帰り道
読んで下さりありがとうございます。
「それでは失礼します。」
少し薄暗い道を1人で歩いている。
貴族棟から平民棟までかなりの距離があるのでみんなより早めの退勤である。
「この廊下も慣れたよねぇ。」
貴族棟は建物の外にも当たり前のように外廊下があり、ロココ調の柱がずっと端まで並んでいる。柱の足元と高い廊下の天井部分に等間隔で光が灯っている。
「まぁ、綺麗なものは10日で飽きるって言うもんね。」
初めは幻想的なライトアップに感動してゆっくり見ながら歩いていたのに今ではもうこの長い廊下が早く終われと思っている。
貴族棟からこちら平民棟へと渡る人はほぼ居ないのでこちら側はいつもとってもひっそりとしている。やけに梟の声が聞こえてくる。
もうすぐ貴族棟を出るという所でガサガサっと何かが近付く音がした。
何!?魔獣!?
振り向こうとした瞬間後ろから急に片腕を思いっきり掴まれた。
「いたっ!」
何!?誰!?
恐怖から身体がこわばり、私はなすがまま人目のつかない所まで引きずられた。
バタッ
「っ…」手がじんじんする。足に力が入らず勢いのまま転んでしまった。
「こいつか。ふんっ、あまり調子にのんなよ。平民風情が。」
「そうだ。即刻補佐の仕事を辞めるんだ。さもないと…次は容赦ないぞ。」
「大体平民のくせに生徒会室に入り浸るなど、何様のつもりだ。」
「ただの平民がこちら側に近付くな。虫唾が走る。」
「……」
どうやって返事したら良いんだろ…展開についていけない。
「ちっ、聞いてるのか!」
向こうが私の腕をまた掴みに来そうになり、はっとなって目を瞑ろうとした。
「何してる!」
この声は
「る、(ルークくん?)」声が上手く出せない。
ザッザッと砂利道を蹴ってこちらへ向かってくる音がする。平民棟の方からだ。
「ちっ、行くぞ。」
「伝えたからな!」
そう言うと走ってあっという間に逃げて行った。
「やっぱり…カイリ、大丈夫か?」
ぼうっとライトに照らされたルーク君の表情は強ばり眉間に嫌ほど皺を寄せていた。素早くこちらへ駆け寄ると倒れたままの私を起こしてくれた。
そしてやや震えた手で私の頬を優しくそうっと触った。
「あ…」
ポロポロと涙が出てきた。
「どうして…(こんなの)平気なはずなのに…」
「っ、そんな訳あるか」と言うとルークがカイリをギュッと抱きしめた。
一体どれくらいの時間が経ったんだろう。
数分なのか数十分なのか。
トクトクトク
ルーク君の心臓の音が心地よくて漸く震えが止まってきた。
「ルーク君ありがとう。もう大丈夫。」
私を抱きしめているルーク君の腕をそうっと触る。
ルークも心配そうにしながら腕を離してこちらを見る。
「手が…」
「あ、ほんとだ。さっき転んじゃった時擦りむいたんだった。忘れてた。」
思い出した途端また両手にじんじんと痛みが戻ってきた。
「とりあえず、立てるか?保健室へ行こう。」
そう言うとそうっと私を立たせてくれたルーク君は何も言わずポケットから真っ白なハンカチを取り出し私の手を優しく拭いた。
「ルーク君!汚れちゃうよ!いいよ!」
「大丈夫だ。」
有無を言わさず無言で砂を払うと優しく血を拭った。
そして私の鞄を手に取るともう一つの手で私の右手を握った。
突然の事で私も一瞬びっくりして肩が跳ねたがルーク君はこちらを一瞬伺うと何事も無かったかのように歩き出した。
サクサクと鳴る2人の足音と、ホーホーという梟の声を聞きながら長く伸びた2人の影を見る。
「ふふふ、ルーク君。前もクラスメイトを保健室に連れてってたよね?」
「そう言えばそうだな。」
たわいも無い会話が強ばった私の心には丁度良かった。
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手のひらに細い糸状の光が見える。
「はい。これで大丈夫でしょう。魔法で傷は消しましたがこれも完璧ではありません。今夜は特に安静に過ごして明日またこちらへ来てくださいね。バルフォン先生には私の方から今日のことを伝えておきましょう。」
「ありがとうございます。」
「ルーク君も、ありがとう。彼女を送ってくれるかい?」
「はい。」
ルーク君にわざわざ女子寮の入口まで送ってもらい、部屋に着くと何も考えずにベッドへとダイブした。
「あーーもーー、考えるのは明日にしよ…」そう言うといつの間にか深い眠りについたのだった。
次回ルークsideです。