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お読み下さりありがとうございます!

「やーい、お前ん家かーちゃんいないんだろ?」


「は?お母さんがいたから私が居るんだけど?」


「何言ってんだ?お前ら捨ててどっか逃げたんだってうちの母ちゃんと父ちゃんが言ってたぞ。」


「あれでしょ?愛人と逃げたとか〜私聞いた事あるぅ。」


「それ、証拠何処にあるの?誰が何処で何時何を見たの?」


「な、な、何よ!煩いわね。ふんっ、行こ、こんな親無しほっといてあっちで遊びましょ!」


「お、おう。」



ふぅと空を向いて溜息をつく。

「なんなのよ一体。」


1人森の近くで目立たないように魔法の練習をしていたカイリを目ざとく見つけてはこうして突っかかってくる。


最初は傷付いたし今も面白くない。が、


「「おねえちゃーん!」」と聞こえた方に顔を向ける。


「レティ!パティ!」


急いでチョロチョロ手から出していた水を止めると2人の方へ走っていった。


「「おねえちゃん!もうご飯の支度だよ!」」


「迎えに来てくれたのね?ありがとう。でもここは危ないって言ったでしょ?次から絶対にぜーったいに、来ちゃダメだよ?あっちの丘があるでしょ?そこで手を振ったらおねえちゃん直ぐすっ飛んで帰ってくるからね?」


絶対来ちゃダメだと約束して右にレティ、双子の弟、左にパティ、双子の妹と手を繋いでゆっくりと夕日の中帰って行った。


「父さん!レティとパティが轟の森近くまで来ちゃったんだよ今日!」


「そうなのかい?レティパティ、父さんは虹の丘に行きなさいと言っただろう?」


夕食の時間はみんなが集まる貴重な時間でもある。

朝起きたら既に父は仕事に出ており、私も年の離れたレティとパティの世話に追われる。

その後自家農園で作業をし、集落のみんなに見られないように極力遠くで魔法の練習をするのが日課になっていた。


暗くなると何も見えないから夕日が落ちる前には帰らないといけない。


なのに結構頻繁に今日みたいに邪魔が入る。


目の前でお父さんと双子が楽しそうに話している。

3人共髪の色は茶色。


私だけ水色。私だけ魔力があった。


そこには何か薄い壁があるように思えていつも心が少し重たくなる。


だからこそ…


このド田舎から出てやるんだ。


レティとパティにお腹いっぱいご飯食べてもらって、ふかふかなベッドをお父さんにプレゼントするんだから。


喉を通らない茹でたポテトをなんとか無理やり流し込んで今日の魔法のおさらいを頭の中で反芻する。


そうして数年後、隣町で設けられた試験会場で無事魔法学校の合格点をもぎ取ると、細々と店の手伝いや野菜をみんなで売って稼いだお金でここ王都までやって来た。


もう笑えないほど古汚いコインばかりの巾着を持って。


だから後戻りはできない。



「学費も食費も今のところ免除だけどそれでもお金が無いわ。」


何とかせねば。


「お金が無い。稼がなきゃ。」



----


今日予定されていた薬草探しは怪我人が出た、というか、厄介な魔獣が居たらしく一旦延期となった。


「バイトかね?」


ここはバルフォン先生の研究室。


「はい。うちは仕送り期待できないのでどうにかお金を工面したいんです。」


「カイリ君は…そうか。アイリス村から来たんだったね。」


「はい。そうです。今は奨学金で学費と食費は免除されてますがそれでもお金は必要です。それ以外の所で。」


「そうだね。うーん、考えてみよう。少し時間をくれるかな?」


「はい。ありがとうございます。」


「うん、カイリ君は授業態度も良いし先生達の覚えも良い。なんか考えてみるよ。」


…良い先生だ!いつもローブ引きずってるけど!良い先生だ!


「失礼します。」

ルンルン気分で研究室を出る。


あとは図書室で勉強でもするか…無闇に魔法の練習は出来ないし…


そうして今日も勉強に励むのであった。




トントン


ん?だれ?もう少し眠っていたい…


トントン


「おい。」


「ん?」誰かの声がして重たいまぶたを上げて目を擦る。


「もうすぐ寮の食事の時間だと思うぞ。」


「!!!」


カイリは完全に覚醒した。


る、ルークじゃん!ルーク君じゃん!


「る、ルーク君、おはよう。」


「…」見上げるように立っているルークを見ると、少し戸惑いがある顔をしている。


少し顔を横に傾けて、ん?という表情をしてみる。


「っあぁ。こんにちは、か、こんばんは、だろう、と思ってた。おはようじゃないだろ。」


「ふふふ、そっか。そうだよね。じゃあこんにちは。わー、もうこんな時間かー…」


外を見るとどっぷり空が暗くなっている。魔法学校なので灯りは眩しいくらい等間隔でついているが。


結構寝ちゃってた。やばい、ヨダレ垂れてないかな…


少しゆっくり目に席を立つと口元もさっと確認した。


「る、ルーク君も今帰り?一緒に帰る?」


ぎゃー!なんて言うことを私は!いま!してるんだろう。これぞまさしく青春だわ…


「そうだな。」


そう言うとさりげなくカイリの椅子を元に戻してくれた。


こういうとこがもう本当に好きなんですよ〜と言いたいが勿論言う勇気は無い。


一緒に帰ろうと誘った事自体凄くないか私。


ありがとうと伝えて2人で図書室を出た。


図書室は平民棟の校舎の中にある。なのでそこから寮まではそこそこかかる。


外にも灯りは付いてはいるが足元は暗い。


2人共とぼとぼサクサクと足元を見ながらゆっくり歩く。



なんか…いいな…


「ルーク君起こしてくれてありがとう。ルーク君も勉強してたの?」


「あぁ、俺は研究会にも入ってないし大体時間があると行く。」


「そっかぁ、私も一緒だ。勉強難しいけどやりがいはある。」


「…勉強は、嫌いじゃないのか?」


「そんな事ないよー、分からなくて嫌になるとこいっぱいあるけどそれ以上に、得れられるものの方が多いって知ってるから。」


「…そうだな。」


まぁ、20分弱かかる帰り道話したことと言えばそれだけだけど、マジで昨日今日の思い出だけで2年は頑張れるわ。


「ありがとう。」


小さく呟いた感謝の気持ちはルークには聞こえなかったけど、梟の鳴く声が大きすぎて、今、伝えたかったんだ。


私の灯りになってくれて。



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