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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel


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第五十八話

【第五十八話】


「いや、こんなところで終われるか!」


 『蟻塚の迷宮』でリスポーンした俺は開口一番、そう叫んだ。


 女王アリを倒すまではいかないまでも、あわよくば最深部まで行けるかと思って挑んだんだが、アントの顔面に衝突して死亡なんていくらなんでも消化不良すぎる。


 下手に出てたら良い気になりやがって、もう怒った。


「こうなったら、女王アリを倒してやる」


 憎しみのこもった呟きがぽつりと漏れた瞬間。


「俺たちもお供しようか」


「っ!?」


 すぐ後ろから声。


 バカな?気配が一切しなかったぞ。


「オレンジ…」


 聞いたことのある声だったので、俺はその名を呼びながら振り返る。


 グレープよりも厚く、大きな鎧で身を固めているにもかかわらず、俺よりも機敏に満ちた佇まい。大人びた顔立ちが銀色の甲冑によく似合っている。腰の左側には深緑色の鞘に収められた剣を差している。


 『フロンティア』でブイブイ言わせているはずのトッププレイヤーの一人が、なぜかここにいた。


「よう、『サクラジェム』獲得数1位さん」


「どうしてここに?【フルーツパーラー】は西の方で攻略してるはずだろ」


「ダンジョンが気になってな。ある意味ここも『フロンティア』だ」


 確かに。新しくできた未攻略の地なので、『フロンティア』とも言えるか。俺は妙に納得してしまう。


 【フルーツパーラー】は、『フロンティア』の攻略をメインにしているクランだ。ほとんど『フロンティア』に入り浸りで、こうして攻略済みの地域に来ることはないと言っていいくらい珍しい。


 クランの構成員は戦闘狂ばかりで、地位や名声に興味がない。だから、『サクラジェム』を譲ってくれるた。


 そう、俺が『サクラジェム』獲得数の1位になれたのは、確実に【フルーツパーラー】の力あってこそだ。


「私もいるわよ。久しぶりねトーマ」


「相変わらず気配を消すのが上手いな、ベリー」


「後衛職の勤めよ。ハッパちゃんがおかしいの」


 ほとんど黒に近い赤紫色のローブに身を包み、大きな赤い杖を背負った魔女というべき風貌がオレンジの影から現れた。


 クランマスターのオレンジだけじゃなく、サブマスターのストロベリーまで出張ってくるなんて。


 こりゃあ、いけるかもしれないぞ。


「さて、本題に入ろうぜ」


「ああ」


 オレンジは戦闘のことしか頭にないことを除けば、極めて賢い思考ルーチンを持っている。俺のように、勝利のためなら恥も外聞もなく行動に移すことができる。


 よって、次の一言は俺と同じはずだ。


「「協力してくれ」」


 俺とオレンジの声が重なった。


 俺はどんなことをしてでも女王アリを倒したい。そしてオレンジは『フロンティア』攻略の威信にかけて、どんなことをしてでも【蟻塚の迷宮】を攻略したい。


 が、俺一人では道中のアントたちをさばききれず、オレンジとストロベリーだけでは女王アリを倒せる自信がない。


 ただ、俺がいれば女王アリは一撃で倒せるし、オレンジとストロベリーならば道中のアントは楽勝だ。


 こうして絡み合った利害関係が、俺たちに共闘という選択肢を与えたのだ。


「よろしく、道中は頼んだ」


「任せろ。その代わり、女王アリはな?」


 我ら目的は違えど、攻略にかける熱量は同じ。


 俺とオレンジは固く握手をした。



 ※※※



 オレンジの剣戟が閃く度、アントが一匹また一匹と倒れていく。


「はっ…!」


 彼は剣士だ。一太刀振るうごとに相手を黙らせる、必殺の剣使い。


 今もソルジャーの足の関節に素早く一撃を入れ、地にひざまずかせた。


「ベリー」


「はーい」


 トドメはストロベリーが行う。動けない相手ならなおさら、彼女の方が適任だ。


「『甘い炎』」


 彼女は細長い杖を先ほどのソルジャーに向けると、自らのスキルの名前を軽やかに唱えた。


 すると、アントの頭から火が燃え上がった。桜炎発火で点灯する炎とは違う、赤紫の炎だ。


「オレンジ」


「分かってる」


 次はストロベリーのハスキーな声音によって、オレンジの名が呼ばれた。


 魔法系スキル『甘い炎』で作られた炎は火力が高く、あっという間にソルジャーを包み込んで燃やし始めた。ソルジャーはその熱で暴れ、足が不自由ながらももがいている。


 そして、ストロベリーはソルジャーに他のアントが近づかないよう、剣を振るえというかけ声を出した。


 果たして、それはなぜか。


「はっ、よっ」


 オレンジは軽やかに動き続け、決して炎に近づかせないように、アントたちを行動不能にしていく。 

 ソルジャーの顎を上体を逸らして避け、頭部と胸部の境目をぶった切る。彼を無視してストロベリーに迫るチャージャーに肉薄し、羽を切断して地に落とす。技後の硬直を狙ったソルジャー2匹の挟み撃ちは、バックステップで避け、足を折って動けなくさせる。


 その全ての行動を、赤紫の炎から充分離れた位置で実現させている。


「……」


 だがそんなオレンジに、ガンナーが放った蟻酸が迫る!


「っ!」


 風船よりも一回り大きい液体のボールをオレンジはなんとか躱したたが、壁に激突した酸がはねて少しかかってしまう。


「くそっ!」


 回避しきれるはずがない一撃を浴び、オレンジは悪態を突きながらなぜか、ソルジャーを燃やしている火の近くに移動した。


 丈夫そうな金属鎧が酸によって煙を立てて溶け始め、その下の皮膚も侵される。


 しかし、その火傷はそれ以上彼を傷つけることはなかった。むしろ、傷は見る見るうちに塞がっていった。


「鎧が駄目になるじゃねえか」


「『甘い炎』、『甘い炎』、『甘い炎』…」


 オレンジが愚痴を吐く一方で、ストロベリーが不自由なアントたちに着火していく。


 『甘い炎』。対象を激しく燃え上がらせるが、周りに発する熱は回復効果を持つ、特別な炎で。


「っしゃ、終わりだな」


 数分後、オレンジは遠巻きのガンナーを倒し、つかの間の平穏が訪れた。


「ナイスよ、オレンジ」


「おう」


 ストロベリーとオレンジは拳を突き合わせると、お互いに笑い飛ばした。


 戦友。まさにそう当てはめるのがふさわしい間柄が、そこにはあった。


 【英雄の戦禍】の雰囲気と似ているな。やはり戦闘狂が集まるとこうした空気感になるのだろう。


 なんて、しみじみ思っていたら…。


「……」


 背後の曲がり角からぬっと、ソルジャーが姿を現した。


 音もなく巣穴を徘徊する彼らの、容赦ない奇襲だ。


「トーマっ!」


「『ソウル・パリィ』」


 がしかし、なんら問題はない。


 普通に魂を抜きにいくと反撃されそうだったので、速攻で魂を弾き飛ばした。


「…強いね、やっぱり」


「今のが応用技の『ソウル・パリィ』か」


 ストロベリーとオレンジが舌を巻く。俺の新技を見て驚いている。


「ああ。『魂の理解者』の浸潤効果を利用し、体外へ魂を弾き飛ばすんだ」


「なるほど」


 俺の分かるような分からないような説明に、オレンジは分かったような分からなかったような頷きを返す。


「分かりやすく言うと、飛んできた球をキャッチするんじゃなく、手で弾いてパスするみたいな感じだな。サッカーだとトラップしてシュートじゃなくて、ボレーシュートみたいな」


「言いたいことは分かった」


「『握る』『受け止める』という工程を省いて、魂を抜いてるってことでしょ」


 流石、戦闘狂。飲み込みが有り得ないほど速い。


「……では、俺も見せようか」


 オレンジは俺の目をまっすぐに見て言う。


 と同時に、さっきから物陰に潜んで機を伺っていたガンナーが彼に向かって酸の砲弾を飛ばしてきた。


「『1/6』」


 ろくぶんのいち。そう唱えて、剣の切っ先を蟻酸に向けたオレンジ。


 その瞬間、猛スピードの液体は6つに分かれ、その場で放射状に拡散した。六芒星の頂点をタッチするように、各個バラバラに。


「これが俺のスキル……」


 そのうちの一個がオレンジに飛んでくるが、大きさ、速度ともにかなりボリュームダウンしている。


 彼は難なく剣で弾き飛ばし、少量の酸を浴びた。しかし、その傷は『甘い炎』の効果ですぐに癒える。

 

「……【何等分かの房たち】だ」


 オレンジは俺の目から視線を離さないまま、勝ち気な表情で言い放った。


「対象の体積、速度を縮小するスキルか。使い勝手がいいな」


 俺も彼らのように、思っていることを声に出して言う。


 まるでオレンジの房のように、一つの実になっているものを強制的に等分する。生命に対して使えないなど制約は多そうだが、伝え聞いていた通りの使いやすさはありそうだ。


「あんまり使わないけどな。剣で戦った方が速い」


「対遠距離はこれと私の『甘い炎』で万全、近距離は剣と私の隠密でどうにかする。それが私たちの基本スタイルよ」


 あっけらかんと言うオレンジに、詳らかに説明するストロベリー。


 俺を信頼して、普段の立ち回りまで情報を明かすことにしたんだろう。


「お喋りはこれくらいにして、さっさと次に行きますか」


「そうだな。グレープとハッパも気になるし」


「あら、二人も来てたのね」


「奥に置き去りにしてる形になっている」


「ダンジョンあるあるだな。メールが来てないなら取り残されてる可能性が高い。急ぐか」


 警戒はしつつも、気は張りすぎない。ダンジョンと『フロンティア』でのモットーは、奇しくも同じだったようだ。


 俺たちは適当に雑談しながら、若干の小走りで奥であろう方向へと進んでいった。



 ※※※



 細長い通路をあっちへ行ったりこっちへ行ったり、ときにはプレイヤーと出くわしたりしながら進むこと数十分。


 ふっと先が明るくなり、見慣れた二つの背中が見えてきた。


「ようグレープ、ハッパ。地獄から舞い戻ってきた」


「トーマ!お前ならやれると信じてたぜ!ってししょ……、オレンジ!?」


 通路の入口に立っていたグレープが首だけを後ろに向け、返答してくれた。


 だが、その顔は渋い。


「ウチの『爆発魔法』と爆杖術、グレープの『自己再生』を活かしてなんとかここまで来たはいいんだけど。あれがヤバいんだよねえ、あれが」


 やけに説明口調のハッパが杖で目の前の光景を指しつつ、教えてくれる。


 規格外の思考を持つ彼女ですら慄く、あれとは一体なにか。


 俺とオレンジとストロベリーはもうちょっとだけ歩みを進め、奥の大部屋に入ってその実態を確かめんとした。


 するとそこには……。


「なんだよ、あれ」


 夥しい数のデザートアントと格闘する、巨大な白い『丑』と『寅』の姿があった。

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