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ナイトメアフィルム ~屋上の惨劇~  作者: 結城智
第一章 暗室撤去、兄死亡のお知らせ
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第1話 平和な日々を

 いつもと同じ日常。今日も授業を終え、ホームルームのあと班ごとに分担された掃除をする。

 今週の担当は廊下。掃除用具入れから箒を取り出し、床を掃いていく。


 僕の名前は夏目凪人なつめ・なぎと、十六歳。高校二年生だ。

 成績も運動神経も平均。容姿もごく普通。特別イケメンと言われるわけでもなく、かといって「キモい」と言われることもない。女の子からは「夏目君って、柴犬みたいだね」と評されるくらい。まあ特別かわいいわけでもなく、今でいう草食系。人畜無害な存在として扱われていた。

 周りからは「穏やかだね」と言われる一方で、無関心すぎて「何考えてるかわからない人」と噂されることもしばしば。


 ……誤解されたくないから言っておくが、ボッチではない。親曰く、僕は事なかれ主義でありながら外面が良く腹黒いらしい。だからコミュ力は人並み以上にあって、休み時間に話す相手もいれば、給食もグループで食べている。ただし、それ以外のプライベートな時間は、誰とも関わらないようにしていた。


「おーい、凪人」


 箒を動かしていると、背後から名前を呼ばれた。聞き覚えのある声だ。僕は振り返らずに掃除を続ける。


「おい。なんで無視するんだよ」

「ああ、ごめん。気づかなかった」


 面倒になって、僕は嘘をついた。


「嘘つけ。お前、耳いいだろ」


 ……やっぱり速攻でばれる。やれやれ、と振り返ると、そこには同級生の姿。


 桐生駿太郎きりゅう・しゅんたろう

 感情をあまり表に出さない僕とは対照的に、明るくサバサバした性格。爽やかな印象を持つ男だ。

この前の健康診断では「あと三センチで一八〇行く」なんて言っていたから、たぶん身長は一七七センチ。サッカー部のエースで次期部長候補。ポジションはFW。顔もイケメンで女子からモテる。告白されたという噂もよく耳にする。――本当、死ねばいいと思う。


「なぁ。サッカーしようぜ」

「しません」

「おいおい。俺は何回誘えばいいんだよ」

「僕は何回断ればいいのかな?」


 売り言葉に買い言葉。……もういい加減にしてほしい。放課後に顔を合わせるたび同じことを言われる。すでに半分、挨拶みたいになっている。


 僕と桐生は中学時代からの付き合いだ。僕も当時はサッカー部で、同じチームでプレーしていた。とはいえ、点を取る桐生のFWに対して、僕は相手からボールを奪うボランチ。地味で泥臭いポジションだった。


「あーあ。凪人が戻ってきたら、全国大会に行けるのにな」

「全国? 昨年サッカー部は何回戦まで行ったっけ?」

「地区大会の準決勝で負けた」

「おいおい。僕はメッシじゃないぞ」


 県大会にも出場できていないのに、いきなり全国? ハードル高すぎだろ。


「なぁ。高校でも凪人はサッカー部に入ると思ってたのに」

「そう、期待に応えられなくて悪いね」

「ところで今、何部だっけ」

「帰宅部」

「なんだ。それならサッカーしようぜ」

「しません」


 会話はいつも平行線。このやり取り、三年生まで続くのだろうか。そう考えると、頭痛がしてくる。


「サッカーじゃなくても、やりたいことあるだろ」


 ……今度はいらん詮索までしてきた。お前は僕の母ちゃんか。


「別に、やりたいことなんてないよ」

「でも、鞄にカメラ入ってるんだろ? 興味あるんじゃないのか」


 途端、胸がドキリと高鳴った。……なぜ僕の鞄にカメラが入ってることを知っている?


「そんな露骨に嫌そうな顔すんなよ。まさか……いかがわしい写真撮ってるんじゃないだろうな?」


 げっ、と桐生は身を引き、ドン引きした顔を見せる。


「ああ、そうだよ。実はいかがわしい写真を撮ってるんだ。だから詮索しないでくれよ。恥ずかしいじゃないか。グヘへへ」


 否定するのも面倒なので、適当に促した。この場面から逃げられるなら、変態キャラになってもいい。


「じゃあさ、写真部に入ればいいじゃん」


 気づけば、普通の会話に戻っていた。

 僕の変態キャラはスルーされるオチですか。しつこいのも大概にしてほしいが、スルーされるのもやめてほしい。まるで僕がバカみたいじゃないか。……まあ、バカなんだけどさ。


「この学校に写真部はないよ」

「えっ、そうなの? じゃあ作ればいいじゃん」

「なんで僕がそんな面倒なことを。そもそも新しい部活を作るには、申請時に四人以上部員が必要で、顧問になってくれる先生もいなくちゃいけないんだ」

「へぇ。やけに詳しいな」


 桐生が目を瞬かせる。僕はしまった、と思った。

 そのまま瞬いている目を潰してやろうかと考えたが、後ろから「桐生君!」という声が飛んできた。

 振り返ると、クラスメイトの女子が歩み寄ってくる。僕は腕を下ろした。……援軍が来たようだ。命拾いしたな、桐生。


「また掃除サボって。ダメだよ。夏目君とイチャイチャしたいなら、掃除終わってからにしてくれる?」


 女子に叱られ、桐生は「あはは」と笑って頭を掻いた。


「わりぃ、わりぃ。そうするわ」


 いやいや、そうしないでくれ――と睨んだが、桐生は相変わらずヘラヘラ笑っていた。

 やれやれ。せっかく平凡な人生を歩んでいるのに、桐生の奴が邪魔してくる。……早いうちに目潰しでもしておかないと、今後さらに面倒になりそうだ。


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