第七十六話
【第七十六話】
第三回公式イベント五日目、俺は居合わせたセツナとアキヅキとともに怪しい洞窟の攻略を進めていた。
「ここが最深部っぽいな」
俺は起伏の激しい岩肌に手を突きながら、一息つきがてら呟く。
『リビングマツタケ』を倒してから数十分後。ぐねぐねとした通路を進み、急な下り坂を下りた先に広い空間があった。間違いなくボスのフィールドだろう。
「なにが出るかのお楽しみや!」
「やーっと羽が伸ばせる!」
アキヅキとセツナのやる気は十分のようだ。どんな相手が来ても大丈夫だろう、多分。
「じゃあ、進んでいくぞ」
俺は言い、懐中電灯を前に掲げた。
ボスはどんな魔物であっても俺の『魂の理解者』で即倒せるので、俺が先頭にいた方がいいという判断だ。
だが、それは間違いだったかもしれない。
「おいおい……」
懐中電灯を照らした先にいたのは、複数頭のどでかいブタだったからだ。
「いくで、セツナ!!」
「分かってる!」
対多数であることが判明した瞬間、俺の位置まで出てくるアキヅキとセツナ。
同時に豚が数頭、突進の構えを見せる。
「来る!」
どれくらいの速度で突っ込んでくるのか分からないので、三人ともすぐに動けるように身構える。
流石に『蟻塚の迷宮』の『寅』ほどではないと思うが、食らったら即死だと思うので気をつける。
「「「ブッヒイイイイイッ!!」」」
三頭が同時に突っ込んできた。
でかブタの体積は十分にでかく、横幅も広い。左右に転がって避けられる保証はどこにもなく、万が一避けられたとしても他の個体の突進に衝突するリスクが高い。
だから、上に避ける。
俺たち三人はほぼ同時に、最大限の筋力を用いて上方へ跳躍した。
「ブヒイイイイッ!!」
すぐ真下を通過するでかブタ。俺はその背中に両手をつける。
この状況から、魂を抜く!
「はあああっ!」
かけ声とともに、体内に侵入させた両手ででかブタの魂を引き抜く。
さらに魂を持ったまま、両手をばねのようにしてでかブタの背中を弾く。
バク転の要領だ。空中で前転しながら、魂の抜けたでかブタとすれ違う。
「ふう」
最後に、地面を転がって衝撃を逃がす。
初めての試みかつ工程の多い技だったが、うまくいってよかった。
「二人はどうだ?」
振り返って様子を見てみると、アキヅキとセツナはでかブタとのロデオを楽しんでいた。
「脂肪のせいで打撃が通らへん!!」
「同じく!短剣じゃ刃の長さが足りない」
二人ともでかブタに難儀しているようだ。
なら、でかブタにはでかブタだ。
俺は自分の魂を少しちぎって、今持っているでかブタの魂と混ぜる。
「隙を見て降りてくれ!」
「「了解!!」」
俺は二人に呼びかけながら、編集した魂を腑抜けたでかブタに戻す。
でかブタの配下の完成だ。
「あのでかブタに突っ込め!」
俺は配下に命令を下し、アキヅキの乗っているでかブタに攻撃させる。
そして俺は、暴れているセツナの乗ったでかブタに接近する。
「よっと」
「『ソウル・パリィ』」
セツナが背から降りたのを確認し、俺は『ソウル・パリィ』で素早くでかブタ二頭目の魂を弾き飛ばす。
「よしっ」
魂の抜けたでかブタ二頭目は、慣性のまま地面をスライディングしていった。
これで、二頭目が沈黙完了だ。
「トドメを刺しておいてくれ」
「りょーかいっ」
セツナに言伝を残し、俺は取っ組み合っているでかブタ二頭の下へ急ぐ。
「俺は降りたで!」
暗くて分からないが、どこかからアキヅキの叫びが聞こえる。
なら、『ソウル・パリィ』で三頭目の魂を抜いて終わりだ。
そう思った瞬間……。
「追加かよ」
奥の暗がりからもう二体、でかブタが現れた。
「もしかして無限湧き?」
手早くトドメを刺して戻ってきたセツナが言う。
「いや、OSOではプレイヤーが処理しきれないほど魔物が速く湧くことはない。もともとこの広場にいたでかブタだろう」
そこまで言い、俺は違和感に気づいた。
道中、俺たちはなにと戦っていた?そう、キノコだ。そして、ボスフィールドには大量のブタ。
これが意味することとはつまり……。
「……トリュフ」
「トリュフ?」
「トリュフがどこかにあるはずだ。それを採取するか倒せれば、でかブタをどうにかできるかもしれない!」
「なる!ここでもキノコが関わってるってことね!」
流石プロゲーマーだ。ゲームに関する理解が速い。
「私探すわ。トーマはブタちゃんをお願いっ!」
そう言うや否や、セツナは駆け出していった。
よし、いいぞ。攻略の糸口はおそらく掴めた。
あとは……。
「ブヒイイッ」「ブッ、ブッ……」
このでかブタ二匹をどうにかする。
「来い」
俺は集中し、手をちょいちょいと動かして挑発する。
「「ブヒイイッ!!」」
狙い通り、二頭とも怒ってくれた。鼻を鳴らして突っ込んでくる。
しかし、ほぼ同時の突進だ。横に回避するスペースはない。
だから、上に避ける。ってさっきもやったな。
俺は大きく跳躍し、左のでかブタの上に乗る。
「よしよし」
右手でバランスを取りながら、左手で俺の魂を少しちぎる。
そしてでかブタの体内に手を突っ込み、中で俺の魂の破片とでかブタの魂を混ぜ合わせる。
魂を抜かずとも、俺の魂と混ぜられさえすれば半服従させられる!
「ブヒッ」
背に乗っているでかブタが一鳴きしてスピードを緩めた。
俺の指示を待っている状態だ。
「もう一頭に突っ込め!」
俺は指示を出し、乗っているでかブタを突進させる。
もう一頭のでかブタは、半服従のでかブタの猛進を正面から受け止める。
「ぐうっ……!」
でかブタどうしが正面衝突し、大きな衝撃が発生。俺は背にしがみつきながら耐える。
そして、機を見て半服従のでかブタの頭の上に移動した俺は、ぴょんとジャンプしてもう一頭の頭の上に乗った。
「『ソウル・パリィ』。……もういいぞ」
最後に、右手を頭に浸潤させる形で『ソウル・パリィ』を発動。もう一頭の魂を弾き飛ばしてゲームセットだ。
「よくやった」
おっと、忘れちゃいけない。
今活躍した、半服従させたでかブタの魂を抜き、未だに取っ組み合っていた半服従のでかブタとアキヅキが乗っていたでかブタの魂も抜く。これで処理は完璧だ。
「あったよー!『リビングトリュフ』!!」
同時に、セツナの元気な声が聞こえてきた。
「トリュフ!?……ははん、そういうことやんな」
遠くの方に避難していたアキヅキも察したようだ。
そう、でかブタたちは『リビングトリュフ』のせいで興奮状態にあったというわけだな。
その証拠に、セツナがトリュフをゲットした途端……。
「大人しくなってる」
気づけば、周りにいた数十頭のでかブタ、正式名称『ジャイアントピッグ』がパッシブ状態になっている。
「意地の悪いからくりや。暗いせいでトリュフが見つからんと、延々ブタと戦わされるなんて」
「その代わり、タネさえ分かれば初心者でも攻略はできるだろうな」
「それにしては道中のキノコが強すぎるけどね」
戦闘が終わり、話しながら周りを警戒して進む俺たち。
広場が暗いせいで見落としが発生しがちだ。用心して進もう。
「ん?建物だ」
しばらくでかブタの間を進むと、廃墟のような館が現れた。
まさか。俺は急いで扉を目指す。
「ちょっと!?警戒しなくていいの?」
「もしかして、ご褒美か?」
セツナが止めるが、アキヅキは分かったようだ。
『見晴らし山』の山頂にもロッジがあった。そして、イベントは誰でも楽しめるように設計されている。
となれば……。
「この館の中にも、テレポートクリスタルがある!」
当たりだった。
入ってすぐのエントランスの中央に、まばゆい光を放つ水晶の塊があった。
「よしっ!」
俺はガッツポーズをしたい気持ちを抑え、急いでテレポートクリスタルに触れた。
※※※
その後、三人で『廃墟の館』とでかブタの広場を捜索したところ、館の裏手にさらに下に降りる道が発見された。
その道は地面も壁も天井も氷で構成されていて、いかにも特製かき氷の素材を入手してくださいと言わんばかりのフィールドだった。
ただ、豚肉と食べられるキノコを手に入れられたのは大きいということで、それ以上の攻略はせず、俺はセツナとアキヅキと別れた。
そして今は……。
「それでは、トーマの素晴らしい攻略を祝って、かんぱーい!」
キャンプサイトでバーベキューをしている。
参加しているのは俺とハッパに加えて、【英雄の戦禍】、【アルファベット】、【ランキング】、【文明開花】、【知識の探求者】、【ビューティフルデイズ】の面々だ。とにかく多い。
「いやあ、トーマならやってくれると信じてたぜ!」
本物のシイタケをぱくつきながら、Yが調子のいいことを言う。
こいつ、前はめちゃくちゃ疑っていたのに。
「それにしても、『リビングトリュフ』の采配はすごいと言わざるを得ないね」
「俺なら、永遠に戦い続けていた」
キノコとでかブタからトリュフを連想した発想力について、アールとマスターさんが褒めてくれる。
いやあ、それほどでもない。アールなら間違いなく気づけていただろうし、マスターさんなら広場のでかブタを余裕で倒せていただろう。
ちなみに、『リビングトリュフ』は一つしか獲れなかったので【検証組】のシークさんに渡して鑑定してもらっている。
「しっかし、テレポートクリスタルの先に『氷の洞窟』かあ。意外と攻略要素があったな」
「山にアウトドアしに来て洞窟っていうのもなんかアレっすけどね」
牛肉を食みながら、ファーストとナナが愚痴を呟く。
まあメタ的なことを言って運営を擁護するなら、寒い地域じゃない山で氷を出すには洞窟を用意するしかなかったんだろう。
「なにもしていないのに、私たちもご相伴に預かってしまい申し訳ない」
「いいんですよ、アカネさん。こういうのは皆で楽しんだ方がいいですから」
「そうですそうです!」
アカネとアクロムさんとチャーミーさんも楽しんでいるようだ。
アクロムさんの言う通り、アウトドアは大勢でわいわいやった方が思い出深いものだ。まさかOSOでそれを体験できるとは思わなかったが、純粋に楽しい。
「お疲れ、トーマ」
そう感慨にふけっていると、ハッパが話しかけてきた。
「あの、ごめんね?【爆発魔法】で畑を荒らしちゃったこと……」
「なんだ、気にしてたのか」
「気にするよ!ロボーグとかマスターのマスターさんとかと話して、やっぱりよくないことだったんだって気づいたんだ……」
ハッパは俯きながら、だんだんと小さくなっていく声で言う。
「とりあえず顔上げろ、ハッパ」
「……」
「ハッパはハッパのままでいい。【爆発魔法】で野菜が大量収穫できたから、今こうしてバーベキューができているんだ。まずはそれを楽しめ」
「でも、迷惑が……」
「俺は全然迷惑じゃなかったぞ。むしろ楽しかった」
「え?」
「次どうなるのか分からないハラハラ感を楽しむのがゲームだろ?そういう意味なら、ハッパは最高の起爆剤だ」
「私、起爆剤?」
「そう、起爆剤だ。元々面白いOSOを、さらに面白くしてくれる。だから、ハッパはハッパのままでいいんだ」
「私は私のまま……」
「そうだ」
「……分かった!」
ハッパの迷いがなくなった。
あ、やっぱり、少しは迷わせた方がよかったかもしれない。
「でもまあ、楽しければよし、だな」
俺はそう吹っ切れて、よく焼けた肉を手に取るのであった。
こうして、アウトドア『バーベキューをしてみよう』が完了した。
※※※
「ふう、いい調子だね」
「また楽しくなるな、相棒」




