12.特区の部屋探し!~宗一郎の取り合い再び~
二年ぶりに再開された、ダンジョン攻略。
その一端に触れることでダンジョンの雰囲気を知り、力の使い方なども見えてきた。
そこで俺は一度、サクラと共に五階層から宿に帰ってきた。
なぜなら俺には、もう一つやるべきことがあるからだ。
それは特区内にあるという、ダークロードの部屋探し。
「過去の俺はなぜ黒づくめの組織を作ってダークロードを名乗り、ダンジョンの王みたいになってしまったのか……」
そこでダークロードの狙いや考えが分かれば、自分がどんなヤツだったのか分かるし、そもそも『何者なのか』に近づく大きなヒントになるだろう。
失われた記憶を取り戻す可能性は、充分ある。
ただ、特区は広い。
しかも法が緩く、建物の造りは『やりたい放題』だ。
大通りはまだしも、ちょっと裏手に入れば無秩序な増改築だらけ。
誰がどこに住んでいるのかも分からない、雑然とした街並みになっている。
「おかえりなさい」
「おかえりなさいませ」
帰還した俺を迎えてくれたのは、ナイトメアガーデンの面々。
なぜか三人とも、宿に戻ってきていた。
……場合によっては四人の『許嫁』たちにも、土下座謝罪をすることになるんだろうなぁ。
「いや……! 俺は洗脳カルト野郎なんかじゃないはずだ……っ!」
リリィたちを見ながら、思わず天に祈る。
それから気を取り直して、本題に入ることにした。
「ダンジョンの雰囲気はつかめてきたよ。次は特区を見に行こうと思う」
俺がそう言うと、大きくうなずくメンバーたち。
「特区はとても広いので、闇雲に歩いても目的には早々たどり着けないと思います」
もっともな提案を始めたのは、サクラ。
「確かに相当広いよな。俺も少し歩いてみただけなんだけど驚いたよ」
「そこでなのですが、実は特区内のお店に顔の広い方がいまして、ご紹介できればと思っていたんです」
「なるほど」
「それでは、さっそく向かいましょう」
サクラはそう言って踵を返す。すると。
「お待ちなさい!」
リリィがそう言って、俺たちの前に立ちはだかった。
「サクラさん」
「はい?」
「会話の流れでしれっと特区の案内もしようとしていたようですけど、そうはいきませんわ!」
「い、いえ、私は顔の広い方を知っているので、お役に立てるかもと思っただけで……」
「とにかく今度は、わたくしの番ですっ!」
動揺するサクラに向かってそう言うと、一転リリィは俺の方を見た。
「そうですよね、宗一郎さま」
「……ま、まあダンジョンはサクラに案内してもらったし、順番で言うなら次は別の人になるのかなぁ」
「そういうことでしたら、ぜひわたくしを!」
「きゃっ!?」
リリィはサクラを弾き飛ばすほどの勢いで、こっちに駆けてきた。
「宗一郎さま、ぜひ……っ!」
そしてその青い瞳を、真っすぐに向けてくる。
「……あはは」
そんなリリィの勢いにマーガレットは、「これは仕方ないかなぁ」と軽く苦笑い。
俺たちの様子を静かに見ていたリコリスも、特に異論をはさむ空気はない。
さらに「わたくしでいいですわね?」と目で問いかけるリリィに、二人は「どうぞ」とうなずき合って応える。
「それじゃあ、リリィにお願いしようかな」
「はいっ! 精一杯案内いたしますわ! もちろんお部屋探しにも、全力を注がせていただきますっ!」
リリィは一瞬で、その表情をニッコリさせる。
「それでは、さっそく参りましょう!」
すると待ちきれないとばかりに歩き出すリリィに、今度はサクラが一言。
「リリィ。これは遊びではないので、くれぐれも自重してくださいね」
「何を言っていますの? そんなことは当然ですわ! わたくしにそのような浮かれた気持ちは、一切ございませんっ!」
不満そうなサクラの言葉に、リリィはハッキリと胸を張って応える。
その目は、真剣そのものだ。
「……それならどうして、そんなに可愛らしい格好に着替えて来たんですか?」
「うっ!」
そして的確な一言に、完全にひるんだ。
そう。サクラはもちろんマーガレットもリコリスも戦闘ができるような格好でいる中、リリィだけ完全な私服姿だ。
むしろ普通にスカートとかを履いていて、優雅な雰囲気すらある。
マーガレットが一歩引いた状態だったのは、この気合の入り方を目の当たりにしたからというのもあるだろう。
「デート気分で、浮かれていたからではないですか?」
「……そ、そのようなことはありません。これは、たまたまですわ」
サクラの尋問に、たじろぐリリィ。
「くれぐれも、くれぐれも自重してくださいね」
「もちろんです! 宗一郎さま、とにかく特区に参りましょう! 時間をムダにはできませんわ!」
「あ、ああ」
そう言って話を強引に切り上げたリリィは、足早に部屋を出る。
俺もそんな彼女の後を、追うことにする。
「いってらっしゃい、宗くん」
そして小さく手を振るマーガレットたちに見送られる形で、宿を出た。
三階層の宿からダンジョンの出入り口までは、『エレベーター』を使えばそう時間はかからない。
「宗一郎さま、こちらですっ」
リリィが止めたエレベーターに一緒に乗って、そのまま出入り口のある表層へ。
神殿のような建物を一歩出ると、そこにはダンジョン特区の街並みが広がっていた。
やっぱり、広い。
人通りの多い正面通りは長く、その端が見えないほどだ。
左右に続く区画は整理などされておらず、居並ぶ建物が迷路のような道を無数に生み出している。
「ここから、たった一つの部屋を探すのか」
……頼む。
眼下に広がる特区を眺めながら、俺は思わず祈りを捧げる。
ただ単に三十歳を過ぎて中二病をこじらせていた、ヤバいやつだったっていう展開だけは勘弁してくれ!
あと、女の子たちに許嫁を名乗らせて喜ぶ洗脳カルトおじさんだったっていうオチもやめてくれ! 頼むから――っ!
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