腹筋の欲しいうなぎさんのトレーニング
うなぎさんは腹筋が欲しかったのです。出来ればボッコボコの。ぬめぬめしているだけではいざって時に、身を守れないからです。
うなぎさんの理想は水棲系最強生物の龍さんです。偉大さ、長さはもちろんの事‥‥硬い鱗は外敵から身を守る上で強力な盾になると思ったのですね。
龍さんに比べると、うなぎさんの皮はやわやわでした。人間さんに掴まると、うなぎ包丁で簡単に捌かれてしまうのが悔しい、うなぎさん。
龍さんのレベルまで皮膚を硬化するのに、あと何千何万世代の進化が必要なのかわかったものではないのです。
気の遠くなりそうな年数。龍さんへの憧れは変わりません。でも⋯⋯手っ取り早く身を固めるにはどうしたら良いのか悩んだ末に、うなぎさんが出した答えが腹筋をつけることだったのです。
ニョロニョロしているうなぎさんに肉厚な筋肉がつけば、旨さがあがるだけな気もします。うなぎさんはとても真剣なのです。
うなぎさんの腹筋をどうやって鍛えるのか。トレーニングの仕方が問題でした。ニョロニョロした身体を目一杯使うためには、やはり急流に身を任せ遡上するのが一番なのでしょうか。
鯉さんが滝登りをすると龍さんになるという噂を聞いて、うなぎさんも登ってみました。うなぎさんの根性が認められたのか、人気は上がりましたが、龍さんには成れず、腹筋は鍛えられたか微妙でした。
それならばと、うなぎさんは大海へ出ることを考えました。より遠く、より深く。大海の荒波と、水圧と水流にうなぎさんは、好感触を得ました。
最初は駿河湾で身体を慣らします。結構深いのでうなぎさんのニョロニョロな身体にも負荷がかかりました。
さらに腹筋を鍛えるために、マリアナ海溝まで泳いでゆくと決めたのです。人間さんの測る距離でおよそ約2300キロもあります。
うなぎさんは半年ほどかけて泳ぎ続けました。マリアナ海溝まで辿り着いたうなぎさん。ニョロニョロの身体が、バキバキのカッチコチな腹筋を得ているはずでしたが、現実は厳しかったようです。
うなぎさんは理想の身体を得る事が出来ずに悲しみましたが、バキバキの腹筋は生まれてくる子孫に託そうと願いました。
うなぎさんの思いは子供達にも受け継がれ、今も子孫達はたくましく大海へと向かうのでした。
うなぎの捌き方は関東と関西では違うという話は良く聞く話です。
関東で背中から裂くのは、切腹を連想させて縁起が悪いのではなく、腹筋が少し固くなったのかもしれません。
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