い物
ダンジョン特区で過ごした一日。
なぜかマーガレットの自宅に泊まることになった俺は、賑やかな夜の大通りを進んでいた。
「まずは、お買い物からだね」
足取り軽く進むマーガレットが、笑顔で振り返る。
「ああ、夕食とか?」
「うん。宗くんは何が食べたい?」
「まあ好き嫌いはないし、なんでもいいんだけど……今日は疲れたから米が食べたいかなぁ」
「明日のこともあるし、元気が出るものがいいよね」
うなずくマーガレット。
不意に、その足を止めた。
「どうした? 夕食とかの準備だったら、あそこにあるスーパーとかじゃないの?」
「それもあるけど……お泊りに来るなら部屋で着るものとか、歯ブラシとか、そういうものが必要になるんじゃないかな?」
「ああ、そうか」
確かに、着の身着のままってわけにはいかないもんな。
泊まりならもっと楽にできる部屋着的な服が欲しいし、歯ブラシなんかも必要だ。
「それならまずは着替えからだね。こういうの、一度して見たかったんだ……!」
何やらうれしそうなマーガレットが最初に入ったのは、有名量販店の小型店舗。
店内には多くの商品が、所狭しと並んでいる。
要は、そのまま部屋着にできるものを選べばいいんだな。
俺はマーガレットと一緒に、売り物をざっと見て回る。
「よし。やっぱり基本はシンプルな長袖Tシャツに、ジャージパンツとかだよな……」
上は白、下は黒。
動きやすそうなものを選んで取ろうとすると、マーガレットは一言。
「もっと可愛いのがいいなぁ」
「かわいいの?」
可愛い部屋着という概念がよく分からず、俺は首を傾げる。
するとマーガレットは、「名案!」とばかりに手を打ち鳴らした。
「そうだっ。宗くんの着替え、私が選んでもいいかな?」
「ああ、別にいいけど」
特にこだわりもない俺がそう言うと、マーガレットはうれしそうに笑う。
そして並んだ商品を見返しながら、店内を右へ左へ。
「えーっと……あっ、これがいいかもっ」
「見つけた!」と、一つのセットを手に取って、俺の方に顔を向ける。
「宗くんはLサイズでいい?」
「ああ、そうだな」
「私はメンズだとSかなぁ」
そんなことを言いながら、一つのセットをカゴに入れる。
「これだったら可愛い靴下も一緒に欲しいな。そうだ、この際だしルームシューズも新しいのにしちゃおう!」
マーガレットは、もう止まらない。
目を輝かせながら靴下と部屋用のシューズまで選ぶと、次々にカゴに放り込んで行く。
「なんで全部、二つずつなんだ?」
俺は思わず問いかける。
何連泊もするわけじゃないのに、二つもいらないだろう。
特にシューズなんかは、どう考えても一つでいい。
するとマーガレットは、うれしそうな笑顔で答える。
「えへへ。わたしも宗くんと同じものにしようと思って」
「……そうなの?」
マーガレットが選んだのは、白地に紺色のラインが入ったハーフパンツに紺の長袖という上下セット。
夏物のセーラーを思い出させる、爽やかな色使いの商品だ。
そこにフワフワした素材の白靴下と、茶色いスウェードのルームシューズ。
その全てを俺たちは、サイズ違いで購入した。
「次は、隣のお店だねっ」
すっかりご機嫌なマーガレットと共に店を出ると、今度はすぐ隣の雑貨店へ。
ここでは歯ブラシを選んで、あと歯磨き粉も買っておきたい。
俺は並んでいる商品の中から、普段使ってるヤツと同じものを選んで手に取った。
「宗くんは青色の歯ブラシにするんだね。それならわたしはこのピンクにするよっ」
するとマーガレットは俺が選んだものと同じ歯ブラシの、色違いを選択した。
「なんで全部揃いに……」
足取りも軽くレジへと向かったマーガレットに、思わずつぶやく。
「そりゃ、おにーさんと一緒にしたいんだろ」
すると店員の生意気そうな金髪少女が、気だるそうに言った。
「恋人なら、そういうのしたくなるじゃん。なあ?」
「えへへ。恋人に見えちゃうかな?」
そんな店員の言葉に、はにかむマーガレット。
俺が首を傾げていると、店員の生意気そうな少女は意外な手際の良さで、歯ブラシと歯磨き粉の清算を終える。
「ったくよー。これだから男はよー」
そしてマーガレットに、「がんばれよ」と言ってひらひらと手を振った。
店を出て、一緒に進む帰り道。
すっかりご機嫌のマーガレットは、鼻歌混じりだ。
「えへへ。なんだか本当に……同棲してるみたいだね」
「…………」
「宗くん?」
いやこれ、なんて答えればいいんだよ!
俺が反応に困っていると、構わずマーガレットは笑顔を向けてくる。
「荷物、持ってくれてありがとう」
「まあ基本は俺の買い物だからな」
なぜか全部二つずつあるってだけで。
「夕飯は任せてね。もう遅い時間だけど、手早くおいしくできるようにがんばるからっ」
そう言って、スーパーの出入り口前へ。
夕食用の食材や飲み物なんかを買った俺たちは、大通りから曲がって数メートルのところにある、綺麗な造りの四階建てマンションへ。
階段を並んで上がり、ついにマーガレットの住む部屋にたどり着いた。
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