第六十七話
【第六十七話】
俺、ファースト、アカネ、カオルさん、ダンジュウロウさん、シノブさんの六人で『見晴らし山』の遊歩道を歩き、無事キャンプサイトに到着した。途中、『ミハラシボア』の『サクラ個体』である『ミハラシボア・サクラ』に遭遇したが、難なく倒すことができた。いくら脂肪が厚かろうと、俺の『魂の理解者』があれば貫通できる。
「めちゃくちゃ広いな」
俺はキャンプサイトを一目見渡して呟く。
木や低木は一切生えておらず、均され無数のテントが広がる平原には、ところどころ東屋のようなものがある。あれがバーべーキューエリアだろうか。さらに遠くには、ロッジらしき大きな丸太の建物が見える。ここから見てあれほどの大きさということは、小さな城くらいありそうだ。
「プレイヤー全員を収容しなくちゃいけないからだろう。最初の広場の数十倍は広い」
アカネがなぜか、誇らしげに言う。
「とりあえず、ロッジでテントを買えばいいのか?」
「そうだな」
ということで、ロッジを目指してとことこと歩く。
歩いている間、大小さまざまなテントが所狭しと並んでいる風景が目に入ってくる。
「なあ、テントの大きさで性能が変わるのか?」
「簡単に言うと、中の広さが変わるな」
ファーストが軽い調子で質問すると、アカネも端的に答えた。
「内装は変わらないから、家具を飾らないといけないぞ。ストレージボックスは最初からついてるが」
「お、気前いいじゃんか」
「そもそも、テント自体クランハウスを持てないプレイヤーへの救済アイテムに思える。キャンプサイト以外の場所でも置けるしな」
「もう、家を建てる土地がないもんな」
なるほど。テントはキャンプサイト以外にも置けるのか。それなら余計に買っておくのもありだな。
ダンジョンの前やフィールドのど真ん中にも設置できるのなら、野営地として大いに役立つだろう。あのめんどくさい、『坑道』攻略のキーアイテムになりそうだ。
「着いたな。ここがロッジだ」
「「おお!」」
テントの森を歩くこと十分くらい。やっとロッジに到着した。
ロッジは城というか、野原にある砦みたいな迫力があった。少し横長な建物は角ばっていて、そこはかとなく魔物を寄せつけない威圧感を放っている。
が、俺たちプレイヤーにとってはウェルカムといった親しみやすさがある。入口の脇には大きな松明が灯り、眩しいくらいに明るい。さらに両開きの扉が開放されていて、中の様子がよく見える。
中はホテルのラウンジのようにきれいだ。プレイヤーが多く出入りする前提で作られているためか、異様な清潔感がある。
「正面のNPCからテントやバーベキューセット、食材なんかが買えるぞ」
アカネが教えてくれる。
彼女がいなくてもここまでたどり着けただろうが、マイペースなファーストと一対一で話し相手になるのに苦労したかもしれない。
そういう意味で……。
「ありがとうな、アカネ」
「なっ、なにを改まって……!」
俺が礼を言うと、顔を赤くして照れるアカネ。
「アカネやカオルさんたちがいなかったら、俺のハイキングは退屈なものになってたからな」
「おい。それ、俺といるのが退屈ってことか」
「……喧嘩なら、テレポートクリスタルに触れてからにしてくれ」
おっと、そうだったな。
俺たちはロッジ一階のど真ん中に置いてあるテレポートクリスタルに触れてから、乱闘を開始した。
「あのなファースト、いい加減コレクションの自慢ばな……」
「『俺が先に殴る』っ!」
「ぐはあっ!」
おい!スキルを使うのはなしだろ!
文句を言いながら不意打ちしようとした俺は殴り飛ばされ、ロッジの壁に頭を打ちつけてデスした。
その後、騒ぎを聞いて駆けつけたNPCによってファーストもキルされた。
ざまあみろ。
※※※
「着いて早々暴れ回るとか、恥ずかしかったぞ私は」
「「ごめんなさい……」」
これに関しては俺たちが100%悪いので、素直に謝る。
さて、無事キャンプサイトに着いた俺たちは、再び登山を敢行した。
テントを立てて内装をクランの拠点にするべく奮闘するダンジュウロウさんとは別れ、五人で山を登っている。
あらかじめ検証の情報などを仕入れているアカネによると……。
「食材はデスするとドロップしてしまう。手ぶらなうちに登頂は済ませた方がいい」
とのことだった。
俺たちとしても、登山を成功させるためにもう一度トライしたかったし、道中で『サクラ個体』を探したかったので、二つ返事でOKした。
「なら、俺たちの選択は正しかったわけだ」
「結果オーライだな」
なんて軽口を叩き合いつつ、慣れている俺とファーストはサクサク進んでいく。
「カマキリです!」
シノブさんの呼びかけを合図に、全員が戦闘態勢を取る。
作戦は前と同じだ。
「『忍法・……』」
まず、前衛のシノブさんがスキルを発動しようとする。
「キシシュアッ!!」
「っ速いっ!」
彼女がカマをなんとか躱して……。
「『俺が先に……』」
ファーストがスキルを発動しようとして……。
「キシャ!!」
「おっと」
カマを躱して……。
「『ソウル・パリィ』」
俺が魂を抜く。
なんてことはない。さっきとやっていることは同じだ。ただ、メンツが変わっただけ。
「と、こんな感じだ。【文明開花】の場合、不安だったら二回振らせてカオルさんのスキルでもいいし、アカネの居合でもいいだろう」
こくっ、こくっ。
「確かに少しではあるが、マンティスはカマを振った後は動きが鈍くなるな」
俺のデカカマキリの倒し方の総括にカオルさんが大きく頷き、アカネも納得といった顔をする。
「アカネたちだけでもやってみるか?」
「そうだな。安定させたい」
ちょうどもう一匹デカカマキリが来たので、俺は提案する。
なんか、攻略らしくなってきたな。
「『忍法・……』」
打ち合わせ通り、シノブさんがスキルを発動しようとして……。
「キシャアアッ!」
「やばいっ!」
ズバッ!
一瞬反応が遅れたせいで、シノブさんがバッサリと切り裂かれる。
計画変更。俺は駆け出す。
いち早く魂を抜いて、とりあえず戦闘を終わらせる。
そう思って駆け出した俺の耳に、アカネの大声が木霊した。
「耳を塞げ!」
一瞬で言われたことの意味を理解し、俺は耳を塞ぐ。
次の瞬間。
「『死ね』」
カオルさんの言霊が、辺りに響き渡った。
前にいたデカカマキリが、瞬時に絶命する。
「こっちの方がはやいから、カオルに使ってもらった」
こく。
戦闘が不意に終わり、一息つく俺たち。
「確かに、これは強力だな」
同じく言霊系スキルを持つファーストが感心する。
「でも、使えて五回だぞ。相手によって消費魔力が違うから、いつ過労死するかも分からん」
「なに、五回も使えれば御の字だ。俺はいつも三回使う前に死ぬからな」
それはファーストが無鉄砲なだけだろ。後衛向けのスキルのくせして前衛を張っているというのもあるが。
「ファースト殿は勇敢だからな、仕方ない。……ところで、シノブがデスしてしまった。なるべくなら私たちだけで攻略できるようになりたいから、ここで解散だな」
そして、急に告げられる解散宣言。
まあ急ぐ旅でもないし、順当な判断だな。
「了解。お疲れさん」
「またなにか力がほしいときは遠慮なく言ってくれ。イベント期間中は山にこもってるから」
「ありがとう。ファースト殿、トーマ」
俺とファーストは山の五合目辺りで、アカネとカオルさんと別れた。
※※※
さて……。
「やるか、山狩りを」
「おう」
山の登頂よりも優先してすべきことが、俺らにはある。
それが、山で持て余している『サクラ個体』の撃破だ。
「できれば、『悪魔』も見つけたい」
「強行軍だな」
フィールドに一体しかおらず、倒すと『スキルジェムの欠片』をドロップするレアモブの『悪魔』。
第一回イベントの遺産も、誰にも倒されていなければまだ存命なはずだ。
「報酬は5:5の折半でいいな?」
「もちろん」
こうして、俺たちの山狩りが始まった。
まず、五合目から頂上付近の九合目まで駆け上がる。
「そっちに行ったぞ!」
「『ソウル・パリィ』」
でかいシカ『ミハラシディア』はプレイヤーを見かけると逃げるが、それ以外の魔物は好戦的だ。
「『俺が先に蹴る』!」
「……っよし、抜いた」
移動する合間に、振りかかる火の粉を払っていく。
「『俺が先に……』、ちい」
ときにはでかいサルに逃げられながらも、『サクラ個体』を探す旅路は続いた。
だがついに、九合目で!
『チヌレマンティス』の『サクラ個体』、『チヌレマンティス・サクラ』を見つけた。
「いいかこの機会、絶対に逃すなよ」
「当たり前だ」
派手な色のおかげで、こちらが先に気づいた。向こうはこちらに気づいていない。
先制できてしまえば、俺たちのものだ。
「『俺が先に殴る』!!」
ファーストが宣言し、デカカマキリの行動を制限。
一発殴りつけてから、俺が魂を抜く!
「『ソウル・パリィ』!!」
驚くほど順調に技が入り、『チヌレマンティス・サクラ』を沈黙させることに成功した。
「よし、後はトドメを……」
刺すだけだ。そう言おうとした。
その瞬間、殺気に満ち満ちた視線が俺の頭を貫いた。
俺は反射的に前に転がる。刃が振られる音が、俺の背後からした。
清々しいまでのスキンヘッドに、両手に持った剣と杖。初期装備に似せて作られた、おそらくオーダーメイドの服装備。
「アット……」
「そのドロップ、よこしてもらおうか」
『御霊の平原』で出会った必殺のPKプレイヤーの突然の登場に、俺の背筋に武者震いが走った。




