娘の気持ち
母から突然、「一人暮らしをしなさい」と言われた。
え、どうして?前はあんなに反対していたのに。「あんたなんて一人暮らしなんてできっこない」そうしきりに言っていたのに。一体どういう心境の変化だろうか。
でも、こんなチャンスそうそうない。下手な口を聞いて「やっぱりあんたにはできないわね」なんて言われた方が嫌だ。平常心を心がけて「はい」「わかった」と肯定するような返事をする。
喜んだ顔なんて見せたらなんて言われるかわかったもんじゃない。「遊んでばっかりじゃだめなのよ」とか言われるのかもしれない。社会人になってからも夜の10時まで帰宅という門限を決められて、一回遅れたら一時間以上怒られて、その後一月近く門限がいかに大事かという説教をこんこんとされてからはからは門限を破らないように細心の注意を払うようになった。
大切に思われているんだよ、なんて言われることもあった。私はそうは思えなかった。親自身が不安にならないように子供である私を支配下に置いてコントロールしたいようにしか思えなかったから。
一人暮らしの準備をしている時も母はしきりに聞いていた「一人で家事ができるの?」「ちゃんとしなくちゃダメだからね」と。
そうね、そうだと思う。だけど母は家事を教えてほしいと言ったら「そんなこともできないの?」と言って何も教えてくれなかったことを覚えてはいないのだろう。ちゃんとするということがどんなことかわからなかったから聞けば「そんなこともわからないの?」と言って何も私に教えてくれなかったことをきっと覚えてはいないのだろう。
母は何も覚えてはいないのだろう、一人暮らしをするために、自立をするためのことを母は教えてくれなかったことを。生活のことを何ひとつ教えてくれなかったことを。私に生活の知恵を教えてくれたインターネットと家庭科の教科書にただただ感謝である。
引っ越しの当日、自分名義の軽自動車にしか積めるような荷物しかない引っ越しに何を思ったのか母は言った。
「いつでも帰っていいからね」
思わず出そうになった言葉は「何言ってるの?」だったが私はわかっている。そんなこと言えば母は怒り狂うだろうということを。落ち着かなくては。ゆっくり、たっぷり一呼吸置いて私は母をまっすぐに見て言った。
「わかった」
帰るわけがないだろう、そんな気持ちを込めて。
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