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VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
24/83

第二十四話

2022/09/20 一部を修正、加筆しました。

2023/08/27 一部を修正、加筆しました。

【第二十四話】


 サイド:トーマ ※【OSOソロ連合】(トーマの自称)


 いよいよ明日か。第二回イベントの開始日。


 『魔王』と変な張り合いをしてしまったが、どんな内容だったとしても楽しむだけだ。


 そう思いつつ俺は、ユルルンで一番大きな鍛冶場の中に入る。


「失礼します」


 今日は『キノコの森』攻略で一緒になった、ダンジュウロウさんに招待された。


 彼を一言で言うと、鍛冶を嗜むおじさんだ。


 リアル志向なOSOは、生産活動でも現実のものと同じ手順を必要とする。


 そのため、鍛冶に限った話ではないが、どの生産活動も非常にハードルの高いものとなっている。


 しかし、現実の材料や道具、費用や時間などの制約に悩まされることなく、何の気兼ねもなくものづくりが楽しめるので、作る過程が好き、というプレイヤーは多い。


 ダンジュウロウさんもその一人だ。 


 元々鍛冶というか刀が好きで、リアルでは美術館に刀身を鑑賞しに行くのが趣味だった彼。


 作る過程を自分でもやってみたくなり、OSOを始めたらしい。


 しかし、ゲームの知識や経験はあまりなく、かといって仲の良いフレンドもいなかった。


 なので、NPCの鍛冶師に教わりながら無我夢中で鉄を叩き、失敗に失敗を重ねていたところ、カオルさんにクラン【文明開花】に入らないかと誘われたそうだ。


「『鍛冶のことはよく分からないが、素質がある』、と言ってきたカオルにはびっくりした」


 ダンジュウロウさんが懐かしそうに話す。


 その後、カオルさんやアカネの愛刀を打ち、戦国武将がつけるような鎧兜や、手裏剣、クナイなどの小物を生産し、大いに鍛冶の素質を開花させた。


 クランマスターの目に狂いはなかったということだな。


「いや、未だ成長過程だ。まだ開花しきっちゃいない、五分咲きだよ」


「そうですか?素晴らしい作品を生み出していると思いますが」


「もっと、もっといいのが作れるはずだ、と信じて日々打っているよ」


 俺は彼の心の在り方、懐の深さに尊敬している。


 ダンジュウロウさんは戦闘にも興味があるらしい。


 以前『キノコの森』の攻略についてきていたのは、ダンジョン攻略とはどういうものかを見学したかったそうだ。


『戦えなくてもいいから、プレイヤーの戦い方、魔物の動きをしっかり観察するといい』


 とカオルさんに言われて、同行したとか。


「おかげで、必要以上に魔物を恐れる気持ちが薄くなり、クランの仲間と狩りに行けるようになった。これもトーマの大立ち回りのおかげだ」


 と、深々と頭を下げるダンジュウロウさん。


「そんなことないですよ。俺が勝てたのもカオルさんたちのおかげだったので」 


 謙遜して義理堅い彼の頭を上げさせる。


 本当に大したことはしていない。


「それで、ご用件というのはなんですか?」


 少し話し込んでしまったので、俺から切り出す。


 今、俺とダンジュウロウさんは鍛冶場の奥の方にある、出来上がった作品を並べておく棚に囲まれた部屋にいる。


 といっても、棚には武器や防具は飾られておらず、なんとも殺風景。


 作品のほとんどは、隅に置いてある鍛冶師で共有のストレージボックスに入っている。


 棚に置くと部外者が取り放題だから、自衛のためにしまっているそうだ。


 鍛冶場は通気性確保のために四方が吹き抜けで、その気になれば泥棒が簡単に入れてしまうのだとか。


「ああ、そうだった。…トーマは、鎖帷子を知っているか?」


「くさりかたびら…。まあ、何となくですけど」


 鎖帷子とは、鉄が網状になってできたベストみたいなものだろう。


 あんまり詳しくないが、名前だけは聞いたことがある。


「トーマにピッタリの鎖帷子を作ることができたから、差し上げようと思ってな」


 俺にピッタリ?


 でもな…、申し訳ない。


「お気持ちは嬉しいんですが、俺が着てもしょっちゅう死ぬのでロストしてしまいます。なので…」


「トーマ、知らないのか?」


「え、何をです?」


「近いうちにバージョンアップデートがあることだ。アップデート後は、身に着けている装備がロストしなくなるぞ」


 え、バージョンアップデート?


「後で公式サイトを見てみるといい」


「すいません、ありがとうございます!」

 

 どうせ明日、ゲーム内でイベントについて発表するからと思い、公式ホームページを確認してなかった。


 アップデートについては、もう内容が出ていたんだな。


「それでこの鎖帷子なんだが、面白い性質がある」


「性質、ですか。ただの金属じゃないんですね?」


「そうだ。その名も寄魂鉄」


 キコンテツ?


「寄る魂の鉄と書く」


 なるほど。寄魂鉄か。


 OSOはリアル寄りなゲームだが、現実には存在しないファンタジーな素材も多い。


 寄魂鉄もその一種だろうな。


「とある鉱山で新たに見つかってな。現在メタルに量産させている。メタルは知っているな?」


「ええ、なにせ家を強盗されましたから」


「おや、そうだったのか。それは失礼した」


 また頭を下げようとするので、慌てて止めた。


 OSOの中では無限に犯罪が起きているので、この程度のことで謝罪していたら日が暮れてしまう。


「…とにかく、その寄魂鉄を100%使ってできたのが、この鎖帷子だ」


 と言って、インベントリから胴体用の防具を出すダンジュウロウさん。


 見た目は、銀白色をした普通の鎖帷子のベストだ。


 袖はないが、両脇腹までびっしりと金属が編み込まれている。かなりの重量がありそうだが。


「持ってみるといい」


 俺はダンジュウロウさんからベストを受け取り、両手に持ってみる。


「はい。…重いですね」


「ああ。寄魂鉄は、通常の鉄よりも重い。比重が高いんだ」


 着るとなると、さらにずっしり重く感じるだろう。


「だが、こいつにはある性質がある」


「性質?」


「そうだ。それが、魂を引き寄せる性質だ」


 魂を引き寄せる性質…?


「この金属がある付近で露出した魂が引き寄せられ、くっつくという性質だ。くっついた状態では、魂の自壊が進行しない」


 なるほど?


「まさに、トーマのためにあるようなものだ」


「つまり、魂をくっつけてストックできるということですね?」


「そうだ。磁石に砂鉄がまとわりつくようにな」


 それは、ぜひとも欲しい。


「理解できました。いくらですか?」


「いや、差し上げると言っている。最近目覚ましい活躍をしたそうじゃないか。アカネも自分のことのように喜んでいた」


 アカネが喜んでいたというのは、俺が『大図書館地下』を攻略した件だろう。


 まあそれは置いておいて、過去の功績を差し引いても、これは価値が高すぎる。 


「では、ダンジュウロウさんが値段をつけるとしたら、いくらですか?」


「それでは買うと言っているようなものでは…」


「参考までに訊きたいだけです」


「そうだな…」


 俺が食い気味でお願いすると、折れてくれた。


 彼は渋々、鎖帷子の値段を提示する。


「分かりました」


 値を記憶した俺は、手に持ったままの鎖帷子をインベントリにしまう。


「本当にいらないからな、トーマ」


「はい、また伺います」


 俺は、後日謝礼を持ってくるだけだ。


 それがたまたま、鎖帷子の値段と同じ金額になることはあるだろうが。


「では、息災でな」


「はい、本当にありがとうございました」


「なに、困ったことがあったら何でも言ってくれ」


 それから、俺はダンジュウロウさんに入口まで見送ってもらい、鍛冶場を後にした。


 今回は、思わぬ収穫が二つあったな。


 『バージョンアップデート』と『寄魂鉄の鎖帷子』。


 『バージョンアップデート』は、死んでも装備がロストしない、の他にも変更点、追加点があるだろう。


 自宅のベッドで寝れば、OSOにログインしながらインターネットを閲覧することが可能だ。


 早く家に帰って、公式サイトをチェックしなければ。 


 そう思い、家路を急ぐ俺なのだった。



 サイド:L 【アルファベット】


 僕たちは今、オースティンの外れにあるダンジョン、『枯れ木の森』に来ている。


 ここは枯れ木しか生えておらず、下の地面には硬い土が露出した不毛の森だ。


 出てくる魔物は、木に顔が張り付いたような見た目のトレントだけ。


 人型でちょうどいい強さの敵が出てくる『水晶の洞窟』が攻略された現在では、パーティプレイの練習にこのダンジョンが使われるようになっている。


「L、頼めるか」


 地面の色が少し違うだけの小道をしばらく進んだところで、クランマスターのZさんが声をかけてくる。


 今日は、僕のスキルのテスト兼お披露目会だ。


 僕が【アルファベット】い加入してしばらく経つけど、先輩方が忙しく、全員で集まれたのは今日が初めてだった。


「それじゃあ、行きます」


 根をウニョウニョと這わせて、ゆっくりとやってくるトレントたち。


 僕はそのうちの、一番手前の一匹に杖を構える。    


「『直角化!』」


 そして一言唱えると、バキバキバキッと細長いトレントの胴体がへし折れていく。


 僕のスキルは【強引な直角化】。


 ありとあらゆるモノ自体やモノの運動する軌道を、90度曲げることができる。


 このスキルはプレイヤーを含む人間には効かないけど、魔物には通じる。


「…ッ!……!」


 トレントは特に鳴かない。声帯がないかららしいけど、詳しくは分からない。


 その代わりに枝や根をばたつかせながら抵抗していたが、バキッと一際大きな音を最後に、その顔から生気が消える。


 魔物の体、というか幹の部分が、右に90度折れ曲がった。


「おおっ、えげつねえ」


 Yさんが正直に答える。


「そこら辺の魔物は瞬殺だな」


 と持ち上げてくれたのはZさん。


「これはまさしく、期待の新人ですね」


 Kさんも褒めてくれる。


「でも、プレイヤーに使えない他にも、制約があるんでしょ?いくらなんでも強すぎるわ」


 しかし、Iさんが鋭い指摘を放つ。


「ええ、あります。生物を対象にするときは、だいぶ魔力を持ってかれるみたいです」


 僕は包み隠さず、シークさんに鑑定して教えてもらったことを皆さんに話す。


 あの人のスキル【鑑定】では、スキルの持ち主も知らないような細かい仕様も知ることができるそうだ。


「そうなのか。それじゃあ、ラインを見極めるために過労死するまで試してみるか!」


 Zさん、いきなり何をおっしゃってるんですか?


「それもそうだな」


「一度経験しておいた方がいいよ」


「肝心なときに死んじゃったら困るからね」


 YさんもKさんもIさんも、冗談ですよね?


「それじゃ、あそこの群れに一回ずつ使ってくれ」


 僕の意見は一切聞かれることなく、僕の運命が決定してしまった。


 皆さん微笑んでいるけど、目が笑っていない。


 本気ですか?


「じゃあ、頼むぞ、L!」


 無駄に力強い一言を言われ、Zさんにポンと肩を叩かれる。


 でもその瞬間、僕の頭によぎるものがあった。


 …そうだ。僕は強くなるために、皆さんの力になるために【アルファベット】に入った。


 今はまだ楽しくすいすい遊べているけど、これから強敵やピンチに見舞われて死にそうになる経験が出てくるだろう。


 それなのに、こんなところで弱音を吐いていてどうする!


「死への恐怖は攻略に不要なものだからな、早めに捨ててくれよ!」


 え?


 なんですか、それ!?


 そんな軽いノリで、死に対する恐怖心を捨てていいんですか!?


「もうちょっと、安全に進むって選択肢は…?」


「「「「ない!」」」」


 先輩方の清々しいまでの即答に、僕はあきらめざるを得なかった。


 結局僕はトレント相手に何度もスキルを使わせられ、『過労死』を経験した。


 一度や二度では『死への恐怖』は払拭できないだろうということで、何度も何度も死んだ。


 その度に僕の心は黒く染まっていき、そしてあることに気づいた。


 もしかして、入るクラン間違えた?


 まあ、もう手遅れだし、いいか。


 僕は諦めの境地に達し、同時に『死への恐怖』を手放すことに成功したのだった。



 サイド:ニヒル 【暗殺稼業】


 今日も穏やかな天気で、絶好の暗殺日和だ。


 といっても、もう夜だけど。


 最近トーマとか、表のプレイヤーたちとつるむようになって、依頼をこなす回数が減ってきている。


 実入りも減っちゃうし、ぼちぼち数をこなしていかないとね。


 ということで、とある街のNPC宅に侵入した私。


 物音を立てないように、薄暗い廊下を進んでいく。


 明かりのついているリビングからは談笑が聞こえる。


 本日の依頼は、この一家の暗殺だ。


 高い仲介料を設定し、多くの商店からお金を巻き上げている輸送屋の父親。  


 その稼ぎで貧しい人を買い、奴隷のようにこき使っている母親。


 親の七光りで同年代の子供たちを虐げ、我が物顔で窃盗や傷害を繰り返す息子。


 この家に住む者全員が恨まれている。誰かが死んでほしいと願っている。


 それを叶えてやるのが、私たち【暗殺稼業】だ。


 彼らはNPCだけど、一人一人がまるで人間であるかのように振る舞い、OSOという世界で生きている。


 当然、殺意を向けられるほどに捻くれたキャラクターも生まれるというわけだ。


「ここだね…」


 リビングの入口まで忍び足で移動すると、壁に張りついて中の様子を確認する。


 どうやら今は息子が今日行った悪行を、褒めてほしいと言わんばかりに両親に話しているところだった。  


 それに対して両親が、「まあ!」とか「すごいじゃないか!」とか言って盛り上がっている。


 全く、反吐が出るね。


 きれいな世界を望んでいた、βテストの頃の自分をぶん殴ってやりたい。


 気分も悪いし、さっさと殺すか。


「……」


「だっ…!」


 私はリビングに飛び込むと、ナイフを三本投げて三人を絶命させた。 


 放った刃は全て、首筋に突き刺さっている。


 話し声の聞こえ方から位置を推測して投げたけど、うん、勘は鈍ってないね。


「あ、あの…」


 すると、予想外のところから声。


 おそらく母親の奴隷だったであろう、床に転がっていた若い青年が、掠れた声を絞り上げて話しかけてきた。


「ん?なに?」


「助けに…来てくれたん……ですか?」


「少し違うけど、結果的にはそうだね」


「あ、ありがとう……ございます」


「礼を言われるようなことはしてないよ。ゴミ掃除みたいなもの」


「それでも……ありがとう…ございます。ありがとう……ございます」


 壊れたおもちゃのように、何度も感謝してくる元奴隷。


 そんなに褒められると照れるね。


「もしかして、お腹空いてる?」


 冗談はさておき、いたたまれないのでテーブルの上の料理を渡そうとする。


 しかし、上等そうに見えるフルコースには一家の血がかかってしまっていた。


「はあ、しょうがない」


 予想外の人物に、予想外の出費だ。


 私はインベントリからレーションを取り出す。


「味はしないけど、これ食べてここから逃げな。あとは自由勝手に生きればいい」


「…ありがとう、……ございます」


「もうお礼はいいから」


「…はい」


 必要以上にへりくだる生活は終わりだよ。


 遠回しにそう言い聞かせると、元奴隷はレーションの包みを開け、一気に中身を頬張った。


「やっぱり、お腹空いてたね」


 いたたまれないとは思ったけど。


 なんとなく、この人が食べ終わるまで待つ。


「あの、お名前を伺っても…?」


「いいよ」


 もきゅもきゅとレーションを食べること、数分。


 多少元気を取り戻した元奴隷は、少し興奮した様子で私の名前を訊いてきた。


 助けた恩を感じているのかな?ずいぶん義理堅い人だね。


「私はニヒル」


 対して私は、静かで、小さい笑みを浮かべて応える。


「ただの暗殺者だよ」


 そう言い放ち、私は廊下の暗がりに消えた。 


「あ、そういえば…」


 イベント明日だっけ。


 私はなるべく遠くへ走り去りながら、元奴隷の、救世主を見るようなあの目を頭から抹消する。


 もっと大事なことについて思考を巡らせよう。


 どうなるかな。荒らしてもいいけど。


 思い返せば、一回目は随分とお利口さんに楽しんでいた。


 二回目ははっちゃけてみてもいいかも?


 まあ、どっちでもいいか。


 私は、いつだって私が楽しいと思える、私の味方だ。


 夜は更けていく。

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