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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
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第八十二話

【第八十二話】


 カレーを振る舞った翌日の、第三回公式イベント七日目。


 俺はキャンプサイトのテレポートクリスタルを利用し、『廃墟の館』にやってきていた。


「トーマじゃないか」


 クリスタルのある大広間で俺を出迎える形で相対したのは、クラン【検証組】のクランマスターであるシークさんだった。


「シークさん、一昨日ぶりです。【検証組】も館まで来れたんですね」


「色んな戦闘系クランの力を借りて、ようやくだがな。今日は一日かけて拠点をこしらえる予定だ」


「その分だと、『リビングトリュフ』の分析は済んでませんよね?」


 シークさんには館の外で採取できた貴重なキノコ、『リビングトリュフ』の鑑定と調査をお願いしていた。


「いや、終わってるぞ。キャンプサイト居残り組が調べてくれた」


「おお!どうでしたか?」


「アイテムの名前は『リビングトリュフ』。魔物の『リビングトリュフ』からドロップするアイテムで、こちらの世界でも高級食材として認知されている」


「アイテムの名前と魔物の名前が一緒なんですね」


 畑で戦ったニンジンやジャガイモとかもそうなのだろうか。呼びづらいな。


「肝心のアイテムの効果は、ジャイアントピッグの魔物の誘因、興奮作用だな。トーマの推測通りだ」


「なるほど」


 大方予想通りか。


「他のブタ系の魔物に効果があるかは不明だ。ブタ系の魔物はジャイアントピッグしか確認できていないからな。『螺旋の塔』でブタ系が出るまでエンカウントを繰り返す試みはまだ計画段階となっている」


「『魔王』に聞いてみます?あいつならブタの魔物を所有しているかも」


「いや、俺もそれを考えて直接問い合わせてみたんだが、持っていないそうだ。彼の言葉を信じるなら、だが」


「それは、信用できませんね……」


 俺には『魔王』の考えることは手に取るように分かる。どうせ、【検証組】の協力をしても利益にならないことが分かりきっているから、協力するつもりがないのだろう。


 もしくは本当にブタの魔物を持っていない可能性もあるが、その線は薄いと考えている。やつの異常な収集癖を鑑みれば、持っていないという可能性は考えられない。


「薬にしたときの効果も分かっている。服用者にジャイアントピッグの誘因、興奮効果が適用されるという効果だ」


「そっくりそのままアイテムの効果が適用されるんですね」


「そうだな。ただ、ごく少量を希釈して薬にしても効果が適用される。一つのトリュフから数十個の薬が作れるとメディは言っていたから、効果の適用者を増やすという面で見れば薬にする価値はあるだろう」


「それなら、薬にした方がいいですね。見つけたらメディに渡します」


「そうしてくれたら助かる」


 これからの対処法を共有して、シークさんと別れる。


「館は古いが、スペースとしては十分な広さだ。ジャイアントピッグとリビングトリュフの湧きに影響しないよう、室内に拠点を築くつもりだ」


「流石ですね」


 リビングトリュフは魔物だから、プレイヤーが近くにいないときに湧き直すという仕様が適用されるはず。


 よって、拠点は館の中に作った方がいいということになる。


「『氷の洞窟』に行くなら、速くした方がいいぞ。もうボスまで判明してるからな」


「そうなんですか?」


「ああ」


 俺がカレーの食材を集めている間に、ダンジョンの攻略は順調に進んでいたようだ。


 『氷の洞窟』が見つかってからたった一日しか経過していないが、今がイベント中だということを考えれば順当な攻略スピードだ。


 『特製かき氷を作ってみよう』というアウトドアを達成するために、一刻も早く氷を手に入れなければならないからな。


「俺が持ってる情報を伝えた方がいいか?」


「いえ、急ぎます」


「分かった。がんばれよ」


「はい、ありがとうございました」


 挨拶もそこそこに、俺は館の入り口目指して走り出した。


 負けてられるか。俺がアウトドアの頂点だ!



 ※※※



 館の裏側に回り、『氷の洞窟』の入り口に相対する。


 周囲は薄暗く、洞窟の奥は漆黒で塗りつぶされている。上下左右を占める尖った氷たちは透明なはずだが、光がないので闇を迎合して濃い藍色に染まっていた。


「行くか……」


 ライト付きヘルメットを被り、いざ出陣!


 俺は暗い横穴に向かって歩き始める。


「最低のコンディションだな」


 洞窟の地面は概ね平坦なものの、滑りやすくて歩きづらい。ところどころにぎざぎざの氷が突き出していて、転んだらとんでもないことになるだろう。


 俺はそんなことを考えながら、一歩、また一歩と踏み出していく。


 ゲームの中だから寒さや冷たさを感じないのが救いだな。もっともOSOはとことんリアルを追求したゲームなので、低体温症や凍傷には気をつける必要があるが。


「ん?」


 数分歩いたところで、景色に変化が現れた。


 前方に複数の光が見える。明滅したり、光の向きがせわしなく変わっていることから、プレイヤーが戦闘しているようだ。


 近づいてみるか。


「【属性剣・炎】っ!はあああっ!!」


「ギャウオオオッ!」


 あれは、コースケか。ということは【エンジョイパーティ】だな。


 コースケがスキルを使って自らの剣に炎を纏わせ、でかいシロクマみたいな魔物に斬りかかる。


 というか、洞窟にシロクマがいるのかよ。


「ッギャウオオオオオッ!!」


「うおっ!?」


 刀身の炎で洞窟が明るくなったのも束の間。


 コースケの炎を込めた一撃は、シロクマに効いていないようだった。きっと、あの分厚い毛皮とその下にある脂肪が熱と炎を防いでいるんだろう。


 反撃で鋭い爪の生えた拳によるフックを繰り出されたが、コースケはなんとか躱す。


「こっちだ!」


「オオッ……、ギャウ?」


 ダメージソースの剣士がピンチになったところで、重装のマモルがシロクマを挑発する。


 彼のスキルは【なんとなく気に食わないヤツ】という。魔力を消費して魔物のヘイトを稼ぐことのできる能力だ。


「ギャオウッ……、ギャオオオオウッ!!」


「……ふうううっ!」


 シロクマが後ろ脚だけで立ち上がり、マモルに向かって拳の連撃を叩き込む。


 が、流石はヘイト役。左手に構えた大盾で全てを防いでいる。


「今だっ!」


「うんっ!土の精霊さん、力を貸して!」


 マモルが時間を稼いでいる間に、ライラが【精霊のおともだち】で土の精霊を呼び出した。


「……」


 土の精霊はいかにも肉弾戦が得意です、とでも言わんばかりのムキムキな体をしている。半透明だが、茶色く発光しているおかげで明るい。


「あの魔物に攻撃してっ!」


「……」


 ライラの指令に合わせて土の精霊が構えると、精霊の両腕に土がまとわりついた。


 なるほど、ガイアみたいに土をいじくれるわけだ。


「……」


「ギャオウッ!?」


 土の精霊の右ストレートが白い毛皮に覆われた腹部に突き刺さる。


 圧倒的物理の一撃が突然叩き込まれたことで、シロクマはダメージを受けている。


「土ならいけるかもっ!」


「おうっ!【属性剣・土】!!……どりゃああっ!!」


「ギャオオオウウウンッ!」


 パンチで体勢が崩れたところに、コースケの追撃が入る。


 剣に土を纏わせて刀身を倍以上に伸ばし、増えたリーチを活かして突き攻撃をシロクマの胸部にお見舞いする。


「リンっ!」 


「分かってる!!」


「ギャオオ……!ギャアオオオオウウッ!!」


 さらに、手の空いたマモルがリンの名を呼ぶ。


 いいぞ。まだトドメを刺せていないから、油断していないな。


 事実、シロクマの魔物はまだ倒れない。


 胸に突き刺さった土の剣を強引に引き抜き、それにより吹き飛んだコースケにヘイトを向ける。


「『我流・天空落とし』っ!!」


 瞬く間に壁の氷を蹴って上空に舞い上がったリンが、【脚力強化】でめちゃくちゃに強化された渾身の踵落としをシロクマの頭に叩き込む。


 ゴーンッ!!という鈍いながらも気持ちのいい音が、洞窟内に反響する。


「やったか!?」


 おい、それは禁句だぞコースケ。


 俺は全速力で駆け出した。


「いや、まだ分から……」


「ギャオオオオオオオンッ!!」


 マモルが返答を言い終わる前に、シロクマの咆哮が轟く。


 なんとシロクマは、右前脚を犠牲にリンの踵落としを防いでいた。


 野生の生存本能が成せる業だな。


「ギャウオオオッ!!」


「きゃあっ!」


 そして大技を放って動けないでいるリンに向かって、左前脚の攻撃を繰り出そうとしている。


 だが、そこまでだ。俺が追いついたからな。


 俺はシロクマとリンの間に割って入り、右腕を構えて、思いっきり水平に薙ぐ。


「『ソウル・パリィ』」


 俺の右腕がシロクマの左前脚に浸潤し、その中にある魂を肉体から弾き飛ばす。


「オオオ……!」


 放心状態になったことでシロクマの鳴き声が不自然に途切れ、白い毛むくじゃらの巨体が勢いに乗って倒れ込んでくる。


 俺はリンをかばうため、右腕を振り抜いた勢いのままターンし、背中でシロクマの肉体を受け止める。


「っ!……大丈夫か?」


「トーマっ!?」


 リンの驚いた顔は新鮮だな。いつも澄ました感じを装っているから。


「よい、しょっ。……全力を出すのはいいが、反撃を考慮して動けるようにしないといけないぞ」


「うん……。その、ありがと」


「礼には及ばない。むしろ謝りたいくらいだ。ラストアタックを取っちゃったしな」


 シロクマの体が消滅し、アイテムがいくつか撒き散らされる。


 俺は拾う意志がないことを示すために、それらから離れる。


「それでも礼を言わせてくれ、トーマ。リンが危ないと判断したんだろう?」


「まあ、そうだな。あの場面、コースケは吹き飛ばされていて、マモルは重装で素早く動けない、ライラは土の精霊に命令するのが時間がかかるから、俺が割り込ませてもらった」


「なるほど。そこまで考えていたのか……」


 マモルが感心して頷く。


 彼の戦いから学ぶ姿勢は本当に尊敬できる。OSOでは貴重な常人枠だ。


「一瞬でそこまで判断できるの、すごいです。私、倒せたと思って油断してました」


「実を言うと、俺もだぜ」


 ライラとコースケが正直に言いながら話に加わる。


 まあ、普通はそうだろうな。


「見るからに硬そうだったからな、このシロクマ……」


「ケイブホワイトベアーというらしい」


「まんまだな。とにかく、俺はケイブホワイトベアーの高い耐久性を重く見て、全員が生き残れる最善の択を取っただけだ」


 ドロップアイテムを入手したマモルが補足してくれたおかげで、シロクマの正式名称が判明した。


「まあトーマがどう釈明しようが、リンが助かったのは事実だ。これだけでも受け取ってくれ」


「まじサンキューな!」


 遠慮したつもりだったが、マモルが右手を差し出してアイテムを渡してくる。


 コースケの純粋スマイルつきで。


「いいのか?」


「ああ、もらってくれ」


「なら、ありがたくもらうよ」


 アイテムはケイブホワイトベアーの毛皮だった。


「ありがとう、精霊さん」


「さ、行こうぜ!トーマもボス目当てだろ?」


 ライラが精霊を帰還させたところで、全員の準備が整った。


「まあな。そうやって聞いてきたということは、【エンジョイパーティ】もか」


「今一番ホットなダンジョンだからね。寒いけど」


「ははは……」


 リンのジョークをそれとなく受け流し、俺たちは探索を再開した。


 意外とお茶目なんだな、リン。



 ※※※



「ボス討伐を目指してダンジョン攻略に名乗りを上げたものの、道中の魔物が強くてな」


「昨日から挑んでるんですけど、ボスまで行けてないんです」


「なるほど……」


 洞窟内の戦闘になれていると思ったら、やはり昨日から攻略していたか。


 俺は最後尾でマモルとライラと話しながら、暗く冷たい洞窟を奥へと進んでいく。


「【属性剣・炎】!おりゃああああっ!!」


 前方ではコースケが豪勢なかけ声を上げ、行く手を塞ぐアンマクコウモリたちを切り払っていく。


「『ツララガイ』よっ。念のため気をつけて!」


 俺たちの少し前で、ライトを上に照らしてなにかを警戒していたリンが声を上げる。


「了解」


 マモルが返事をし、大盾を上に向けて俺とライラを覆った。


 そしてリンは壁を駆け上り、洞窟の天井に向かって足払いを数回行う。


 なんだ?なにかいるのか?


「もう大丈夫!」


「……よし、行こう」


 視界を遮る大盾が取り除かれると、地面には砕けた氷と、これは貝殻の破片か?


「ツララガイ……。貝の魔物か?」


「そうだ。よく天井に張りついていてな。真下に生き物が通ると落下してきて貝殻の先端を突き刺してくる」


「それがまるでつららが落ちてくるみたいだから、ツララガイというらしいです」


「それはなんとも凶悪だな」


 この暗さでは天井は見えにくく、ライトを上に照らさなければならない。そうすると、前や足元の警戒が疎かになる。それでは本末転倒だ。


 というか、ツララガイの存在を知らないと上を警戒しないだろうから、ずいぶんな初見殺しだ。


 俺はそんなことを思いながら、アイテム化したツララガイの素材を拾ってみる。


 『ツララガイの殻の破片』、『ツララガイの身』か。


「リンの足技が効くということは、打撃に弱いのか?」


「斬撃や刺突に比べると弱いが、並の打撃では太刀打ちできない。ツララガイの殻はその性質上、地面に衝突しても割れないくらいの強度を持っているからな」


「なるほど、それもそうだな」


 自滅しないようになっているのか。避ければ地面に刺さって勝手に倒せるという甘い考えは通用しないと。


「私たちで色々試した結果、落下される前にリンが蹴り砕くという対処法に落ち着きました」


「昨日攻略が難航したのは、ほぼツララガイのせいといっていい。何度刺されたことか」


「苦労したようだな」


 さらっとリンの蹴りの破壊力が分かったところで、先陣を切っていたコースケの足が止まった。


「シロクマだっ!!」


「っ!」


 皆の顔つきが一瞬で変わる。


 すかさずマモルが前に位置取り、リンが引っ込んでくる。


「次は完璧に勝つ!」


「まあ待て」


 俺も走って前線に躍り出て、意気込むコースケの肩に手を乗せる。


「トーマは見ていてくれ!」


「いや、俺がやったほうが速いし、確実だ」


「ギャウオオオオオオンッ!!」


 問答中にもかかわらず、シロクマが雄たけびを上げ、前脚を突き下ろしてくる。


 俺はそれをひょいと躱し、地面に突き刺さった白く太い右腕に手を入れる。


「それに、使役させられるからな」


 すぐさまシロクマの魂を引っこ抜く。


 そして空いた手で自分の魂を少しちぎり、シロクマの魂と混ぜ合わせてシロクマの肉体に返す。


 もう何度もやってきた、【魂の理解者】を応用した半服従のやり方だ。


「な、なにをしたんだ?」


「俺の魂を混ぜたことで、俺の意思を植えつけたという説明が適切だな」


「ん?どういう意味だ?」


「まあ、俺の魂の一部を分け与えることで、操れるってことだ」


「まるほど?すげええっ!」


 コースケたちには見せていなかったはずだから、驚くのも無理はないな。


 魂をどうこうするスキルを持っていないと魂を見ることができないから、なおのこと俺がなにをしたのか理解できないだろう。


「……」


「じゃあ、このケイブホワイトベアーは攻撃してこないのか?」


 目の前で沈黙しているシロクマを一瞥し、マモルが聞いてくる。


「ああ、今はな」


「今は、ってなによ……」


「俺の魂に近いんだぞ?唐突に裏切って攻撃してくることもありうる」


「トーマさんって裏切るんですか……?」


 リンとライラに引かれているが、いまさら気にしていられない。


「大丈夫。今回のイベントは善良にやるって決めているから、安心していい」


「普通の人なら、そんな決め事しないんだけど」


「……さ、さあ行くぞ。前はシロクマに任せて出発だ」


 旗色が悪くなりだしたので、俺は強引に話を切り上げて歩き始めた。


「本当に大丈夫かなあ……?」



 ※※※



「もうすぐ広間のはずだ。そこまで行ったら休憩しよう」


「広間があるのか?」


 暗い穴の中で途中に広間があるとは、少し前に行った『坑道』みたいだな。


「結構広くて、攻略勢が簡易拠点みたいな形で利用している。まあ魔物が出るから、がっつり腰を据えることはできないが」


「それでもありがたいよ。温かい飲み物を飲まないと凍えちゃう」


 気温を肌で感じられないが、『氷の洞窟』は超寒いはずだ。低体温症や凍傷にならないために、温かいものや防寒が必須となる。


 俺もあつあつの日本茶を用意してきている。防寒は特にしていない。装備重量が重くなるからな。


「よっしゃ行くぜええええっ!!」


「待ちなよコースケ!」


 足元の悪さをものともせず、脱兎のごとく駆け出すコースケ。それを追いながらも、内心のワクワクを隠しきれていないリン。


「待ってよ~!」


 流れに乗ってはしゃぎ始めるライラ。


「ライラまで。まったく、行こうトーマ」


 俺に気を使ってくれつつ、ペースが乱れない速さで三人の後を追うマモル。


「ああ」


 俺も彼らに続く。


 こうしてみると、まさに理想のパーティだ。どんな強敵が相手だろうと、四人で一致団結すれば打倒できるであろうポテンシャルを秘めている。


 【エンジョイパーティ】というクラン名もぴったりだ。


 だが……。


「広間に入れ、シロクマ」


「ギャウオオッ!」


「はやく、はやく!」


 洞窟の直径の半分くらいの大きさを占めるシロクマが先を塞いでいるので、簡単な命令を出してコースケたちを進ませる。


「よっしゃあ、とうちゃ~……、え?」


 だが……。


 いつもいつでも、パーティでエンジョイできるとは限らない。


 そう、特にこのOSO内では。


「死ねええええっ!!」


「お前が死ねええっ!」


「ここで会ったが百年目えええっ!」


「うるせえっ!」


 静かなはずの広間の中では、数多のプレイヤーたちによる血みどろのPvPが繰り広げられていた。


「これはまたひどいな」


 俺のリスキル祭りほどではないが、大した熱気だ。いや殺気というべきだろうか。


 暗いながらもざっと眺めた感じ、見知った顔が多い。ということは攻略勢のほとんどがこの広間にいることになる。


「いや……!」


「ライラ、見ちゃダメ」


 人どうしの醜い争いを直視できず、ライラが下がる。そんな彼女をかばうように、リンが毅然として前に出る。


「どうして、戦っているんだ?」


 コースケは戦争のあり方について疑問を持ってしまった。


 戦場をよく見てみると、こちら側、広間の入り口側には正義寄りというか真っ当なプレイヤーが多く、奥側には闇に堕ちたプレイヤーキラーが多い。


 つまり、普通のプレイヤー(光)vsプレイヤーキラー(闇)の戦いというわけだ。


「コースケはライラを見ておいてくれ。ここは俺とリンとトーマで……」


「トーマ、といったか?」


 げ、この声は。


 俺はすかさずシロクマの後ろに隠れる。


 が、次の瞬間。


 暗がりから斬撃が飛んできて、シロクマの首が刎ねられた。


 シロクマ――――!!短い間だったけど、いいやつだったよ。


 どしん、と広間の床に魔物の亡骸が横たわり、俺と相対したのは……。


「久しぶりだな、アット」


「こそこそ隠れた後に言うセリフか?」


 プレイヤーキラー筆頭、アットだった。

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