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15.エデン教団へ突入します

「教団かぁ……」


 酒場を出た俺たちは、客の男に聞いた情報を頼りに、次の目的地へと歩いていた。


「ダンジョン特区で教団と言えば、エデン教団以外にございません」

「何をしてる人たちなの?」

「詳しいことは存じませんが、その存在感は確かな物がありますわ」


 特区の人間を勧誘して回っている彼らは、住宅事情や人の出入りに一番詳しいとのことだ。


「……ここか」


 たどり着いたのは、特区にはめずらしい大型施設。

 エデン教団本部。

 教会を思わせる造りの建物は見ためにも美しく、リンゴの生った木がそのアイコンになっているようだ。


「「エデン教団へようこそ」」


 出入り口に踏み込むと、若い二人の女性が丁寧な言葉使いで迎えてくれた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ああ……ええと、ちょっと教団に興味があって。その、新人です」

「「っ!!」」


 俺の言葉に、女性二人は突然目の色を変えた。


「私が案内します」

「いいえ、私です」

「今月のノルマが残ってるんです!」

「それはこっちだって同じです! それにこの前のカモ……信者さんは譲ったじゃないですか!」

「それはそれ、これはこれですっ!」


 な、なんか不穏な言い争いが始まってるんだけど……。

 そのままつかみ合いを始める二人に、思わず引いてしまう。


「ん?」


 そんな中、通りがかった一人の青年。

 胸元につけたバッジはリンゴの木だし、教団員だろう。

 何より見た感じが、すごく常識人っぽい!

 この人なら、話も通じるに違いない。


「すいません。教団に興味があるんですけど、話を聞かせてもらっていいですか?」

「はい、もちろんです」


 やっぱり! 物腰も柔らかだ!


「そういうことなんで、この人に話を聞くことにしました! ありがとうございます!」

「「なっ!?」」


 俺がそう言うと、女性二人はつかみ合ったままその目を見開いた。


「騒がしくて申し訳ありません。こちらにどうぞ」


 教団への勧誘話は、応接室で行われるのだろう。

 青年はソファ付きの、綺麗な部屋に案内してくれた。


「エデン教団は、ダンジョン探索が民間に任されるようになってすぐに生まれました」


 腰を下ろすと、さっそく教団設立についての話が始まった。


「その理念は、恐ろしい魔物という試練と共に、我々に新たな力を与えてくれた奇跡のダンジョンを敬うこと。そのため魔力の目覚めを司る【覚醒の実】が生る森林地帯を、聖地エデンとしています」

「なるほど、それでリンゴの木がアイコンなのか」

「そしていつの日か、新たな可能性を与えてくれた『救いの神様』の降臨を願って、行動しているのです」


 夜のトーキョー湾に現れたダンジョンは、それこそ奇跡のように突然で、翌朝にその全貌を見た人たちが驚嘆したって話だった。

 そう考えると確かに、信仰の対象にもなりそうだ。


「さて……」


 そこまで説明したところで、青年は爽やかな笑みを浮かべた。そして。


「お願いします! 水を、水を買ってくださいッ!!」

「本性出すの早くない!?」

「ノルマがあるんです! 水がダメなら洗剤もあります! そうだ、教団特製のアルミホイルもありますよ!」

「要らないよ」

「そこを何とか! そうです! 僕からまとめて買った洗剤を、また他の方に売ればむしろ利益だってあがりますよ!」

「それをねずみ講って言うんだよ」

「お願いしますゥゥゥゥ――――っ! 今月のノルマが本当にヤバいんですォォォォ――――っ!!」

「泣き落としに入るまでの助走が短いんだって!」


 ていうか、ちゃんと泣いてるじゃねえか!

 どんだけノルマが厳しいんだよ!

 俺の足元にすがって懇願する青年に思わずツッコミを入れながらも、ちゃんと引いてる自分の倫理観にちょっと安心する。

 やっぱり俺は洗脳カルト野郎なんかじゃない! ないんだ!


「そういうことなら、交換条件にしない?」

「……交換条件?」

「俺たちは行方不明になっちゃった人が使ってた部屋を探してるんだけどさ、この広い特区では見つけるのも一苦労ってことで、情報が欲しいんだよ」

「部屋探しの情報ですか……」

「勧誘のために特区中を回ってる教団なら、何か分かるんじゃないかと思ってさ」

「なるほど……確かにそういう話なら、まったく当てがないわけでもありません」


 青年は思うところがあるのか、小さくうなずいた。


「情報をもらえるなら、水を買うよ」

「本当ですか!?」


 リリィに目配せすると、「問題ありません」とゆっくり首肯する。


「その情報から、目当ての部屋が見つかるようなら……ええと」

「飯賀茂です」

「飯賀茂さんの紹介という形で、エデン教団に入信してもいい」

「ほ、本当ですかぁぁぁぁ――ッ!?」


 よほどノルマに困っているのか、飯賀茂氏は目を大きく見開き、歓喜の表情で天を仰いだ。


「なんでもします! 何でも話させてもらいますっ! ぜひお手伝いさせてくださいっ!」


 こうして俺は無事、特区に詳しいエデン教団とのパイプを作ることに成功したのだった。

お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「いいね」と思っていただけましたら――。


【ブックマーク】・【★★★★★】等にて、応援よろしくお願いいたしますっ!

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