ハァックション!
くしゃみ〜、イッパーツ!
カムカム ゴールドメダル
20●●年 東京冬季オリンピック
フィギュアスケート 男子フリー
舞台は、東都アイスアリーナ
昨日のショートプログラムで、
2位に大差をつけて
ダントツ1位になった
カリスマ フィギュアスケーター
助任 進
今日のフリーでも、全てを完璧にこなし
会場は、彼の妖艶な演技に魅了される。
このままいけば、金メダルは確実。
演技の最後に、片手を天井に向けて上げる
決めポーズ。
そして、拍手が起きようとした
まさに、その瞬間、
ハァックション!
喉の奥底から、がなる様な大きく、下品な
オヤジくしゃみが、会場に鳴り響く。
会場は、一瞬、凍りつく。
観客のものと思いきや、
それは、助任本人のものであった。
貴公子の雰囲気には、あまりにも
似つかわしくない、下品なくしゃみ。
くしゃみの反動で、
リンクの中央に倒れ込む助任。
そして、少し遅れて拍手が起こる。
[実況アナウンサー]
解説の鳴山さん。
今のくしゃみは、減点の対象に
なってしまうのでしょうか?
[鳴山]
演技終了後の行為とみなされれば
減点にはならないと思います。
[実況アナ]
それにしても
せっかくの雰囲気を台無しに
した感は、否めませんよねぇ。
[鳴山]
そこのところを、審査員が
どう判断するかですね。
キスクラで、得点発表を不安げに待つ
助任とコーチ。
[実況アナ]
さあ、いよいよ得点の発表です。
助任、金メダルなるかー。
◉点、▲点、✖️点・・・・。
残念、助任、まさかの4位。
その場で泣き崩れる助任。
[実況アナ]
あの、くしゃみさえ、なければ。
[鳴山]
う〜ん。そうですねぇ。
残念でなりません。
[実況アナ]
悪夢としか、言えません。
金メダルを一瞬で吹き飛ばす
ハイパーくしゃみとでも申しましょうか。
鳴山さん。
最後に一言、お願いします。
[鳴山]
下を向く必要はありません。
それにしても、可哀想、ウゥ〜
かっ、可哀想過ぎます。ワァ〜
くっ、くしゃみ、ワァ〜
いっ、一発で、ワァ〜
彼の、4年間の、ワァ〜
努力が、ワァ〜
[実況アナ]
それではここで、マイクを
スタジオにお返ししまーす。
(スタジオ)
シ〜ン
<選手村、PM7:00>
選手村の中の宿泊施設に戻った
助任とコーチ。
泣いてばかりいる助任。
[コーチ]
もう泣くな、元気出せ。
君の滑りは、金メダルに十分値する
完璧な滑りだったんだから、
それでいいじゃないか。
[助任]
でも、ここにメダルは
ないじゃ、ないですかー。
[コーチ]
(マズイ、相当思いつめているようだ。
自殺でもされたら、大変だ。
少しでも彼の心を和ませないと。)
[コーチ]
メダルはある。
[助任]
どこにですか?
じゃあ、見せて下さいよー。
[コーチ]
メダルはだなぁ、
今、保健所にある。
[助任]
保健所?
[コーチ]
実は、某市長がメダルをカミカミ
しちゃってね。
それで今、保健所に消毒してもらってる
から、ちょっと待っててくれ。
[助任]
消毒なんて、数秒で終わるでしょー。
早く、持って来て下さいよー。
[コーチ]
・・・・・・。
(それもそうだなぁ)
いや、実は、保健所でメダルを受け取る
際に、私が誤ってメダルを床に
落としてしまってね。
メダルが、真っ二つに割れて
しまったんだ。
それで、今、ほら、名前忘れたけど
あの接着剤みたいな名前の柔道家に
修理をお願いしているから
もう少し、待ってくれ。
[助任]
瞬間接着剤なんだから
その場で、すぐに直るでしょう。
すぐに、持って来て下さいよー。
[コーチ]
・・・・・・。
(確かに・・・・。
金が接着できるかどうかは
知らんけど。)
[助任]
その程度なら
僕にだって、出来ますよ。
ほら、あの卓球のメダリストに
似た顔のサムライ。
「でも、メダルはここに
ありませんから〜、残念」
[コーチ]
・・・・・。
俺の負けだよ。
(チーン)
[コーチ]
スマホに、あのカエル好きのメダリスト
から、メッセージがきたよ。
メダルの代わりに
カエル送ってくれるって。
[助任]
カエルなんて、いらないよー。
[コーチ]
だけど、君のあのくしゃみ
聴き方によっては、昭和を代表する
ほら、あの、えーと、なんだったけー?
ちょっと名前出てこないけど、
スーパーヒーローの声
「シュワッチュ」に似てるよ。
[助任]
・・・・・?
[コーチ]
何を言っても、慰めにはならない様だ。
助任、今日は、もう遅いから寝よう。
明日からは、4年後に向けて
再スタートだ。
<選手村 AM1:00>
何かの物音に、コーチが目覚める。
助任が、ノコギリを持って
外へ出かけようとしている。
[コーチ]
おい、お前。
こんな時間に、そんな物持って
何をするつもりだ。
[助任]
これから、日本中のスギの木を
一本残らず、全部切ってやる。
[コーチ]
バカなマネはよせ。
落ち着け、助任。
そもそも、お前、
花粉症じゃ、ないだろう。
[助任]
ワァ〜。
<翌日、助任事務所 AM9:00>
事務所内の電話が、いっせいに鳴り響く。
励ましの電話か、
はたまた、抗議の電話か?
事務員が、恐る恐る電話を取る。
[電話の相手]
助任さんを、ウチのCMにぜひ・・・。
同じ要件の依頼が、殺到する。
それは、鼻炎薬のTVCMへの
出演依頼であった。
最終的に、助任が出演することになった
TVCMの内容は、CMの最後に
助任が鼻炎薬の箱を片手に持って
「飲んどきゃ、よかった」
というもの。
このCMが、大ヒット。
その後、このCMは
飲んどきゃよかったシリーズとして
シリーズ化される。
①契約締結直前に、くしゃみで契約書を
吹き飛ばしてしまい、契約が破談となる
<契約破談編>
②恋人と、キスの直前にくしゃみをして
別れることとなる<破局編>
③ピッチャーが、投げる瞬間にくしゃみを
して、手元が狂い、逆転サヨナラ
ホームランを打たれる<野球編>
など、全てに助任が出演し、好評を得る。
そして、これを機に、助任は
フィギュアスケートをやめ、
芸人の道に進む決断をする。
芸名はもちろん、<ハクション助任>
ちゃんと滑らなければならない人生から
滑ってはいけない人生への大転換。
ガンバレー。
くしゃみ一発芸人、ハクション助任!
完