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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
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第六十二話

【第六十二話】


 魔物たちが押し寄せる波の中、『オチムシャ・オーガ』と『地の異形』が激突する。


「グガアアアアアアアッッ!!」


 オーガが荒々しく剣を振り……。


「……」


 異形がそれを受け止める。


「……」


 異形が後ろの左腕の槍を突き刺すが……。


「グラアアッ!」


 オーガが上手く受け流す。


 完全に互角だった。これはもう、『地の異形』が弱いというよりオーガが育ちすぎている。


 リーヴァのトレイン内で魔物たちが戦い、経験を積んだ魔物が成長しすぎてしまったんだろう。 


「トーマ、テトラを守って!」


 この状況を作り出した元凶であるリーヴァが声を張り上げる。


 これは検証の結果で分かったことだが、『四の異形』は多くの魔力を消費すると言われている。さらに、発動中にテトラが死ぬと異形が強制的に消滅するというデメリットもある。


 そのため、異形発動中はテトラを守らなければいけない。


「俺とファーストで残りの魔物を片づける。トーマとナナはリーヴァとテトラを守ってくれ」


「ああ」


「了解っす!」


 デジュアルが明瞭な指示を飛ばす。俺とナナは頷き、少し下がって護衛に当たる。


「リーヴァを倒したら、この魔物たちが消えるってことはないか?」


「ないわ。こいつらは私が使役してるわけでも、召喚したわけでもないもの」


 いけしゃあしゃあと。


 というか使役でも召喚でもないってことは、集めたのか?


「迷惑かけたついでに教えてあげるわ。私のスキルは『最大そせい……』」


 唐突に。


 そう言いかけたリーヴァの腹から、刃が生えた。


「どうし……っ!」


 俺とナナは前に魔物の群れがいる状態で、後ろのリーヴァと話していた。


 だだっ広い平原だ。見通しも利くし、今までの攻略で襲ってこなかったから、後ろには味方以外誰もいないと思っていた。


「……」


 俺は振り向くと、一人のPKプレイヤーが立っていた。


 目の前で、ほぼ無防備だったテトラが切り捨てられる。


 『地の異形』が消滅した。


「どうした!?」


 デュアルの叫び声に似た確認の声にも、返答する余裕がない。


 ものすごい殺気。


「ひゃあっ…」


 笑い声にも似た小さな声を上げ、右手に剣、左手に杖を握った男が突っ込んでくる。


 速いっ!


「ぐうっ!」


 俺はとっさに短剣を取り出し、刃の一撃を受ける。


 スキンヘッドの男だ。鎧らしきものは着けておらず、よっぽど速度を重視しているのだと思われる。


「はっ!」


 『魂の理解者』を使うため、俺はPKプレイヤーの体に手を突き入れようとする。


「っ」


 が、ひらりと避けられる。


 何段もバク転をし、一気に数メートルと離れられた。


「『マルチドライバー』っす!」


 ナナの発明品であるどでかいドライバー『マルチドライバー』から放たれる電撃攻撃。


 も、さも簡単なことかのように躱される。


「なんなんすか、こいつ!」


 俺が聞きたい。一体どんな目と反射神経と運動神経をしているんだ。


「名前は?」


「……」


 いきなり聞いてみるも、男はだんまりを貫き通す。


 ちっ、しっかりしてやがる。


「俺はトーマ。今日『フロンティア』にやってきた」


「私はナナっす!発明家やってるっす!」 


 自己紹介はオンラインゲームのたしなみ。PKプレイヤーなら俺らのことは知ってるだろうが、こちらから歩み寄る姿勢を見せるだけで印象が変わる。


 向こうは殺気バチバチだが、俺らは味方を殺されても問題ないですよ(本当は大ありで、今すぐお前の命を奪いたいが)という思いを相手に伝えるのだ。


「……アット。俺はアットだ」


 男が名乗る。


 よし、まんまと乗ってきたな。


 俺はナナと目を合わせる。


 ”引き続き、俺が話す。”


 ”了解っす。”


 ”無駄だ。”


「なに!?」


 こいつ、俺たちのアイコンタクトの会話に参加してきやがった!


 ”PKに使える技術は全て体得している。もちろん、トーマたちも知っている。スキルのこともな。”


 なるほど。だから俺が手を突き出したときも、『マルチドライバー』で放電したときも避けられたんだな。


「なら、こんなことする必要ないっす。言葉で連携して、アットを返り討ちにさせてもらうっすよ!」


 純粋な殺意、目の前のプレイヤーを殺したいという思いに当てられ、ナナが奮い立つ。


 ニヒルたちのようなビジネス暗殺集団とも、グリッドのような趣重視の悪党とも違う。アットは純粋な快楽殺人者のように思える。


 いや、そういう言い方は悪いか。対人戦にしか興味がなく、命のやり取りに遊び甲斐を見出している人間ということだ。


「二人もやられたんだ。覚悟しておけよ」


 俺も気を取り直して、短剣を腰の鞘に収める。


 ここからは対魔物ではなく、対人の戦い方が必要になってくる。しかも手の内を知られている相手だ。


 充分に用心して挑む。そして勝って、デュアルたちに加勢してこの場を収める。


「会えて光栄だ、ダンジョン攻略の有名人に、応用の発明家……」


 そう一言漏らし、剣と杖で独特な構えを取るアット。


 杖を平行に、剣を垂直に。斬撃も打撃も繰り出せ、さらには攻撃を受けることもできそうなその型は、なにかの武術を連想させた。


「いくぞっ!」


 なんにせよ、受け身でいたらあの刃で切られる。


 俺は先手を取るべく、一歩踏み込んだ。




 ※※※



「強すぎる……」


 十分前の最期の光景を思い出し、俺は愚痴を漏らす。


 十分後の今、俺はミタマの街にある宿屋一階のバーでナナ、ファースト、デュアル、テトラの四人、つまりは最初平原に乗り込んだ面子で反省会をしていた。


 あの後、俺は瞬時に首をはねられて退場した。ナナもすぐにキルされたらしい。


 その後、魔物に対処していたデュアルとファーストはアットに挟撃され、デス。


 あえなく全滅というわけだ。


「『御霊の平原』が『フロンティア』になっている理由が分かったよ」


 俺は深呼吸をするようにため息をつく。


 シンプルに強い魔物に加えて、あのPKプレイヤー。


 魔物とも人とも戦える技量がないと、平原を進んでいくことはできないということだ。 


「言っておくが、アット以外にも強いPKプレイヤーばかりだからな。あいつら、いつも奇襲して後衛から落としてくる」


 賢明なやり方だ。だからこそ、【フルーツパーラー】のストロベリーは隠密に長けているのだろう。


「第一、あのリーヴァとかいうプレイヤーはなんなんだ?あれのせいで壊滅したと言ってもいいだろう」


「アットが凶悪犯だとしたら、リーヴァは愉快犯。いつも一人でスキルを使って、魔物を蘇生してトレインしている」


「蘇生?」


「そうだ」


 デュアルが引き継ぐ。


「リーヴァのスキルは、【最大蘇生半径】という。半径十メートル以内にある魂を蘇生し、受肉させるというものだ」


「まさに、『御霊の平原』にはもってこいだな」


 同じく、彼女のスキルの名を初めて聞いたファーストが腕を組みつつ唸る。


「だから困っている。魔物たちがほぼ最大密度で蘇生されるらしく、彼女も逃げるのが大変だと言っていた」


「逃げる、か。跳ねていたのは逃げていたのか?」


「そうだ。蘇生された生命は他の全ての生命、つまりリーヴァとも敵対するから、発動者のリーヴァも逃げなければならないんだ」


 それはまた難儀なスキルだな。


「その分、恩恵も多い。上手く蘇生すれば、一回の魔物のポップで二度倒せる。ドロップアイテムが倍になる」


「あとは、空中の魂の量を減らせるっていうのもメリットだな。どうも『御霊の平原』では魔物だけではなく、出自不明のランダムな魂が湧くみたいなんだ」


 テトラとデュアルが熱くなって語る。


 魂もポップするとは、俺にとっても都合がいいな。


「その名に恥じず、平原には魂が潤沢に存在するんだが、【最大蘇生半径】を使えば魂の数を強制的に減らせる。まあ、お前らにとってはそれになんの意味があるのかと思うかもしれないが、いいこともあるんだ」


「今は聞かないでおくっす。情報量が多くて、パンクしそうっすから」


「それが賢明」


 テトラがうんうんと頷く。


 バーのシックな雰囲気とマッチした黒の前髪が上下に揺れる。


「とまあ、反省会はこれくらいにしておいてだなあ……」


 ここで、デュアルがわざとらしく居住まいを正して話を切り出す。


 わざとらしすぎるな。


「狙いは分かってるぞ。でなきゃデュアルがわざわざ、俺たちを呼んでまで『フロンティア』を攻略しようとした意味が分からない」


「思い当たるとしたらずばり、コネクション、っすよね?」


 分かりやすく話しづらそうにする彼を見て、ファーストとナナが胸中を言い当てる。


「分かってたのか。オレンジは興味ないって言うし、他のクランもいまいち反応悪かったからなあ」


「なんの反応だ?」


 『フロンティア』攻略以外で、OSO内で注目すべき事柄は一つしか思い当たらないが、俺は形式的に聞いておく。


「第三回イベント。それを一緒に攻略するための協力への反応だ」


 やっぱり。


 もうすぐ発表される第三回イベントに、『ノーナンバー』も参加するつもりなのか。


 俺はドヤ顔で『言ってやったぜ』風のデュアルに呆れた顔を返しながら、そう思うのだった。

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