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18/22

18.許嫁たちの戦い

 ……怒涛の一日だった。

 俺たちはダークロードの部屋を探すためのきっかけを、特区にて見つけることに成功。

 リリィと宿に帰ると、すでにナイトメアガーデンの三人も帰還済みだった。


「「おかえりなさい」」


 サクラとマーガレットが出迎え、リコリスも帰宅した主人の確認をしにきた猫のように、様子を見にきた。


「それでは、出ましょうか」


 サクラが、その手に荷物を取った。


「出る? どこかに行くのか?」

「この宿は、協定が破棄される今日という日のために取ったものなんです。もう出ないといけません」

「ああ、そうなのか」


 二つのギルドが協力してバリアの魔物に挑み、長らく止まっていた攻略を再開する。

 その決行日のために、この宿を取ってたんだな。


「この後、宗くんはどうするの?」


 納得する俺のもとに、マーガレットがやって来た。


「特区には仕事用の車で来てるから、それで家に帰る形かな」

「そっか、そうなんだね……」


 マーガレットは少し考えるようにした後、不意に真っすぐ俺を見た。


「今使える部屋が特区にないのであれば――――うちに泊まってほしいな」

「「「っ!?」」」


 マーガレットの言葉に、俺とガーデンの面々が驚愕する。


「な、何を言っているんですか!?」

「そそそそんなのっ! ふしだらですわっ!」


 サクラと顔を真っ赤にしたリリィは、すぐさまマーガレットに詰め寄る。


「でも、明日もダンジョンとか特区をめぐるんだったら、特区外に帰ってまた戻ってくるっていうのは、手間になっちゃうでしょう?」

「まあ、そこそこ距離があるのは確かだけど……」


 片道で一時半くらい。

 確かに、今貸りている特区外の家まで行ったり来たりするのは大変だ。

 まして今日はクタクタだし。


「そっ、それなら、わたくしのところに来てください!」


 リリィはそう言って、俺の腕をつかんだ。


「いいえ、私のうちに!」


 すると負けじとサクラも、反対側の腕をつかむ。


「ダメだよ。サクラとリリィはもう、宗くんと一緒に行動してるからね」

「「うっ」」

「二人はダンジョンとか特区に一緒に行ったんだから、次は私かリコリスの番だよ……ね?」


 マーガレットが嗜めるような笑顔で言うと、サクラもリリィも言い返せない。

 そして一歩引いているリコリスはもちろん、ここで踏み出してきたりはしない。


「いやー……でも、さすがにそれはマズいんじゃないかなぁ?」


 確かに今から帰って、また明日特区までくるというのは大変だ。

 でもこんな妙齢の女の子の家に泊まりに行くなんて、記憶のない俺にとってはハードルが高すぎる。

 いや、記憶があっても問題だろう。

 何せ俺には、中二病カルトおじさんかもしれないという可能性があるんだから……!


「そうです! ご一緒になんてその……やりすぎですわ……っ!」


 顔を赤くしながら止めるリリィと、困るサクラ。


「そうだよな、俺もさすがにそれはやり過ぎだと――」


 俺もこの流れに乗るが、しかしマーガレットは笑みを浮かべたまま告げる。


「何もおかしくないよ。だって私たちは――――許嫁なんだから」

「「うっ」」


 今度は俺とサクラの声が重なった。


「そうだよね、サクラ?」

「…………」


 問いかけられるとサクラは、申し訳なさそうに視線を下げた。


「それに今の宗くんは新しいことだらけで疲れてるだろうし、明日からの事を考えるとゆっくり休まないといけないでしょう?」

「で、ですが……!」


 顔を赤くしたままのリリィは、それでも食い下がる。

 しかしそれも――。


「お疲れのお客様に来てもらうんだったら、家事の能力が必要になるんじゃないかな?」

「っ!」


 リリィは、なぜかそんなマーガレットの言葉に硬直。

 さらにサクラも、ため息とともにつぶやく。


「マーガレットが相手では、家事の話はさすがに……」


 こうして二人は、ついに反論の言葉を失った。


「今日はうちで良さそうだね。宗くん、帰ろっ」

「い、いや、たとえ許嫁でも家に行くのは少しマズくない?」


 俺がそう言うと、マーガレットは悲しそうな顔をする。


「……もしかして、嫌だった?」

「嫌じゃないよ! 全然嫌じゃない! そういうことじゃなくて――」

「よかった!」


 俺が嫌じゃないと言うと、すぐさま腕を取るマーガレット。


「またいなくなっちゃうかもしれないって思ったら、ちょっと怖くて……」

「うっ」


 記憶喪失のせいで二年も待たせてしまったという事実が、俺から反論の意志を奪い取る……!


「それじゃみんな、また明日ね」


 マーガレットは、俺の腕を引き歩き出す。

 残った三人に手を振る姿は、本当にうれしそうだ。


「……まさか」


 そんな中、サクラが不意に顔を上げた。


「ダンジョンや特区への同行を私たちにあっさり譲ったのは、この瞬間を見越して……!?」

「そういうことですか……! やはりマーガレットさんは、油断も隙もありませんわ……っ!」


 愕然とする二人の声は、宿を出ていく俺たちの背中にぶつかって消えた。


「やっぱりみんな、特区内に住んでるの?」


 一緒に宿を出た俺たちは、そのまま一緒に三階層から一階層の出入り口へ。


「うん。メンバーそれぞれ、部屋を借りてるよ」


 まあそうだよな。

 日々ダンジョンに潜るのであれば、特区内に住むのは当然だ。

 すっかり暗くなった特区は夕食時で、まだまだ賑やか。

 大通りには帰宅の途に就く探索者や、店の呼び込みの声が聞こえてくる。


「あ、でもその前に色々とお買い物が必要だね」


 マーガレットはそう言って立ち止まり、ポンと手を叩いた。


「宗くん、こっちこっち!」

「おっ、おいっ!」


 そしてうれしそうに俺の手を引き、大通りを駆けていく。

ご感想いただきました! ありがとうございます!

で、でもまだ別人の可能性もあるから……っ! 続きはご感想欄にてっ!


お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。

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― 新着の感想 ―
良いところを面倒な2人に譲る。 しかし一番美味しい所はガップリいく…! マーガレット、おそろしい子…! 恐らくこの時に備え、家事能力を鍛えていたのだ。 そして買い物で買うのはーーカレーパンの材料。 …
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