表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMO 【Original Skill Online】  作者: LostAngel
18/83

第十八話

2022/09/17 一部を修正、加筆しました。

2023/07/20 一部を修正、加筆しました。

【第十八話】


 『キノコの森』が攻略されたことがプレイヤーたちに知れ渡ると、彼らは大いに喜んだ。


 『水晶の洞窟』の謎水晶に続き、バカでかいキノコという未知のアイテムが増えたからだ。


 新しいアイテム(素材)が出回ると、市場が一気に活性化される。


 需要が爆発的に増え、戦闘職がこぞって素材を手に入れに行く。


 得られた素材を右から左へ流すと、お金の流れが活発になり、戦闘職と商人が儲かる。


 それで供給もドカンと増加して、生産職が忙しくなる。


 出来たモノを輸送し、売ることで、生産職と商人が儲かる。


 そして素材が消費され、また需要が伸びる。


 こういったサイクルが繰り返されることによって、お金が儲かり、新しいモノが誕生するというわけだ


 まあ、俺はこの円環の中にはいないんだがな。


 では、どのようにして儲けているのかというと…。


「とっておきの情報がある。多分ジャーナも知らない情報だ」


 俺は今、メディア系クラン【OSOすぎる速報】のクランマスター、ジャーナと顔を突き合わせている。


 オースティンのある宿屋、一階のラウンジで彼女と密談中だ。


「ほう、随分と言ってくれますね」


 ここぞとばかりに、ジャーナがくいと眼鏡を持ち上げた。


 俺も彼女も悪い意味で有名人だが、特に変装はしない。


 コソコソしてる方が怪しいからな。


「それで、いくらで?」


「前金で10。お眼鏡に適えば100はもらいたい」


「そんな法外な!」


 あまりの金額に、ジャーナが大声を上げる。


 単位はもちろん、金貨の枚数だ。


 OSO中において、個人間の取引で金貨が出てくるのはかなり珍しい。それこそ、後ろ暗い商談でない限りは。


 だから、彼女がびっくりするのも頷ける。


「…。すいません」


「別にいい。俺がこれから話そうとしているのは、大声が出るくらいぶっ飛んだ内容だからな」


「からかわないでください」


 小さなテーブルを挟むように、イスが一つずつ置かれた窓際の席。


 そこで俺たちは、顔色一つ変えずに会話を続ける。


「それで、受けるか、受けないか、どっちだ?」


 彼女と知り合ったきっかけは、全くの偶然だった。


 たまたま、本当にたまたま、フィールドで俺の配下の魔物に襲われているところに遭遇し、助けたことでフレンドになった。


 その後、『悪魔』のイベントの二日目か三日目にグレープのスキル情報を売り、彼女からの信頼を盤石なものにした。


 だから、プレイヤーの間で【自己再生】のことが広まっていたわけだ。


 そして、グレープが『スキルジェム』にスキルを込め続ける苦行をすることになったのは、ものすごく端的かつ単純に言うと、俺のせいということになる。 


「……受けます」


「そう言ってもらえると助かる」


 少し逡巡した後、ジャーナは俺の提案を飲んだ。


 ちなみに前金とは、俺が情報のテーマを教える代わりに貰うお金のことだ。


 例えば、「【自己再生】というスキルがあるんだが、詳しく知りたいか?」って感じだ。


 前回はこれで5だった。


「それじゃあ、言うぞ」


 俺は小さく深呼吸する。


 安全のため、俺は一度しか言わず、彼女にはメモを取らせない。


 他のプレイヤーが目を光らせているのは明らかだし、


「『ダンジョンジェム』というアイテムを知っているか?」


 聞き漏らさぬよう、はっきりとそう言った瞬間。


 彼女の動きが止まる。瞬きすらしない。


 今彼女は、俺が『キノコの森』攻略の一員であること、『ジェム』という言葉から何らかのアイテムであること、これらを総合して『ダンジョンジェム』とはボスがドロップするアイテムではないか、ということを考えているに違いない。


 その通りだ。仮説は全て正しい。


「それは…、ダンジョンボスのドロップアイテムですか?」


「そうだ」


 あのとき。


 アールが俺たちに『ダンジョンジェム』に関する口止めをしたとき、俺はしっかりと彼の言葉を聞いたが、声に出して口外しないことを了解することはしなかった。


 なので、アールの口止めの言葉は聞こえなかったことにする。ガスマスクしてたしな。


「この先はもう後戻りできないぞ、詳しく聞くか?」


「…お願いします」


「分かった。聞き漏らすなよ?」


 今度はジャーナが深呼吸する。俺はそれが終わるのを待つ。


 金貨110枚が決定したんだから、いつまでも待つさ。


「いくぞ?……『ダンジョンジェム』は欠片でドロップし、十個集めるとジェムになる。『スキルジェム』と同じ仕様だ」


 ここまで話したところで、俺は口をつぐむ。


 ここからが本番だからだ。


「次に能力だが、ジェムを特定の魔物に飲み込ませると、その魔物をボスとし、飲み込ませた場所を最深部とするダンジョンができあがる」


 再び絶句する彼女。


 その目は大きく見開かれたが、やや時間を置いて瞬きを二、三度する。


 帰ってきたようだ。

 

「以上だ。俺が知っていることはこれが全てだから、質問はなしで頼む」


「…分かりました。それでは」


 得たい情報は得られたとばかりに、そそくさと立ち上がろうとするジャーナ。


 しかし、俺は呼び止める。


「待ってくれ。この話、オフレコにしてもらえないか」


 オフレコ、つまり他言無用。


 ここまで言っておいたが、彼女に、この情報を記事にしないでくれと言っている。


「そんなことできません」


「今回のネタは【自己再生】のときとはわけが違う。間違いなく戦争が起きるし、俺もジャーナもただでは済まないだろう」


 座り直した彼女の目を見て、俺は真剣に話す。


「それでも、記事にするか?」


「はい、します。それが私の思う、ジャーナリズムですから」


 参った。完敗だ。


 もう誰も彼女を止められないだろう。さながら、ブレーキが壊れた猛スピードの車だ。


「報酬は預かり屋で一時間後に。フォトズを向かわせます」

 

 げ。


 『水晶の洞窟』を攻略した当時、無断で俺のスクショを掲示板に晒した、あのフォトズか。


「彼女には厳しく言っておきました。もうあのようなことは起きないでしょう」


「だといいんだが」


 信用できない。


 俺が簡単に情報を暴露したように、ジャーナもフォトズも嘘をついている可能性が十二分にある。


「それでは」


 今度こそ立ち上がり、宿の出口に向かうジャーナ。


 さて、金を受け取ったら逃げるか。


 彼女の背中を見ながら、早速頭の中で高飛びの計画を立てる俺なのだった。



 ※※※



 ぴったり一時間後、フォトズが預かり屋に現れた。


「こういうのは普通、呼んだ側が早めに来るんじゃないのか?」


「まあ、気にしない気にしない」


 ギャルっぽい軽薄そうな見た目に違わず、こいつは報道者にあるまじき適当な性格をしている。


 後先考えず行動に移るハッパタイプで、金になりそうなことに首を突っ込みまくり、好き勝手に情報を拡散する。


 俺だけでなく、多くのプレイヤーから煙たがられている存在だ。


 まあフォトズに限らず、OSOのジャーナリストプレイヤーのほとんどが煙たがられているんだが。


「それで、えーと、110枚だっけ?多いねえ、姐さんに何渡したのさ?」


 フォトズを始めとして、【OSOすぎる速報】のクランメンバーはジャーナを『姐さん』と呼ぶ。


 ジャーナがペンで成したというか、犯した功罪は多大だから、彼女を妄信するジャーナリストの卵がそこそこの人数いる。


「声が大きい。お前には関係のない話だ」


「えー、つまんないの」


 文句を垂れながらも、ウインドウを操作する手は止めない。


 すぐに俺の口座への振り込みが完了する。


「よし、じゃあな」


「え、ちょっと!おーい、まだ話があるんだけどさー!」


 成すべきことは成したので、フォトズをほっぽって速足でテレポートクリスタルに向かう。


 こいつといると碌なことがないし、今は一分一秒が惜しい。


「撒いたか」


 テレポートが完了し、ユルルンの広場に到着する。


 テレポートクリスタルでプレイヤーが転移する際、他のプレイヤーはどこの街に転移しているか分からない。


 だから一度転移できてしまえば、撒くのも容易い。


「急ぐか」


 なるべく顔馴染みに出会わないよう狭い路地を通り、『ユルルンマーケット』にやってきた。


 そのまま雑踏をすいすいと進み、『南東門』をくぐって街の外に出る。


 以前は、一日か二日でグレープの情報が知れ渡っていた。


 今日中に逃げなければ、『ダンジョンジェム』の情報を漏らした犯人探しが始まるだろう。


 そうなると、まず間違いなく俺が疑われる。


 『水晶の洞窟事件』という前科があるからだ。


「逃げ先は…、ひとまずオースティンでいいか」


 和室に開いた穴から自宅に入り、ストレージボックスへ急ぐ。


 『預かり屋』に預けているお金やアイテムは、口座の持ち主であれば自宅のストレージボックスからも引き出せる、という謎の仕様がある。


 これを利用し、持っている金貨を全てインベントリに引き出す。


 銅貨や銀貨はそのままでいい。


 とにかく急がなければ。


 ストレージボックスを閉じ、横穴から外に出る。


「トーマ」


 聞き覚えのある冷たい声。


 外壁に寄りかかって待っていたのは、アカネだった。


「なんだ。今忙しいんだ」


 いくらなんでも早すぎる。


 俺がジャーナに漏らしてから、まだ一時間と少ししか経っていないぞ。


「こんなものが出回ってるんだが」


 あくまで平坦な口調で話すアカネ。


 彼女が持っていたのは、A4サイズほどの紙切れだった。


 一番上の見出しには「号外!『ダンジョンジェム』見つかる!!」と書いてある。


 間違いない、ジャーナの記事だ。


 あのジャーナリスト、使命感に駆られて号外を発刊しやがった!


「私の予想は、合ってるな?」


「ちょ、ちょっと待て。これは落ち着いて事態を整理する必要が…」


「問答無用!!」


 殺戮マシーンに慈悲はない。


 居合切りが閃き、俺は一瞬で腹を掻っ捌かれて死んだ。


「次は、流す相手を考えるか…」


 薄らいでいく視界の端で、号外がひらりと地面に着陸した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ