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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel


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第八十四話

【第八十四話】


 サイド:マモル


「っ待てええっ!」


 薄暗い氷の洞窟内に響く、最凶のPKプレイヤーアットの叫び。


 彼が怒りの矛先を向けるトーマは、見たこともない速度で駆け抜けて奥の出口へと消えてしまった。


 置いていかれた、とは思わない。


 アットとの戦いを、俺たちに任せてくれた。他の三人は分からないが、少なくとも俺はそう思っている。


「コースケ、ライラ、リン。覚悟はできているか?」


「覚悟?なんの覚悟だ?」


「人を倒す覚悟、だ」


 俺はスキルを発動した体勢のまま大盾を構え直し、後ろの三人に問うた。


 『相手する』ではない、『倒す』覚悟だ。


 弱気になってはいけない。とてつもない実力差があるからこそ、せめて言葉で強がってみせる。


「ふっ、倒すだと?」


 冷静さを取り戻したアットから、嘲りにも似た一言が漏れる。


「俺を、お前らが?」


 嘲笑とともに、クラウチングスタートのようにも見える構えを取る。彼は右手に剣、左手に細長い杖を持っている。


 来るぞ!トーマの腕を真っ二つにした攻撃が。


「こっちだアット!俺が相手だ」「小賢しいっ!」


 俺はすかさず、スキル『なんとなく気に食わないヤツ』を発動する。大声とともに大盾を前に掲げると、それを合図にアットが走り始めた。


 どうせ盾越しで見えない。端から目で追うことは諦めている。


「俺の後ろへ……!」


 三人に指示した刹那、とてつもなく重い衝撃が盾に加わる。


 この威力は恐らく、左手に持っていた杖のフルスイングだ。理想のフォームに充分なスピードを加えて、圧倒的な攻撃力を実現している。


 おおよそ人間に出せる力とは思えないが、受け切れる。重装の鎧兜を装備した俺は重量が人の倍近くあるし、盾は一番硬いのを持ってきた。弱点の打撃であっても砕けないはずだ。


「はああああっ!」


 俺はインパクトを受け止め切ったところで大盾を突き出し、アットを前に跳ね飛ばす。


「コースケ、リン!」


「ああ!」「うんっ!」


 さらに二人の名を呼ぶと、すぐにコースケが俺の左側、リンが右側から回り込む。


「【属性剣・炎】!」


 コースケがスキルの発動とともに剣を振って炎の斬撃を飛ばす。


 コースケのスキル【属性剣】は初期装備の両刃剣に属性を付与することができるというものだが、実は隠された仕様が存在する。


 それが、発動の際に刀身を振ったり突いたりすることで、属性の乗った斬撃や刺突を飛ばすことができるというものだ。


 コースケはこの仕様を十分に検証し、実践でもちゃんと使えるようになったので、意外と器用に戦える。


 本当、よくやったものだ。俺は最初、飽きっぽいコースケは地道な検証や練習に音を上げると思っていた。だが、彼は強くなるために必要なことだと理解し、熱心に取り組んだ。


 その努力が今、こうして強者に一矢報いる手段となっている。


「『我流・天空落とし』っ!」


 そして、反対側からリンが踵落としを見舞う。


 リンのオリジナルスキル【脚力強化】は文字通り、リンの脚力を強化するパッシブなスキルだ。


 俺たちで今までやってきた検証や実践で、脚力を強化するという説明は足の筋力が発達しているということだと判明している。


 膝蹴りで岩を粉砕し、ハイキックで魔物の頭を吹っ飛ばし、踵落としで地面にクレーターを作る。おおよそ人間にはできない力技が、脚を使う場合に限り可能となるのだ。


 まあ、脚を含めた肉体のつくりは一般的な女性プレイヤーのそれと同じく華奢なので、身体への負担には気をつけないといけないらしいが。瞬発的な筋力の増幅に肉体がついていかず、脚が破裂してデスするのを俺は何度も見てきた。


 ただ数多くの失敗の中で、リンは独学で実用的な足技を考案してきた。自由落下に伴って重力を乗せ、極限まで空気抵抗を減らすために全身を縮こませながら放つ『我流・天空落とし』は、彼女の最高火力の技だ。


 そんな『我流・天空落とし』で床の氷が砕け、目の前の地面が陥没する。


「やったか!?」


 剣を構え直し、禁句を口にするコースケ。


 炎の斬撃のきらめきと舞い上がった砂煙のせいで、アットに攻撃が当たったか確認できない。俺は大盾を構えながら、待つことしかできなかった。


 『なんとなく気に食わないヤツ』は特定の座標を指定し、その座標にいる対象に挑発の効果を与えるものだ。俺が対象を視認できなければ使えない。


「氷の精霊さん、リンを回収して!」


 ややあって、俺の背後に控えるライラが【精霊のおともだち】を行使。氷の精霊を呼び出し、使役してリンのアフターケアをする。


 『我流・天空落とし』は火力に特化するために、技後の反撃を考慮していない。先ほどのケイブホワイトベアーのときの反省を活かし、アットが反撃することを見越して手を打ったわけだ。


 後衛のライラは、こういうことに長けている。経験をしっかりと活かす。戦況を冷静に捉え、自分なりに判断してより良い一手を下す。頭の良い彼女だからできることだ。


「……」


 雪だるまのような姿をした氷の精霊がふよふよと漂いながら、アットとリンのいるところに向かっていく。


 砂煙が晴れた。


 とともに、なにかが高速で放り飛ばされた。


 リンの身体だった。まったくの無抵抗。少なくとも意識はないだろう。


「まるで隕石だな」


 彼女を追って俺が少し目を逸らした瞬間、一言。


 それと風切る音。


 遠心力の乗った杖の先端が吸い込まれるように氷の精霊の頭部にクリーンヒットし、雪でつくられた上部の大玉が破裂する。


「くっ……」


 弾けた雪が散弾となり、俺とコースケを妨害する。俺は防御のために、盾を構えざるを得ない。


「たとえ必殺の一撃でも、来ると分かっているのなら避けるのは容易い」


「っ……!」


「なあ?」


 すぐ目の前で響く声。


 次は俺か!盾の縁から指が生える。


 盾を掴まれ、万力のような力が込められる。


 引っ張られる?俺は大盾ごと、前につんのめった。


 バカな!総重量で百キロはあるはずだぞ?


「向かってくる力に強い盾だが、こうして引く力には弱い」


 そ、そうなのか。


 完全に言い訳だが、俺たちはこれまで、盾を引き剥がそうとしてくる相手と戦ったことがなかった。完全に俺の知識不足、経験不足だった。


「覚えておけ。まあ、退屈しのぎにはなった」


 露出した首の後ろ側、兜と胴鎧の隙間に刃を差し込まれ、俺はいとも簡単にキルされた。



 サイド:セツナ


「いや、きゃああああっ!」


 遠くで事件性のある断末魔が上がり、また一人、声の高さからして女性プレイヤーがキルされた。多分アットだね。


 プレイヤーキラーの最上位に君臨するアットがこの氷の広場にいることは途中で気づいたけど、私たちは加勢することができなかった。


「心地いい悲鳴だ」


「ああ、まったくだよ」


「やはり、戦争とはこうでなきゃな」


 こいつらがいるからだ。


 クラン【繁栄の礎】のヴァーミリオン、クロック、メタル。


「ひっひっひっ、流石はヴァーミリオン様だぜ」


「勝ち馬勝ち馬ぁ!今日は勝つぜえっ!」


 他、有象無象のプレイヤーキラーたち。


 こいつらが銃火器を乱射しまくり、今も周りの光のプレイヤーたちを虐殺しているせいで、とてもじゃないけどアットのところに行けそうにない。


「ちょっとあんたたち!どんだけ弾持ってきてんのよ!かれこれ三回は死んでるんだけど!?」


「俺のスキルがなかったら負けてるな。少しは感謝してくれ」


「いやよ!残機をよこすのはあんたの義務でしょ!」


「義務でも、感謝しない理屈にはならないだろう」


 飛んでくる銃弾を最小限の動きで躱しながら、メイサとセービストが横で言い争いを始めた。これで何回目だろ。


 確かに二人には回避重視で、相手の物資が尽きるまで粘る方向で戦うようにと言ったけど、なにも喧嘩するほど腑抜けてほしいわけじゃない。


 ま、銃弾や手榴弾の雨を避けるだけで退屈なのはその通りだけど。


 でも、相手の蓄えがどれだけあるか分からないから、これが最善だと思うんだ。


 ヴァーミリオンのスキル【軍需産業】の仕様はある程度理解している。魔力を消費してミリタリーグッズを生産するという、準備が要のスキルってことは重々承知。


 だから、あらかじめ持ち込んだ銃火器が尽きてしまえばこっちのもん。私たちはそう判断して、相手の消耗を誘っている。


「三回で済んでいるのが化け物なんだが?」


「セービストとセツナに至っては全弾避けてるし。本当に同じ人間?」


「プロゲーマーだからって、こんなことまでできるのか……」


 絶え間なく銃を掃射しながら、ヴァーミリオンたち三人が引いている。銃口の方向を見れば簡単なんだけどな。


 私たち【ネクストフェーズ】の全員は一応、いわゆるシューティングゲームもそれなりに嗜んでいる。もちろんVRの。


 メイサもセービストも、銃を使う相手への対処法を心得ている。メイサが三回も死んだのは、彼女のスキル【怪力】により身体の制御が困難を極めるからだ。


「あれ、弾切れ?」


「無駄に撃ちすぎだ。人数がいるのだから、他のやつが撃っている間は控えろと言っただろう」


「ちっ、俺も弾切れだ。狙ってるのに当たらねえ……」


 俺も。もうない。打ち止めだ。そんな声がプレイヤーキラーたちの中から次々と湧いてくる。


「お前ら馬鹿か?……はあ」


 自身も残弾が尽きたのか、最後にメイサに向かってワンマガジンを撃った後、ヴァーミリオンは溜め息とともにごついアサルトライフルを放り投げた。


「仕方がない。お前ら、第二段階だ……」


 よしきた、第二段階。近代兵器を用いない、OSO本来の戦いの始まり。


 それをヴァーミリオンが告げる瞬間……。


「待ってましたっ!」


 メイサが一息に跳躍し、数十メートル前にいたクロックの額に膝蹴りを叩き込んだ。


 ドパンッッ!!


「ひいっ!」「……」


 比喩ではなく、クロックの頭が破裂した。隣のメタルが悲鳴を漏らし、ヴァーミリオンが全力で後退する。


「怪力女は俺がやる。お前らはセツナとセービストを……!」


「うらあああああっ!!」


 次いで、ハイキック。メタルの側頭部に直撃。


 バッッ!!中身の詰まった固体が原形を失う大きな音に、ヴァーミリオンの指示が遮られる。


「クロックさん!メタルさん!」「んだよおおっ、勝ち馬じゃなかったのかよおおおっ!」「なにが起こってやがんだ!?」


 悲哀、失望、驚愕の声があちこちから噴出する。


 メイサのスキル【怪力】は、魔力を常に消費しながら、全身の筋力を桁違いに増幅させるという能力だ。


 バフの恩恵はすさまじく、足技では人の頭をリンゴのように、いや豆腐のように爆散させることが可能になっている。


「リーダーは私がやる!雑魚は任せたっ!」


 メイサが大声を上げ、勝手に割り振りを決めた。


 まあ、いいけど。


「んじゃ、やりますか」


「やっとだな。時間を無駄にした気もするが……」


「結果論結果論。強硬姿勢だったら、もっと残機減ってたっしょ」


 手足をぷらぷらと動かしながら、私はセービストとくっちゃべる。


「おま、お、おまお前ら、冷静になれ!相手は二人っぽっちだ!」「まだ、まだ勝ち馬の可能性が……!?」「あ、あの女じゃなかったらワンチャンあるか?」


 リーダー格を連続して失った衝撃から醒めたのか、周りのプレイヤーキラーが落ち着きを取り戻し始める。


 遅いね。私とセービストは阿吽の呼吸で、同時に走り出した。


「速ええっ!?」


 まずは、一番手前のやつ。


 慌てて剣を鞘から抜こうとする目の前でバク宙し、サマーソルトキックを顔面に叩き込む。


「ぐううえええっ!?」


「があああっ!」


 左ではセービストがトンファーで殴りつけ、まともに食らったプレイヤーキラーの一人が吹っ飛んでいった。


「全員で来なっ!!その方が速い!」


「同感だ!」


「上等だおらああっ!」「言ったな!?全員でいっちゃうよっ!」「しゃおらああ*^¥#(%<$!」


 私たちの挑発に、ボルテージの上がったプレイヤーキラーたちがなだれ込んでくる。


 ははっ、楽しい!私は笑顔になっていた。


 多対一はVRMMOの醍醐味だ。OSOでこれを味わわないなんてもったいない!


「ついてきてよ、セービスト!」


「無論」


 セービストの返答を聞いた瞬間、私は自分の世界に入る。


 私以外のすべての動作がゆっくりになる。この空間では私が主。私が上、それ以外が下。


「らあああっ!!」


 一人目。そこそこ硬そうな金属の鎧と兜を身に着け、両手に握った大振りの斧を斜めに振ってくる。


 私は左にステップ。前髪をなまくらの刀身が掠める。


 ドオンッ!斧が床に叩きつけられ、氷の欠片が弾ける。


「よ」


 私は一瞬で肉薄。重量のある得物を振り切って前のめりになっているプレイヤーの後頭部に手を添え、かけ声とともに地面に叩きつける。


 ダンッ!先ほどよりは鈍い音ともに、頭の潰れる音が鳴る。


 メイサほどの筋力はないけど、勢いが乗ってるから似たようなことができる。


「な、なにいっ!?」


 だから、怯むなって。


 おそらく機動力特化か、布装備の二人目に急接近。


 竦み上がって重心が上にいっているので、がら空きの襟を両手でつかんで背負い投げする。


 三人目、中肉中背のプレイヤーキラー。飛んでいった二人目を自然と目で追ってしまっていたので、これも隙だらけ。


「こんの……!」


 今更向いても遅い。私は右の拳を握って、振りかぶりながら男の正面に躍り出る。


「おらあっ!」


「しっ、はあああっ!!」


 全然力のこもっていない棍棒の一撃を弾いて、全力の正拳突きを胴体にお見舞いする。


「あはあああっ……!」


 男は肺の空気を吐き出し、漫画みたいにくの字に折れて前方へ射出された。


「ふうっ」


「っおらああっ!」


 バレバレ。一応、隙を狙ってきているみたいだけど。


 四人目。こちらにジャンプして着地しながら、片手に一つずつ持った剣を同時に斬り下してきた。


 二刀流!少しはやれるかな。前に転がって避けながら思う。


「はっ!」


 前転の流れを斜めに変え、右足を外側に伸ばす。体を垂直に起こすと同時に振り返り、背後をローキックで払う。


「ちっ」


 空振り。下ろした両手で地面を押し弾き、バネの要領で後ろに下がったっぽい。


 相当運動神経が良いね。VR慣れもしてる。


「やるじゃん」


「……」


 声は帰ってこない。四人目の多分男は、口と鼻を隠すように三角巾を巻いていた。


 ちょっと距離が空いた。私と男は各々、戦闘用のフォームを構える。


「いくよっ!」「……」


 私と男が同時に走る。


 男の二刀流の構えは見たことがなかった。左手の剣の切っ先を私に向けて突きつけ、右腕を伸びた左腕の下に垂らし、右手の剣を斜め下に向かって置いた状態で突っ込んでくる。


 男なりに考えられたフォームなんだろうね。面白い!


「……!」


 私は構わず、男のリーチに突入する。


 男はすかさず右足を踏み込み、左手の剣で鋭い突きを放ってきた。これは予想できる。


 そして二刀流の定石をなぞるなら、あとこの構え方なら、次に来るのは右の剣の斜め切り上げだ。


「はっ!」


 そう見込んで私は、左の拳の内側で叩くようにして、男の左の刀身を私から見て右下方向、男から見て右の剣を置いている方向に弾いた。


「……っ!?」


 完璧に対処され、男の目が驚きの色を孕んだ。


 突きはそこそこ速かったけど、私に見切れない攻撃はないよ。


 二刀の刃同士が交錯してしまい、男は両腕の力を抜かざるを得なくなる。


 のを、左拳を払った勢いで時計回りに体を回転させながら、確認する。


「はあっ!」


 さらに私は一歩踏み出した右足を軸に後ろを向き、充分に勢いのついた左足を高く上げながらもう百八十度回転。


 後ろ回し蹴りを、男の顔面があった位置にお見舞いする。


 が、男は中々の実力者。もつれた剣たちを手放し、全力で後方に退避していたせいで当たらなかった。


「ふふんっ」


「……」


 私が直立の体勢に戻ると、手ぶらになった男はインベントリから一振りの剣を取り出す。


「おおおおっ!!」「ダリさんが妖剣を抜いたあああっ!」「勝ち馬!やはり勝ち馬だあっ!」


 途端に、周囲が色めき立つ。


 ダリって名前なんだ。まあそれはいいとして。


 妖剣ってなんなん?初めて聞く。きっとあれのことなんだろうけど。


 私は四人目のプレイヤーキラー、ダリの持つ赤黒い輝きをした刀身に視線をやる。


「明らかにやばそ」


 剣は赤っぽいオーラみたいなのを放っている。


 まずいね。あれに斬られるのはもちろん、近づくのも遠慮したいところだ。


「……っ」


「はっ!」


 剣を振りかぶり、ダリが再び前進してくる。私も足下の地面を蹴り、前に進む。


 私のオリジナルスキル【スキル不履行】は、私が相手のスキルの影響をまったく受けないというものだ。だから、ダリのスキルがなんであれ、私には効かない。


 けどもし、あの剣の方になんらかの能力や効果があるとしたら、それは防げない。


 なら、どうするか。


 決まってる。妖剣とやらの正体を暴くよっ!


「よっ」


 ダリとの距離があと数メートルというところで、私は直角に曲がる。


「はいは~いっ、ごめんねえ」


「なっ!なにしやがっ……!」


「そりゃっ」


 いつの間にか見物モードのプレイヤーキラーたちの群れに突っ込み、そのうちの一人を抱えてダリに投げつける。


 なに油断してんのさ。全員で来いって言ったろ。


「……っ!」


 急に人を投げ込まれ、ダリは避け切れないと悟った。なんの迷いもなくプレイヤーキラーを真っ二つにする。


 ジュクジュクジュクッ。


 グロテスクな表現の規制により、二つに卸されたプレイヤーの断面は黒く塗り潰されている。が、明らかにその断面から、なにかを焼くような、油の跳ねるような音が響いた。


「……」


 ダリは立ち止まったまま、一瞬後悔の目をした。


 やっちまった。そう思ってるっぽい。私に手の内を明かしてしまった。そんな、若干の後悔だ。


 妖剣は斬った傷に作用する?じゃあ、あのオーラは?


「人柱ご苦労っ!」


「このアマあああっ!」「かわいいからって許されねえぞっ!」「おめえええ+)$”?!!」


 離れ際におちょくると、沸騰したやかんのようにうるさくなるオーディエンス。


 仲間を無碍に扱われ、ますます歯止めの効かなくなった暴徒たちが、私の後を追ってぞろぞろと駆けてくる。いいね。


 前は妖剣を持ったダリ、後ろは有象無象のプレイヤーキラーたち。まさに前門の虎、後門の狼じゃん。


「ふふ……」


 楽しい。ただただ純粋に、戦えることが喜ばしい。嬉しい。


 私は舌なめずりをして、小さな笑みを浮かべた。

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