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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
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第六十五話

【第六十五話】


 木立の奥から飛び出してきたのは、ばかでかいカマキリだった。


 赤黒いカマを振りかざし、細長い六本の足をちょこまかと動かして接近してくる。


「シャアアアッ!」


 狙いは、一番近くにいるデュアルだ。


「【デュアルウェポン・ソード】!」


 とっさに剣を構え、カマの攻撃を受ける彼。


「っぐう……!」


 覆い被さる体勢でのしかかられ、押し負けそうだ。


 だが、もちろんそんなことはさせない。


「はあっ!!」


 とりあえず攻撃の手を止めさせるため、近くにいた俺が手を突き出す。


 が……。


「は?」


 一瞬で、右腕を刈り取られていた。


 瞬きした瞬間、肘から先がなくなっていた。


「きゃあああっ!!」


 後ろで控えていたライラの絶叫が走る。


「『俺が先に……』」


「やめろ!間に合わな……」


 俺が止めようとしたが、遅かった。


 【絶対的優先権】を発動しようとしたファーストの肩口が斬られる。


 彼の上半身が二つに分かたれた。


 スピードだけじゃなく、威力まで兼ね備えているとは!


「でもな……」


 俺の左腕は、未だ健在だ。


 目の前には、両腕のカマを振り抜いた状態のでかカマキリ。


「『ソウル・パリィ』」


「ッシャ……」


 必殺のパリィが、カマキリの魂を弾き飛ばした。


 

 ※※※

 


「二回振ったら隙ができるタイプのスピードアタッカーか。とんでもないな」


「隙といっても、ちょっとだけだな。すぐカマを構え直されたら、また死人が出るところだった」 


 戦闘後。新たな敵襲が来ないことを警戒しながら、俺とデュアルは会話する。


 ファーストがデスしてしまったので、今日は解散ということになった。


 休憩後は、全員でキャンプサイトへ向かうことに決めている。


「トーマたちの戦いはレベルがたけえな!」


「やっぱり、山頂に近づいたから強い魔物が増えてきたのか?」


 コースケが感心し、マモルが聞いてきた。


「そうだろうな。まあ、湧いた魔物は徘徊するから、必ずしも標高の高いところで出るとは限らないが」


「あんなのがキャンプサイトに出てきたら、おしまいよ」


 リンが自分を抱きながら、震えた声で言う。


 確かに、一般プレイヤーが相手するのは厳しいかもしれない。戦闘慣れしていない生産職やライト勢は特に。


「キャンプサイトはなんとかなるだろ。常時プレイヤーがたくさんいるし、NPCもいる」


「……ま、それもそうね」


 考えてもどうしようもないことは、考えない。そうしたスタンスは、この先やっていく上でとても大切だ。


「じゃ、そろそろだな」


 ここらで、俺は自分の死期を悟る。造血剤をもってしても、片腕を失った代償は補いきれなかった。


 間もなく、失血死する。


「インベントリのアイテムは、マモルにやる」


「え、いいのか?」


 マモルがデュアルの方を見て言う。


 ファーストのアイテムは彼が回収したので、俺の分も引き取らなくて大丈夫なのか、という意味だろう。


「他ならぬトーマの遺言だ。尊重しよう」


「ありがとう、デュアル」


 対したものは持ってないが、俺の遺品でマモルたち【エンジョイパーティ】の発見に貢献できたらと思う。


「また明日、でいいか?」


「ああ、トーマがよければ」


「わかっ……」


 失血死は突然に。


 俺は安らかに息を引き取った。



 ※※※



 翌日。


 今日は昨日の最初のメンバー(ファースト、デュアル)に加え、ナナとテトラを合わせたメンバーで登山をすることになった。


 現在は、広場のテレポートクリスタルの前で集まって話している。


「よっしゃあっ!やったるっすよお!」


 昨日インできず、やる気を持て余しているナナが張り切った声を出す。


「キャンプサイトは行かなくてもいい?」


「野暮っすよテトラ!私のこの熱いパッションは今すぐにでも発散しないといけないんっす!!」


「……そう」


 おい。意味の分からないことを言ってるせいで、テトラが引いてるぞ。


「まあ、帰りに寄るのでもいいだろう。今日なら、昨日よりは空いてるはずだ」


「そっすよねそっすよね。……じゃあ行くっすよ!?えい、えい、おー!!」


「「「「おー?」」」」


 俺たちは息を深めるためにかけ声を上げる。


 こうして、第三回公式イベントの二日目が始まった。



 ※※※



「けっこう、強いっすね……」


「だろ?」


 疲れを滲ませた声で言うナナに、デュアルが相槌を返す。


 なんだかんだ、一時間くらいかけて昨日の最終到達点くらいの位置まで登ってきたが、彼女は見たことない魔物たちに対応するので精一杯だった。


 なにせ、ナナは『マルチドライバー』しか武器がないからな。近接がきつい相手には立ち回りが厳しいんだろう。


「被弾=死っていう緊張感がやばいっす。特にあのカマキリ」


「分かりやすい近接殺しだな。遠距離攻撃持ちで集団のサルといい、なにがなんでもソロを蹂躙したいようだ」


 【ランキング】の二人が辟易とするのも分かる。


 ただ、彼女たちの言葉から俺たちは既に、あのでかカマキリ『チヌレマンティス』を攻略していた。


「シャアアッ!!」


 ちょうどいい。


 でかカマキリが現れてくれたので、実践しながら説明しよう。


「『デュアルウェポン・ソード』!」


 まず、デュアルかナナかファーストのうち一人がスキルの発動を宣言する。


 デュアルとナナのスキルは武器や道具を実体化させるだけなので、魔力の消費が少ない。ファーストに至っては、『俺が先に~』の文章を全て言い終わらなければ魔力を消費しない。


 だから、でかカマキリのカウンターを釣るのにもってこいというわけだ。


「ッシャアッ!!」


 セオリー通り、カウンターをしかけるためにカマキリが突進してくる。


 今回は、右腕のカマを振るつもりのようだ。


「おっと!」


 行動が予測できていれば、速くてもなんとかなる。


 デュアルは斬撃を紙一重で躱した。


 ちょうど、昨日と同じような展開になったな。


「『俺が先に……』」


 しかし、今日は昨日と違い、ここで最初にスキルを宣言しなかった人のうちのどちらかがもう一度宣言を狙う。


 よほどイレギュラーな状況でない限り、でかカマキリはスキルの発動に反応して二度カウンターをしかけてくる。


「シャ!」


 やはり、ファーストが言い切る前に左のカマが飛んできた。


 初めから攻撃するつもりがなかったので、彼は余裕をもって回避する。


 これで両方のカマが振り終わった。昨日、カマキリを倒したときと同じ状況にできたので、最後に俺が攻めて終わりだ。


「『ソウル・パリィ』」


 あまりもたもたしていると、次の攻撃が飛んでくる。


 俺は素早くカマキリの魂を弾いた。


「……」


 ああ、最後の最後に、デュアルがソードでトドメを刺して終了だ。


 これにて、でかカマキリの討伐が完了した。


 タネが分かってしまえば簡単だ。いや、簡単か?


 斬りかかりのスピードが速すぎて、おとり役の三人が結構疲労してるんだが。


「ノーダメは安定するようになったが、どうもなあ……」


「遠距離スキルを発動しようとしたら詰められるし、これ以外にねえよ」


 俺とファーストは雑談しながら、でかカマキリのアイテムを回収する。


 チヌレマンティスは、血に濡れているように見える赤黒いカマをドロップすることがある。これが結構性能がいいらしく、短剣や鎌への応用が期待されているそうだ。ただ、カマを傷つけないで倒さないとドロップ率が渋いので、まだまだ安定供給は難しいというのが現在の市場の動向となっている。


「この秀逸なデザイン、眺めがいがあるわあ……」


「今回ばかりは、気持ちが分かる」


 うっとりとするファーストに、俺から分け前のカマを受け取ったテトラも同意する。


 この五人で『御霊の平原』に行ったあの日から、【ランキング】と【ノーナンバー】のいざこざは鳴りを潜めている。正確に言うと、激おこだったテトラが納得したおかげで、和解した形になった。


 まあ経緯はどうあれ、仲が良いのはいいことだ。俺としても、ギスギスした状態で攻略なんてしたくない。


「あ、次が来たっす」


 微笑ましそうに二人の様子を見ていたナナが、途端に厳しい顔つきに変わって知らせてくれる。


 さあ、次はなんだ?


 俺たちはそれぞれの構えを取って応戦の準備をした。



 ※※※



 あれから何度か戦闘をして、やっと山頂に着いた。


 頂上に近づくにつれ徐々に植物の量が少なくなっていき、今や周囲は荒れ果てた岩場と化している。


 出てくる魔物は、あまり変わらないな。でかいサルとでかいカマキリと、でかいシカやでかいタカなんかも出てくる。


 大抵はファーストが【絶対的優先権】で足止めして、デュアルの『デュアルウェポン・ガン』か俺の『ソウル・パリィ』、それかナナの『マルチドライバー』でトドメを刺して終わらせている。


「あれは、ロッジみたいなのがあるな」


 先行しているデュアルが、不意に数十メートル先の前方を指さす。


 そこには、丸太でできた小屋があった。風にたなびく赤い旗が屋根に掲げられていることから、一番標高が高い地点はあそこなのだろう。


「もうすぐだ。いくぞ!」


 ゴールがはっきりと分かり、ファーストが駆け出す。


「ちょっと待つっすよ!」


 待ちきれなくなったナナも後に続く。


「……」


 俺は辺りを見回す。


 見たところ、山頂に居座るボスのような魔物の姿は見えない。


「どう思う、トーマ」


「こういうのは、いないと見せかけているんだよ」


 そして、デュアルと俺は訝しむ。テトラもじっと、丸太小屋の方を睨んでいる。


「ここの運営は、白峰桜はそういうことをやりがちだ」


 そうらきた。


 ぬっ、と。丸太小屋の陰から、大きな骨が出てきた。


 大小様々な何種類もの骨が何本もまとまっている骨の塊、いや骨の球と表現するのが最も近いか。


 それが、ファーストとナナのすぐ前に現れた。


「『俺が先に蹴り飛ばす』っ!」


 ファーストがとっさに【絶対的優先権】を発動する。


 蹴り転がそうと右足を振り抜くが、びくともしない。


 ガリンッ、ゴリッと骨をこすり合わせる音がして、骨の球の表面が波打つ。


 一際大きい棒状の骨がファーストに向かって振るわれる。


「ぐうっ!!」


 至近距離のため避け切れず、両腕でガードしたファーストが吹き飛ばされる。


 あれは腕が折れたな。直に死ぬ。


「あの骨は『ミハラシジャイアントモンキー』の腕の骨か?」


 同じく、一瞬でファーストを見捨てたデュアルがそんなことを言う。


「だろうな。骨を集めて、一塊にしている魔物が中心にいる」


 俺も自分の意見を言う。


 『魂の理解者』は、肉体に触れられなければ発動できない。


 やつが纏っている骨をどうにかしなければ……。


「一旦退くっす!」


 一方、またうごめき始めた骨を警戒しながら、ナナが数十メートルを走って戻ってくる。


「さあ、こいつで倒してやるっすよ」


 『マルチドライバー』をしまった彼女が取り出したのは……。


 少し大きな、メカメカしい見た目をしたメガホンだった。


「二人は、骨伝導って知ってるっすか?」


「骨を伝わって、音が流れていく仕組みのことだっけか」


「そうっす。それを利用して魔物の内部にダメージを与えるように設計されたのが、この『超音波メガホン』っす!」


 なるほど。本来は固い外皮を持つ相手とかに利用するつもりだったのだろうが、この骨の球にも使えるんじゃないかってことか。


 面白い。上手くいけば、骨のコーティングを落とせるかもしれない。


「いくっすよ。耳を塞いでいてくださいっす!」


「あいよ」


 【爆発魔法】みたいなことになりかねないので、俺たちは素直に両手を耳に当てる。


 重なり合う骨どうしをカラカラと震わせている謎の塊が、ゆっくりと俺たちの方に転がってくる。


「『どりゃああああっ!!!』」


 それに向かって、ナナが大絶叫をぶちかます。


「ッッ!!」


 空気が揺れるほどの音圧は、効果てきめんだった。


 骨をでたらめに揺らしながら、ガラガラと魔物の装甲が崩れていく。


 骨の隙間から辛うじて見えた魔物の姿は……。


「っ!こいつは……!」


 耳を塞ぎながら、驚きの声を漏らすデュアル。


「スライムか」


 骨の隙間から辛うじて見えた魔物の姿は、緑色のねばねばした液体だった。

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