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8話 こんな日だってあって。

もしかして、グロ注意かもしれません。雀肉の焼き鳥を許せんという方には申し訳ありません。


 ソロ冒険者であるレンツォは基本的には一人で行動している。

 主に請け負う街中での労働依頼などはパーティを組むまでもない。大異界であるエトナ山中でも、独り歩きを認められていた。

 それは彼が鉄位階。錬鉄の士であるからで、シシリアの錬鉄はエトナ火山中層からでも帰還可能な実力があるとされる冒険者にしか認められていない。

 つまり、彼は結構強かった。低層の獣に遅れを取る事はなく、中層で狩猟に励んでも、いざという時には離脱が可能である。そう評価されている。


 しかし、それも装備と準備を整えて、中層へと登った場合に限った。

 ここは大異界、霊峰エトナ火山低層。

 人類種による攻略は完了しており、必要性に拠り、準植民地化している広大な山麓であった。



「おいおいおいおい。なんで、低層に熊が降りて来ていやがるっ!」


 盾と斧とを打ち合わせながらも、つい、叫んでしまう錬鉄の士であった。

 この場合の熊とは、エトナベアを指す。名前の通りに熊型の霊獣であった。

 エトナベアは巨大な霊獣でもある。通常のヒグマと比べ、体高は二倍、体重は五倍にも達する。エトナ中層においては、生態系上位種に位置した。


「レンツォの兄貴っ! 今の熊はマズイっす!」


 叫ぶのは彼だけではない。現在のパーティメンバーでもある若者達もだ。出鱈目に弦楽器を掻き鳴らしているバールのマスターの孫と、謎のシャウトを続けている、残る二人の仲間達である。


「判っている。警戒をしながら、撤退するぞ。最優先は、組合への報告だ」


 強大な霊獣であるが、厄介さにおいては、レンツォが以前相手取った、ハンノキの王。こと、アールキングの方が上とされている。

 だが、それは通常での遭遇時の話であった。

 装備と準備を整えた、中層での遭遇時での話だ。低層の探索をしている今は軽装であり、武具こそ変わらぬものの防具は軽装となっている。

 熊は臆病な生き物で、この様に普段ならば大音などを避ける傾向にある。その為に態々叫びながらも鳴り物を掻き鳴らしているのだ。

 熊避けの効果は確かにあった。


「うわっちゃ……。やっぱり、子持ちっすね」


 また、同じく霊獣であるエトナボアとは異なり、人類種に出会したとしても、理性を失い、直ちに狙い襲う様な凶暴さはない。

 だが、この春から初夏に掛けてにある出産期ではマズイ。子持ちの熊達は繊細で、警戒感からか非常に凶暴だ。危険と見れば脅威の排除を躊躇後事はない。

 そして、ここは『異界常識』、『機巧制限』のない低層である。


「鼻を、ヒクつかせてますね。警戒しまくりです」


 目の良い少年が、引き攣りながら伝えてくれる。小器用で投石や弓の扱いにも長ける彼だが、低層においては狙い、撃つ。それだけでも強力な火力が期待出来る銃を主に携行している。


「ゆっくり、退がるんだ。すまないが、熊の動きは逐一報告してくれ」


 そしてそれはレンツォも、他の二人もだ。

 遠距離攻撃は戦術として優秀なのである。相手の攻撃の届かない、あるいは認識もしない遠くから攻撃を仕掛けられ、屠れるのであれば、それは勝ち筋だった。


「大丈夫です。小熊が鳴いているんで、母親は気が立っていますが離れる気はなさそうです」


 熊に限った事ではないが、エトナに棲まう霊獣達の多くは火薬の匂いや、毒物の臭いを嫌う。嫌うからこそ敏感だった。そしてそれらに対し容赦をしない。見つければ、破壊しようと荒れ狂う。

 つまりは今はまだ動いていないというのも、まだ詳細な脅威の位置までは把握していないだろう事が察せられた。


「父親は、周囲にはいなさそうです。逸れかも」

「確かか?」


 だからこそ、気付かれる前に撤退するのが肝要だった。熊との間には森があり、小川も流れている。遮蔽物も多くあり、直ちに襲われる事はない。その明確な有利を得られているのは、彼の眼のおかげである。


「大丈夫っす。兄貴。コイツのスケベ眼に、見透せぬ物はねぇっすよ」


 スケベ眼とは透視の魔眼の蔑称である。

 そう。蔑称であって、決して別称ではない。この魔眼はやや遺伝性の異能と似ており、発現し易い血族などがあったりもする。

 今回の様に見通しの悪い、視界の遮られた場所などではかなり有用な技能であった。

 特に斥候や狙撃手などとの相性が良い。発動時にサファイアにも似た美しい輝きを瞳へと灯す事から、正式名称を青玉の魔眼と呼んだ。


「ふ……。俺の魔眼を以てすれば、女子の下着の色など、全てまるっとお見通しよ。森の中程度、見通せぬではないわ」


 渾身のドヤ顔を晒す少年。そういうしょうもない事を好むので、この使い手達はスケベ眼などと呼ばれるているのだ。糞餓鬼であった。


「程々にな。で、状況は?」


 昔は魔眼の発現を秘していた彼である。学園在籍時においては同級の女生徒達の下着の色や形状を詳細に発表し、それが事実であると証明する為に、スカートめくりを日課としていた。

 女子の学園制服はスカートである。風と水の術式をそれなりに得意とする彼には容易い事だった。

 どうしようもない、エロ餓鬼である。しかも、周囲の悪餓鬼共も彼の所業を『偉業』と呼んで、『勇者』や『英雄』などと誉めそやすものだから堪らない。実にどうしようもなかった。

 そんな彼だが、既に一端の冒険者。若木としても経験を積んでいる。キリリと顔付きを引き締める碧眼の彼は宣った。


「熊が、顔を逸らしました。安全圏です」


 割と精悍で整った顔付きなので真面目な顔をしていると、それなりに様になった。普段から瞳が蒼いので魔眼使用中でも悟られる事などあんまりないのだ。

 変態は繕ってこそだった。


「いよっしゃ!」


 叫ぶバールのマスターの孫達。緊張が解けたのか、力を抜いて安堵する少年達であった。だが、すぐにまた表情を引き締める。


「報告は、兄貴だけでも大丈夫っすよね。俺達はここいらの冒険者達なんかに伝えてきますよ」

「機巧兵団には、俺が行きます。親父もいますしね」

「俺は牧場や農場へ、知らせてきますよ」


 彼等もバールのマスターが言う様に、社会人としての自覚が出来てきたのだろう。

 今、自分達に何が出来るのか。それを考えて、選べる大人の顔だった。レンツォもつい、嬉しくなってしまう。


「どいつもこいつも、一端の顔付きになりやがって。こりゃ俺も、うかうかしてられんな。行くぜ」


 パーティメンバーの役割分担は決まった。

 ならばリーダーとして、先輩として、確りとこなそう。

 そう誓うレンツォだった。




 エトナ低層での熊出現の報告は速やかに伝達された。

 機巧兵団による防衛線が引かれ、狩猟や探索にも一定の規制が敷かれた。だが、それだけだった。


「危険なんなら、山狩りでもなんでもすれば良いってのに、組合もまだるっこしいっすよね」

「そう言うなって。広いお山に熊がいるかもってだけじゃ、こんなもんだろう。出会す確率だって、低いんだから」

「一応、山一つは封鎖して、注視する様だけどな。流石にそれで限界だと思うぞ」


 対応の温さに不満を垂らすのはマスターの孫で、それを嗜めるのは牧場へ駆けた少年である。機巧兵団に所属する狩人の息子も、嗜める側の様だった。


「つっても、山を登り降りしただけで、俺達、何の稼ぎもなかったじゃねーか」


 唇を尖らすのは少年。バールのマスターの孫だ。

 安いがアルコールの強い蒸留酒を炭酸水で割り、一息に呷るレンツォはパーティメンバー達と共に街中の飲み屋に来ていた。

 飲み屋というには正確でない。酒も出す、焼き鳥屋である。

 大半のメニューは安くとも、ありきたりな品である。質は悪くないが値段なりでもあった。しかしこの店は、懐かしい料理を置いている。

 レンツォは同郷の先達の営むこの店が、まだ屋台であった頃からの常連であった。


「まぁ。そう言うな。それに、こういった報告を怠らずにしておけば、組合にも覚えが良くなり、査定でも有利に働くものさ。言っちゃなんだが、お前らはまだ親元で、食うに困るでないだろう? 金欠くらい、なんて事はないさ」


 つってもよぉ。と、更に唇を尖らす少年だ。彼の気持ちも判らぬではない。何も冒険で、一攫千金を狙いたい訳ではないのだろう。

 だが準備をし、勇んで来ておきながら獲物のない、俗に言うボウズであるのを頂けないと思うのは無理からぬ事だった。


「こういう時に切り替えが上手くいかないと、気持ちが居着いて、伸びなくなるぞ」


 居着くとは、動作や意識の不連続性や、すべきでないモノへの執着を指す。元は武術における専門用語で、解釈も様々であるも今や一般的な言葉となっている。

 未練や欲といった強い感情は眼を曇らせる。曇った眼では良い動き、理想へと向かう道も途切れようというものだ。

 そういった精神状態への戒めとして、『居着く』な。などとも使われている。戦闘講習でも、口酸っぱく注意されるものだ。

 それでも、彼が憮然とするのは若さ故なのか。


「へい。お待ち。ご注文の雀串、焼けやしたぜ!」

「きたー!」

「待ってたぜ!」


 そんな彼も途端に機嫌が良くなった。泣いた烏がもう笑う。というものか。狩人の息子と二人して、席へ届けられた串皿へ歓声を上げた。


「うへぇ……。よく、食えるな……」


 牧場などに走った彼はごく普通の商家の息子である。体格も良く、顔も厳ついが気は弱い。

 庭いじりや手芸が趣味な、真面目な少年だ。パーティメンバーの内、彼だけはこの雀の姿焼きが苦手であった。

 雀はどこにでもいる野鳥で、主に穀類を食す。

 身体は小さく、危険はない。見た目も地味だが姿形は愛らしく、時として、愛玩用に飼育する者もいた。この彼もそうだった。

 しかして大陸諸国においてはこの雀。害鳥認定がされている。どこにでもいて、数が多く、麦や稲を食い荒らすからである。

 イラーリアは特に敵視していた。せっかく実った稲穂を啄みに来るのだから、さもありなんであった。

 彼女は三千世界を憎き雀共の血で染め上げてみせましょう。などと、大変勇ましい事を言うのだが、そんな真似、出来る筈もなかった。

 精々が巨大レンツォ人形と名付けた、おかしな巨大案山子を作成する事しか出来ていない。ただデカイだけであり、役に立っていなかった。

 近頃では案山子へ雀達は巣を造り始めており、彼女はあの間延びした声音でぷんぷんとする事しか出来ないでいる。

 何せ、愛らしい雀に絆されてしまっている。お米好きに悪い人はいません。たんとお食べ。などと言っていた。これでは、駆除など出来る筈もなかった。

 心優しい力持ちである彼も、ある意味では彼女の同類だ。雀を食べるなど、とんでもない蛮行であるのだと思っている。

 だが、穀倉地帯でもあるエンナの農家で育ったレンツォの雀への思い入れは少々異なる。美味しい思い出しかなかった。


 腹を空かせていた餓鬼の頃。肉は貴重なタンパク源であった。無論、エンナでも牧畜や養鶏は盛んだ。

 だが、それらは販売直前に捌かれる。生きたまま市場へと連れて行き、セリの直前に処理された。これは鮮度維持の為であり、また一種の利権の為でもあった。

 そしてエンナの農作物。穀物類に青果物や果実類においては、市場の使用料金や手数料などが掛からない。反して、家畜などには通常通りの経費を要した。

 なのに何故。食肉用の家畜を育むのか。

 それは利益効率が高い為である。価格安定法の庇護下にある農作物は需給の兼ね合いにより、価格抑制されていた。

 これは行政による施策であって、破れば重罪となる。その為に、経費負担も税もなくとも、市場では農作物のみでは利益が出しにくかった。

 特に近年では肥料や重機のみならず、人件費なども高騰している。

 そこで割の良い現金収入の当てとしての、規制の少ない家畜であった。規制が緩いので需給が噛み合いさえすれば、その価格は青天井だ。

 エンナは水も土も良く、飼料も自慢の農作物が用いられている。当然の様に、最高級の飼育環境が整えられていた。

 エンナ産の食肉用家畜はシシリアのみならず、大陸内でも屈指の最高級ブランドとして名高かった。

 そんな高級品を常食するなどとは、とんでもない事である。祭りや祝いなどではともかくとして、普段の食事で並ぶ肉類は寂しい量となる。

 食べ盛り、育ち盛りの子供達が更に肉を求めればどうするか。家畜に手は出せない。産業の必要性により、地上には野良なども殆ど見なかった。

 と、なれば。虫か、空を駆ける野鳥くらいしか、いない。しかも害鳥である。子供達が満足を得る為に狩る事など、当然の話であった。


「良いタレを使っているが、やっぱ肉質が、上質なんだよなぁ」


 言いながら、雀を頭からバリバリと食うレンツォを商家の息子は頬を引き攣らせて見ている。彼は鳥モモ肉に齧り付いて、エールをラッパ飲みしていた。


「この、ゴリゴリってした食感が、ちょっと癖になるぜ。脳味噌うめぇ」

「骨を潰しているからか、小骨も気にならないんだよなぁ。虫と違って、ガジガジしてないのも良いし、食い出もあるよな」


 バールのマスターの孫に偏食はない。狩人の息子は山登りでの非常食には嗜みがあった。彼等に抵抗は無く、当然ながら頭から、モシャモシャと貪っている。


「タレの甘辛さが、酒に合うんだよっ!」


 ヤケクソ気味の少年が、肉の旨さではなく、タレの旨みのおかげであると主張していた。


「へっへっへ。そりゃ、自慢のタレだ。褒めて貰えて嬉しいぜ。だがなぁ、ウチの雀肉は、質が自慢よ。お待っとうさん。雀串の塩四本。焼き上がりだぜ!」


 大将が皿を掲げてやって来る。身体も声もでかかった。この店。結構な繁盛店な為に二人の従業員を雇っているが、この雀肉の塩だけは必ず彼自らが持って来る。強い拘りがある様だった。


 え? 俺も? という顔付きの一人を除き、三人は盛り上がる。


 雀肉の塩はこの焼き鳥屋、『ドゥラータ』の名物だ。野生を丸ごと味わう。

 この塩串焼き。心理的抵抗感も手伝い、あまり食い出もあるものではないので人気がなかった雀肉を見直させた逸品だった。


「いっただきまーす!」


 蒸留酒の炭酸割りで口の中を洗ったマスターの孫が齧り付く。狩人の息子も同じくだ。

 甘辛いタレに慣れた舌では、もったいない。レンツォも同じくして、雀肉へと齧り付いた。


 ——バリバリとした骨の硬さは気にならない。臭みは強くなく、されど確りとした味わい。野生を際立たせる塩の甘味に、仄かに薫るのは山椒の実。内臓や、筋に僅かに残る苦味を取り払いながらも全体を調和させ、一体感を与えている。これこそが、野の料理。香辛料と火により与えられし、野生そのままの味わいだった。


「こいっぁ、すげぇ。俺は初めてなんだが、こんなにも違うのか?」

「おっ! 判るんかい。かなり良い舌だな。会心の肉質だぜ」


 狩人の倅の賛辞に、得意げに応える大将であった。

 何でもこの雀肉。生きたまま捕らえ、捌いているらしい。怪我などさせず、暴れもさせず、恐怖すら覚えさせずに必要な処理をし、生きたまま。それに近い状態で調理し始めるそうだ。

 この味はそうでもしないと出せないらしく、大将の『師匠』から伝えられた業であるのだと、自慢気に語られた。

 この話。レンツォは昔から聞かされていたので別に驚きも興味もない。懐かしい味へ舌鼓を打っている。だが、少年達は別の感情が働く様だった。


「おやっさんにも、師匠がいるんか?」

「応よ。つっても、文通の遣り取りしか、してねぇけどな。それでも、学び、近づきたい。業を盗みたいと思えたなら、立派な師匠よ。お前らも、そういった人を見つけるんだぜ。……まぁ。言うまでもないが」


 若造供を、モノになる様にしてやれよ。そう大将の表情は語っている。つまり、それは信頼だ。お前ならば出来るという、期待でもあった。


「まったく。そういった役割は、もっと適任がいるでしょうよ。凡人の俺に、背負わせ過ぎですって」


 実際に、レンツォより上の者など掃いて捨てる程にいる。『英雄』や、『化物』達になど、何もかもが遠く及ばない。それでも出来る事を、何も諦めたくはなかった。


「まぁ、あれっすよ。俺達みたいな凡人にゃ、兄貴くれぇに地味なのが、丁度良いっす。これからも、宜しくお願いしますっす」

「地味言うな」


 拳骨を一つ落としてやれば、派手! 良い筋肉! 体が土臭い! などという、口先だけの賛辞が口々に叫ばれる。賞賛のつもりであろうが、別にそれらは褒め言葉などではない。一応は義務教育を修了していて、これだった。


「なぁ。お前ら。もう少し学問も身に付けような」

「じゃ、あの絵物語貸してくれよ。錬金術師のやつ」


 絵物語は娯楽用の書籍であり、絵による直感的な描写と、平易な言語表現が特徴だ。読み易く、飽きさせない様な描き方をされている。

 内容は簡単なものであるが、入門用には悪くない。彼等の様に学園教育で落ちこぼれた者達の学び直しの切っ掛けとしては、充分な内容である。

 取り零さぬ様に、誰もが一定の教養を身に付けられる様にと、学園側も努力している。だが、現実には彼等の様に落ち零れる者達がいた。

 それは時間や金銭的な制約や都合であったりする。はたまた、人同士の相性問題からのものであったりで、様々で複雑だ。

 そして、それは決して放置していても良い事ではない。ならば、大人として、先達として、レンツォに出来る事とは。


「おら。敬語。崩れてるぞ。目上の相手には、出来るだけ敬語を使え。それだけで、余計な諍いは避けられる。あと、お前のは敬語じゃないからな。ちゃんと、学べ」


 かつては少年であった彼は知っている。心配よりも、信頼の方が嬉しいモノであると。ならば、託して任せるのみ。


「帰り道に、貸してやんよ。ただ、明日も早いだろうし、夜更かしは程々にな」

「承知の介でやんすっす」


 怪し気な敬語であった。今はまだ、それで良い。人それぞれに、見合った歩みはある。学ぶ意欲も、努力への気概もあるのなら、心配よりも、信頼しよう。


「俺にはあの、女の子が可愛いヤツを貸してくれ」

「俺は、動物モノが良いな」


 それは、三人ともにだ。判った。判った。なら、遅くなる前に、帰るか。そろそろ勘定するぞ。と言ってやる。狩人の息子には、汚すなよ。と釘を刺し。


「大将。追加に一杯ずつと、串盛り四つをお土産で。それで、お勘定をお願いします」


 まだ成人を迎えていない彼等にも、家族はいる。

 冒険者は自己責任。そんな言葉もあるが、危険の伴う仕事である。家族は心配するだろう。

 幸いにして無事帰還こそ出来たが、何の成果も得られなかった事実に変わりはない。

 ならば、せめて。ほんの少しの満足感を。

 家族と共に食事を摘めば、大いに英気は養われよう。これは、そんな気遣いだった。


「なぁ、兄貴。次は、もっと冒険しようぜ」

「無理や、無茶はしない。だけど、少しでも」

「やれる事。行ける場所を増やしていきたい。アイツも一緒に」


 マスターの孫が、首飾りを握り締めた。他の二人も同じくして、首飾りを握り締めている。レンツォも、首飾りを握り締めた。いずれも、冒険者証を下げた首飾りであった。四人のそれには、あの少年の、遺骨の一部が入れられている。


「そうだな。俺ら五人パーティで、行ける所までな」


 言っては何だが、彼等は別に才能溢れる若者ではなかった。自覚もあるのだろう。

 学園を退めた彼等は手に職を付けるべく、早々に勤めに出ている。

 冒険者一本で、生きてゆけるのはほんの一握りであった。


「おまちどぉさん。お土産の串盛り四つ。焼き上がりやしたぜ。お勘定は。——確かに。頂きました」


 大将がお土産の串盛りを運んで来た時、一つだけを除き、四人それぞれの杯は既に空いていた。酔いが回るでない。程よい加減であった。


「ごちそうさん。また来るよ」


 別れの挨拶に、焼き鳥への賛辞を乗せた少年達と共に店を出る。大将も一緒に表まで出ていた。


「またのお越しを、お待ちしてやすぜ。『432』の五名様。良い冒険を」


 パーティ名『432』。その値は五角形における内角の総和の内、四つの和を意味するものだ。登録されたこの名には、彼等三名の想いが込められている。

 少年達、四人の元のパーティ名は、正方形を示す言葉、『スクエア』。

 現在のパーティ名はそこに一人を足して、そして、一つが欠けた事を表している。実に若者らしい、拘りではないか。

 大人の立場としては、いつまでも悲しみを背負っていては欲しくない。とも思う。

 だけど、彼等はそれでも。と、重荷を抱えても歩み続ける。ならば矢張り、応援してやりたいし、信頼していたいとも思うのだ。


「おーし。帰るぞ」


 誰かが言っていた。日々の生活こそが、最も困難な『大冒険』であるのだと。正直に言えば、眉唾な、世迷言である。だが、それでも。


「今日も一日の大冒険、お疲れ様。明日からも、良い冒険の日々を祈るぜ。そうあれかし」


 なんでもない日々だからこそ、そう大声で言いたくもなるものだ。

 それはレンツォだけでなく、三名の少年達も、焼き鳥の大将や客達も、そして、街行く人々さえも。


「良き冒険の毎日を。そうあれかし」


 足を止めて、祈るのだ。カターニアは冒険者の街であり、住民もノリと勢いで生きている。それは専業の者も、兼業の者も、非凡な者も、平凡な者も。老若男女の区別なく。

 ただ、そうあれかしと。

 

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