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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
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第六十六話

【第六十六話】


 山頂を目前とした、いや到着した俺たちの前に現れた骨の球。


 その中身はなんと、緑色のスライムだった。


「……」


 スライムはごぽっ、ごぽっと音を立てながら、付着させている骨たちを取り落とす。


 超音波攻撃に対して、自らの形を維持しようとしている。


「『どりゃ、どりゃ、どりゃあああああっ!!!』」


 しかし、ナナは追撃をやめない。


 何度も何度も叫び、超音波攻撃を繰り返す。


「『どりゃあああああああっ!!!』……ふう、ふう、これでどうっすか?」


「ナイスだ、ナナ」


 おかげで、スライム本体が露わになった。


 これで俺が攻められる!


「はああああっ!!」


 俺は自分に気合いを入れ、脱落した骨を抱え込もうとしているスライムに向かって突っ込む。


 戦闘では思い切りが重要だ。対人でも対魔物でも、隙ができるのは一瞬だけだから。


「『ソウル・パリィ』っ!」


 なにか攻撃手段があるかもしれない。カウンターを警戒して、速攻ができるパリィにする。


 俺の腕が、スライムへと届く……。


 その瞬間、ぶるんと、柔らかそうな体が震えた。


「っ!?」


 俺が魂を弾こうとしたそのとき、スライムがその身を震わせ、分裂した。


 手をつけている大きな肉体から、三つの緑の雫が零れ落ちる。


「くそっ」


 急いで手を弾き、その場に残った個体の魂を抜く。


 だが、飛び出てきた魂のサイズが小さい。


 魂も四分の一になってるな、これ。


「物理は効かない!『マルチドライバー』だ!」


「はいっす!!」


 俺が触ってみて感じた勘で物理無効だと導き、後ろの二人に伝える。


 そんな俺のすぐ側では三つのスライムが一つになり、落ちていたバカでかい肋骨を持ち上げる。


 刺さったら即死だな。


「せーので振り抜いてくれ!合わせてしゃがむ!」


「それじゃあ間に合わないっす!」


 骨を振りかぶるスライム。範囲が広い上に近すぎて、俺は避けられそうにない。


 だが後ろから、駆け出す音が聞こえる。ナナだ。


 ええい、信じてしゃがむぞ!


「『マルチドライバー』っす!!」


 俺が屈んだ瞬間、背後のナナが『マルチドライバー』を力強く振り払った。


 『マルチドライバー』は電流を流すことができる大きなドライバー型の武器で、物理ダメージが効かない相手にも火力を出すことができる。『超音波メガホン』のように、相手の内部に浸透する攻撃を繰り出すことができるというわけだ。


 その『マルチドライバー』の出力最大の一撃が、俺の目の前にいるスライムに当てられた。


 バチバチバチバチッッ!!


 スタンガンが鳴る音よりも二回り大きな音が、俺の鼓膜を貫いた。


 そして……。


「うばばばばばば!!」


 すぐ近くにいた俺も感電した。


 『マルチドライバー』の持ち手は絶縁体で、ナナの装備も電気を通さない素材でできている。


 だがしかし、俺が着込んでいる『寄魂鉄の鎖帷子』は、電気をよく通す金属で構成されている。


 それすなわち、『マルチドライバー』による漏電はナナではなく、俺にだけ向けられるということだ。


「ばばばばばば……!!」


 しばらく感電した後、俺は全身が焼け焦げて死んだ。


 皆も、漏電にだけは気をつけてくれよな。



 ※※※



 その後、メールでのやり取りにより、死に戻りした俺とファーストは二人でキャンプサイトを目指すことになった。


 ナナとデュアル、それにテトラはもう少し山頂を調べてみるそうだ。


「まあ、倒せてよかったな。じゃないと俺たちの屍が無駄になるところだった」


「だな」


 ナナによると、スライムはあの攻撃で倒せたらしい。ドロップしたアイテムから、『ボーンアーマードスライム』というのがあの魔物の正式名称と判明した。


 俺たちはその報告を、最初のテレポートクリスタルのある広場で受け取っていた。


「でも、アウトドアが完了してないんだよなあ」


 ファーストが溜息を吐いて愚痴る。


「俺もだ。どうも、あの旗が立っている小屋まで行かないと登頂判定にならないっぽいな」


 俺もぼやく。


 見てみると、メニューのアウトドア欄にある『山頂に行ってみよう』の文字が灰色のままだ。達成の通知も特にないことから、登頂はまだできていないとみていい。


「また登るのかあ……。カマキリがなあ」


「俺も行くから安心しろ」


「トーマ……」


「勘違いするなよ、アウトドアの達成のためだからな」


「これがツンデレか」


「誰がいつデレた!!」


「あー、ちょっといいか」


 俺とファーストで漫才を繰り広げていると、あの声で呼び止められた。


 まずい、この声は……。


「上ると言っていたな。まさか登山に挑戦しているのか?」


 やっぱり。俺は振り返って答え合わせをした。


 すぐ後ろにアカネが立っていた。【文明開花】のクランマスター、カオルさんと、ダンジュウロウさんとシノブさんを引き連れて。


 ダンジョン『キノコの森』の攻略以来だったか、三人に会うのは。


「お久しぶりです、カオルさん、ダンジュウロウさん、シノブさん」


「無視、するなあっ!」


 瞬間に放たれた居合を、俺は真剣白刃取りする。


「なにっ!」


「まずはあいさつが大事だろ。腹を割って話すためには」


「確かに、それもそうだな」


 俺の言い訳に納得したアカネは、刀を鞘に納めた。


 熱しやすく、冷めやすい。どんな言葉でも一言かけられればなびいてしまうという、彼女はそういう意味での危険人物だ。


「その様子だと、十全に活躍してるようだな」


「お疲れ様です、トーマさんにファーストさん」


 こくっ。


 ダンジュウロウさんとシノブさんが気軽に挨拶を返してくれる。カオルさんは喋れないので頷きだけだ。


 ダンジュウロウさんは紺色の甚平を上下に纏い、忍さんは黒のレギンス素材と作務衣の組み合わさった着物、いわゆる忍装束を着ている。そしてカオルさんは、百人一首に出てくる女性が着ているような、派手な十二単を身に着けている。


「見たところ、死に戻りしてきたようだな」


「それはお互い様なんじゃないか?」


「私たちは今来たんだ」


 腹を探りながら、アカネと話す。


 俺たちが登山にチャレンジしていたということは彼女たちにバレているが、どこまで進んだかは明かさない。


 交渉のカードは、見せておかないに限る。


「いやあ、なんとか頂上までは行ったんだけどな。魔物にやられちまった」


「おい」


 俺は即座にファーストの肩を引っ張り、近づかせる。


「言うなって、大事な情報だろうが」


「知らないのかトーマ。情報交換はまず、こちらの手を明かしてから始まるんだぞ」


 そんな、なにを当たり前な、みたいな顔してもごまかされないぞ。


「明かしてどうする。あっちは今ログインしてきたと言ってただろ?」


「いや、彼女たちは昨日も来ていた」


「なぜそう言い切れる?」


「昨日ここにいたからだ。広場にいたとき、人混みの中にちらっと見えた」


 本当か。よく観察してたな。


「俺の眼も捨てたもんじゃないだろ?日々コレクションを眺めるために鍛えてるんだ」


「あのなあ、広場に来ていたからと言って、有益な情報を持っているとは限らないだろう」


「……確かに」


 俺が真っ当な論理を展開すると、真っ当ではないファーストはぽんと手を打った。


 まったく、抜けてるんだか考えてるのかよく分からないやつだな。


「おーい、こそこそ話は終わったか?」


「終わったよ、終わった。で、そっちはどれくらい攻略が進んだんだ?」


「進んだもなにも、今ログインしたばかりと言ったが……」


「しらばっくれるのはいい。うちの者が広場に来ているのを見てたんだ」


「……ちっ、そうか」


 情報を渡さないつもりだったな、アカネめ。


「分かった。言う。今日三人を案内するために、昨日一人でキャンプサイトまで行ったんだ」


「キャンプサイトか」


 確か、三合目にある安全地帯(仮)だったよな。


「ああ。キャンプサイトにもテレポートクリスタルがあって、レンジャーのNPCが常駐していたからそこそこ安全そうだったぞ」


「そこそこか」


「まあそこはな。たまにトレインまがいなことが起きて戦闘になってたから、絶対に安全というわけじゃない」


 トレインとは、魔物を引き連れて他のプレイヤーに迷惑をかける行為だ。


 モンスタープレイヤーキル、通称mPKと違って、敵が強すぎて逃げてきた場合など、故意ではない行為に対しても使うことが多い。


「あとはやはり、ロッジが魅力的だな。金さえあれば食料に困らないぞ、あそこは」


「お、レーション地獄とはおさらばか?」


「ただ、食材を買えるのはイベント期間中だけっぽかったぞ。【検証組】の連中が会話して集めた情報を掲示板に載せていた」


「ちぇ。料理人が浮かばれねえな」


 アカネとファーストが情報交換を重ねる。


「というかアカネ、結構リサーチしてきてるな」


「新天地への斥候は、私とシノブの役目だからな。安全に攻略できる道を確保できたら、全員で目指す」


 安定したレールを敷いてしっかり楽しもうってわけか。


「んじゃあ、【文明開花】はテレポートクリスタルの開放目当てか」


「そうだな。ゆくゆくは登山も視野に入れている」


「だから、情報がほしいと」


「そうだ」


 いきなり斬りかかってきたくせに、考えるところは考えているのか。


「それで、どうだ?」


「どうだ、とは?」


「胡散臭い芝居はやめろ」


「分かったよ。登山の情報は歩きながら話そう。いい加減混んできた」


 俺もしらばっくれてみたが、俺を何度も斬り殺したことのある女剣士は甘くなかった。



 ※※※



「『ミハラシジャイアントモンキー』と『ミハラシディア』は会ったことがあるが、『チヌレマンティス』と『ミハラシジャイアントホーク』は知らないな」


「山頂の『スカルアーマードスライム』も、中々の強者そうですな」


 アカネとダンジュウロウさんが驚きの声を漏らす。


 俺とファーストはアカネたちを連れて、最初の広場から緩やかに伸びる登山道を歩いていた。


「二回振らせて最大火力で押し切る、ですか。私たちのパーティだと難しそうですね」


 シノブさんが首をひねりながら唸る。


「そうでもないぞ。俺の【絶対的優先権】よりも早く言い終わるカオルのスキルなら、カマキリに攻撃を振らせる前に制圧できるだろ」


 ふるふる。


 ファーストの一言に、カオルさんは首を横に振った。


「聞く限りだと、カマキリはそこそこの頻度で出てくるのだろう?いちいち使っていては、魔力効率が悪い」


「そうだな。カマキリを避けつつ上を目指すっていうのも難しいし」


 俺も会話に参加する。


 死角の多い森の中を進まなくちゃいけないため、どうしても魔物と出会う確率は高い。肉食で、獲物を求めて徘徊する習性を持つデカカマキリと戦闘しないで山の頂を目指すというのは、現実的じゃない。


「ん、あれはなんだ?」


 とここで、一番前を歩くアカネがなにかを発見した。


 木々の隙間をとことこと歩く、桜色をした獣を。


「見た目は『ミハラシボア』だが、色が……」


「「『サクラ個体』だ!」」


 俺とファーストは気づき、同時に駆け出す。


 一つ、完全に盲点だったことがあった。


 それは『見晴らし山』が、誰も来たことがないフィールドだということだ。


「逃がすな、狩れ!」


 俺は叫ぶ。


 そして『サクラ個体』は、OSOの世界の全てのフィールドに湧く。


 ここが未開の地『フロンティア』なら、スポーンした『サクラ個体』が有り余ってるに違いない!


 どうしてもっと早く気づかなかったんだ!ここは『螺旋の塔』並みの、『サクラ個体』の狩場だ!


「『俺が先に殴る』っ!!」


 デカイノシシがこちらに気づくと同時に、ファーストの拳が炸裂した。

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