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21話 庶民様は働きたい。かもしれない。


 お読み頂け、感想、評価、お気に入りありがとうございます。

 とても嬉しいです。


 朝も早くから冒険者組合へと来ているレンツォだ。

 別に珍しい事ではない。いつもの事である。

 ここ暫くは所用で忙しく、仕事をあまり請け負っていなかった。

 漸く日常が落ち着きを取り戻したので、そろそろ仕事に励もうと来ていた。懐も寂しいし。


 

「どうしたもんかなぁ……」


 依頼票が置かれた掲示板の前でぼやいた。他に人はない。あまりこの早朝の時間から組合へ訪れる冒険者は多くなかった。なので、依頼は漁り放題である。

 この収穫祭も終わり、秋から冬へと変わり行く季節では仕事も数多い。

 公共工事も盛んであるし、年末から年始にかけての時期は祝祭なども数多い。

 年末には救世主の生誕祭などがあるし、年始では新年祭もあった。そういった催しでは財布の紐も緩むので、商家としても稼ぎ時である。余暇として楽しむ者も多い分、稼ぎ時とする者達もいるものだ。

 探せば仕事は腐る程にあった。


 だが、ここに来てレンツォは一枚の依頼票も手にしていない。中々丁度良い依頼が見つけられてないからだった。


「随分と不景気なお顔だね。旦那。デカイ図体で突っ立っていられると、仕事の邪魔だよ。お退き」

「おう、悪いなエルヴェンタ嬢。そっちの依頼票に、何か良い仕事はないか?」


 結構身も蓋もない態度であるのは冒険者組合の受付嬢であるエルヴェンタ。

 色々と複雑な背景のある彼女であるが、今は組合職員としてカターニアに居着いている。


「選ばなければ、いくらでもあるさ。売り子に催事の誘導員、年末会計の手伝いに、生贄代行なんかもね。どれも、早い者勝ちだよ」

「うーむ……」


 レンツォが仕事を見つけられないでいるのは手頃な肉体労働があまりないからだ。

 この年末にかけての公共工事などは事前に人員の募集をしておき、研修を経て労働が始まった。

 期間を定めた事前登録制である。

 仕事が途切れず安全で、報酬も悪くないので人気があった。三馬鹿達も登録して労働に勤しんでいる。

 レンツォとて去年迄は幾つかのそういった依頼に登録し、引き受けていたりもした。


「事務仕事や客商売なんかはキツイしなぁ……」


 今年は登録しそびれている。そうすると他の仕事となるのだが、今口にしたような仕事は苦手分野であった。忙しい時期にあまり働きがないでは悪いからな。などと考えている。

 というのは建前で、あまり気が進まないだけだ。

 依頼票を眺めていれば、肉体労働なんかもまったく無いではない。

 だが、紙や木の依頼票に載るそれらは若者向けの仕事であった。

 学園は冬場においても長期休暇がある。

 この時期の単発の労働などは、その間に勲功や経験を積ませるのが目的の依頼であった。

 それに中堅やベテランが手を出しても、あまり良い顔はされない。目的に反するからだ。

 カターニアは冒険者達の街であり、そういった若年層からの冒険者教育によっても成り立っている。

 経験からそういった事も知っているので、手出しはし難かった。


「とすると、仕事が無いんだよな……」

「適当にお山にでも篭れば良いじゃないさ」

「冬のお山なんて、態々向かうもんじゃねぇよ」


 山での採集なんかの依頼は常時出ているもので、それなり以上に仕事があった。

 だがこの街カターニアで山といえば、大異界霊峰エトナ火山の事である。自然厳しく過酷な環境を有し、日々新たなる山脈や山麓が生まれている。

 低層といえど、冬場の山は危険であった。

 気温や天候は不安定であるし、季節柄、遭難や雪崩に巻き込まれる事もある。霊獣達の活動も減って、獲物を探すのにも一苦労であった。

 基本的に危険が多くなり、旨味は減る。

 こういった理由から、中堅冒険者達は冬場の山を避けがちだ。

 良い季節の時に霊核や素材なんかを貯め込んでおき、ちまちま冬場に放出する冒険者達も少なくなかった。そのお陰で、素材なんかは通年で安定供給されている。


「旦那もいよいよもって紐みたいになってきたねぇ」

「紐言うな」


 この状況、大半はレンツォ本人の意識による問題であるのだが、切っ掛けは中級冒険者である銅位階への昇級と、イラーリアの騎士となった事にもあった。


 銅位階の社会的立場などは置いておき、家付きの騎士である。家付きという事で、家の仕事を手伝う事が義務となる。

 アルトベリ男爵家に特別な仕事はない。強いて言うならば稲作であるが、イラーリアはレンツォの自主性に任せている。

 稲作農家は冬場でも、土を耕したり衛生環境を整えたり、道具の整備をしたりで、準備としてもそれなりに多忙である。

 とはいえ前男爵ご夫妻も壮健であるので、そう人出は必要なかった。

 それは日々の生活周りなどでも変わらない。特段にアルトベリ男爵家での仕事はないのである。

 なので、基本的には自由であるのだが。


「お嬢さんも忙しいからねぇ。変に見栄なんて張ってないで、キリキリ働きなさいな」


 そう笑い、エルヴェンタは去ってゆく。

 彼女には組合職員としての仕事があり、あまり無駄話に突き合わせても仕方がなかった。

 受付としての本格的な仕事は定時開始であるものの準備は必要である。その為に彼女達は朝早くから出ていた。

 『公共の華』などと呼ばれる事もある冒険者組合受付達はそういった地味な仕事はも疎かにはしないものだ。奥では忙しなく立ち働く職員達の気配があった。


「その日暮らしって訳にもいかねぇよなぁ……」


 嘆息が漏れる。実の所、そういった準備などこそが現状の元凶であった。


 正式な叙爵は年明けであるので、イラーリアはまだ女男爵ではない。それでも各所へ顔を出したり挨拶回りをしたりで、多忙であった。書類なども提出しないとならないし、年末には税申告などもある。

 あちこちへ飛び回る必要があって、その予定も急に変更となる事だってあった。誰もが忙しい。

 そして騎士の務めとしては、主人への随行などがある。イラーリアの騎士となったレンツォは護衛も兼ねてであるが、彼女に付き従う必要があった。

 主人ご本人は、「別に大丈夫ですからー」などと言うのだが、そういう訳にもいかないものだ。

 心配であるし、社交へ付き従わぬ騎士では主従共に面目が立たない。レンツォには拘りがあった。


 そうやって予定が立たないので、期間の定めのある大型労働依頼などへの登録は見送っている。


 そしてもう一つ。大きな問題があった。


 主従の嗜みとして、家付き騎士の生活の一切は主人が見る事となる。衣食住などの事だ。

 当然、イラーリアも習慣に従った。

 

 着る物などを贈られて、外出の際に必要ならば、身嗜(みだしな)みも整えて貰っている。

 朝晩の食事に加え、配達可能な場所ならば昼食も届けてもくれていた。

 レンツォの住む旧アルトベリ男爵邸の寮費は無料となった。

 入り用になった時にでもと、少額ではあるが日々小遣いも渡された。


 生活に、金が掛からない。欲を出せばキリはないのだが、最低限の生活を送るのにまったく金が掛からなくなっている。騎士であるので。

 この環境が良くない。生活費稼ぎの為にガツガツする必要がなくなって、労働意欲が湧いてこない。

 そこそこ満足してしまっている。


 小遣いだけでは飲みに出るには寂しいが、レンツォだって貯蓄くらいはある。充分に賄えた。

 装備なんかを整える場合も申告しなければならなくて、それらの費用も主人から出された。

 それだって戦闘になる様な依頼を受けなければ、あまり頻度はない。

 季節柄、若々しい少年少女達が瞳を輝かせて依頼を選ぶ姿を見るので、手頃な依頼には気が引ける。

 なので、朝も早くから冒険者組合へと来ていても、仕事もせずに帰る日が増えていた。


 これはマズイぞ。と思うレンツォだ。

 計らずともエルヴェンタの言う様に、紐となってしまっている。

 仕事もせずにプラプラしている訳にもいかなくて、鍛錬や学問に空いた時間を充てる事となった。

 これも以前にはなかった事だ。そういった自己修練は日銭稼ぎの後に行っていた。

 自由に使える時間が増えたので、鍛錬などには手応えもあった。決して無為に過ごしている訳ではないのだが、なんとも言えない気持ちが生まれている。


 とはいえ、これらはレンツォの気持ち一つでどうとでもなる事である。

 選り好みせずに請け負って、働きに出れば良い。失敗しようが、依頼人には想定内であった。

 遠慮などせず請け負って、働きに出れば良い。良い顔をされなくとも仕事である以上、必要だから依頼するのだ。

 効率が悪くとも、冬の山へ赴く冒険者は皆無でない。確かな目的があったり、戦闘狂などの厄介な連中である事もあるが、危険かつ効率が落ちようとも経験にも稼ぎにもまったくならない訳ではなかった。

 

 そう思いながら、なんとなく甘えてしまっている。

 だが、これではいけないという気持ちもあって。

 

「おや、これはレンツォ殿。おはようございます。朝も早くからお仕事をお探しですかな?」

「これは、おはようございます。支配人殿。ええ、手頃な仕事が見つからず」


 声をかけられた。身形の良い中年男性であり、知らぬ仲でもない。彼は借馬屋ブッテラの支配人である。

 馬房の掃除や馬探し、他にも馬の世話やら解体などの労働依頼では良く顔を会わせており、それなりの面式があった。


「ふむ。ならば、家の依頼はいかがですかな。私も依頼を出しに来たところでしてな。本日中での三頭の解体となりますが、如何です? 受けられるなら、指名としてもよろしいですぞ」

「請け負いましょう。指名は大丈夫ですよ」


 指名依頼は組合に仲介手数料が取られるものの、報酬は依頼人と冒険者間での交渉次第となる。

 個人の信頼を重んじる組合の方針から、実績への加点ともなった。仲介手数料は通常の依頼の五割増しからとなる。

 この方法、急ぎや『推し活』としては悪くないにせよ、レンツォの様に一般的な冒険者には好まれない。

 価格交渉をしなくてはならないので実入りが減るかもしれないし、交渉が面倒であるからだ。

 ましてや相手は商売人、値切られる公算が高い。丁重にお断りしておく方が無難であった。


 それに依頼申請後に依頼票の貼り出しを追えば、まず他に取られる事もなかった。

 ましてや家畜の解体依頼は若者達には人気薄である。

 良い経験になるのだが、学園でも学ばされる仕事であるので、あまり自主的に依頼として受理される仕事でもなかった。




「いらっしゃいませ。冒険者組合へようこそ」


 意気揚々と受付へと向かったブッテラ支配人殿であるが、エルヴェンタのお定まりの挨拶にだらしなく顔を綻ばした。機嫌良く、容姿などを褒め称える言葉を贈っている。

 対して彼女は事務的である。愛想は良いが、口説き文句の様な言葉をやんわりと躱していた。


 支配人殿が浅葱の風には出ていないのか。などと聞いている辺りとなって、レンツォも察した。

 彼も、常連のスケベ親父達の一人だったかと。

 良い歳をして、高級クラブ通いかい。儲かってんな畜生と。

 朝から歯の浮く様な気障ったらしい言葉を紡ぎ続けるおっさんを呆れながら見ている。指を見た。

 左手の薬指には契約の証が刻まれているので、どうやら独身ではない様だ。


 よくやるよ。と思ってしまう。

 婚姻の契約を結ぶと共に、偉大なる契約の御使メタトロンにより祝福が贈られる。それが左手薬指に刻まれる証であった。人によっては呪いであるが。

 これがある事で、既婚者の判別は容易であった。

 指を見れば済むからだ。なので普段の装いでは左手に手袋は着けないのである。

 この祝福だか呪い、不貞を戒め、貞淑の美徳を促すためにあった。


 だが、人の欲望というものに果てはない。

 彼の様にして、お仕置き(尿路結石)という危険を承知で立ち向かう、ある意味での『冒険者』だっているものだ。

 地獄の苦しみと判っていても挑まんとする『勇者』なのである。まったく尊敬は出来ないが、男として気持ちは判らぬでもなかった。


 なお、お仕置きがあるのは何も男だけではない。

 女にだって当然あった。直接的な苦しみがあるのではない。彼女達が不貞や不倫を働くと、契約の証である左手薬指の証が独特なものへと変わる。

 既婚者だけではない。未婚の者へも、その変化した証が刻まれる事となる。行いが、一目瞭然となった。

 左手指を隠すのも、そういう事をしてきた女だという主張となった。

 なので、大陸の人類種達はそれなりに貞淑であり、身持ちも硬くなるものだった。野心家達を除いて。


 とはいえ、支配人殿とエルヴェンタについては心配はいらないであろう。どう見ても、脈はなさそうであるので。


「ふぅ。朝から良いモノを見た。やはり冒険者組合は最高だな。私も冒険者になっていればと思わずにいられんよ。では、後程会えるのを楽しみにしている。またな」


 レンツォの返事など待たずに去ってゆく。別に長居の必要もないので当然であるのだが。

 ちらほらと、冒険者達の姿も見えていた。

 

 暫く待っていると、エルヴェンタが新たな依頼票を貼りに行く。声掛けは不要だろう。せっかく仕事が見つかったのだ。さっさと受領してしまいたい。


 他の受付達も表仕事に回り始め、ガヤガヤとした喧騒が増してゆく。

 もうすぐで、受付達が立つ時間となる。

 定時開始時間というものだ。最も冒険者達が組合へやって来るのがその時間帯であった。


 『公共の華』と呼ばれる見目麗しき受付達が表舞台に立つのである。

 それを目当てとする冒険者達だった。

 ナイトクラブや公娼などは富裕層の遊びである。疑似恋愛を楽しむという、大人の遊びであった。

 遊びであるから高額で、多少余裕があっても頻繁に通えるものでもない。当然、そう簡単に触れられるものでもなかった。

 ところが冒険者組合ならば、そんな場所に居て、なお高額な料金を払わねば会話さえも出来ない様な、見目麗しき男女が揃えられている。よく教育されているので、愛想も対応も良かった。

 しかも規定に従い、受付は独身である。若者達があわよくば。と期待してもおかしくなかった。

 実際に、冒険者と受付とで恋を添い遂げ、成就させた事例もあった。

 多くの冒険者達が淡い期待を抱き、無料の疑似恋愛遊戯へと挑まんとするのであった。俗っぽい小技であると侮る事なかれ。

 こういった小技の存在もあり、現在の冒険者組合、ひいては冒険者稼業の隆盛はあった。

 人は感情の生物で、それは強い力を与えるものだ。

 恋や愛などという複雑で強い感情は、人類種へと力を与えるものだった。

 それが例え、しょうもない理由であろうとも。




 レンツォがブッテラでの労働依頼を終えた頃、既に夕刻近くとなっていた。

 依頼地は借馬屋ブッテラではない。その牧場にあった。そこはエトナ低層にあって、広い敷地内に多くの馬房が置かれている。

 都市であり、とても牧場など置ける土地などないカターニアで借馬屋などという業がやって行けているのもまた、エトナの恵みであった。


 走行に向く馬達は、悠々として頑健に育った。

 騎士。という言葉もある様に、馬は古くから人類種の友である。移動に、輸送に、戦闘に。様々な用途で共にあった。

 近世においては馬術は淑女の嗜みで、今でも馬を駆るお嬢さん達は数多い。

 貸し出した馬を用いての通信や移動、輸送などの他に、そういった遊戯としての馬貸しも借馬屋の業務に含まれた。


 また、公営賭博である競馬に競走馬を提供するのも借馬屋だ。賭博は膨大な利権の絡む事業であり、そこに絡む利益は計り知れない。

 馬を所有しようとも、都心で飼う事など出来ない。

 広い土地でないと健康にも悪く、充分に育つ事だって難しかった。その為の借馬屋だ。馬を預かり世話をして、必要な時に用意する。

 つまりは端的に言えば、借馬屋は有力者にも縁のある、大企業であるともいう事だった。


 そんな企業の依頼であるから、報酬は悪くない。

 安全で、程々の労力で済み、充分な稼ぎとなった。

 だが、人気はない。掃除も大概であるが、解体だと特に。


 今回の依頼は馬三頭の解体である。

 この三頭。競走馬であった。競争中の事故にて骨折し、予後不良、安楽死措置となっている。

 治癒は間に合わなかった。人を対象とする医師や癒師の数は決して多くなく、家畜にまで手を回せる者もそう多くはない。獣や家畜の病や怪我を診るのには、また別の国家資格も必要とされた。

 二つを兼ね備える者なぞ、更に少なかった。

 その上で、被保険者でない家畜には保険適用がされない。全額が自己負担となる。高額となった。

 高額の支出を嫌い、家畜の生命を諦める事も経営的には決して間違えではない事だった。

 それでも、更に高額な報酬を用意するならば、医師なども人よりも家畜を優先する事もある。そういった者が待機していれば、救われる目もあるだろう、

 だがそれは、名馬などと呼ばれる一握りの馬達にであって、この三頭はそうではなかった。


 その解体が、進んでやりたい仕事であろうか。そんな事はない。

 名馬と呼ばれる馬でなくとも、愛情と手間を掛け、育てて来た馬達だ。

 馬主や厩務員などの関係者達はとても悲しんだ。応援する愛好家達だって、悲しみ嘆いた。

 安楽死処分の前に、観客や関係者の中に治癒が可能な術師を探すのはもはや恒例となっている。

 だが、殆どその期待が叶う事はない。

 医師法や癒師法違反は執行猶予がつくが、資格を剥奪される。無許可や無資格の者が行えば実刑での禁固刑となった。とても割が合わない。名乗り出る者など稀も良いところとなる。


 という訳で、天へと召された馬達は弔われ、故郷である牧場へと送られた。こういった事も習慣で、墓所を故地へと選ぶ事は珍しくもない事だった。

 別れで心を慰めて、再発防止の誓いを行う。尊い思想で習慣だ。

 だが、それで終わりとなる程に社会というものは甘くない。

 馬は巨大な体躯を持つ経済動物であり、最終的には埋めるにしろ焼くにせよ、無駄なく利用せねばならない資産でもあった。肉や皮や立髪やら骨。どこも社会の中では利用されている。

 競走馬は肉質の問題で食用とはされないが、家畜の飼料や肥料としても利用される。

 皮や立髪や尻尾などは楽器や調度品などに、骨も資材に加工された。

 そういった物品へとする為の解体だった。

 関係者が好む筈もなく、ブッテラ程の大企業であってもこの解体依頼、専門の業者か冒険者へと依頼する事となる。

 なお、専門の屠殺、解体業はシシリアにおいてであるが、法人としては既になくなってしまっている。

 冒険者達との価格競争に敗れ、廃業を余儀なくされた彼等は企業の配下や冒険者として、その腕を振るっていた。世の中は結構世知辛いものだった。


 そんなこんなでこの解体業。冒険者の街とはいえ、都会っ子であるカターニアの若者達には人気がない。

 特に女性、年齢的には女子か。そういった子供達が嫌うので、女子にモテたい男子諸君も迎合する。

 となると、慣れた田舎者であるレンツォ達の独壇場となっている。

 家畜の屠殺や解体なども子供の頃から慣れた仕事であった。冒険者としては仕事の幅が広がって、競合も多くないので美味しい依頼となっている。

 騎士となったとはいえ、あまり影響はなかった。

 騎士といえど、騎乗する者でなくなって、世代は長く経っている。

 物好きや、余程得意とする者でもなければ、騎乗を主にする事はなかった。

 大昔ならばいざ知らず、現代で馬を飼育する事など簡単ではないからだ。騎士の名は誓いと誇りの中にあるもので、馬は必須な要素ではなくなっている。


 この解体、重労働だがレンツォは強化を使わない。他の冒険者達だって使わないだろう。

 余計に傷付けぬ為に、破損部位を少なくする為に、こういった作業には何よりも繊細な技術が必要であった。

 強化をして、手元が狂えば破損も大きくなる。

 それでは恵みに、生命に失礼だと思えるのが、解体を嗜みとする者達である。丁寧に、無駄なく解体をし終えた頃となれば、それなりの時間が経っているものだった。


 エトナとカターニアを結ぶオリヴェートリオ街道を強化を用いて駆け抜けて、日が暮れる前に達成報告を終えている。

 のんびりと、夜の喧騒が溢れ始めた街を歩むのだ。

 労働の充足感と共に、暖まった懐にホクホクとしながら。今日の晩飯は何なのだろうかと。


 ただ矢張り、まだ若いレンツォは思うのだ。

 時間が厳しい事は判ってる。責任や面子だって放り出す気はない。それでもと。


「あーあ。偶にゃ、思いっきり冒険してぇなぁ……」


 愚痴みたいな言葉が漏れて、つい苦笑してしまう。

 つい漏れてしまった本音だ。

 毎日が冒険の日々。なんて言うお花畑な連中がいるものの、レンツォはそうと思える程達観していない。


 冒険には下準備が必要だし、安全を考えれば仲間も要る。『432』の三馬鹿はパーティメンバーでこそあるが、実際は御守りと教導であった。

 血湧き肉躍る様な、レンツォ自身ですら危険の伴う冒険へは連れていけやしない。

 ソロで行く程に無謀ではなかった。

 だが長く、ソロ冒険者であるレンツォには臨時でもパーティを組む様な相手はあまり、いなかった。

 以前にバディを組んでいたフランシスコとのものは解消されている。

 あれはあくまでも調査の為の便宜上のものであり、市職員でもある彼とは、終わればおさらばという関係だった。

 今でも交友は続いているが、パーティを組む気はない。

 彼は『シシリアンズ・ミィエィ・フィグリ』の正式メンバーで、生命や運命を共有するする様な仲間たちがいる。そこに割って入る無謀さはなかった。

 白金、黄金、魔銀が二人の高位冒険者パーティだ。実力的に厳しくあるし、面子も畏れ多いものなので、当然の結郎だった。

 現役の州議会議員様と、元王太子殿下が居るのだ。下手をすれば物理的に首が飛びかねない。新進気鋭の冒険者、『舞姫』様の刀によって。

 それにあそこは四人パーティでバランスが良い。別に人員の募集もしていなかった。


 なんだかんだでレンツォがパーティに参加出来ていないのは性格的な事もあるのだが、一般的なパーティ規律によるところが大きかった。

 別に冒険者パーティそのものに、確とした規律があるではない。なんとなく、歴史や習慣により染みついたものだった。


 まずソロは歓迎されない。一部に好む者こそいるが、一般論としてはの話である。

 理由は言うまでもなく危険であるからだ。

 一人で可能な事など、たかが知れている。一人で致命傷などを負ってしまえば、助かる目もかなり小さくなった。報酬や戦利品は総取りであるが、生命には代えられないモノだった。

 冒険者は生き残ってこそである。

 次に、最も多いのが二人一組とするバディである。

 二人組なら保険は効くし、信頼関係の構築なども難しくはない。数も最も多いので、人数が必要とあれば他のバディと組んで、四名、六名のパーティとして活動するのが一般的だった。

 次に多いのが四名だが、これは二名二組で構成する場合も含め、最もバランスが良いとされているからだ。戦力的にも関係的にも。学園でも推奨されていて、卒業後もそのままのメンバーで活動する者達も少なくなかった。

 次ぐのが六名であった。これもバランスと需給の問題だ。

 それ以上の人数となると、隊などと呼ばれる様になり、あまり活動向きではない。集団においての人間関係は、数が多い程に複雑となるものだった。


 そして、ここまで出てこなかった三名、五名の冒険者パーティであるが、組合からも、学園から非推奨とされている。

 何かの切っ掛けでパーティ内で意見が割れた時、ソロが発生する可能性が跳ね上がるからである。

 ソロは危険であるし、残るメンバーで一人を。なんて事だってありえた。なので、非推奨とされている。


 そしてレンツォは基本的にはソロ冒険者である。

 実力の釣り合いが取れる仲間もいなかった。

 ソロでのパーティ参加は難しい。大抵が偶数パーティであるので、非推奨である奇数パーティとなってしまうからだった。

 カターニアの冒険者達は経験則を大切にする性向があるので、慣れぬ奇数を嫌う事もある。

 となると、ソロ冒険者と組むのが近道であるが、これが中々難しかった。

 能力的には釣り合いの取れるソロ冒険者はあまりなく、関係的にもソロ冒険者は癖が強い者が多いので、あまりお近付きになりたくもなかった。

 少し実力的には物足りないが、関係的に問題ないソロ冒険者にはユウがいる。

 彼女とバディを組む事も考えない事もなかったが、見送っていた。

 男女二人のパーティって、家族でもなければ大抵は親密な関係であるので。

 歳上とはいえ、そう見られ、婚期を逃したなどと恨まれては堪らないからである。

 

 レンツォは結構気遣いの出来る男であった。

 なので、なんとかならないかなと、ぼやいているしかないものなのだ。


 ——どこかに、良い感じの機会でも転がってないものかね。あーあ。思いっきり、冒険してぇなぁ。


 そんな幸運に期待しながら、意外に他力本願な男であるレンツォは、イラーリアの待つ我が家へと急ぐのだった。

 


 本当に感想ありがとうございます。すっごく勇気付けられます。

 色々と問題点のある作品でしょうが、好きだと言って貰えたのが本当に支えとなっております。

 本来は作品内で語るべき話なのですが、作中人物の貞淑などの倫理観が高いのには御使のお仕置きの影響が大きいです。なので浮気や妾を持とうとする男性登場人物は豪の者とされています。作品内で伝わってれば良いのですが。

 やっぱり感想とか評価が欲しいです。凄い嬉しいもん。

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世界観設定と言いますか、異世界設定が良いですよね。 アンナちゃんの方の作品がまだ読めていないので、無知コメになってしまうかも知れませんが、現実のシチリアと同じ配置図と想定しますと、海も山もありますよね…
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