カイリの囮大作戦終了
読んで下さりありがとうございます。それにしても連日暑いですね…
「カイリ、この度は済まなかった。体調はどうだ。」
医務室のベッドから慌てて起き上がろうとしたカイリを手で留めおくのはレオナルド第二王子殿下。治療の後、疲れから滾々と眠っていたみたいだ。医務室を見渡す限りひっそりとしており、とても静かで夜の香りがした。
カイリはベッドに横たわったまま端正なレオナルドを見上げた。眩しい。夜なのに。
「レオナルド様。お陰様で今はもう大丈夫です。犯人が捕まったと聞きました。」
「あぁ。協力に感謝する。お陰で無事学園祭が開催できる事になった。」
「それは良かったです。その…あの捕まった人達は…」
ローズ様だよね、あれ絶対…
「まぁ、退学だな。あれには手を焼いた。」
「そうですか。あの、それで、」
「?」
聞いて良いのかな。
「なんとなくなんですけど、トンボが助けてくれた気がするんです。」
「あぁ」そんな事かと呟きながら驚きの事実をみんなより遅れて聞いたカイリはやっぱり驚きを隠せず「えー!?!?!?」と医務室ではやってはいけないほどの大声で叫んだ。
もちろん影からドアから窓から何人も人がなだれ込んできてしまい、ペコペコ謝ったのはみんなには内緒にする。そしてトンボに話聞こう…いっぱい聞こう…と新たな予定を頭の中に書き入れた。
「それで、ルークのことだが。」
「?ルーク君ですか?どうかしたんでしょうか。」
「…いや、なんでもない。随分心配していた。また落ち着いたら会ってやると良い。」
そう言ってレオナルド様は護衛のプラムを連れて外へと出ていった。
私は数日間ここで様子を見るようだ。何せ精神魔法を掛けられたみたいで後遺症が無いかしっかりと見るらしい。
「精神魔法なんてあるんだもんなぁ。反則だよ…」あの時の気持ち悪さが蘇ってくる。
「気持ち悪かったな…あれはもう体験したくないな。」
1人になった途端少し寂しく感じる広い医務室で深く息を吐く。
なんか、あっという間に捕まったな。良かった。あ、冬休みに王都のお店見て回っても大丈夫なんだろうか。
流石にまだ危ないのかな…
ルーク君にもみんなにも心配かけたし、それにしてもトンボ…ビックリだよ。どんだけ引き出しあるんだあの人。
など考えていたら眠っていたようで気付けばカーテンが開けられ窓の外から広い緑の芝生と青い空が見えていた。
コンコン
「はい。」
「カイリ様、お目覚めでしょうか。朝食の用意が整っております。こちらへお運びしてもよろしいでしょうか」と、お城のメイドがドア口で尋ねてきた。
「いえ、そんな。お手数お掛けしてしまいます。私は食堂かどこか教えていただければそちらで構いません。」
「レオナルド殿下からは丁重にもてなす様承っております。どうぞこちらでゆっくり過ごしてくださいませ。」
「そうですか。ではお願いします。」
と、こうしてカイリ生まれて初めての豪華な食事やお世話を数日間受けることになった。
医務室だと思っていたこの場所は王城の客室だった様で綺麗に整えられた外の景色や品の良い調度品があちこちにさりげなく並ぶのを見て深く納得したカイリであった。
「もう大丈夫でしょう。ですがカイリ様、無理は禁物ですよ。何か身体に異変が生じた際は直ちにシエン殿かバルフォン殿に伝えてください。駆けつけますので。」
「ありがとうございました。先生。」
あぁ、やっと帰れる!
「カイリ!もう大丈夫ですの?」
「おー、カイリ、こう見たらお嬢様に見えるじゃん。」
「…」サムズアップするトンボ。
そしてルーク君がぽんぽんと私の頭を撫でた。
撫でた…
「あ、いや、ごめん。つい。」
「えっ、いえいえ、全然減るものでもなんでもないし大丈夫!シャンプーもすんごいの使わせてもらってたし。」
「ちょっとカイリ、その話詳しく!」
「いやいや、それよりトンボでしょ!何よ〜秘密にしてたの?バレて大丈夫だったの?」
そうそう。トンボが影の1人で風紀委員で、てことは貴族なのか?疑惑が残っている。
「みんなには話したけど僕は貴族じゃないよ。」
「そうなの?」
みんなそれぞれ好きなようにソファに座る。
「うん。昔誘拐されそうになってさ。キモイ奴に。それは未遂に終わったんだけどそれから気配を消す事に専念しまくったんだよ。キモイから。ほんと無理だったから。」
なるほど…それはそうだろう。絶対昔のトンボとか想像するだけで可愛かったんだろうなって思うもん。
「それでまぁ、凝りもせず来るわけよ。色んなキモイのが。それを察知して隠れるようになってたらひょんなことから殿下の影と知り合ってさ。」
「ひょんな事…」
こくんと頷くトンボは可愛い声と相まって今でも可愛い。口には出さないけど。
「そ、それでスカウトされた。そんで能力を買われて男爵家に養子になってんの。」
「やっぱ貴族じゃんかよー!」
「え、そうですの!?それは初耳ですわ!」
「まぁね、籍だけだよ。あっちの家には全く住んでないし。僕は身も心も平民なんでこっちの方が居心地が良いし。まぁその方が都合が良い場合もあるしね」と言いながらチラッとルークを見る。
「そうなんだ。それでどうやって風紀委員してるんだよ。」
「早朝と放課後だよー。見回りしてる。怪しいヤツ居ないか。影が動くより僕の方が目立たないからね。」
「そうだったんだ…」
「あの日は僕も非番で助けて上げられなかった。ごめんね、カイリ。」
「いやいや、全然!あの日はルーク君に助けてもらったもん。それに今回は助けてくれたでしょ?ありがとうございます。」
ブンブンと手を振ったあと深くお辞儀をする。本当に感謝だ。
「ルーク君もありがとう!ゾーイもナギサも心配かけてごめんね。ありがとう。」
インディも心配してたぞ、とナギサに言われた。インディや他のクラスメイトには少し風邪を引きずって休んでいることになっている。
元気な顔を見せてあげなくっちゃ。
「うし!」両手を握りしめて気を引きしめる私の頭をポンポンとルーク君が撫でている。
ちゃっかり隣に座っていたルーク君は言葉少なめでちょっぴり元気が無さそうだったけど、心配させたもんね。もう大丈夫!の意味を込めてもう一度今度はルーク君に「うし!」と頷いた。
「?あんな雰囲気だったっけ?」
「しっ、トンボ、野暮ですわよ。」
「甘いよなぁ。なんか帰りしょっぱいの食べようぜ。」
こうしてカイリの囮事件は大成功を収めたのであった。




