第五十五話
【第五十五話】
購入額レースという勝負(※トーマが言っているだけです)の最中。俺がメディに売ってくれと頼んだのは、とある非売品の錠剤だった。
ふっ、俺に見える位置に置いていたのが敗因だったな。
「それ、魔力を回復する錠剤だろ。それも、『キノコの森』のバカでかキノコを原料にした」
「そ、そうだけど…」
今までと打って変わって、メディはおどおどとした調子で返してくる。
図星か。まさかそれを指定されるとは思わず、予想外の返答しかできないのだろう。
「でも、これはまだ完成してない。目に見えてどれくらいの魔力が回復したか分からないし、錠剤化するときにどれだけのキノコを使えばいいかも未知数」
「テスターになるっていうのはどうだ」
「え?」
御託を並べてくる彼女に、俺は一歩譲歩する。最初に無理なお願いをしてから、妥当よりな提案をして相手を納得させるのは交渉術の基本だ。
「治験者とも言うな。俺が実践で試してみるから、少しだけでも買わせてくれないか?」
「……そういうのは、【検証組】の人にお願いしている」
「なに、俺はシークさんに信頼されているから大丈夫だ。事後になってしまうが、テスターになることを知らせれば納得してくれると思う」
「う、うーん…」
俺が『大図書館地下』10階の無限に広がる空間を解放し、シークさんに万全の信頼を寄せられていることを知っている彼女は、さらに悩みを含んだ呻き声を出す。
言っていることの筋は通っているが、独断で判断していいものか。『キノコの森』跡地にしか生えない貴重なアイテムを原料に使用していることで、返答を出しあぐねている。
「俺以上に無鉄砲なやつはいないだろうな、とも思ったが、グレープがいたな。魔力消費の燃費が良い『魂の理解者』の俺よりも、グレープの方が魔力を消費する機会は遥かに多い」
「え、俺!?」
品定めを終えて手持無沙汰になっているときに急に呼ばれ、グレープが驚く。
「そう、グレープだ。俺が俺の意志で、俺の財布からお金を出してその薬を買い取り、グレープに仕様をテストしてもらう。どうだ?我ながら良いアイデアだと思うが」
「確かに彼なら、悪用はしないと分かる…」
俺の甘言を耳に流し込まれたメディの顔が、徐々に晴れやかになっていく。
というかおい、彼『なら』ってどういうことだ。まるで俺が悪用するみたいじゃないか。
「まだ不安なら、お金を担保にしてもいい。俺が今、黒金貨を支払って錠剤をもらう。その後グレープが効果を検証できなかったり、適切でない服用をして無駄にした場合、さらに黒金貨を支払うと約束しよう。文面に起こしてもいい」
「いや、そこまではいらない」
俺の、さらに三歩くらい退いた一言が決め手になったようだ。
メディは唇を固く結び、覚悟を決めた顔で俺の眼を射止めてくる。
「黒金貨。黒金貨1枚でこれ、魔力回復剤を1ダース譲る、ことにする」
ありがたい。
くくく。これで、俺の購入額トップは揺るぎないものとなるな。
「ただし、これでなにか問題になったら、トーマも矢面に立ってほしい」
「元よりそのつもりだ。むしろ、俺のせいにしてくれ」
「…うん」
俺が全責任、勝手に魔力回復剤を譲渡したことの責任を負うことを承諾すると、メディの顔が再び曇る。晴れたり曇ったり、忙しい顔だな。
まあ、いいか。
「それじゃあ、交渉成立でいいか?」
「うん」
「んじゃ、夕方頃『預かり屋』で黒金貨を渡す。他の支払いもあるから、待ってもらうかもしれない。そこは勘弁してくれ」
「分かった」
後は、淡々といつもの流れを復唱していく。
ここで気が変わられたら大損だ。手早く『預かり屋』の約束を取り付ける。
「…他の三人も用事は済んだみたいだし、これにて失礼しよう」
「トーマ」
誰が見ても分かるくらい大げさに露店を後にしようとすると、珍しく力強い声で店主に呼び止められた。
「なんだ?」
「トーマと私の責任。半分半分だから」
彼女はそう言って、左手で正面を割るジェスチャーをする。
奇しくもそれは、親しい間柄で使う『ごめんっ!』のポーズのようだった。
「了解」
そう見えたので、俺も真似をする。
連帯責任の誓いは、今ここに建てられた。
「なあ俺もしかして、さらっととんでもないことのダシにされなかったか?」
「……どんまい」
※※※
「いらっしゃーい♪」
2本の行列に並んで待つこと数分、やっと受付の男から挨拶をもらった。
次に来たのは、まさしく移動販売車と呼ぶにふさわしい露店。『なんでも焼き』なるゲテモノを売っている、クラン『カオスメーカー』の経営する店だ。
「……まだ開いていたのか」
「要らないアイテムは無限にあるからね。最大限の形で利用しないと」
営業スマイルから屈託のない笑顔に変わった目の前の男、アルフレッドは他の客に聞こえないような声量で言った。
「トーマ、知り合いなのか?」
「ちょっと、な」
グレープが気軽に聞いてきたが、まさかゴブリンたちの元黒幕でしたとは言えないので、お茶を濁しておく。
「『なんでも焼き』かあ、なにが入っているか分からないバージョンのタコ焼きね」
「おっ、セツナさんお目が高いね。ま、それしか売ってないんだけど」
「え、私のこと知ってるの?」
「『ネクストフェーズ』のセツナ。最近OSOに来たって情報は、既に入手済みだよ」
「っへえ……」
商品について会話し始めたが、ほんの一瞬だけセツナとアルフレッドの間に火花が散った気がした。
我が国トップクラスのプロゲーマーである彼女と、OSOトップクラスのマスターマインドである彼。混ざり合えばどんな化学反応が起こるか分からない、刺激物どうしの邂逅だ。
「改めて。『カオスメーカー』のマスター、アルフレッドって言います」
「クランマスター、どうりで…」
耳聡いわけだ、と言いたいのだろう。
セツナは目を見開いて、今後敵になるかもしれない曲者に相対した。
「で、なにか買ってくかい?ま、10個1セットを何個買うかしか注文は受け付けてないけど」
数秒の交錯の後、アルフレッドは不意にセツナから視線を外し、俺たち四人に問いかけるようにして聞いた。
「10連1回って、ガチャみたいだな」
前来たときは買わなかったので、俺はメニューの既視感を指摘する。
VRゲームの台頭で今はもう廃れてしまったが、スマホで遊ぶソーシャルゲームには付き物のガチャシステム。
食べてみるまで中身が分からないというブラックボックスな特徴も相まって、いい感じに射幸心を煽れそうだ。さぞかし稼げるのだろうな。
「面白いでしょ?ただ食べるだけじゃない」
ふとガラス張りのショーケースを見ると、タコ焼きにしか見えない丸い粉物が10個、木でできた舟形の容器に収まっている。
これが『なんでも焼き』だ。アルフレッドの口ぶりからして、『カオスメーカー』で不要となった素材を中に詰め込んで焼いた創作料理。
「面白くはあるな。じゃ1つくれ」
「あいよ、銀貨500枚」
中々強気な価格設定だな。このボリュームの料理にしては高い。
「中身が完全ランダムだからね。価値以上の品が入っていることもあるから」
「商売上手め。じゃあ2つにするから金貨1枚で」
購入額トップの自信があるので、爆買いはしない。
それに、食べ物は時間経過で腐るからもったいない。
「毎度あり。他の3人は?」
「私も2つ頼むよ」
「俺も」
「…私も」
ニヒルとグレープは軽く、セツナはどこか警戒しながら答えた。
「はーい。今焼くからちょっと待っててね」
そう言い、左の手のひらを横にスライドさせたアルフレッド。
受け取り口の方に移動しろということらしい。
「また、会えることを願っているよ。トーマ、ニヒル、グレープ」
「俺は願い下げだが」
「良いのが当たったらね」
「?」
あの日。ゴブリン領に最も深く食い込めたとき、影で『カオスメーカー』が暗躍していたことを、俺は誰にも言っていない。
だからニヒルとグレープには、本当の意味が通じていないはずだ。
「それと、セツナも」
「……どーも」
社交辞令もそこそこに、俺たちは車両の背面にある受け取り口へと向かった。
「っ!セツナに、トーマ…!」
すると驚きとともに、後ろの扉を開け放った中で商品を包んでいた手が止まる。
移動販売車の二人目の店員は見たこともない、いかにもクールそうな知的な男性プレイヤーだった。短く切りそろえられた濃い紫の髪に、黒を基調としたシンプルな布地の服を着ている。
「【カオスメーカー】のメンバーか?俺はトーマだ」
「トーマ。サービス開始直後からプレイしている第一陣、『水晶の洞窟』『キノコの森』『枯れ木の森』『大図書館地下』のダンジョンたちをクリアし、『ダンジョンジェム』の存在を世に知らしめた張本人。最近は『サクラジェム』の総獲得数ランキングの第1位を獲得した」
「…ずいぶん詳しいな」
俺の挨拶を無視し、滔々としゃべり始める男。
「そして、ゴブリン領への貢献はマスター並み」
「…【カオスメーカー】のメンバーだな?」
ゴブリン領への貢献というキーワード。俺以外に『ゴブリン・キング』に対面したことを知っているのは、【カオスメーカー】だけだ。
この人は、ただの雇われ店員ではない。
「ああ。Dという」
ディー?発音からして、アルファベットのDか?ずいぶんとZが喜びそうな名前だ。
「…俺は【アルファベット】の勧誘を断っている」
「そうか。ならなにも言わない」
俺の心を読んだか、はたまた俺の交友関係を知ってか、Dという男は先んじて断りを入れた。
どこのクランに入ろうかなんて人の自由なので、本当になにも言うことはない。
「かっこいいし、アルファベットの名前のプレイヤーを見つけたら勧誘したいから教えてほしい」とZから言われているが、もう拒否しているならいらない手間だ。
「これが注文の品だ」
なんて二言三言話しているうちに、商品が全て準備できたらしい。ぶっきらぼうな一言とともに、俺たちは『なんでも焼き』を2つずつ手渡された。
「ロボーグに、よろしく伝えておいてくれ。ゴブリン領のあのときは世話になったと」
最後に俺が受け取る番になったとき、小声でそう言われた。
なぜロボーグ?世話になった?もしかして、Dもあの戦いに……。
「トーマ、行くよ!」
俺は自分の世界に飛び込んで思慮を巡らせようとするが、早く次に行きたそうなセツナによって引き抜かれた。
※※※
『なんでも焼き』ガチャの結果はまずまずだった。
散策中に減った小腹を満たすのにはちょうど良かったが、珍しいアイテムが掘り出されることはなかった。無難に魔物や、鉱石とか植物の素材がほとんど。
せめて一番の当たりを決めるとするなら、セツナの金貨1枚だ。
「ってか、まるまるキャッシュバックじゃん!おっとくぅ~!」
駄菓子屋のキッズのように大はしゃぎする彼女を見て、ちょっとほっこりする俺なのだった。
※※※
さて、『ユルルンマーケット』の探索はまだ終わらない。今一番勢いのある、あの店を訪ねていないのだから。
俺は弧を描くようなマーケットの内側の辺に点在する、いくつかの立派な店の一つに入った。
マーケット内では数少ない、普通の店だ。シートを広げただけとか屋台みたいなものではなく、天井も壁も床も柱も扉もある一般的な店舗。
「いらっしゃい」
おしゃれな扉を開けてすぐのところに、男性プレイヤーが座っていた。
これまた理知的な佇まいだ。伊達眼鏡越しの伏し目が整っている。
「今、ちょっといいか?」
「もちろん」
カウンターテーブルに両肘を突きながら、海のように青い布に刺繍を施している彼は即答する。
「とりあえず商品を見に来たんだが、場合によっては製作を頼むかもしれん」
「本当か?」
俺がセツナの方をちらと見ながら言うと、男は顔をばっと持ち上げた。
この人も現金だな。まあ、そうでなきゃここまでのし上がれないか。
「たいあり。あんまり高すぎると出せないけど…」
彼のギラギラした顔つきを見て、セツナが自信なさげに言う。
壁際と部屋の中央に置かれた棚にずらりと並んだ装備の数々。そして、奥のカーテンで仕切られているスペースから聞こえる、ノミを木に打ちつける轟音。
彼を知らない彼女も、おそらくここがなにをする場所なのか分かったのだろう。
「セツナさん、『ヴェヌティス&エリーリアの工房』へようこそ。店主のヴェヌティスです」
『ヴェヌティス&エリーリアの工房』。
ここはその名の通り、ヴェヌティスとエリーリアという二人のプレイヤーが設立した工房だ。
裁縫と服飾担当のヴェヌティスと、木工と石工担当のエリーリアが力を合わせて防具や武器、服などを製作する生産スタイルで、こうして店を建てるに至るまで切り盛りしている。
店には安く手に入る廉価版を常に置いているが、プレイヤーの中でもっぱら人気なのはオーダーメイドだ。彼と彼女のスキルで作る世界に一つだけの装備は、まさに垂涎物と言っていい。
なにせ、彼らに装備を作ってもらうことを目標にして活動しているプレイヤーもいるくらいだからな。
「あ、『ネクストフェーズ』のセツナです」
早速セツナと刺繍をしていた男、ヴェヌティスが挨拶を交わす。
「俺はグレープ!」
お前は知り合いだろ。
「…それで、彼女になにか作りたいってことかな」
「ああ。料金は…、折半でいいだろ」
「記念ってことでね。私はいいよ」
グレープのボケを無視し、俺たちは商談に移る。
この場の流れでセツナのプレゼントとして製作依頼を出すことにしたが、傍らのニヒルはすぐOKしてくれた。
「おいおい、そこはツッコんでくれよ。…俺も出せる分だけ出すぜ!」
「三人とも…」
なにを作ってもらうのか分からないにも関わらず、目をうるうるさせ始めるセツナ。
「って、彼女がOKな体で話が進んでるけど、俺たちはなにを作ればいい?」
「そうだな…」
俺は顎に手を当てて考える。
「彼女は武器を必要としないから、防具か服がいいと思うんだが」
「ぶっちゃけ攻撃もあんまり当たらんから、服がいいかな。例えば、初期装備じゃなくて、自動で修復する服とかあったらいいかも!」
「…それだけでいいのか?」
「え?それだけって?」
お互いに疑問形で返し合い、ヴェヌティスもセツナもぽかんとする。
補足すると、初回プレイ時に選んだ安価でシンプルな武器や防具、服といったいわゆる初期装備は、全壊しないような造りになっている。
どんな衝撃を受けても使用不可能にはならず、徐々に傷が塞がっていく形で元通りになるのだ。
「そのままの意味だ。自動で修復する服は、オーダーメイドの製品ならデフォルトでついている。他にないか?」
「えええ!?修復する機能がデフォでついてんの!?」
「セツナみたいに要望する声が多かったから、デフォにすることにしたんだ。今はそれにプラスして、1つ機能を付けられる」
今まで幾度となく繰り返したであろう説明を、丁寧にもう一度してくれる。
つくづく思うが、ヴェヌティスも根は優しい男だ。
「なんでも?」
「なんでも、だ。俺とエリーリアに不可能はない。ナポレオンだ」
いや、ナポレオンではないだろう。
「じゃ、そうだなあ……。急に聞かれても思いつかないんだけど…」
今度はセツナが顎に手を当て始めた。
「…あ!こういうのはいける?毎日日替わりでランダムに変わる服!」
「変わるというのは、デザインや色ということか?」
「そ。上下セットで、赤の次は青になったり、スカートになったりパンツになったり、ワンピースになったりタンクトップになったり」
「高級な革生地やデニム生地など、質感が変わったりするのもいいな」
「でしょ!?完全ランダムにすれば私も楽しい!」
話が弾んでいく。
ヴェヌティスはこうして、依頼者からヒアリングをしていくことでアイデアを言語化する手法を取っている。
「良いアイデアだ。それなら作ったこともないし、やれる」
「ん?作ったことがあったらやらないん?」
「ああやらない。俺たちは、オーダーメイドのときは一度作ったものと同じようなものを作らないと決めているんだ」
「え、不可能あるじゃん!」
「……」
図星を突くのはやめてあげてくれ。黙り込んでしまったじゃないか。
「ま、まあそれはいいとして、セツナはそれでいい?」
「うん!『日替わりコーディネート』なんて最高すぎる!」
「では、今話した通りの仕様で作ってみよう」
よし、なんとかまとまったな。長いときは数十分以上、場合によってはエリーリアまで巻き込んで作るものについて議論することがあるらしいから、短くて良かった。
「いくら?」
「お代はまだだ。できたものにセツナが納得してもらってから、俺がその場で決める」
「え!?それ、未来が怖いんだけど…」
「大丈夫。俺ら四人が破産するくらいの値段で済むだろうよ」
「ダメじゃん!」
なんて、半分冗談を言いつつ…。
「っし、皆はなんか買ってくか?俺は見てるだけで満足しちゃった!」
「俺はないな」
「私も」
グレープ、俺、ニヒルは帰る前準備の話を展開する。
「私は…」
「いや、皆まで言うな。見て周りたいだろうし、もういい時間だ。いったん解散にして、夕方『預かり屋』で落ち合わないか?」
ここで俺は、セツナの一言を遮って悪魔の提案を持ちかける。
今ここでショッピングを終わらせてしまえば、最も購入金額が高いのは俺ということになる。
つまり、最も財力があるのは俺。俺がヒエラルキーのトップだ。
これは自分で言っていて自信がないが、OSOに来てまだあまり期間が経っていないセツナに、先輩風をびゅうびゅうに吹かせられたのではないだろうか。
「確かに結構歩いたね。マーケットの露店もあらかた紹介し終えたから、お開きにしますか」
よしよし、ニヒルの賛同が得られた。
セツナの保護者的な立ち位置を買っている彼もしくは彼女が首を縦に振れば、彼または彼女もぞっこんのグレープも縦に振る。
「そだな!ニヒルちゃんの言う通りだ!」
そらみたことか。
もう油断してもいいだろう。購入額レースは俺の完全勝利、ということでよろしいか?
そう、悦に入っていたその最中…。
「このナイフ、超かっこいいじゃん!いくら?」
「それか?黒金貨3枚だ」
「はいはーい、了解」
は!?そのなんともない木製の刃物が!?
俺は心の中で絶叫した。
「数時間後に『預かり屋』でいい?」
「ああ」
その後の会話が全く入ってこない。
今なんて言った?黒金貨、3枚?
「じゃ、今日はありがとね。もう何個か買ってから一人でぶらついてみるわ!」
「『預かり屋』を忘れちゃダメだよ」
「わーってるって」
ナイフ1本だけじゃなく、もう何個か買うのか…。黒金貨3枚ほどもする装備を、もう何個か……。
俺の、負けです。
「ほらいくよ」
「…俺も引っ張られたい」
他愛もない別れのやり取りを耳に流し込みながら、俺はニヒルに引きずられて『ヴェヌティス&エリーリアの工房』をあとにするのだった。