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11.三人の共闘

「……それにしても、ずいぶん使い込んでますね」


 少女の身につけている装備を見て、サクラは興味深そうに言った。


「さっき爆発しまくったからじゃない?」


 鶏頭によって生み出された、魔宝石脈の連続爆発を思い出して、うっかりこぼれる本音。

 ただ言われてみれば確かに、少女の身に着けているものは古くてボロボロだ。

 そもそも格好自体が、戦闘用というより運動用のものを流用している感じがある。


「あはは。実はお金がなくて……装備は中古品だし、服とか靴も新しいものが買えないから……」


 少女は、少し恥ずかしそうに言った。


「この剣も、レンタル品なんですっ」


 唯一頼りになりそうな魔法石の剣も、一日単位の借り物か。


「それなら、もう少し装備品を安定させてから五階層に挑む形でも良かったのではないですか?」


 サクラは、もっともな疑問を投げかける。


「うち、お父さんが仕事できなくなっちゃって。借金もあるから、とにかくお金が必要なんです」

「そうなんですか」


 明るく元気な少女の意外な背景に、サクラが驚く。

 困ってるのは『個人的』にではなくて、『家族』の問題みたいだ。


「もうそんな状況が何年も続いてて。わたしはそれでも我慢できたけど、妹たちには同じような思いをして欲しくないから……そう思ってダンジョンに来ました!」

「それなら確かに、深い層を進んだ方がお金にはなりますね。ソロで行動している理由も分かります」


 家族のために、単身ダンジョンに来て稼ぐ。

 それは、なかなか大変なことだろう。


「なので、いっぱい仕送りできるようがんばりますっ」


 そう言ってギュッと両手を握ると、少女は笑ってみせた。

 語っている内容は過酷だけど、変わらず前向きなままだ。


「「「っ!」」」


 そんな中、突然視界に入り込んできた影に三人視線を向ける。

 そこには、二足歩行の大きな紅トカゲ。


「気をつけた方が良さそうです。あれは四階層後半で猛威を振るった強敵、サラマンダー」


 サクラの情報に、三人並んで臨戦態勢に入る。


「来ます!」


 するとこちらに気づいたサラマンダーは、一気に距離を詰めてきた。

 サクラは振り下ろされる爪を、バックステップで回避する。

 さらに踏み込み、続ける攻撃にも同様の後退で対応。

 するとサラマンダーが、勢いのままにブレスを吐き出した。

 一瞬で広がる、紅蓮の猛火。


「はあっ!」


 しかし迫る灼熱の炎を、サクラは刀の大きな振り上げ一つで斬り払う。


「すごい……っ」


 派手に飛び散る火の粉。

 風が吹き荒れるほど強烈なサクラの斬撃に、少女が驚きの声をあげた。

 サクラはさらに大きく一歩を踏み出すと、上げた状態だった刀を返して、斬り降ろしへとつないだ。

 見事な一撃に、サラマンダーが大きく飛び下がった。

 傷を負いながらもすぐさま体勢を立て直し、ジグザグの跳躍で俺たちを翻弄。

 急な高いジャンプから、爪を振り下ろしてくる。


「っ!」


 狙われた少女は大きな後方への跳躍で、この一撃をかわす。

 すると地面を叩いたサラマンダーはさらに接近し、両手の爪で連打を放つ。

 少女は手にした剣の表面に左手を添えて、これを防御。

 右、左、右と続く攻撃は強力だが、しっかりと受け止めてみせた。

 耐えるべきところは耐える、我慢強い見事な防御だ。


「ここは私が! 【稲妻】!」


 少女が固い防御によって生み出した隙を突く形で、放つ斬り抜けが決まる。

 たった一撃で、サラマンダーの体勢を大きく崩した。


「っ!?」


 サクラの速さと力強さに驚きながら、それでも少女は追撃を仕掛けにいく。


「それええええええ――――っ!!」


 振り下ろす魔法石のショートソードが直撃し、巻き起こる爆発にサラマンダーが跳ね転がった。

 俺は自然と、駆け出していた。


「……ダークロード様は、風の魔法もお得意でした」

「了解!」


 すれ違い際、サクラから小声で送られた言葉。

 俺は立ち上がったサラマンダーの懐に入り込み、手のひらを突き出す。


「【ウィンドストライク】!」


 放った風の魔法は、先行して小さな衝撃波を巻き起こした。


「「っ!?」」


 それを見たサクラと少女が、とっさに防御姿勢を取る。

 一瞬遅れて生み出された暴風は、サラマンダーを冗談のような勢いで吹き飛ばす。

 凄まじい速度で飛んでいった紅トカゲは、盛大な衝突音と共に岩壁に激突してめり込み、大きなヒビ割れを生み出した。

 それから型を抜いたかのように落下して、地面に倒れ伏す。


「お見事です……! 定番の魔法でも、他の使用者とはまるで威力が違います!」


 吹き抜けていく風に髪を抑えていたサクラが、歓声を上げる。


「すごい……こんな魔法、初めて見た……」


 一方少女は、唖然としていた。

 石壁に穿たれた穴からパラパラと落ちてくる石片を見ながら、呆然とつぶやく。


「とても良い連携で、攻撃ができましたね」


 確かに、三人での戦いも上手にできていた。

 俺も少しだけど、戦いの雰囲気が分かってきたのかもしれない。

 サクラは満足そうな笑みを見せると、一つ息をついた。そして。


「……宗一郎さん、そろそろ時間になります」

「え?」

「この後ダンジョン特区の方にも行かれる予定なら、この辺で一度引き上げないと、時間が取れなくなってしまいます」

「あ、そっか」


 ダークロードの『部屋』があると目されている特区。

 街の雰囲気を知るのもそうだけど、情報収集のためにも一度出向いておきたい。


「よし、俺たちは一度帰ろうか」

「はい」


 俺はサクラに確認を取ってから、帰還する旨を少女に伝えることにした。


「俺たちは、ここで一度あがるよ」

「え、あ、そうなんですか?」


 呆けたままでいた少女は、思い出したかのように振り返る。


「この後ダンジョン外で、野暮用があってさ」

「ヤボヨー?」

「他にもしておきたいことがあるんだよ」

「そうなんですね。私はご飯を食べながら、もう少し探索を続けようと思いますっ」


 そう言って自分で作ってきたのだろう、ラップに包んだ大きなおにぎりを取り出してみせた。

 家族のためだけでなく、レンタルの剣にも支払いがある。

 もっと稼ぎが必要なのだろう少女は、探索を継続するようだ。


「ここまで付き合ってくれて、助かったよ」

「こちらこそ、助かりましたーっ」


 遠城宗一郎としてのダンジョンは始めてだったけど、この子がいてくれたおかげで、緊張することなくダンジョンを進めた気がする。

 そういう意味では、すごく助かった。


「ダンジョンは危険ですから。くれぐれも気をつけくださいね」

「はいっ、ありがとうございますっ!」


 少女は笑顔で応えて頭を下げると、元気いっぱいに走り出して――。


「「はいストップ!」」


 当然のように魔法石脈の上で加速しようとしたところを、つかんで止める。

「てへへ」と笑いながら慎重に歩き出す少女に、俺たちは再び笑みをこぼした。


「心許ない装備で、こんなところまでたった一人で来て…………報われるといいですね」

「ああ、そうだな」


 いつまでもブンブン手を振っている少女を応援するように、手を振り返す。

 見送るサクラの目は、すごく真剣だった。

お読みいただき、ありがとうございました!

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