18.許嫁たちの戦い
……怒涛の一日だった。
俺たちはダークロードの部屋を探すためのきっかけを、特区にて見つけることに成功。
リリィと宿に帰ると、すでにナイトメアガーデンの三人も帰還済みだった。
「「おかえりなさい」」
サクラとマーガレットが出迎え、リコリスも帰宅した主人の確認をしにきた猫のように、様子を見にきた。
「それでは、出ましょうか」
サクラが、その手に荷物を取った。
「出る? どこかに行くのか?」
「この宿は、協定が破棄される今日という日のために取ったものなんです。もう出ないといけません」
「ああ、そうなのか」
二つのギルドが協力してバリアの魔物に挑み、長らく止まっていた攻略を再開する。
その決行日のために、この宿を取ってたんだな。
「この後、宗くんはどうするの?」
納得する俺のもとに、マーガレットがやって来た。
「特区には仕事用の車で来てるから、それで家に帰る形かな」
「そっか、そうなんだね……」
マーガレットは少し考えるようにした後、不意に真っすぐ俺を見た。
「今使える部屋が特区にないのであれば――――うちに泊まってほしいな」
「「「っ!?」」」
マーガレットの言葉に、俺とガーデンの面々が驚愕する。
「な、何を言っているんですか!?」
「そそそそんなのっ! ふしだらですわっ!」
サクラと顔を真っ赤にしたリリィは、すぐさまマーガレットに詰め寄る。
「でも、明日もダンジョンとか特区をめぐるんだったら、特区外に帰ってまた戻ってくるっていうのは、手間になっちゃうでしょう?」
「まあ、そこそこ距離があるのは確かだけど……」
片道で一時半くらい。
確かに、今貸りている特区外の家まで行ったり来たりするのは大変だ。
まして今日はクタクタだし。
「そっ、それなら、わたくしのところに来てください!」
リリィはそう言って、俺の腕をつかんだ。
「いいえ、私のうちに!」
すると負けじとサクラも、反対側の腕をつかむ。
「ダメだよ。サクラとリリィはもう、宗くんと一緒に行動してるからね」
「「うっ」」
「二人はダンジョンとか特区に一緒に行ったんだから、次は私かリコリスの番だよ……ね?」
マーガレットが嗜めるような笑顔で言うと、サクラもリリィも言い返せない。
そして一歩引いているリコリスはもちろん、ここで踏み出してきたりはしない。
「いやー……でも、さすがにそれはマズいんじゃないかなぁ?」
確かに今から帰って、また明日特区までくるというのは大変だ。
でもこんな妙齢の女の子の家に泊まりに行くなんて、記憶のない俺にとってはハードルが高すぎる。
いや、記憶があっても問題だろう。
何せ俺には、中二病カルトおじさんかもしれないという可能性があるんだから……!
「そうです! ご一緒になんてその……やりすぎですわ……っ!」
顔を赤くしながら止めるリリィと、困るサクラ。
「そうだよな、俺もさすがにそれはやり過ぎだと――」
俺もこの流れに乗るが、しかしマーガレットは笑みを浮かべたまま告げる。
「何もおかしくないよ。だって私たちは――――許嫁なんだから」
「「うっ」」
今度は俺とサクラの声が重なった。
「そうだよね、サクラ?」
「…………」
問いかけられるとサクラは、申し訳なさそうに視線を下げた。
「それに今の宗くんは新しいことだらけで疲れてるだろうし、明日からの事を考えるとゆっくり休まないといけないでしょう?」
「で、ですが……!」
顔を赤くしたままのリリィは、それでも食い下がる。
しかしそれも――。
「お疲れのお客様に来てもらうんだったら、家事の能力が必要になるんじゃないかな?」
「っ!」
リリィは、なぜかそんなマーガレットの言葉に硬直。
さらにサクラも、ため息とともにつぶやく。
「マーガレットが相手では、家事の話はさすがに……」
こうして二人は、ついに反論の言葉を失った。
「今日はうちで良さそうだね。宗くん、帰ろっ」
「い、いや、たとえ許嫁でも家に行くのは少しマズくない?」
俺がそう言うと、マーガレットは悲しそうな顔をする。
「……もしかして、嫌だった?」
「嫌じゃないよ! 全然嫌じゃない! そういうことじゃなくて――」
「よかった!」
俺が嫌じゃないと言うと、すぐさま腕を取るマーガレット。
「またいなくなっちゃうかもしれないって思ったら、ちょっと怖くて……」
「うっ」
記憶喪失のせいで二年も待たせてしまったという事実が、俺から反論の意志を奪い取る……!
「それじゃみんな、また明日ね」
マーガレットは、俺の腕を引き歩き出す。
残った三人に手を振る姿は、本当にうれしそうだ。
「……まさか」
そんな中、サクラが不意に顔を上げた。
「ダンジョンや特区への同行を私たちにあっさり譲ったのは、この瞬間を見越して……!?」
「そういうことですか……! やはりマーガレットさんは、油断も隙もありませんわ……っ!」
愕然とする二人の声は、宿を出ていく俺たちの背中にぶつかって消えた。
「やっぱりみんな、特区内に住んでるの?」
一緒に宿を出た俺たちは、そのまま一緒に三階層から一階層の出入り口へ。
「うん。メンバーそれぞれ、部屋を借りてるよ」
まあそうだよな。
日々ダンジョンに潜るのであれば、特区内に住むのは当然だ。
すっかり暗くなった特区は夕食時で、まだまだ賑やか。
大通りには帰宅の途に就く探索者や、店の呼び込みの声が聞こえてくる。
「あ、でもその前に色々とお買い物が必要だね」
マーガレットはそう言って立ち止まり、ポンと手を叩いた。
「宗くん、こっちこっち!」
「おっ、おいっ!」
そしてうれしそうに俺の手を引き、大通りを駆けていく。
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