表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
32/83

第三十二話

2023/09/30 一部を修正、加筆しました。

【第三十二話】


 新イベント、『サクラ個体とサクラジェムで春満開!』が始まって、今日で二日日。


 俺、グレープ、ハッパの三人は俺の家に集まり、昨日どんなことがあったのかを話し合った。


 グレープの話を聞くと、道中で『魔王』に殺されかけ、助けに来たニヒルによって殺され、なんやかんやあって二人とパーティを組んで鉱山を攻略することになったそうだ。


 ……意味が分からない。


 前半の文と、『なんやかんやあって、』以降の文が嚙み合っていない。


 後、自分を殺しかけた相手と実際に殺した相手とでパーティを組むのは問題ないのだろうか。


 まあ、本人が納得してるならいいか。


 次にハッパの話では、大きなひょうが落ちてきて、ゴブリンが【爆発魔法】でそれを破壊して、『ゴブリン・サクラ』と戦い、戦友が亡くなったが、何とか倒すことができたかもしれないらしい。


 これは、驚きだ。


 大きなひょうが落ちてきたっていうのは、ウェザーさんの【天候魔法】によるものだろう。


 問題なのはその後だ。


 ゴブリンが【爆発魔法】を使った?


 前にも言ったが、プレイヤーだけでなく魔物もスキルの付与された『スキルジェム』を飲み込むことで、スキルを扱えるようになる。


 そして昨日、ゴブリンが【爆発魔法】を使ったことが確認されたようだ。


 ということは、ゴブリンたちが『スキルジェム・【爆発魔法】』を持っているということになる。


 そうなると、問題になるのはスキルジェムの入手ルート。


 心当たりがあるとすれば、先日、俺のクランハウスに強盗に入った【繁栄の礎】のメンバーに強奪された、大量のジェムたちだ。


 前回のイベント『悪魔の降臨とスキルジェム』の開催期間中は、全てのフィールドで『悪魔』が湧くようになった。


 イベントが終わった今では新しく『悪魔』が湧くことはないが、OSOには厄介な仕様がある。


 それが、一度湧いた魔物はデスポーンしない、という仕様だ。


 デスポーンというのは、デスとスポーンという二つの単語を掛け合わせた用語だ。たぶん造語。


 意味は、湧いてから一定時間経過した魔物をデスさせる行為のこと。


 デスポーンにより、ゲームの容量や通信量を節約したり、魔物を再配置するように湧きを促すことができる。


 つまりなにが言いたいかというと、前回のイベント中はゴブリン領のフィールドにも『悪魔』が湧いていたということだ。


 だから、ゴブリンが『悪魔』を倒してスキルジェムを手に入れた可能性もある。


 しかし、そうやって手に入れたスキルジェムを使ったとすると、ある矛盾点がある。


 それが、ジェムに【爆発魔法】が付与されている点だ。


 『悪魔』を倒しても、スキルの込められていない空のスキルジェムしか手に入らない。


 となると、昨日の戦いでゴブリンが使ったスキルジェムは、彼らが自前で用意したものではなく、元々俺たち人間側が保有していたジェムということになる。

 

 これは誰の目から見ても明らかで、非常にまずい。


 何がまずいかというと、俺の名誉が傷つくことがまずい。


 現在、俺の名誉は最高段階だ。『大図書館地下』を攻略し、プレイヤーの間で絶大な影響力を持つ【検証組】の後ろ盾を得たからな。


 その最高の名誉に、敵方に『スキルジェム・【爆発魔法】』を流すという利敵行為の一端を担ったという事実が、傷をつけてしまう。 


 そうなると、リスキル祭り開催までのボーダーラインまで、名誉が低下してしまう。


 だが、『スキルジェム強奪事件』ではむしろ被害者だった。


 当時もそう訴えたのに聞く耳を持たれなかったが、何度でも言いたい。


 あの事件の罰は既に受けた。まさか、もう一度リスキル祭りが開かれることはないだろう。


 そんなことを考えていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。


「ちょっと出てくる」


「いてら~」


「いてら~」


 ちゃぶ台で寛ぐ二人を置いて、さっさと玄関に向かう。


「どなたですか?」


 誰か分からないので、敬語で聞く。


 扉のロックは指紋認証だから、無理やり破壊されなければ不法に侵入されない。


 『スキルジェム強奪事件』のときのように、壁に穴を空けられたりしたら無意味だけどな。


「私だ。アカネだ」


「ちょっと待ってろ、今開ける」


 先ほどの思考を、忘却の彼方に捨てたのが敗因だった。


 何も考えず、見知った相手と信頼してドアを開けてしまった。


 そして俺は、それが過ちだったとすぐに気付くことになる。


「ゴブリンの件、知っているな?」


 アカネは俺をリスキルすることに情熱を燃やす、異常なプレイヤーの一人だ。


 そのことを、二度と失念しないよう心に誓った。


「なんっ……!」


 ドアを開き切った瞬間、瞬時に放たれた居合斬りを食らい、俺は死んだ。


 いやだから、『スキルジェム』が盗まれたのは俺のせいじゃないだろ!



 ※※※



 リスキル祭りが無事閉会した後、俺は自宅へと戻ってこれた。


「あ、やっと帰ってきた。意外と短かったな」


「ああ。俺は一応、攻略発展の立役者だからな。ヘイトがそんなに溜まっていなかった」


 リスキルに狂うプレイヤーはもはや、魔物と等しい。


 俺たち被害者は、築き上げてきた名誉で彼ら彼女らのヘイトをコントロールしなければならない。 


「ま、今回の件はあんま気にしなくていいんじゃない?クランマスターのマスターさんも、『ゴブリンが強くなって、戦うのがもっと楽しくなった』って言ってたよ」


 ハッパが他人事かのように言う。


 ゴブリンが強化されて直接の被害を受ける、当事者の戦闘狂たちにはご褒美ということか。


 って、クランマスターのマスターさんって呼び方はなんだよ。


「いや、別に気にしてないぞ。ゴブリンが強くなったのは、俺のせいじゃないからな」


「あれ?そうじゃなかったっけ?」


「ウチはトーマの管理能力が不足してたから、リスキルされて当然って聞いたよ」


「おい」


 誰がそんなこと吹き込んだんだ?そして、ハッパも嘘を信じ込むな。 


 変な噂を流している人物は後で特定するとして、とにかくこれで俺は、『スキルジェム強奪事件』の罰を全て受けたと言ってもいい。


 リスキルマシーンたちは理由なくリスキルに走ることはない。


 ようやく、動きやすくなるな。


「じゃあ、そろそろ解散するか。俺は引き続き『サクラジェム』を集めるつもりだが、二人は昨日と同じところで狩りか?」


「ああ、マディウスとニヒルちゃんと鉱山に行ってくる」


 ユルルンの街の北には、鉱山のフィールドがある。


 魔物が強く、攻略がかなり難しい場所だと聞いたが、『魔王』とニヒルがいれば余裕だろう。


 ちなみに、マディウスが『魔王』のプレイヤーネームらしい。俺もさっき聞いた。


「ウチもそう!ゴブリン狩り!リーパーと一緒に!」


 リーパーというのは、クラン【魔王軍】の『四天王』の一人だ。スキル【死神の鎌】を用いた近接戦が得意な女性プレイヤーらしい。


 『魔王』と会った後に、やつの周辺をあらかた調べておいた。公開されている『四天王』の名前とスキルくらいは把握してある。


「俺は、そうだな。もう一度『螺旋の塔』に行ってくる」


 昨日、あそこは『サクラ個体』の周回に適さないことが分かっている。


 だから、これは嘘だ。


「昨日生きて帰ってこれたなら、今日も大丈夫だな、トーマ!」


「うん、二人も頑張ってね!」


 では、なぜ二人に嘘を付いたのか。


 それは、これからやましいことをするからだ。


「グレープもな。…よし、行くか」


 情報交換を終えた俺たちは家を後にし、それぞれの狩場へ向かった。



 ※※※



 さて。


 数十分歩いて俺がたどり着いたのは、『始まりの街』とユルルンを結ぶ街道から少し外れた雑木林の中だった。


 どうしてこんなところに来たのかというと…。


「遅いぞ、トーマ」


「悪い、少し野暮用があった」


「まあいい、そんなに急ぐ必要はないだろう」


「やっと案内役が来たね」


 三人の人物と待ち合わせをしていたからだ。


「しかし、俺が言うのもなんだが、トーマは自分を殺した相手とパーティを組めるのか?」


「ああ、全く問題ない。過去のことは気にしていられないからな」


「本当に、大した度胸だよ」


 三人のうち、二人は『スキルジェム強奪事件』の実行犯、ヴァーミリオンとクロックだ。


 二人ともクラン【繁栄の礎】のメンバーで、ヴァーミリオンはクランマスターを務めている。 


「流石、『魂使い』だな」


 最後の人物、グリッドが茶化してくる。彼はクラン【強奪&鏖殺】のサブマスター。


 彼とは以前、オースティンに向かう護衛依頼の道中で戦ったことがある。


「早速、作戦に移るか」


「ああ」


「うん」


「おう」


 俺の合図に、ヴァーミリオン、クロック、グリッドの三人が頷く。


 彼らは悪事に手を染めることに一切の躊躇がない、筋金入りの悪党だ。


 まさに、今回の計画にうってつけだ。


 元々彼らとはフレンドではなかったが、今回の作戦のためにニヒルから紹介してもらってフレンドになった。


「左右と後ろの警戒を頼んだ」


 早速、俺たちは林の中を一列に進んでいく。俺が先頭だ。


 俺は『始まりの街』周辺のフィールドの地形を把握している。


 リリース開始から約一か月かけ、色々な仕様の検証の場として使っていたからだ。


「しっ!あった。アジトだ」


 しばらく林の中を進むと、木々の向こう、数十メートルほど先に、野営地のようなものが見える。


 複数のテントが、焚火を取り囲むようにして乱立している。


 プレイヤーキラーのNPCである盗賊たちの拠点、アジトだ。


「それじゃあヴァーミリオン、頼む」


「ああ」


 俺は振り向いて短く指示すると、彼も短く返事をする。


 いつの間にか手にしていたアサルトライフルを抱えて、中央の広場に乗り込む。


「誰だ!」


「………」


 殺り慣れているのだろう。一言も発さずに銃を乱射するヴァーミリオン。 


 この世界に似つかわしくない、リアルな発砲音が連続して鳴り響く。


「………」


「………」


「………」


 他の三人は無言でその光景を眺める。


 ああ、俺が撃たれたときもあんな感じだったんだな。


 ちなみに複数人で掃射しないのは、誤射の危険性があるからだ。


 俺たち一人一人に、重要な役割がある。一人として欠けてはならない。


「………」


 しばらくその場でぼーっとしていると、やっと銃声が鳴り止んだ。


「終わった」


 特に疲れた様子も見せずに、ヴァーミリオンが振り返る。


「ご苦労だった。じゃあ、次に取りかかるぞ」


 そうしたら、作戦を次の段階に移行する。


 俺たちは頷き合い、盗賊の遺体を引きずり始め、えっさほいさと焚火のそばに一体ずつ集めていく。


 三十体ほどだろうか。全ての遺体を集め終えると、俺たちはインベントリからシャベルを取り出す。


「ここがいいな」


 次は焚火近くの手ごろな地面を選び、四人でそこを掘り進めていく。


「どれくらい掘ればいい?」


「死体自体にかさがあるし、下のやつを踏み台にして上ってくるおそれがある。三メートルは掘りたい」


「結構あるね」


 クロックが軽いノリで質問してきたので、俺は的確に指示を出す。


 安全を考慮するには、これくらいの深さが必要だ。


 幸い、地面は柔らかかった。


 俺たちは十分ほどで穴を掘り終わる。


「よし、これくらいでいいだろう。それじゃあ、次だ」


 シャベルをしまう。


 そして一体ずつ、盗賊の遺体を穴に放り込む。


 一体、また一体と落ちていく物言わぬ骸。


 遺体を置いてある場所と穴の縁を何回か往復して、全ての遺体が収まった。


 積み重なった遺体たちが、穴の半分くらいの高さを占めている。


「次は、クロック。頼む」


「うん」


 俺の言葉を受け、クロックが穴の近くに立つ。


 そして、杖を穴の中に向けてスキルを使った。


 彼のスキルは【タイムキーパー】。対象の時間経過を加速させる能力だ。


 このスキルで対象に取れるものは多い。植物やNPCなど、プレイヤー以外の生物にも適用可能だ。


 もちろん、遺体にも。


 穴に収まっている数十の遺体が、黄金に輝き出す。


 【タイムキーパー】が発動しているときは、こういうエフェクトが出るのか。後学のために憶えておこう。


「………」


 俺たちは何も言わず、しばらく待つ。


 まばゆい光はずっと輝き続けている。


「もうすぐ終わるよ」


 クロックがそう言うのと同時に、光が消える。


 そして、死んだはずの盗賊たちが動き始めた。


「いいぞ、成功だ」


 血の気のない肌。低い呻き声。


 命を落とした彼らは生き返ったわけではなく、遺体が放置されたままでいると生まれるアンデッドの魔物、ゾンビになった。


「あ!『サクラ個体』がいるよ!」


 ふいに、クロックが穴の中を指さす。


 桜色の肌に桜色の髪、着ている服も桜色。全身ピンクのコスプレイヤーみたいな見た目をしている。


 間違いない、『ゾンビ・サクラ』だ。


 一回目で引き当てるとはラッキーだな。


 ゾンビは通常の魔物と異なり、NPCの遺体が変身する形でスポーンする。


 そう、スポーンする。こんな非人道的な方法でも、『サクラ個体』の出現条件を満たしているのだ。


「よし、ガソリンをかけるぞ」


 俺が促すと、ヴァーミリオンがガソリンの入ったタンクを取り出して、俺たちに手渡していく。


 準備が出来たら、こぼさないように気をつけつつ、ガソリンを穴の中へジャバジャバと注ぎ入れる。


 このガソリンは、ヴァーミリオンが生み出した軍用車両に入っていたものだ。


 元々タンク一つ分の量しかなかったが、グリッドのスキル【倍々ゲーム】を二回使って四倍にした。


 【軍需産業】は、魔力を消費して兵器を生み出すことができるスキルだ。


 このスキルは、戦車や装甲車、戦闘機などの軍事用ビークルも生成できる。過労死前提にはなってしまうが。


 ビークルは燃料がないと動かないので、ガソリンが満タンに入った状態で手に入る。今回は、それを拝借したというわけだ。


 また、【倍々ゲーム】は対象の『個数』を倍にする効果だ。


 ただ本来は、液体は個数としてカウントできず、ガソリン自体の量を倍にすることはできない。


 だが、ガソリンが入った容器の『個数』は倍にできる。


 このようなとんちを利かせることで、ガソリンの量を四倍にすることができた。


「よし」


 何ともややこしい説明をしているうちに、ガソリンを巻き終わる。


 さあ、次のステップだ。


「グリッド、頼む」


「ああ」

 

 グリッドは懐から杖を取り出し、『ゾンビ・サクラ』に向ける。


 そして、スキル【倍々ゲーム】を発動して。


 一瞬で、ガソリンのかかった『ゾンビ・サクラ』が四体に増える。


 【倍々ゲーム】は、NPCとプレイヤー以外の生物にも適用できる。


 元々はNPCでも、ゾンビに変化した時点で魔物として扱われるため、スキルの対象にできるというわけだ。


「これで最後だ」


 俺はそこらへんに転がっていた松明を手に取り、焚火の火をもらう。


 そして、穴の中に放り込む。


 一気に火が燃え上がり、薄暗い林がパッと明るくなった。

 

「それにしても、すごい火力だな」


「次はガソリンの量を減らした方がいいな」


「そうだな」


「量も限られてるからね」


 その様子を眺め、改善点を話し合う俺たち。

 

 ゾンビという魔物は、いくら肉体に攻撃を与えても倒すことができない。


 このように焼き尽くすか、魂を浄化する手段を用いて倒すしかない。


「終わった?」


 それほど時間が経たないうちに燃やすものがなくなったようで、すぐに炎が消える。 


 ゾンビを燃やして倒すと、ドロップ素材が骨のみになるという仕様がある。


 ただ、それは肉体の大部分が燃えてしまったため、という理屈に基づいている。


 『サクラジェムの欠片』が可燃性でない限り、ちゃんとドロップしてくれるだろう。


「……あったぞ、大量だ」


 グリッドの言葉を聞いて、俺は穴の中を覗き込む。

 

 確かに、燃えカスの中に数十粒の小石が光っている。


 『サクラジェムの欠片』だ。


「『ゾンビ・サクラ』の骨もあるよ!」


 クロックが別の場所を指さす。


 見ると、細長いピンクの棒のような形をしたなにかがある。


 あれが『ゾンビ・サクラ』の桜色の素材か。


「これで問題なく乱獲できるみたいだな」


「ああ、大成功だ」


「『魂使い』のアイデアがこんなに上手くいくなんてな」


「初めて聞いたときはびっくりしたけどね」


 あまりにも計画が上手くいき、俺たちは口々に感想を漏らす。


 そう、この狩り方は俺が立案した。


 名付けて、『ゾンビ燃焼型サクラジェムマラソン』。


 手順としてはこうだ。


 まず、この辺の地理に詳しい俺が先頭になって進み、アジトを発見する。


 次に、ヴァーミリオンが銃火器を使って盗賊を全て倒す。


 その次に、皆で穴を掘り、盗賊の遺体を穴の中に移して、クロックのスキルで遺体の時間を経過させる。


 その後、用意しておいたガソリンを撒き、『ゾンビ・サクラ』がいたらその数を俺らの人数分、四倍にしてから火を放つ。


 最後に、穴の中に残った『サクラジェムの欠片』を残さず頂く。 


「これで全部だな」


 俺は慎重に穴の中へ降り、ドロップアイテムを回収する。


 手に入った『サクラジェムの欠片』は、全部で四十五個だった。


 危険はなかったが、三人で六十七個ドロップした『ワーウルフ・サクラ』のときと比べると少ない。


 おそらく、『サクラ個体』の種類によって落とす欠片の個数が違うんだろうな。 


「四で割ると一余るが、どうする?」


「俺はヴァーミリオンの取り分でいいと思うが」


 彼の兵器の殲滅能力とガソリンがなければ、この作戦は成り立たなかった。


 だから、彼がもらうべきだ。


「そうだな、俺もそう思う」


「もらってよ、ヴァーミリオン」


 俺の意見に、グリッドとクロックも追従する。


 ここで無用な争いを生むわけにはいかない。


 今日から、このメンバーでマラソンしていくんだからな。 


「じゃあ、次に余ったら俺以外の誰かが受け取ってくれ」


「了解。…じゃあ次いくぞ。皆、魔力は大丈夫か?」


 魔力という数値は確認できないが、ここにいる全員は過労死の経験者だ。


 ある程度スキル酷使の限界、いわゆる過労死ラインを把握しており、自分にはあとどれくらいの魔力があるかというのが感覚的に分かるようになっている。


「大丈夫だ」


「俺も」


「まだまだいけるよ」


「それじゃあ、行くか」


 休憩はなしだ。時間が惜しい。


 俺たちは更なる獲物を求めて、木々の中を分け入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ