14.情報収集はちょっとアダルトな酒場で
「どこにあるのかも分からない部屋を探すってのは、さすがに難しいなぁ」
声をかけた不動産屋の男は、首を振った。
「ここには仲介者の手の入ってない物件も多いし、ボクらが請け負ってるのは作りの良いところだけだからね」
ダークロードの部屋を探すため、俺たちが目をつけたのは不動産業を営む者たちだった。
しかし、結果はこの有様だ。
不動産屋の扱っている部屋が全体の一部だけとなると、見つけるのは相当難しいだろう。
「いかがですか? 特区の中央通りを歩いてみて、何か思い出されましたか?」
「いや、特に何も」
リリィの問いかけに、俺は首を振る。
特区の光景も今の俺には新鮮に見えていて、気にかかるものが見つかったりもしていない。
やはり広い特区から、当てもなく部屋を見つけるというのは難しそうだ。
「そういうことでしたら、常時開いている酒場はいかがでしょう。様々な人が来るので情報もあるかもしれません」
するとリリィが、そんな提案をしてくれた。
確かに色んな人間が集まるだろう酒場なら、良い情報が見つかったりするかもしれない。
「参りましょう。わたくしはあまり……好きではないのですが」
どこか後ろ向きなリリィに連れられて、西欧のパブを思わせる酒場へ踏み込む。
店の前には、酔いつぶれてるのか壁に背を預けて、ボーっとしている中年男性の姿。
「……貴方、大丈夫なのですか?」
放っておけないのか、リリィはため息をつきながら問いかける。
お嬢さまの割に、面倒見がいいんだなぁ。
「ああ? 放っとけ。いつものことだ」
すると男はそう言って、「どこか行け」と手を払う。
「ほら、行こうぜ」
無事なら問題なし。
俺はリリィの手を引いて、酒場へと踏み込んだ。
「おお……」
そこはまさしくパブと言った感じで、マスターらしき人物の背後には無数の酒瓶が並んでいる。
まだ昼過ぎだけど暗く、カウンター席もテーブル席も結構埋まっている状態だ。
俺が思わず内部を見回していると、リリィは率先してカウンター目指して歩き出した。
「ひっひ、ネエちゃん良い身体してんなぁ」
すぐに聞こえてきた、テーブル席を陣取る探索者たちの声。
淡い色味の金髪はこの場では花のように目立っていて、舐めるような視線を誰もがリリィに向ける。
「デカい胸がたまねえなぁ、おい」
「どれどれちょっと味見を――」
しかしそれだけでは収まらず、ついに一人の男がその手を伸ばしたところで――。
「うぐっ!」
先んじてリリィが、その腕を華麗に取って捻り上げた。
「おいおい、その辺にしておけよ」
そんな二人のやりとりを止めに来た男の手が、リリィの胸元に伸びる。
「そうはいきません!」
リリィは即座に二人目の男の手を取り、そのままテーブルに押さえつける。
「……まったく」
大きくため息をつくリリィ。
見事な身体さばきを見せるも、その顔は真っ赤になっていた。
「ひ、人の身体をジロジロと。無作法にも、ほどがありますわ……!」
どうやら、こういうのには弱いらしい。
一方その見事な手際に、酒場には感嘆の空気が広がっていた。しかし。
「今なら、あの子に絞めてもらえるのか!?」
「しかも無料で……!?」
リリィの強さを見てもなお、そんな言葉が聞こえてくる。
たくましいやつが多すぎだろ、この酒場。
「悪いけど、俺のツレだからその辺にしてもらえるかな?」
「宗一郎さま……っ」
場が荒れてしまうと聞き込みどころじゃなくなってしまうし、何よりリリィに申し訳ない。
これ以上ちょっかいを出されないよう、俺はリリィの腕を取った。
「チッ。やたらいい女と思だったら男連れかよ」
「はい。わたくしは宗一郎さまの許嫁ですから」
「おいおい羨ましいなぁ、にいちゃんよォ」
「申し訳ございません。わたくし……宗一郎さまの許嫁なので」
「あ、あんまり言って回らなくてもいいんじゃないかな?」
さっきまでの迫力はどこへやら、一瞬で機嫌が良くなったリリィ。
もはや喧伝して回るその姿に、俺は冷や汗をかきながら腕を引き、カウンター席へと向かう。
「……お前ら、何か探し物でもあってこの店に来た感じか?」
するとすでにカウンターの一角をしめていた、目つきの悪い大男が声をかけてきた。
「実は、とある部屋を探してるんだ」
「なるほどなぁ」
俺が応えると、大男はニヤリと笑ってみせた。
「そうだな、隣にきて酌をすれば俺のアイデアを教えてやるよ。この広い特区で指定の部屋を探す方法をな」
投げられた交換条件と、差し出されるビン入りの飲料。
俺たちは、思わず返答に詰まる。
「宗一郎さま、申し訳ございません」
するとリリィが、覚悟を決めるようにそう言った。
「……このような事、嫌ですけど仕方ありません。これも宗一郎さまのお部屋を見つけるためです」
そして男の横に座ると、鋭い目で威嚇する。
「あくまでお酌をするだけです。不用意なマネをすれば、ただではおきませんわ」
そう宣言して、ビンを手に取った。
「は? お前なに言ってんだ?」
「はい?」
男の言い分が理解できず、首を傾げるリリィ。
すると男はしびれを切らしたかのように、その指をこっちに向けて来た。
「お前じゃねえ。酌をするのは、お前だよ……っ!」
「俺かよ!!」
言われるまま、リリィに変わって男の横の席に着く。
ヤダ! このおじさん、なんかすごい身体を寄せてくるんだけど!
俺は言われるまま、グラスにドリンクを注ぐ。
するとさらに男の手が俺の肩……ではなく腰の方に回ってくる……!
「にいちゃん……良い身体してんじゃねえか」
「ひいいいいいいいっ!」
「わ、わたくしの宗一郎さまを、いやらしい目で見ないでくださいっ!」
一方俺の左隣では、リリィが悔しげな声を上げ始めた。
なんだよこれ!
なんなんだよこれはぁぁぁぁ――っ!
「そ、そんなことより、酌したんだから早く教えてくれよ!」
いよいよ頬ずりをし始めた男に鳥肌を立てながら、俺は問いかける。
「……教団員に聞くんだよ。あいつらは勧誘業務があるから、この町のことを知り尽くしてる」
「なるほど、名案ですわね。特区で幅広く活動している教団なら、たどり着く可能性が高いですわ」
「教団……?」
初めて聞く言葉に、俺は頬ずりされたまま首を傾げた。
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